真解=深海の光を目指す水ロケット~『ガリレオ 真夏の方程式』
(☆2022年9月19日追記: 9年ぶりの新作ドラマの記事をアップ。
家庭崩壊の恨みを抱く古芝=山上徹也、手作りの科学的武器で政治家の暗殺を計画~『ガリレオ 禁断の魔術』レビュー(数式解説付き) )
☆ ☆ ☆
博士、僕、花火やっちゃいけなかったの?
楽しかったな♪
この夏休み 君は色々な事を学んだ。
問題には必ず答がある。だけど、それをすぐに導き出せるとは限らない。
これから先、君はそうゆう事をいくつも経験していくだろう。
それは僕も同じだ。
でも焦ることはない。僕たち自身が成長していけば、
きっとその答に辿りつけるはずだ。
君がその答を見つけるまで、僕も一緒に考える。一緒に悩み続ける。
忘れるな! 君は一人じゃない♪
はい・・・
☆ ☆ ☆
数学で「方程式」(equation)とは、「左辺=右辺」の形で何かと何かを同じも
の(equal)だとする式(formula)のことだ。言い換えると、数や記号の関係を
表す式で、中学1年の1次方程式 2x-6=0なら、解(=答)は x=3 となる。
高校までの教科書、参考書、テストに登場する方程式のほとんどは、簡単な
計算で解けてしまうものだが、それは教育上の配慮。数学の世界は遥かに
深く広く、難解で、解けない方程式も多い。と言うよりむしろ、解けない方程式
の方が遥かに一般的なのだ。
この記事の読者には少ないだろうが、「エッ、そうなの?」と思った高校生が
いたら、試しに高校の教科書に登場する関数や記号(e、log、sin,√、!、
||、微分d/dx、積分∫dxなど)を複雑に組み合わせて方程式を作り、先
生に「解けますか?」とプレゼントしてみよう♪ すると簡単に、「なるほど」と
納得できるだろう。おまけに、その時の応答で、先生の「総合的な力」も感じ
取れるはず。性格、人間性まで含めて。
とにかく、ごく一部の単純なものを除くと、方程式の答をキレイに導くことはも
ちろん、答があるということの証明さえ、大人にとっても文字通り「難解」。解き
難いのだ。真の解を求めることは、深海の闇に光を探すようなものだろう。
ちなみに、このレビューは8800字の長編だが、映画や小説の深みと比べる
と水深50cmの浅瀬にすぎないので、ご安心あれ♪
☆ ☆ ☆
映画『真夏の方程式』(Midsummer’s Equation)の場合、直接的に登場
する数学の方程式は、
ただ一つと言っていい。
左が「真夏の方程式」♪
L = ( v² sin2θ ) / g 。
Lはペットボトル・ロケットの飛距離、vは初速度、θは発射角(ラジアン表示)、
gは重力加速度(9.8m/s²)だ。
(☆追記: 上式は、Lについて解いた形の式。
v について解くと、 θ≠0 の時、 v=√(gL / sin2θ) 。
θ=0 の時、 L=0 で、v は任意。
θについて解くと、 v≠0 の時、 θ=sin⁻¹ (gL / v² ) 。
v=0 の時、 L=0 で、θは 0≦θ<π/2 をみたす任意の角。)
実は2月にDVDを見て、数式記事を書いた時、私は分子の「v」を「r」だと勘違
いしたが、今回、BD(ブルーレイ・ディスク)で鮮明な画像を楽しみつつ、台詞
を聞き直すと、「ブイ」と言ってた。もちろん、その方が自然だから、これが正解
のはず。高校物理(力学)の標準的な式だ。
ちなみにこれについては、2月に映画数式記事を書いた後、今月(6月)になっ
て純粋な物理&数学記事を2本追加した。どれも、ありそうでない記事だから
か、既にかなりのアクセスを頂いてる。高校生以上なら、理解できる内容だ。
ガリレオ『真夏の方程式』の数式、水ロケットの飛距離・初速度・発射角
高い地点からの斜方投射の軌跡(弾道) 、角度と水平到達距離
高い地点からの斜方投射2~射程の微分と最大値を与える角度θの計算
☆ ☆ ☆
ここまで理数系の話を続けて来たが、「方程式」という言葉は文系的・日常的
な意味でも時々使われてる。「問題を解決するための手順、方法、やり方」と
いう意味で、特に決まりきった簡単なものによく使われる。勝利の方程式、成
功の方程式など。もちろん、それが実用的かどうかは全く別問題だ。
問題解決のパターンが、なぜ方程式と呼ばれるのか。それはおそらく、数学
のごく簡単な方程式をイメージしてるからだろう。与えられた条件や文章から
方程式を立てれば、後は機械的な手順で答にたどり着けることが多いわけだ。
この物語の主人公3人が直面する「方程式」とは、理系的な意味と文系的な
意味が混ざったものになってる。つまり、様々なものの複雑な関係であって、
それを理解すれば、「答」に向かう方法がごく大まかに感じ取れるわけだ。
ただし、天才ガリレオ、湯川学(福山雅治)の頭脳をもってしても、しばらくは
「キレイに解く」ことが出来ないだろう。
出来るのはただ、湯川、恭平(山﨑光)、成実(杏)の3人が、希望を持って
一緒に考えること、一緒に悩み続けること。もちろん、これこそ最も大切なも
のかも知れない。特に、問題が「決してキレイに解けない」場合には。
しかし、そもそも小学生の恭平が、そんな難しい方程式に直面するハメになっ
たのは何故か。それは、元・刑事の塚原(塩見三省)が美しい海に現れて、「解
いてはいけない謎」(映画の宣伝コピーの1つ)を解こうとしたからだ。
まるで、未知の海底資源を探査しに来た、あの異物としての黒船、DESMEC
(デスメック : 海底金属鉱物資源機構)の調査船のように。あるいは電磁探査
用のAUV(Autonomous Underwater Vehicle : 自立型無人探査機)、
ROV(Remote Operated Vehicle : 遠隔操作型無人探査機)のように。。
☆ ☆ ☆
では、映像と文章・言葉で与えられた条件から、方程式、つまり関係を求めて
みよう。正直言うと、私が2月に1度DVDを見た時、感想はいま一つ。親子の
愛や家族の絆を描く努力は分かるが、あまり人間関係が分からなくて、感動
することも出来なかった。
前の映画『容疑者Xの献身』ほどの大ヒットにならなかったのは、その複雑さ
が一因だと思う。『容疑者X』はわりとシンプルだから、私もすぐ、石神(堤真一)
の哀しい愛と人生に泣けたのだ。もちろん、あれも「解けない問題」を扱ってた
わけだが。。
cf. 解けない問題、χ(カイ)=愛~『ガリレオ 容疑者Xの献身』
違う言い方をするなら、犯罪のトリックは『容疑者X』の方が凝ったものだった。
それに対して『真夏の方程式』は、人間関係が複雑なのだ。誰に、どのように
感情移入していいのか、罪と罰の配分をどうするべきか、迷ってしまうだろう。
実はこの方が、現実的な設定なのかも知れない。
☆ ☆ ☆
以下、まず映画(2013年6月)だけに即して、2つの殺人事件のあらすじを
まとめてみる。東野圭吾の原作小説(2010~11年)とは、色々と細かく違っ
てるので念のため。もちろん、いわゆる「ネタバレ」だから、「ご注意あれ」と書
いておこう。ただ、これは案外、映画を見る前に知ってた方が泣けるかも知
れない。実際、私も今回4ヶ月ぶりに見直して、初めてウルウル涙ぐむことが
出来たのだ。
発端は1984年(29年前)。クラブのホステスを辞めた節子(風吹ジュン)は、
故郷の「玻璃」(はり)料理を扱う店「はるひ」で、人気者として真面目に働いて
た。玻璃とは仏教用語で七つの宝の一つ、水晶を差す言葉。お店に節子目当
ての客が多かった中、その年に節子と結婚したのが川畑重治(前田吟)。しか
し節子は、別の客である仙波英俊(白竜)の子供を身ごもっていて、結婚後に
出産。それが成実だ。
仙波には妻がいたから、仙波と節子はそのまま10年以上も連絡を取らない
まま。ただ仙波は、節子と生まれたばかりの成実の写真をこっそり財布に入
れていた。それをたまたま見つけたのが、仙波と付き合いがあり、節子のホ
ステス仲間でもあった、三宅伸子(西田尚美)。
彼女は、成実が仙波の娘だと気付いて、金をゆすりに節子のもとへ1人で出
かける。1998年2月15日の夜。たまたま節子は留守、家には(多分)13歳
の成実(青木珠菜)が1人でいた。節子は、成実に秘密をほのめかし、金を用
意しとくように伝えた後、川畑一家3人の写真を持ち去る。ところが、成実は
包丁を持って追いかけ、激情のままに刺殺。歩道橋の雪の上に赤い血が流
れ、伸子の赤い傘が線路に落ちた。
翌朝のニュースで知った仙波は、すぐ節子に電話。成実が犯人だと知った仙
波は直ちに、自分が罪をかぶることを決意。既に妻は他界、会社も倒産して
いたから、迷いは少ない。凶器その他を節子から受け取り、成実を一目だけ
見た仙波は、そのまま真犯人を装って塚原に逮捕され、服役。2006年に満
期出所、ホームレスのような状況になる。
☆ ☆ ☆
一方、川畑家は直ちに、節子の故郷である玻璃ヶ浦(おそらく南伊豆)に引っ
越し、古い宿・緑岩荘(ろくがんそう)を受け継いで経営。そこが仙波の故郷で
もあり、仙波が美しい海を愛してたことを知った成実は、海を守る活動をする
ようになる。
そこへやって来たのが、海底資源の調査船とアドバイザーの湯川、そして元
刑事の塚原。自分が逮捕した仙波が真犯人ではない、冤罪だと気付いた塚原
は、真実を調査するために緑岩荘に宿泊。しかし、すべての秘密に薄々気付
いてた重治は、成実らを守るために塚原を「殺害」。節子には、事故死だと言
い張って、宿の経営を守るためという口実のもとに、2人で死体を海に捨てる。
ただし重治は、直接には手をくだしてないとも言える。まず、「虹の間」に宿泊
してた塚原を、ボイラーの排煙が配管からもれる部屋「海原(うなばら)の間」
へと移動させ、睡眠薬入りの酒を飲ませる。そこは海も花火も見える部屋。下
で花火の用意をしてた重治は、恭平に、ロケット花火が飛び込むといけない
からとか説明して、屋上の煙突にフタをさせる。
水に濡れたダンボールで煙突を塞がれたため、ボイラーは不完全燃焼。海原
の間の一酸化炭素濃度が上がり、10分ほどで死亡。ダンボールは恭平にす
ぐ片付けさせたから、警察が後で再現実験を行っても上手く行かない。結局、
重治の自白のまま、事件は「業務上過失致死」と「死体遺棄」という形で決着
しようとしている。
しかし湯川はトリックに気付いて、重治、成実、岸谷刑事(吉高由里子)らに
伝える。恭平も、湯川の遠回しの説明(理科の燃焼と気体の話)などから、真
相を薄々理解する。重治は、物理学者の作り話だと否定。一方、塚原の手配
で東京・調布市のホスピスに入ってた仙波も、過去の真相は語ろうとせず。後
は脳腫瘍で死を待つばかり。
なお、原作だと塚原は、仙波が死ぬ前に一度、成実と会わせてあげたかった
ようだ。それでも節子は、秘密を守るため、知らないフリをし続けた。。
☆ ☆ ☆
以上が、「方程式」の下書きみたいなもの。まだ洗練されてない、事件のみの
概要だ。では、これをどのように「解く」べきか。「答」は何なのか。
恭平の立場だと、一番の正論は、警察に本当の事を話すこと。ただ、それで
地元の警察が殺人事件扱いに切り替えるかどうかは微妙だろう。子供一人
の証言で、物証もおそらく無い状態なら、過失致死&死体遺棄で済ませる方
がラクで、真相回避の罪悪感も少ないはず。
「仮説は実証して初めて真実となる」という湯川の口癖があるが、そこでいう
実証の中身が問題だ。この事件の場合、煙突にフタをするボイラー実験で、
一酸化炭素濃度が致死レベルまで上がることを示しても、本当にフタをした
かどうかは別問題。重治がフタをするように命じたかどうかも、確かな証拠
が無いのだ。
そもそも、重治は「殺人犯」扱いされるほどの悪人だろうか。刑法や司法手続
き上はそうだろうが、小学生の恭平に難しい事情はなかなか分からない。優し
いおじちゃんとおばちゃんは罪を認めて警察に自首。大好きなナルミちゃんも
深く悲しんでる。
これ以上の罰が必要なほど、伯父ちゃん達は悪人なのか。そんな罰を与える
資格が、共犯者でもある子供の自分にあるのか。おじちゃんがなぜ、自分に
そんな事をさせたのか、その理由も恭平はまだ知らないのだ。
ラストシーン。駅で湯川と別れた後、伊豆急行の電車に乗って帰る恭平は、
明るい窓から美しい海を眺めながら、自由研究用にもらった実験ノートを見
ながら、水ロケットの実験を思い出す。あの楽しさ、あの感激。湯川が一緒
に考えてくれるなら、この難しい問題もきっと上手く行く。あの時、深海にきら
めく光、水晶=玻璃に辿り着けたように。
実は原作小説だと、こんな感じのささやかな希望と共に終わるのだが、映画
は暗闇で終わるのだ。トンネルという闇に入って、心を切り裂くような警笛が
響いて、テーマ曲『vs.~知覚と快楽の螺旋~』と共に画面は暗転する。今後
の彼の苦難、「煙突」みたいに暗くて長い道のりを示すかのように。終わらない
夏休みは、実は楽しくないのだ。。
☆ ☆ ☆
湯川にとっても、恭平の問題は難解な方程式だ。湯川は鍵の持ち出しと不法
侵入という軽犯罪しか行ってないが、彼が真相を探らなければ、恭平の「人生
がねじ曲がる」リスクは遥かに少なかった。塚原と同様、湯川も致命的に余計
なお節介をしてしまったのかも知れない。好奇心、真実への探求心から、余
計な方程式を作ったのかも知れない。
今更、湯川が地元警察に「真相」を伝えても、やはり証拠が足りないし、重治
の殺人の動機を問われるだろう。すると、既に法的に解決してる伸子殺害事
件の真相に触れることになる。節子や重治の犯人隠匿や偽証はおそらく時効、
あるいは起訴猶予で、当時13歳(か14歳)の成実もあまり罪に問われないは
ず。98年当時はまだ、15歳以下は少年法で守られてる(2000年、13歳以
下へと改正)。
したがって、15年半前の伸子事件の真相暴露は、罰を覚悟してる真犯人の
成実を除くと、関係者も警察も喜ばないだろう。みんなの重荷と苦しみが増す
だけなのだ。おまけに、まもなく死を迎える仙波の長い努力も否定する形に
なってしまう。無意味どころか、害悪ばかりが目立つ真実追及。
やはり湯川としては、色々と考えながら、恭平と成実が出す「選択」、「答らしき
もの」を待つしかない。もし、恭平が成実に相談して、成実が真実をすべて告白
した場合、恭平が警察に出頭してもほとんど罪には問われないだろう。ただ、
塚原の事件は再捜査になるかも知れないし、湯川は2人を支える義務がある。
その時に備えるためにも、自分がおかしてしまったかも知れない「罪」を償うた
めにも、湯川は考え続けるのだ。論理的と言うより、人間的に。。
☆ ☆ ☆
そして、最初の殺人事件の真犯人、成実。ラスト近く、湯川と一緒にシュノー
ケリングした時、マスクを外して目を閉じ、身体を開いてた。あれは原作に無
い重要なカットで、もちろん自殺への思いを表してる。湯川もすぐに気付いた
から、激しく動揺してたけど、成実が浮上して来たのを確認してホッとしてた。
おそらく、今まで何度も赤い傘のフラッシュバックに悩まされ、何度も死のうと
して来たはず。でも、どうしても死にきれないから、涙を流すしかない。もしその
まま海の底に沈めば、ある意味、暗い深海で光を手に入れた形にはなるが、
それは今までの周囲の努力を無にすることになってしまう。
だから湯川も、海から上がった時、「キミはみんなから愛され、守られている」
と伝えてた。「罰を受けようと思います」と語る成実に、遠回しに再考を促した
わけだ。「恭平君を守る」という「大事な使命」のためにも、少なくとももう少し
時間をおいて欲しい。成実の自白で、重治に塚原殺害の動機が出て来ると、
再捜査によって、恭平の「人生がねじ曲がる危険性」が高い。
成実としてはとりあえず、恭平の成長を待ちながら海を守り続けるしかない。
海を守る自分自身も、守り続けるしかない。今の両親とのふれ合いを保ち、
伸子、塚原の墓参りもしながら。仙波のお見舞いは微妙だが、死後のお墓参
りは当然だ。出来れば葬儀も参列、主催したい所。ありがとう、と。。
「水晶の海へようこそ」。成実のブログ『My Crystal Sea』の冒頭の言葉は、
実は自分に向けられてるのかも知れない。「いつまでも貴方をお待ちしており
ます」。真っ暗な深海に、奇跡の光を求める自分をずっと見守り続ける。いつの
日か、水晶=玻璃にたどり付けることを期待しながら。あるいは、自らの心が
水晶みたいに透明になることを夢見ながら。。
☆ ☆ ☆
最後に、精神分析的な解釈にも、ごく簡単に触れておこう。そもそも成実は、
誰を殺したのか? それは、三宅伸子という知らない女というより、母・節子
だったかも知れない。仙波との不倫の結果、川畑成実として自分を産んだの
は節子だ。ちなみに原作小説だと、節子は自分から仙波との子どもを作ろう
としたかのように読める。
もちろん、そのおかげで成実の存在があるわけだが、仙波の子供として扱っ
てくれれば、あるいは重治の許しのもとに堂々と自分を育ててくれれば、妙
な女の嫌がらせを受けることもなかった。もっと言うなら、重治は成実と「似て
ないとみんなに言われた」とかボヤいてたのだから、成実が前から真実に気
付いてた可能性も十分ある(原作では明示)。それなら尚更、母への不満は
高まる。
幼い女の子は基本的に、父を愛し、同性&ライバルである母を憎む傾向が
強いというのが、精神分析の中心理論の1つ(エディプス・コンプレックス)。
成実の場合、母・節子のせいで実の父と離れ離れになった形だから、無意識
の内に、母への憎悪が一気に高まったとも考えられるのだ。その怒りは表面
的には、母の知り合いで同じく「悪い女」である伸子へと爆発する。
さらに、成実は自らの不幸の根源となる事態を反復したとも考えられるだろう。
つまり、「ナイフ」で「女」を「刺す」こと。運命的で自動的、強迫的な再現。。
☆ ☆ ☆
一方、恭平で象徴的なのはもちろん、ロケットとの関係だ。事件との関わりは、
ロケット花火が煙突に入らないように、という重治の指示。彼は中盤以降、ロ
ケットを背負ってたし、大好きなナルミちゃんのお尻に突き刺したりもしてた。
湯川とロケット実験を続けてる途中では、東京で捜査する岸谷のお尻に老人
が指を突き刺すシーンも映ってたから、これは偶然とは思えない。
物語全体は、男の子が「水ロケット」、男性性を持とうとする話だと考えられる。
勢いよく噴射し、快感を与えてくれる巨大な突起物。だからこそ、恭平は「瓶の
コカ・コーラ」を好んでたのかも知れない。シュワーッと飛び出す炭酸飲料は、
小型の水ロケットだ。逆に恭平を暗くさせたのは、「煙突」のフタ、つまり吹き出
す物の禁止だった。
緑岩荘からホテルに移った後、泣きながら湯川を探し回る姿は、まるで「真の
父」、「真のロケット」を探し求めてるようにも見える。途中で、「かりそめのロケッ
ト」の先が折れて、プールに落ちたシーンは象徴的だった。突然、男の子を襲う、
中心と方向性の喪失。これは精神分析理論で、去勢と呼ばれる重い出来事だ。
もちろん、これからまた、水ロケットを築き上げて行けばいい。それが結局は、
方程式の解を求める作業でもあるのだ。ロケットは、深海にきらめく水晶の光
を目指すものだから。真の解を手に入れるための道具だから。。
☆ ☆ ☆
そろそろ時間と字数の制限だ。映画と原作を両方チェックすると、東野の凄さ
も感じるが、脚本の福田靖の実力にも感心する。原作を十分に理解した上で、
さらにアレンジを加えてるわけだ。
伸子の殺害シーンを雪にしたのは、前作の映画『容疑者X』のラストシーンを
受けたものと考えることも可能。そう言えば、雪がちら付く隅田川の捜索シー
ンで見つかった凶器は、水晶の玉だった。水の底から美しい水晶を見つける
作業。これは巧みな重ね合わせだろう。東野か福田の無意識の仕事だろうか。
なお、原作にはチョコチョコと面白いネタや会話が入ってるが、映画だと例え
ば、海原の間を調べるシーン。恭平が湯川に「博士は独身?」とたずねると、
湯川は恭平の頭に布団をかぶせてた♪ これは、まぶしい太陽の光の下、
ロケットによる映像をキッズフォン(携帯)で見る時、湯川が恭平に黒い布み
たいなものをかぶせたシーンと重なるもので、可愛い作りになってた。
恭平に対する湯川の「父親」的愛情は、あの理科の燃焼実験にも見られた。
原作では、実は湯川が濡れたコースターをかぶせて、火を消すのだ。ところ
が映画では、恭平がかぶせようとしたコースターを湯川ははねのけてた。既
に真相を理解してた湯川が、罪と罰をもたらす行為の反復から、恭平を遠ざ
けようとしてるわけだ。湯川に対する福田の思いが込められてたのだろう。
多数の愛、様々な温かい思いが世界に溢れてるが、それらは全体として、上
手く機能しないことも多い。それでも、複雑な関係の「全てを知り」、「選択する」
こと。方程式を立て、答を探そうと努力すること。湯川が持ち出した「地図」やロ
ケットは、そうした営みのイメージ、表象なのだ。
それでは、菅野祐悟の音楽、西谷弘の監督力にも拍手しつつ、数年後の『ガリ
レオ3』にも期待しながら、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 原作は大震災前だが、反原発運動をほんの少し意識してある。
P.S.2 海原の間で、湯川がのぞいた窓ガラス。花火の幻想シーン、湯川
の姿に続いて、塚原の亡霊が一瞬映った時はゾッとした。。
P.S.3 DESMECとは、DEep Sea MEtals national Corporation
という英語の略。説明会の映像より。
P.S.4 未確認のネット情報によると、6月23日のフジテレビ地上波初オン
エアの視聴率は14.7%という話だ。後ほど確認する予定。正しい
数字なら、やや低めというのが正直な感想か。。
cf. 宗教、科学、自然と人間~『ガリレオ2』第1話・幻惑す
スイングバイによる軌道修正~『ガリレオ2』最終回・聖女の救済(後編)
男子の中で泣く女~『ガリレオXX・内海薫』愚弄(もてあそ)ぶ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ガリレオ2』第1話の数式、誘電体のマイクロ波加熱における電力半減深度
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
解けない問題、χ(カイ)=愛 ~『ガリレオ 容疑者Xの献身』 (数式込み)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(計 8926字 ; 追記 376字)
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