ピタゴラス音律と普通の十二平均律、周波数のズレなど~『ハードナッツ』第3回
依然としてパソコン入力が大変な状況が続いてるが、昨日のピタゴラス殺人
犯伝説の検証に続いて再び、『ハードナッツ』第3回の数学&物理的解説を
手短にアップしよう。
メインで扱う「ピタゴラス音律」は私にとって、これまでで一番のハードナッツ
(hard nut : 難問題)だった。まだナッツがパカッと割れた訳ではないが、ヒ
ビを入れることには成功したつもり♪ ついでに音階や白黒の鍵盤も理解で
きた。
その前にまず、「ソフトナッツ」、すぐ解ける問題を扱っとこう。教授が死ぬ間
際に流れてた音楽、「ダイイング・メロディー」を、くるみ(橋本愛)はどう解読
してたか。「ド・ミ・ファ・ド(高い)・ド・レ・シ・レ」 ♫
ポイントは、円周率π(3.141592・・・)の音楽の作り方。1をド、2をレ、3
をミ・・・という風に、単純に数字と音名を置き換える(換字式暗号)。すると、
ド・ミ・ファ・ド(高い)・ド・レ・シ・レ → 13481272 = 238の3乗
= ふみや・さんじょう
= 三条文也
ちなみに3乗の計算は、
筆算してもいいが、あ
えてカシオのサイト
「keisan」の指数関数
を使って確認した。底
(てい)aを238、変数
xを3と入力。
という訳で、犯人は出
版社の三条だと、くる
みが伴田(高良健吾)に説明した途端、三条が死んだという電話がかかって
来た。要するに、くるみは、真犯人・堤彩葉(いろは : 中越典子)が仕掛けた
罠にハメられたわけだ。
☆ ☆ ☆
ソフトナッツを簡単に割った後は、いよいよハードナッツ。殺された教授のピ
アノ調律に使われてたという、ピタゴラス音律。まず、くるみが彩葉を問い詰
めた台詞の引用から入ろう。
「あなたは、あのメロディーが小板橋教授の部屋から聞こえてきたと
嘘をついた。
・・・・・・あなたは言いましたよね? 教授が最後に奏でたメロディー
におかしなところはなかったと。・・・そんなはずはないんです。教授
のピアノは、現代の音階じゃない。ピタゴラス音律を再現したものだっ
たんですから。
・・・・・・もちろん、あなたなら知っていますよね? ピタゴラス音律は、
私たちが現在聞いているドレミの音とは違う。少し、ズレがあるんです」。
☆ ☆ ☆
ピタゴラス音律は、英語だと「Pythagorean tuning」だから、チューニング
(調律)の一種。ただ日本語だと、基本的な音の並び方、音階を指してるよう
だ。物理的には、それぞれの音の高低を決める周波数の組み合わせ方。
スタート地点は、1オクターブの周波数の差、つまり2倍。これを普通の音律
である平均律(十二平均律)だと、12の差へと均等に分ける。ただし、12で
割り算するのではなく、12回掛け合わせて2になる数、2の12乗根(₁₂√2≒
1.06)ずつの周波数倍率に分けるのだ。ピアノの鍵盤なら、次のように割り
振る。
注意が必要なのは、
全音と半音の区別。
黒い鍵も含めて、
12個の音の差を
半音と呼び、これ
が周波数1.06倍
に相当。
すると、ドとレの差
は半音2つ分、つま
り全音だから、周波
数は(₁₂√2)²倍の
差となる。ミとファ、
シとドの間だけは半音。
☆ ☆ ☆
一方、ピタゴラス音律の場合は、1オクターブ(=2倍差)の分け方が全く違う。
基本的には、2の12乗根のような無理数を使わず、簡単な有理数を利用。
上に3/2倍(=1.5倍)、下に2/3倍(=0.67倍)していくのだけど、その
ままでは変化が大き過ぎるし、上下にいくら進んでも、オクターブの差を作れ
ない。つまり、2倍、4倍・・・や、1/2倍、1/4倍にならない。
そこで実際は、オクターブの差だけは別扱いで掛けるようだ。すると、3/2や
2/3を何度か掛け
合わせて、さらに2
や1/2も何度か
掛け合わせて、1
オクターブを分け
ることになる。くる
みが黒板に書い
てた数式も、そう
なってた。
日英のウィキペ
ディアに従うと、左
のように配分する
らしい。例えば、ドとシの差(243/128)倍なら、 (3/2)の5乗に、(1/2)
の2乗を掛ければいい。
結局、ズレはどの程度になるのか、計算してみよう。上段が平均律、下段が
ピタゴラス音律、ドレミファソラシドの間の倍率だ(ドが基準)。端数省略の近
似値で、計算は再びカシオのサイトを利用した。
1.12倍 1.26 1.33 1.50 1.68 1.89 2.00
1.13倍 1.27 1.33 1.50 1.69 1.90 2.00
意外なほど、僅かな差だ。YouTubeで聞き比べても、ほとんど分からない。
ただ、同時に鳴らすと、うなりが生じてるから、僅かに周波数が違うのだろう。
専門家の彩葉なら気付いたはず、という話の流れだった。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. この記事をアップした後すぐ、詳しくて丁寧な解説がpdfファイルで
公開されてるのを発見した。ただしピタゴラスの殺人伝説について
は、日本語ウィキの不確かな記述をほぼそのまま引用してある。
P.S.2 くるみが最後に口にした、宇宙の秩序を調律する音楽、「ムジカ・
ムンダーナ」(musica mundana)は、「宇宙の音楽」を指す中世
ラテン語。ピタゴラスの時代(古代ギリシャ)の言葉ではない。
P.S.3 小板橋教授の講義で、黒板にこう書いてあった。
ピタゴラスの数の概念
「万物の根源(アルケー)は水である」(アリストテレス『形而上学』)
古代ギリシャ語で書かれた
『形而上学』の原書を、英訳
と比較すると、上の個所が「根源を水と考える」という意味のようだ。ギリシャ
語のウィキソースより。
P.S.4 くるみが冒頭で黒板に書いてた積分の式が、音波をサイン曲線(正
弦波)の和へと分解して扱いやすくする、フーリエ解析。
cf. トランプのポーカーの確率計算
~『ハードナッツ!~数学girlの恋する事件簿~』第1回解説
検査精度と難病の確率、落下速度、素因数分解の暗号
無理数を発見した弟子をピタゴラスが殺したという伝説の検証
ラブレターの換字式暗号&数字の順列パスワード~第4回
計量文献学による解析、K特性値、筆者判定~第4回
ハートマークと「i LOVE u」、愛の方程式~第5回
「アッシェンフェルターのワイン方程式」の間違いと本物(原論文)~第5回
特殊な違いの有無の判定(統計的推測、5%片側検定)~第6回
変化点検出と外れ値、スコア(Score)~第7回
変化点検出とスコア、具体的な計算例~最終回
(計 2653字)
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