高い地点からの斜方投射の軌跡(弾道)、角度と水平到達距離
なるほど。。やはり現代では、コンピューターやソフト、プログラミングを使い
こなすことが非常に重要だということか。まだ、いま一つスッキリしてないけ
ど、高校時代からの疑問が一通り解決した。昨日の思い出記事で触れた、
ブランコの「靴飛ばし」最大化問題も解決したのだ。
高校物理の最初で、重力による質点の自由落下や、垂直(=鉛直)方向へ
の投げ上げを学ぶ。続いて登場するのが、1つの関門となる「斜方投射」。
斜めに物を投げた時、空気抵抗を無視すると、垂直方向には等加速度直線
運動、水平方向には等速度運動を行う。両方合わせると、軌跡は放物線と
なる。
ちなみに、「斜方投射」に相当する英語表現がなかなか分からなかったけど、
英語版ウィキペディアを飛び回ってみると、事情が見えて来た。どうも、問題
のとらえ方が、日本と微妙にズレてるようで、「投射物の弾道」(trajectory
of a projectile)とか、「投射物の射程」(range of a projectile)といっ
た形で問題にされてる。
要するに、兵器や戦争を意識してるわけで、物理学の歴史を考えると、現実
に即した考えだろう。実戦の弾道計算なら、斜め上に向けて撃つのは当たり
前だから、わざわざ「斜方」(obliqueなど)と付ける必要もない。日本の教育
で「斜方投射」とか「軌跡」という言葉を使ってる理由の一つは、戦争のイメー
ジを消すためなのかも。。
☆ ☆ ☆
さて、高校で問題とされるのは、地表面から地表面への斜方投射が基本。例
えば、着地点を最も遠くするには、水平面となす投射角度を45度にすればい
い。この話は、ネット上でもあちこちに書かれてるので、ここでは省略する。
というか、ここでは
より一般的な場合
で考える。地表面
からの投射とは、
高さ0(ゼロ)の地
点からの投射。つ
まり、高さhの地点
からの投射でh=0
とした場合だから、
高さhのままで考えれば一般的考察となるわけだ。
ちなみに上図は、ウィキメディアでパブリックドメイン(公的所有)の画像。記事
では水平距離dが「射程」(range)、放物線は「軌跡」(path)と呼ばれていた。
一般的考察が、ネットで意外なほど見当たらないのは、要するに、式と計算が
複雑だからだろう。複雑すぎる話は、高校のテストや大学入試には出せない
から、読者の需要も激減する。需要があるのは、特定の高さや角度を与えた
場合とか、特定の通過地点・通過時間を与えた場合なのだ。答が楽に求めら
れる時と言ってもいい。
☆ ☆ ☆
さて、高さ hの地点から、速さ v、角度θで質点を斜方投射した時、発射後
の時間を t、重力加速度を g とすると、
(水平方向・右向きの変位) : x =v t cosθ ・・・・・・(1)
(垂直方向・上向きの変位) : y=h+v t sinθ-(1/2)g t² ・・・・・・(2)
地表面に落ちた時は y=0 だから、
0=h+v t sinθ-(1/2)g t²
∴ g t²-2v t sinθ-2h=0
t>0 より、 t={ v sinθ+√(v²sin²θ+2gh)}/g
∴ x = {v²sinθcosθ+(vcosθ)√(v²sin²θ+2gh)}/g
= (v²/g){sinθcosθ+(cosθ)√(sin²θ+2gh/v²)} ・・・・・・(3)
検算のためにh=0(ゼロ)としてみると、
x={v²sinθcosθ+v²sinθcosθ}/g
=(v²sin2θ)/g
この値は、日本版ウィキの斜方投射の項目とも合ってるし、当サイトで以前
扱った、映画『ガリレオ 真夏の方程式』の式とも実質的に同じだ(映画では
v の代わりに r)。
☆ ☆ ☆
上の(3)式でθを変化させると、水平到達距離 x がどう変化するか。その
ままの式でも、変形しても、微分しても分かりにくい。
(☆3日後の追記: 陰関数の微分を用いて解決。続編記事をアップした。
高い地点からの斜方投射2~射程の微分と最大値を与える角度θの計算 )
普段の私ならこの辺で止めてしまう所だが、今回は体験的に答が分かってる
のだ。つまり、ブランコの座りこぎで「靴飛ばし」をする時、45度より少し小さ
い角度で靴を飛ばすと、
着地点が遠くなるし、着
地後の転がりも稼げる。
また英語版ウィキでも、
特定の初期条件で32
度という値を示してる
(左図、パブリックドメイ
ン)。やはり大まかに
言って、30度~40度
の角度がベストだろう。
これを確認するために、やや不本意ながら、コンピューターの力を借りること
にした。実際には、先に原始的な数値解析の真似事を行ったのだが、この記
事ではまずグラフを見てみよう。式(3)の先頭の係数は無視して、角度θの
代わりに x を使った関数へと変形。更に実際の靴飛ばしは子どもだと h=1
m、v=4~5m/sくらいだから、2gh/v²=1と簡略化。
大阪教育大学・友田
勝久氏による関数グ
ラフソフト「GRAPES
7.00」に入力すると、
現れたグラフは予想
通りになった。ラジア
ン表示で、π/6と
π/4の間の左寄り
の角度だから、35度
~40度くらいになる。
ちなみに、当たり前だ
が、角度π/2(=90
度)なら、真上に発射す
るということだから、関数の値(=水平到達距離)はゼロになる。その点だけ
は、hやvの値とは無関係だ。
☆ ☆ ☆
最後に、水平到達
距離を最大にする
角度x(またはθ)
の値を、カシオの
高精度計算サイト
「keisan」のフリー
計算で探してみる
と、弧度法で0.62
ラジアンくらいだっ
た。つまり度数法
なら、(180/π)
倍して約36度だ。
関数値やグラフの連続性
を考えると、発射地点の
高さ h や初速 v を変えて
も似たような話になると思
うし、空気抵抗がある場合
は角度を少し小さくした方
がいい気がする。しかし、
もちろん調べてみないと
ハッキリした事は言えない。
左は、先ほど1とした
2gh/v²をパラメーターa
と置いて、0~3の間で変
化させた様子(下から上に
曲線が移動)。a=0とはh=0、つまり地表面からの発射の場合だから、角度
π/4、つまり45度で最大となる。
今回はこの辺で終わりとしよう。なお、コンピューターによるグラフ作成や数値
計算が、どの程度の論証力を持ってるのかという問題は、また別に考える必要
がある。飛び飛びの値で多数の計算を行う際の緻密さと誤差など、忘れる訳
にはいかない。ではまた。。☆彡
P.S. 角度を変えた時、射程と言うより、軌跡のグラフがどう変わるか。こ
れもGRAPESでパラメーターを変化させて描いてみた。
上の式(1)と式(2)から時間 t を消して求めた軌跡の方程式は、
2次の係数が負の2次関数で、
y=-g x² / (2v² cos²θ)+x tanθ+h
これは一般に、上に凸の放物線だが、g=9.8m/s²、v=5m/s、
h=1mという靴飛ばしに合った仮定で書き直すと、
y=-0.196 x² / cos²θ+x tanθ+1
この式で、角度
を表すパラメー
ターθを0ラジ
アン~1ラジア
ンの範囲で増加
させてみると、
下図のようにな
る。確かに、
0.6~0.7ラ
ジアンくらいで射程が最大になった。
cf. ガリレオ『真夏の方程式』の数式、水ロケットの飛距離・初速度・発射角
ブランコと靴飛ばしで遊んだ日々♪~テンメイ回想録10
(計 2933字)
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コメント
凄いgrapes、keisanにもハンドリングしてますね。
・靴が斜方投射された瞬間の投射角度の延長上に静止(空中に)している物体は、靴が投射されたと同時に自由落下を始めると、靴とこの自由落下物体は必ず激突します。grapesで綺麗に確かめられます。
投稿: gauss | 2014年6月 6日 (金) 01時03分
> gauss さん

こんばんは。毎度どうもです。
いきなり本格的な梅雨ですね。
GRAPESは5年前に試して感心☆
記事まで書いたのに、ここ数年は使ってませんでした。
もっともっとコンピューターを利用しなきゃダメですね。
GRAPESでモンキー・ハンティングの確認ですか。
時間tをパラメーターにして、2つの図形を書くのかな。
同じ時刻に同じ位置座標(x,y)ってことですよね。
いずれ試してみますが、それより先に、射程を表す
面倒な関数をコンピューター無しで処理できるようです。
別記事で再挑戦するかも知れません。
少し前までなら、サラッとやってたはずの数Ⅲの処理が、
できなくなってるみたいですね。。
ま、人生も放物線ってことで、角度が気になって来ました。。
投稿: テンメイ | 2014年6月 7日 (土) 01時17分