検査精度と難病の確率、落下速度、素因数分解の暗号~『ハードナッツ!~数学girl』第2回解説
また地デジが不調で、飛び飛びの観賞になってしまったけど、最大のポイン
トらしき個所は何とか見れたようだ♪ 『ハードナッツ!~数学girlの恋する
事件簿~』第2回、「天才数学科女子大生VS爆弾テロリスト(後編)」も解説
してみよう。脚本・蒔田光治、数学考証・根上生也(横浜国立大)。
まずは、軽い物理のお話から。高校1年の最初辺りで習う、力学の基礎だっ
た。暗闇で伴田刑事(高良健吾)に取り残された数学ガール・難波くるみ(橋
本愛)は、不安と恋心で、こっそり後をつけて行く。乗り越える門の柵の高さは
1.5m。重力加速度9.8m/s²。では、柵の上から飛び降りた時のくるみの
速度、「着地スピード」はいくらか。
これは基本的に、自然落下の話だ。一般に、落下物(近似的な質点、つまり
質量だけあって大きさがゼロ、空気抵抗ゼロとみなせる物)の質量をm、落
下の垂直距離をh、重力加速度をg、落下後の速度をv(下向きを正)とし、位
置エネルギーの基準点(=原点)を落下後の高さとすると、
(飛び降りる直前の位置エネルギー)=(落下後の運動エネルギー)
∴ mgh=(1/2)mv²
∴ v=√(2gh) (公式に近い関係式)
∴ (着地時のくるみの速度) v = √(2×9.8×1.5)
= √29.4
= 5.4221766846903836・・・
= 5.422176684690384 (m/s)
(四捨五入)
これは、男子がきちんと飛び降りた場合なら痛くないが、オタク系の女子が
グシャッと落ちた場合には「かなり痛い」速度かも知れない♪
実際のくるみの場合、接地後に0.2秒間くらい(?)かけてグシャッとなるはず
だから、その間の重心の落下距離も考える必要がある。橋本愛の身長は165
cmで、身体はかなり曲げた状態だったから、接地後、減速しながら、50cm分
くらいの落下がプラスされたはず。もちろん、この短い時間は足腰や手で踏ん
張ってるので、自然落下ではない。強制減速落下だ。
☆ ☆ ☆
ウォーミングアップを終えた所で、次は今回のメインの数学、確率だろう。計算
は簡単なのに、大部分の人が苦手とする話で、ドラマでは数式を使わずに大
まかな説明を行ってた。正確ではないが、基本的には正しい。
伴田は健康診断か何かで、難病の疑いを指摘されて落ち込んでた。
「胸部X線検査で両側肺門リンパ節膨張を認めます。
ランゲルドーシスの疑いがあります。再検査を受け、
治療等指導に従ってください。」
「ランゲルドーシス」という病名は、日本語で検索するとこのドラマの情報ばか
りが並ぶし、英語、ドイツ語関連で調べても何もヒットしない。l(エル)とr(アー
ル)、「a」と「u」など、アルファベットの綴りを変えてもダメだから、ドイツ語っぽ
い語感で作った造語のような気がする。「Lungeldosis」で、「肺の難病」とい
う意味だろう。
とにかく、1万人に1人がかかる難病で、検査の精度は99.9%。この精度の
意味は、数学的なものであって、1万人が検査を受けると9990人が正しく診
断されるという意味だ。その点は重要なので、くるみがしつこく確認してた。
伴田は、精度が99.9%の検査だから、それをほぼ信じて諦めていた。「難病
という診断が」間違ってる確率は0.1%。そう思うのがフツーの感覚だろうが、
確率・統計学にはまさに致命的な間違いだ。本当は、大丈夫である確率の方
が遥かに高いのに、もう助からないと誤解してしまってる。。
☆ ☆ ☆
先に、数学的な解答を示してから、ドラマに戻るとしよう。条件付き確率の一例
である「原因の確率」の公式、つまりベイズの定理を用いればすぐ解ける。式
と計算だけなら一瞬だが、少し解説を交えることにしよう。
忘れがちなポイントは、難病の場合、本当は病気でないのに病気だと診断(誤
診)される確率が非常に高いことだ。実際、再検査で陰性と診断された伴田の
場合がそれに当たる(再検査の方が正しいと想定した場合)。
(一般的に、検査を受けた人が本当に病気で、かつ、病気と診断される確率)
=1/10000×999/1000
=999/10000000
(一般的に、検査を受けた人が本当は病気ではなく、かつ、病気と診断される確率)
=9999/10000×1/1000
=9999/10000000
∴ (病気と診断された人が、本当に病気である確率)
=(999/10000000)
÷(999/10000000+9999/10000000)
=999/10998
=0.09083・・・
=9.083・・・(%)
≒9%
これは、「病気という診断結果が出た原因が本当に病気である確率」という意味
で、「原因の確率」と呼ばれてるものの一例だ。
☆ ☆ ☆
くるみの説明を正確に引用すると、次の通り。図は省略するが、補助的な役
割しか果たしてなかったので、差し障りはないはず。
検査の精度は99.9%。
ということは、1万人が受けて来たとすると、9990人には正しい
判定が下るけど、残り0.1%の10人には、間違った判定が下る。
ということは、本当に病気なのは1万人に1人のはずなのに、
病気と判定される人が、10人くらい出て来てしまうってことなんです。
だから、伴田さんが病気の確率は、99.9%ではなくて、
10人の内の1人、せいぜい10%ってことなんです。
大まかに言うと正しい流れだが、正確には、病気と診断される人の数は10人
ではない。だから、10人「くらい」とボカしてるのだ。上の計算の確率を使うと、
(本当に病気で、かつ、病気と診断される人の数)
=10000(人)×999/10000000
=0.999(人)
(本当は病気でなく、かつ、病気と診断される人の数)
=10000(人)×9999/10000000
=9.999(人)
∴ (病気と診断される人の数)=0.999+9.999
=10.998(人)
つまり、10人くらいと言うより、むしろ、ほぼ11人なのだ。10.998人として
計算すれば、答は前の計算と同じになる。
(病気と診断された人が、本当に病気である確率)
=(本当に病気で、かつ、病気と診断される人の数)
÷(病気と診断される人の数)
=0.999÷10.998
=999÷10998
≒9(%)
☆ ☆ ☆
最後にオマケとして、素因数分解を利用した暗号について。地デジのエラーで
最後しか見えなかったが、やってる事は理解できた。
例えば、「36450」という数字の暗号があったとしよう。素因数分解、つまり素
数(1とその数自身でしか割れない数)の掛け算で表すと、
36450=2×3×3×3×3×3×3×5×5
=(2の1乗)×(3の6乗)×(5の2乗)
ここで、素因数(素数である約数)の右肩の数字、「1,6,2」を50音表(あ~ん)
の順番だと考えると、「あ、か、い」。つまり、「赤い」を意味してると解読できる。
2以上の自然数に対して、素因数分解はただ一通りだけ存在するので、解読
も一通りに限定される。
実際の黒板では、ものすごく大きな数の素因数分解を利用して、素数としては
2、3、5、7、11、13、17くらいまで使ってたように見えた。人間が手で計算
するのはほとんど無理だが、ネット上に色々ある無料サイト、つまりコンピュー
ターを使うだけでも、かなりの素因数分解は可能。
くるみが素因数分解だと見破ったのは、本の空欄を透かし見た時の長い数の
末尾に0がズラッと並んでたから。これは、その数が10(=2×5)を何度も掛
け合わせてる証拠。さらに、0の前の数字を足すと3の倍数になったから、その
数自体も3の倍数(有名な話で、証明省略)。結局、元の長い数は、2と3と5、
つまり素数を何度も掛け合わせた数だから、素因数分解を使った暗号だと見破っ
た。もちろん、暗号と素数のつながりは、前提的な知識として持ってたはずだ。
☆ ☆ ☆
なお、ランダムではなくカオスという話はとりあえず保留する。カオスだと、わり
と簡単な規則でも、初期値の僅かな違いによって予測できない複雑な変化が
生じるという話はよく聞くし、イメージも何とか出来るが、わかりやすい具体例
を示したサイトが見当たらない。初期値でなく、規則の方を変えた話ばかりが
ヒットする。
自分で「ロジスティック写像」を使って具体例を作ろうとしてみたが、計算が大
変。自動で計算できる英文サイトも調べてみたが、激重だったリ接続不能だっ
たり、あるいは動かなかったりで、どこも失敗。
ちなみに、ランダムもカオスもわりと曖昧な概念だからなのか、カオスのランダ
ム性といった形で、2つを結びつけた文書を2つ見つけた(北大、京大)。この
用語法だと、ドラマの話は、「ランダムじゃなくカオス」と言うより、「規則性を
持ち、初期値の変化に敏感なランダム、すなわちカオス」と言うべきなのかも
知れない。
とにかく、犯人の論文は規則性を見落としてたから、くるみが指摘したという
流れだろう。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. くるみが伴田の車に乗ってる時、面白い話に関する確率計算を行っ
てた。候補となってたのは、フェルマーの最終定理、オイラーの公式、
黄金比。CPT(Conditional Probability Table : 条件付き確率表)
という文字が浮かんでたし、式の形から見ても、何か条件付き確率と
か原因の確率を計算してたようだ。
たとえば、黄金比の話をしてウケたという条件のもとで、伴田がくるみ
に好意を抱いてる確率を計算するとか。
P.S.2 爆弾テロリスト・湯沢道明(嶋田久作)の15年前の論文、「金融シス
テムがもたらす経済破綻の数学的証明」(1998年3月)に対する、
くるみの批判は次の通り。
「あなたは間違っています。あなたの微分方程式は同じ確率分布に
従うランダムな変数原子(?、聞き取り不能)を消去してしまうことに
よって導き出されています。でもその中に、消去してはいけない項が
あったんです。
一見ランダムに見えるけれど、実はごく簡単な方程式から導き出さ
れている項。初期値の僅かな変化が、結果に大きな違いをもたらす
ためにそれは、複雑で非周期的な数列を作り出してしまう。
あなたはそれを、ランダムな過程と見間違えた。それはランダムで
はありません。カオスです。消去してはいけなかったんです。」
下がその微分方程式(x≧1、変数は時間 t )で、赤い波線部が、湯
沢が消去してしまった項。つまり、カオス性をもたらす項らしい。

P.S.3 誕生日の月と日にちを足した数が28だと、どうして11月17日だと
分かるのか? そんな感じの検索アクセスが入ってたから、お答え
しとこう。上のP.S.と同じ、車のシーンで、要するに有名な黄金比
を使ったコネタを持ち出してるのだ。
黄金比は、1:(1+√5)/2。近似的には、1:1.62。月と日を足し
て28の時、月:日が黄金比に一番近いのはどの組合せか。
10月18日 1:1.80
11月17日 1:1.55
12月16日 1:1.33
という訳で、くるみが、黄金比に一番近い11月17日だろうと試しに言っ
たら、伴田に「さっき免許、見たろ」とか冷たく言われてしまったわけだ♪
cf. トランプのポーカーの確率計算
~『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』第1回解説
無理数を発見した弟子をピタゴラスが殺した伝説の検証
ピタゴラス音律と普通の十二平均律、周波数のズレなど
ラブレターの換字式暗号&数字の順列パスワード~第4回
計量文献学による解析、K特性値、筆者判定~第4回
ハートマークと「i LOVE u」、愛の方程式~第5回
「アッシェンフェルターのワイン方程式」の間違いと本物(原論文)~第5回
特殊な違いの有無の判定(統計的推測、5%片側検定)~第6回
変化点検出と外れ値、スコア(Score)~第7回
変化点検出とスコア、具体的な計算例~最終回
(計 4835字)
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