LIE STOPS HERE(嘘=夢はここにある)~『HERO 2』最終回
みんな、それぞれの正義を信じて、
それぞれの立場から被告人に光を当てることによって
真実を浮かび上がらせていく。
それが、裁判なんです。
そこには凄い大事なルールがあって、
それは、犯人は嘘をつくかも知れませんけど、
それ以外のこの法廷にいる人すべて、
絶対に、正直でなければならないということ。
正直で真っ直ぐな光を当てなければ、
真実は見えて来ないんです。
裁判は、成り立たなくなっちゃいます。
☆ ☆ ☆
そう言えば、黙秘権というのはこのドラマでも強調されてるけど、「偽証権」と
いうものは耳にしない。黙るだけならともかく、ウソはいけないってことか。
これ、当たり前だと思われるかも知れないけど、違う考えも可能だ。被告に
黙秘されるより、嘘をついてもらった方が、検察や裁判員、裁判官にとって
「真実が見えて来る」かも知れない。ただし、裏返しの形において。つまり、
嘘と嘘の間でつじつまを合わせるのは難しいから、話が破たん、嘘がバレて、
真実が見える可能性が高まるかも知れないのだ。
逆に言うと、嘘を許さないという考えは、嘘から真実を見出すのが難しいとい
うことだろう。今現在、実際問題として。でも、将来的には考えが変わるかも
知れない。
例えば、昔のウソ発見器というのは評判が悪かったけど、急速に発展する脳
科学は今でも着実に嘘発見への研究を進めてるらしい。もちろん、全てのウソ
を発見するのは無理だろうけど、その必要はない。十分な割合のウソを、十分
な確率で科学的・機械的に発見できるようになれば、「黙秘は認めません。ウソ
でも何でもいいから、喋ってください」と言われるようになるだろう。それはわり
と近い将来のような気もする。。
☆ ☆ ☆
さて、記事タイトルの「LIE STOPS HERE」はもちろん、ヒーロー・久利生検
事(木村拓哉)の白いTシャツ(ブランドはDavid Lindwall?)の胸に書かれ
たロゴ。第3話レビューで扱った、「Let there be surf」(波あれ)も興味深
かったが、今回のロゴもなかなか含蓄に富む英語表現だ。
ロゴの背景には手のひらが大きく描かれてるから、中学2年の英語のテスト
で和訳させれば、「嘘をここで止めろ」と答える生徒がかなりいるだろう♪ つ
まり、「STOP」を他動詞として、「LIE」(ウソ)を目的語と考えるわけだ。
この解答をどう評価するかは先生によって違うだろう。私なら、10点中の7点
くらいかな。「いい線行ってる。もう一息♪」とか、あくまで肯定的表現で控え目
に減点しとけば波風立たないだろう(笑)。「波なし」が小市民の生き方なのだ♪
「LIE STOPS HERE」の「STOPS」は、三人称・単数の「LIE」(ウソ)を主
語として目的語を持たない、現在形の自動詞。だから、「嘘はここで止まる」
と無難に直訳しとけば、減点しにくいはず。
ただし私なら、場合によっては9点しか出さないかも。10点満点、二重丸の解
答は、「嘘はここで止まる。訳注。おそらく、嘘をここで私(達)が止めるという
ニュアンス」だ♪ しかし、これではまだ中学英語の満点レベルであって、マニ
アック・レベルではない。。
☆ ☆ ☆
そんな細かい違いはドラマの見方や解釈にとっては関係ない、と思ったらそう
でもないのだ。「Let there be surf」の時と同様に、元の有名な表現を探し
てみると、まさにヒーロー的なものに到達する。
第33代・アメリカ大統領、トルーマンの座右の銘。「the buck stops here」。
直訳に近いものは、「責任はここで止まる」。意訳は、「責任はこの私が取る」。
第二次世界大戦終了時の有名な大統領で、なかなか英雄的な言葉だけど、
まさに原爆投下の責任を取るハメになったこともあって、それほど評判は良く
なかったらしい。
それはさておき、この座右の銘での「stop」は、「is」、つまりbe動詞に近い意
味になってる。つまり、「責任はここにある」という意味なのだ。ここから振り返っ
て、キムタクのTシャツのロゴを改めて解釈=改釈すると、「ウソはここにある」
という意味にもなる。これは、「ウソをここで止める」とは大違いだろう。他人の
ウソを自分が止めるのではなく、自分もウソをついてる、という意味だから。。
☆ ☆ ☆
もちろんこれは、ヒーロー検事やキムタクを「ウソつき呼ばわりで批判」しよう
としてる訳ではない。
悪さしてた少年が素晴らしい検事のおかげで立ち直ってヒーローになり、みん
なが同調、褒め称え、元ヤンキーのヒロイン麻木(北川景子)までもがヒーロー
に同一化して、正義の女神を目指して前進する。シンプルな水戸黄門的、文科
省的フィクションでも、見方によっては深みが出るという話なのだ。少し曲がっ
た「光」を当てることで。
そもそも、世の中やドラマで、ウソが絶対ダメなものだとされてるかと言うと、そ
んな事はない。ウソ、意図的に間違ったことを言うのは誰でも経験することだ
し、周囲で見聞きするものでもある。
もちろん、その多くには、「悪気はない」とか、「単なる気遣いだ」とかいう正当
化の言い訳がつくだろうし、私も含めてみんな、それはそうだと思うだろう。例
えば、知り合いが食べ物をくれたのに美味しくなかった時、「美味しかったです。
ご馳走さま♪」と言うとか。ただ、意図的な間違いであることに変わりはない。
先日、人妻不倫ドラマ『昼顔』のレビューで、「jealousy」(嫉妬)という言葉の
語源を探ると大昔から「嫉妬」だった、という話を書いた。実は「lie」(ウソ)も、
語源を探るとやっぱり「ウソ」のままなのだ。つまり、それくらい人間にとって基
本的なものだということだろう。ある意味で人間の本質、必要不可欠なものの
一つなのだ。
同じくフジ月9で、かつての人気ドラマだった『やまとなでしこ』でも、魚屋の欧
介(堤真一)がスッチーじゃなくてCA・桜子(松嶋菜々子)についたウソは、愛
の証しとして肯定的にとらえられてた。ウソとは、自分で作りだせる「夢」でも
ある。「夢・・・あるよ」、「夢あれ」。。
☆ ☆ ☆
で、何が『HERO 2』のウソなのか。それはもちろん、水戸黄門的でシンプル
な大活躍と、犯人側だけを除外した全体のハッピーエンドだ。ウソという言葉
が言い過ぎなら、虚構=フィクションと言い換えてもいいけど、「意図的に間
違ったことを言う」点では同じだろう。
今回のドラマを、広い意味で水戸黄門型の元祖の一つである『ウルトラマン』
の最終回と比較するのも面白い。ただ、ここでは、ウチでも以前本格的にレ
ビューしたキムタクの最高傑作の一つ、『華麗なる一族』と比較してみよう。
山崎豊子原作、橋本裕志脚本、2007年の重厚な傑作で、平均視聴率でも
成功を収めてる。関東で24.4%、舞台となった関西では30.8%。子どもに
は難し過ぎるあの硬派の内容で、この数字は凄い。
『華麗』の最終章(第9回、第10回)にも、ある意味でウソ、虚構のキレイ事の
側面はある。それは、超人気俳優キムタクを主演にしたから仕方ないことであっ
て、原作と違う「テレビドラマ」的なシンプルさ、勧善懲悪ハッピーストーリーが
入ってるわけだ。形式的には、主演が善の側に立つ。
☆ ☆ ☆
ところが『華麗』にとって、そんな事は枝葉の問題に過ぎない。と言うのも、あの
ドラマでは最初から、理想と現実の衝突が描かれて、理想というフィクションが
現実に負けてしまう悲劇を扱ってるからだ。社会・経済の現実、時代の流れと
いうリアル。
『華麗』の法廷対決でも、デスペラードの(必死で絶望的な)キムタク=鉄平が、
逆に悪者=父(北大路欣也)を追い詰める。ただし、基本的に1話完結、最後
だけ2話完結の『HERO 2』と違って、そこにはドラマ全体の複雑な流れが巧
妙に組み込まれてるし、悪者も十分に描かれてた。もちろん、悪者といっても
父だから、息子・鉄平との愛もお互いにあるのだ。あまりに屈折してるとはいえ。
そして最終回、ついにヒーロー鉄平が悪の父を叩きつぶしたかと思ったら、ど
んでん返しの展開が待ってる。しかもそれは、法手続きに則った奇策だから鉄
平は何も出来ず、悲劇のヒーローへと転落。だからといって、ダメな自分をある
がままに受け入れることも出来ない。理想の自分への過剰な自己愛が、現実
の敗者の自分を否定する。結局、「明日の太陽を見ない」ことになるのだ。
夢見る人間が、夢に破れ、夢のように消えていく。これが現実の大部分だが、
そのまま受け入れると淋し過ぎる。だからこそ、「今日の現実を見ない」方向に
人は進む。それは「ウソ」だが、あまりに人間らしい、愛すべきウソなのかも知
れない。人間とは真実を追求する以上に、不在の幻想を欲望する存在だから。
魅惑的な嘘に生きることこそ、人間の真実だから。
『HERO』で言うなら、被告の有罪と勝利を「確信」したヒーロー達が、やがて
この事件、あるいは別の事件で失敗し、確信や勝利というものの儚さに気付
くというのが、一つの現実だろう。そもそも、国分・元検事(井上順)も、当時は
確信してたのに、やがて確信が崩壊したのだった。
嘘のない現実を語ってるからこそ、淋しくて物悲しい、『平家物語』の一節を、
7年半ぶりに引用しとこう。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらわす
おごれる人も久しからず ただ春の夜の夢の如し
猛き者もついには亡びぬ ひとえに風の前の塵に同じ
☆ ☆ ☆
最後に、「父」と息子の関係についても一言。古代ギリシャのエディプス悲劇
以来、父はある意味、息子にとっての最大の敵であって、倒すべき相手のは
ずだった。たとえ、実際には倒せない、あるいは倒さないとしても。
ところが現在、世界的に見ても、父は息子とあまり対立してないような気がす
る。母と娘の仲の良さほどではないにせよ、父と息子も衝突しない。戸籍上の
父でもそうだし、その他の「父」的存在でも同様。
『HERO 2』だと、鍋島次席検事(児玉清)が久利生の「実の父」、理想自我で
あって、牛丸次席検事(角野卓造)が「義理の父」。そのどちらとも、久利生は
単なる仲良し。愛し合い、認め合う関係なのだ。『華麗』とのあまりの違いに驚
くが、これが時代の空気だと言われれば、そうゆう気もして来る。
『華麗』の舞台は50年前の神戸、高度成長期の日本だった。みんなが「上の
上」を夢見てたからこそ、息子も「すぐ上」=父を打ち破る必要があったのかも
知れない。自分が「上の上」に進むために。現在の上を超える、未来の上へと
挑戦するために。。
☆ ☆ ☆
なお、試しに嘘を美しく描く映画を検索してみると、最近なら『ライフ・イズ・ビュー
ティフル』(1997年)が有名らしい。「人生は美しい」というタイトルの、嘘の映
画♪ 英語タイトルの最初が「ライ」(≒嘘)となってる辺りもヒネリが効いてて、
いいね。まあ、元はイタリア映画なんだけど(笑)
ともあれ、キムタクその他、スタッフ&キャストの皆さん、どうもお疲れさま♪
「成功」なのは確かだから、『HERO 3』もほぼ間違いなしだろう。まあ、脚本
家の福田靖には、その前に『ガリレオ 3』を書いて欲しいかも。
9月からSMAPの全国コンサート・ツアー中ってことで、東京ドーム、京セラドー
ム大阪、札幌ドームと飛び回ってるファンの方々も頑張ってるね。ラジオ『ワッ
ツ』公式HPによると、ファンのウチワには「射って」と書いてる物がすごく多い
らしい(爆)。で、キムタクが本当に「射つ」と、ファンの女性が歓声をあげるそ
うだ。もちろん、指ガン、指で作ったピストルで・・・というのが公式表明だ♪
まさに、「LIE STOPS HERE」。嘘、ここにあり。コラコラ! どうせなら、
「打って」とか「売って」とか、変化も欲しいかも。私なら無料。ウソではない♪
それでは、今日はこの辺で ☆彡
cf. 起訴か不起訴か、検事の倫理と現実~『HERO 2』第1話
『HERO 2』第2話、軽~い感想&6日連続ラン
新・創世記、「Let there be surf」(波あれ)~『HERO 2』第3話
仲間、身内という存在~『HERO 2』第4話
『スマスマ』ネイマール笑顔&『HERO 2』第6話&6日連続走
『HERO 2』第7話、軽~い感想♪
『HERO 2』第8話、暴力団の犯罪と一般市民
チームワークと善悪~『HERO 2』第9話
事件と人生、真正面に向きあうとは~『HERO 2』第10話
(計 5030字)
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