PCL-R(サイコパシー・チェックリスト改訂版)、英語付き
今日はランニング日誌+αの予定だったが、突然の雷雨で走れなくなった
から、代わりに心理学関連の時事ネタを扱うことにしよう。
「PC」という略語はほとんどの場合、「パソコン」を表す。一方、「PCL」という
略語は、「Psychopathy Check List」(サイコパシー・チェック・リスト)のこ
とらしい。今話題の、「サイコパス」(psychopath : 精神病質者)にどの程度
当てはまるのかを評価する項目一覧のこと。ちなみにサイコパシーは語源的
に、「魂(psycho)が苦しむこと(pathy)」を意味する言葉。精神病質と訳す
より、カタカナのままの方が誤解が少ないと思う。
唐突に異常心理学の用語が出て来たのはもちろん、事態が急展開したPC
(パソコン)遠隔操作事件の片山祐輔被告の言葉を受けてのもの。彼は以
前、「真犯人はサイコパス(反社会的人格)だと思う」と語ってたが、5月20日
になって、「それは自分。嘘が平気でつける」と語ったらしい(産経新聞HP、
ITmediaなど)。
この「サイコパス」という言葉、社会的にはかなり大まかに使われてると思う
し、片山被告も別に厳密な自己診断をしたわけではないはず。ただ、心理学・
精神医学的には一応、知る人ぞ知るチェックリストというものがあるようだか
ら、日本語と英語のウィキペディアその他で確認してみた。
☆ ☆ ☆
この種の話の大前提として挙げるべきことは、素人判断は危険、ということ
だろう。しっかりした教育や訓練を受けた専門家向けのものを、素人が自分
や他人に使う「生兵法」は「ケガのもと」。実際、翻訳本は日本でも、ワーク
ショップ受講&資格取得者のみが購入できるらしい。
ただ、そんな注意書きは、人間的な判断なら何にでも付くものであって、サ
イコパスの時だけ特別扱いする理由は差し当たり見当たらない。実際、現
在の精神疾患(or 障害)の世界的な診断基準であるDSMでも、チェックリ
ストは至る所で紹介されて、「参考」とされてるわけだ(うつ病、その他)。
もちろん、サイコパスの場合、素人が普通の他人に対して適用して語るの
は止めた方がいいだろう。というのも、うつ病などよりネガティブ(否定的)な
ニュアンスが強い言葉だから。ただ、自分に対して試しに適用してみるのは、
自己責任の範囲で構わないだろうし、刑が確定した犯人やフィクションの登
場人物に対して使うのもいいと思う。
では、本人が素人判断で認めたらしい容疑者・片山被告について、我々が
考えてみるのはどうか。これはまだ、裁判の途中だし、非常に流動的な状況
だから、ここでは行わないことにする。。
☆ ☆ ☆
では、その専門家向けリストの中身について。代表的なのが、ヘア(R.D.
Hare)というカナダの学者による「PCL」(サイコパシー・チェックリスト)で、
英語版ウィキの「Hare Psychopathy Checklist」という項目にまとまった
説明がある。元々は1970年代に開発されて、91年に改訂版のPCL-R
(Revised)が公開されたとの事。
基本的に20項目について、どの程度当てはまるかで、0点、1点、2点の
3段階評価を行い、合計点を重視するようだ。以下、日本語と英語で項目を
列挙しよう。
日本語ウィキと英語ウィキは、なぜか完全には対応してないので、「Encyclo-
pedia of Mental Disorders」(精神障害百科事典)も合わせて考慮した
が、3つとも僅かに違うので、DSMのような唯一の決定版がないような状況
なのかも知れない。2003年に第2版へとアップデートされたことや、「2因子
モデル」、「3因子モデル」などへの深化が関係してる可能性もある。項目の
8は、日本語ウィキの訳「冷淡で共感性の欠如」が変なので、少し変更した。
その他も、英語を元にして一部変更してある。
1. 口達者/表面的な魅力 (glib and superficial charm)
2. 誇大的な自己価値感 (grandiose sense of self-worth)
3. 刺激を求める/退屈しやすい (need for stimulation)
4. 病的な虚言 (pathological lying)
5. 偽り騙す傾向/操作的(人を操る) (cunning and manipulating)
6. 良心の呵責・罪悪感の欠如 (lack of remorse)
7. 浅薄な感情 (shallow affect)
8. 冷淡さ/共感性の欠如 (callousness and lack of empathy)
9. 寄生的な生活様式 (parasitic lifestyle)
10. 貧弱な行動コントロール能力 (poor behavioral controls)
11. 放逸な性行動 (sexual promiscuity)
12. 幼少期の問題行動 (early behavior problems)
13. 現実的・長期的な目標の欠如(lack of realistic long-term goals)
14. 衝動性 (impulsivity)
15. 無責任 (irresponsibility)
16. 自分の行動に責任が取れない
(failure to accept responsibility for own actions)
17. 多数で短期の婚姻関係(many short-time marital relaionships)
18. 少年非行 (juvenile delinquency)
19. 仮釈放の取消 (revocation of conditional release)
20. 多種多様な犯罪歴 (criminal versatility)
☆ ☆ ☆
ちなみに15と16はどちらも無責任ということだが、15が自分以外(家族な
ど)、16が自分についてという意味だろう。
私が自己採点してみると、3~7点くらいで、多めに計算しても10点には届
かないから、サイコパスには程遠いと思ってもいいだろう。『百科事典』には、
30点以上が精神病質の診断に値すると書いてあり、日本語ウィキには更に、
「20点未満であるとサイコパスではないとみなされる」と書いてあった。そもそ
も、日本も含む東アジアでは非常に少ないという説もある。個人より社会を
重視するから、と説明してしまうと、簡単すぎる気もするが。
最後に、サイコパスが病気かどうかについて、次の日本語ウィキの説明は曖
昧で分かりにくいので、補足しとこう。
「サイコパスは異常であるが病気(いわゆる精神病)ではなく、ほとんど
の人々が通常の社会生活を営んでいる。そのため、現在では精神異常
という位置づけではなく、パーソナリティ障害とされている。」
パーソナリティー障害とは普通、「精神疾患」とされてるのだから、上の説明だ
と、異常なのか異常でないのか、病気なのか病気でないのか、非常に分かり
にくい。要するに、「医学的には病的な状態と言えるが、重い病とは限らず、
病院や薬、カウンセリングなどを必要とせずに普通に暮らす人が多い」という
ことだと思う。
その内、程度=点数の高い人達が、反社会的な「困った人達」ということだろ
うけど、確かに身の回りですぐ思い当たる人は1人もいない。せいぜい、一部
の犯罪者が当てはまるくらいだろうか。もちろん、反社会的人間だからといっ
て、犯罪者であるとは限らない。統計的な割合はさておき。。
☆ ☆ ☆
ちなみに、当サイトで度々扱って来た『DSM-Ⅳ-TR』(精神疾患の診断・
統計マニュアル 新訂版)における、「反社会性パーソナリティー障害」との
比較は、時間が無いのでとりあえず省略する。去年、発行されたばかりの
『DSM-5』(英語)はまだ見てない。歴史的に重い精神疾患を表して来た
「精神病」という言葉との比較も、また別の機会に回すとしよう。
なお、片山被告側は精神鑑定を要求してるが、刑事責任能力は認めてるそ
うだ。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 14年11月26日の『ホンマでっか!?TV』で、異常犯罪と人格特徴
の関係について扱われたらしい。続々とこの記事へのアクセスが入っ
てる。
P.S.2 15年6月24日、香山リカがサイコパスについて注目すべき文章を
発表したので、翌日ただちに応答記事をアップした。
元少年Aと『絶歌』、香山リカの「サイコパス」という見解(SPA!)を読んで
P.S.3 15年7月1日、日本の実際の事件をもとにしたドラマが放映された。
サイコパス&マインドコントロールの迷宮~『世界仰天』ドラマ・成海朔2
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