人妻蝶の炎、新たな束縛の快楽へ~『昼顔』最終回
いいえ 1つだけ変わりました。
1人で靴の紐を結べるようになったのです。
これでもう、立ち止まることはありません。
不倫。淫らで薄汚く、非常識な欲望。
家族を裏切り、周囲を傷つけ、友達を失い、
自らも苦しみの淵に落とす罪。
足を踏み入れたが最後、
出口がないことに気付いても引き返せない。
すべてを破壊する、許されない恋。
(消防車の鐘の音
カンカン カンカン カンカン カンカン カンカン カンカン)
神様、ごめんなさい。
またいつか、私はあなたを、怒らせるかも知れません。
☆ ☆ ☆
ドラマレビューを書き続けて丸9年。準備作業に時間を取られて、肝心の書く
時間が足りなくなったことは何度もあるけど、今回ほど時間が足りなくなった
ことはない♪
もともと私は、第3話の流し見が最初だったから、物語の導入部分が色々と
分かってない。だから、最終回でよく分からない部分が多少出て来るのは覚
悟してたけど、正直、見終わった直後はポカーンと言うか、唖然としてしまっ
た。ここまで、流石は井上由美子の脚本、俗っぽいけど上手いな・・・と感心
してたのに、最後の最後でドラマを投げ出したように感じた。4年前の『同窓
会』の見事な最終回とはかけ離れた出来だ。
もちろん、W不倫の結末の形は一応出来てるし、不倫を勧めるような番組に
はしないという、プロデューサーらのテレビ的常識も反映されてる。多少のド
タバタ騒動は自然だし、映画や続編ドラマの可能性を残してるのも理解でき
る。それにしても、あまりに稚拙でギクシャクした展開に見えて、何か強い力
が急に働いたとか、特殊な事情さえ想像してしまうほど。
ただ、こうゆう時こそ、自分の側で補って面白くするチャンスなのだ♪ 与え
られたドラマをそのまま見て、普通に楽しむテレビ観賞ではなく、自らも創作
に参加するドラマ批評。放送後、しばらくボーッとした後は、早速色々と準備
作業に取り組むことになった。
☆ ☆ ☆
最初に行ったのは、ツイッター検索。「昼顔」を入力して出て来たツイートを
サラッと全部読み流したんだけど、あまりの数の多さに驚いた。放送終了後、
30分も経ってたのに、僅か5分間で1200ほど (^^ゞ それ以前はカットされ
てたから、読まずに済んで助かったって感じだ♪
もちろん、面白かったとか、切なかったとか、好意的なものも少なくなかった
けど、やっぱりビミョーな感想が目立ってる。そもそも、連続ドラマを楽しみに
見てた人のツイートが多いわけだから、ネガティブな感想は少なめになるの
が自然だけど、納得いかないようなツイートが多い。
ただ、ツイッターの場合、一言不満を書いておしまい。1000以上ものツイー
トを見ても、元になった映画『昼顔』(フランス・イタリア、1967年)との関連を
書いてるものは(ほとんど)ゼロだった。古い洋画ではあるけど、ドラマの「オ
マージュ」(敬意を込めた模倣)の対象として最初から挙げられた作品なのに。
いつもの事ながら、日本のネットは、外国関連や数十年前の対象、学問的・
マニアックな内容になると、途端に情報が激減してしまうなと、改めて感じる。
もちろんそれは、ツイッターに限った事ではない。。
☆ ☆ ☆
元の映画というのは、要するにドラマの「外部」の関連情報ということ。ドラマ
の物語の「内部」、お話自体だけでは物足りない時に、外部を参照すると理
解が増すことになる。制作現場の裏事情、芸能界の力関係、現実の社会状
況も「外部」だけど、原作小説やマンガの類も重要な「外部」。
そこで、映画の情報を集め始めると同時に、「個人的な外部」もチェック。つま
り、私が見てなかった第1話、第2話の情報も集めてみた。すると、それだけ
でも最終回の違和感が少し薄れたのだ。
まず、第1話の冒頭から、紗和(上戸彩)がベランダで遠くの火事=放火を見
つめてたようで、その後も最初の2話では繰返し、放火事件の話が出てたら
しい。なるほど、それなら最後は自分で放火するのが「形」というものだろう。
正直、オンエア中はあまりの極端な犯罪に引いてたけど、「対岸の火事」で始
まった物語が「我が家の火事」で終わるのなら、不謹慎ながら、創作=フィク
ションの形式美と言っていい。もちろん、本物の火事ではなくて、心理的な象
徴表現と見ることも出来るのだ。一気に燃え上がる、「炎」のように強烈な思
い。欲望、衝動、感情。。
紗和の放火のスタートは、靴(スニーカー)のヒモにつけた火で、これもオンエ
ア中は、そこまで靴紐にこだわる理由がピンと来なかったのだ。ところが、靴紐
も一番最初の辺りから出てたらしい。靴ヒモが上手く結べないのは、「蝶結び」
が下手だから。そこに生物の北野先生(斎藤工)が現れて、キレイな蝶結びを
教える。
蝶結びとは、紐で結ばれた美しい蝶を作り上げること。これに気付くには、や
はり元の映画を見る必要があった。文字情報だと物足りないから、わざわざ
現物の作品を軽くチェックしたのだ。。
☆ ☆ ☆
というわけで、奇才・ルイス・ブニュエル監督の名作『昼顔』の話に移ろう。か
つての代表的な美人女優、カトリーヌ・ドヌーヴの出世作の一つでもあるこの
作品の原題は、『Belle de jour』(ベル・ドゥ・ジュール)。直訳すると、「昼の
美女」という意味で、意訳すると「昼の売春婦」ということになる。
ドラマの最終回の冒頭で、『眠り姫』の話を紗和がしてたけど、これは『眠れる
森の美女』のことであって、元のフランス語だとこの美女は「Belle」(ベル)な
のだ。おまけに、映画『昼顔』の冒頭は、森の美女(ドヌーヴ演じるセヴリーヌ)
になってる。ここまで似てるともう、紗和の台詞は映画へのオマージュだなと
思うことになる。眠りとは、欲望の抑圧のこと。
映画の冒頭は驚いたことに、いきなり美女のSMシーンなのだ♪ 流石は奇才
の映画と言うべきか、ゴールデンタイムのテレビドラマではあり得ないし、深夜
ドラマでも今だと難しいと思う。今風のちょっとオシャレな言い方をするなら、ボ
ンデージ(束縛)とも言えるけど、単なる束縛ではないから、やっぱりマゾヒズム
的幻想と言うべきだろう。美しき人妻の秘められた欲望。。
☆ ☆ ☆
手首を縛られた美しき人妻が、夫も含めた3人の男に鞭で打たれ、弄ばれ、
喘ぎ声をあげる。悦んでるとまで言うと言い過ぎだけど、本気で嫌がってるよ
うにも見えない。助けを求めるのは最初だけで、後はのけぞって喘ぐだけな
のだ。ただし、全編を通じて最低限の服や下着は着てるし、際どいシーンは
少ないから、アダルト映画の類とはハッキリ違ってる。官能的アート。
他にも似たようなSMシーンがあって、手首を縛られた人妻が文字通り汚さ
れる。これらは普通に見るなら、夢とか幻想だけど、そこまでハッキリ割り切
れる描き方にはなってない。特にラストシーンはシュール(超現実的)だから、
夢と現実の区別がつかない、混沌(カオス)のような状況を表現した芸術映画
なのだ。
とにかく、これを見ると、ドラマでなぜ手首の包帯が強調されてたのか、その
理由もある程度、納得できることになる。紗和、乃里子(伊藤歩)、加藤(北村
一輝)。。要するに、映画における手首の束縛へのオマージュだろう。さらに、
蝶の標本の意味も少し納得できる。要するに、捕えられた「美」(Belle、ベル)
であって、これまた映画の美しき人妻へのオマージュになってる。オマージュ
として考えるというのは、2つの作品を部分的に重ね合わせて楽しむことだ。
束縛と言うより、解放ではないか。そう思うのはある意味、自然だけど、自分
で紐を蝶結びにして、また背徳の愛に走り出してるのだから、「新たな束縛の
快楽へ」向かってるわけだ。視聴者からのクレームが殺到しない程度に、秘
められた表現で♪ そもそも、W不倫の4人は全員、非常に不自由な状況に
なったわけだから、広い意味で「束縛」されたわけだろう。この辺りについて
は、また後で見ることにする。
☆ ☆ ☆
ところで、一般のSMの場合、虐待の理由は特にないことが多いだろうけど、
映画の冒頭では、人妻の不感症が罪であって、罰を加えられる形になってる。
要するに、欲望を満たすことが出来ない自分に対して、自分の無意識が(幻想
的に)罰を加え、そこから快楽がもたらされる。その後、(普通に見るなら)現実
の売春や性的快楽へと進むのだ。
これもまた、ドラマへの影響は明らかだろう。利佳子(吉瀬美智子)はともかく、
紗和は夫婦間のセックスレスで欲求不満になってた。その後、罪と罰と快楽が
やって来るのだ。
ドラマが単なる不倫否定とか純愛路線ではないことも明らか。そもそも紗和の
方から北野にキスしようとしたみたいだし、第1話のスタートが完全な性的象
徴表現。いきなり夜の闇の中で、ミルクバーみたいなアイスを紗和が唇に入
れ、ミルクの液体が足に垂れるのだから。紗和が万引きしたのも、唇を魅力
的にする派手な口紅だった。普通に買ったのは夕食の食材とかだから、対比
は明らかだろう。
☆ ☆ ☆
さらに、ドラマのドタバタの一つ、男同士のケンカについても、映画を参照す
ると納得できるのだ。映画のラストの手前で、人妻と関係ある若い男が、夫
を銃撃。植物人間に近いような車椅子状態にさせてしまうのだ。
映画の人妻を2つに分解した存在が、ドラマの紗和と利佳子。だからこそ、利
佳子と関係ある若い智也(淵上泰史)がいきなり、利佳子の愛する加藤に襲
いかかって、ひどい後遺症を与えたわけだ。映画へのオマージュと考えない
と、あまりに唐突なケンカだし、加藤の右手の重傷も取ってつけたような展開
に見えてしまう。
北野の虫好きという設定は、映画のわき役として登場する日本人から来たも
のだろう。人妻の売春の客として、羽虫を入れた小箱を持って登場する。
そして、私が一番引っ掛かってたのは、ドラマの最後の消防車の使い方だ。
最後は消防車を見て、紗和がまた不倫その他の背徳的愛へと欲望を膨らま
せる。普通に見るなら、消防車は「火消し」だから、流れとしてギクシャクした
感じがある。火消しが来たから、炎を燃え上がらせる・・・?
☆ ☆ ☆
実はあの消防車、映画だと馬車なのだ。映画の冒頭は、一本道を走る2頭
立ての馬車に乗った人妻と夫。
シャン、シャン、シャン、シャンと鐘の音を鳴らしながら馬車が木立に入り、そ
こから人妻が森に連れ込まれて、SMプレイという悦楽の世界が始まる。ドラ
マの消防車の鐘の音を思い出してみよう。カンカン、カンカン。。あまりにキレ
イなオマージュ。一本道だから自由はない。文字通り、逃げ道のない束縛の
快楽なのだ。
映画のラストシーンは、まるで紗和みたいにベランダに出た人妻セヴリーヌ
が下を見ると、なぜか冒頭とそっくりの馬車がやって来る。ただし、客席には
誰も座ってない。
色んな解釈は可能だけど、この馬車が人妻の真下辺りに来た所で、映画は
終了する。ということは、人妻が馬車から解放されたと言うよりむしろ、また新
たに馬車に乗るということだろう。解放なら、空席のまま遠くに通り過ぎて行く
はずだから。
そして、今度の相手は夫ではない。あるいは、夫とは限らないのだ。現実の
夫が重度の障害者であろうと、そうでなかろうと、人妻の倒錯した欲望は新
たな旅を始める。ちなみに、ドラマの「火」は普通に燃え上がる炎のような思
いと考えてもいいけど、実はこれも映画の部屋の中に登場するのだ。人妻
の手で燃え上がる、暖炉の火として。。
☆ ☆ ☆
もう時間が無いので、残された論点について簡単に。まず、最後にハムミが
帰って来て3匹になったハムスター。不倫が続く間は2匹だったのだから、こ
れは馬車の馬2頭へのオマージュと考えてもいい。
人妻・紗和が出て行ったことだし、今後はハムスケとミハム、俊介(鈴木浩介)
とハムミのカップル2組で仲良く暮らすだろう。ただし、ハムミは母・慶子と三
角関係になるから、仲良くケンカすることになる♪
一つだけ、解決し忘れてる話を書いとくと、貧乏画家(イラストレーター)の加
藤が最初の辺りで、ビルのトイレットペーパーを何個か盗んでるらしい(笑)。
紗和が万引きした口紅と違って、この加藤の窃盗は、返しに行けばすぐ解決
するけど、それだとあまりにマヌケで滑稽なシーンになってしまう♪
だから、返却するのでなく、また似たシーンを入れたのかも。つまり、元・妻
(高橋かおり)がビールをくれた時、嬉しそうに一杯かかえて袋に詰めてたの
だ。お菓子に飛び付く子どもみたいに。最後のちびっ子とのケンカも含めて、
加藤の幼さを示す微笑ましい表現になってた。
お笑い担当の姑・慶子は今回、紗和とのお別れを好演♪ 穏やかに夫への
愛と理解を示すようになった乃里子と共に、ちょっとウルウルさせてくれた。
乃里子が最後に放火したのでは?と考えるのは難しい。乃里子はもう、怖い
人妻から良い人妻に戻ったのだから。
そもそも引越し作業が済んでカラになったマンションで放火するくらいなら、他
にいくらでもチャンスがあった。乃里子はあの後、車で新居に先回りするのだ
から、放火で自殺なり無理心中なりするのなら、新居のはず。何にせよ、物語
の流れ的にあり得ないことであって、しばらくは夫婦仲良く平穏に暮らすのだ。
表面的には。。
☆ ☆ ☆
荒れる男子生徒・木下(健太郎)らが、北野のあの放送で丸くなってしまった点
については、映画を使った解釈も使えないから、私は見なかったことにする♪
その前の、クラスでの妙なお別れシーンも含めて。
北野の生物学的な言葉なら、これまでのものの方がかなり良かった。まあ、あ
そこで生徒たちが北野に笑顔で書け寄らなかっただけでも良しとしよう(笑)。
ひょっとすると、甘口好みの学園ドラマファンへの配慮かな。謎の校長(りりィ)
のレズビアン告白は、簡潔でタイミングも良かった。大人の女狙いだから、女
生徒は安心できそうだ♪
今後は、ほぼ同じメンバーで映画かドラマSPを1本撮って、その後は別のメン
バーで連続ドラマでもいい。続編『昼顔2』。あるいは、『朝顔』とか(笑)。夕顔
だと、夕食の支度があるからダメだろう。
ともあれ、最終回視聴率も16.5%で、木曜22時の時間帯としては大成功。
私も全体的には十分満足だった。滝川(木下ほうか)のいやらしさも、かなり
好み。いや、変な意味じゃなくて(笑)。このドラマを見始めるキッカケになった
斎藤の魅力は、いつ大ブレークしてもおかしくないと思う。まあ、何年も前か
らそう言われ続けてるらしいけど♪
なお、映画については後ほど、別記事でレビューする予定。まあ、アクセス数
は期待してない(笑)。案外、マニアックな映画好きの斎藤が読んでくれるかも
・・・とか書いとくと、彼のファンの心にも残るかも。映画はやはり、テレビドラマ
とは全く別次元の芸術作品、アートなのだ。
それでは、今日はこの辺で。スタッフ&キャストの皆さん、どうもお疲れさま♪
See you later. ☆彡
P.S. より詳しい、映画のレビューをアップした。
映画『昼顔』(Belle de Jour)~あらすじ、感想、ドラマとの比較
P.S.2 百瀬しのぶによるノベライズ本の記事もアップ。
ドラマ『昼顔』ノベライズ本、別の結末のあらすじ&感想♪
P.S.3 18年6月27日、続編映画のレビューもアップ。
赤い絶望の闇に光った、
緑の蛍としての指輪=子ども ~ 映画『昼顔』
cf. 僅かな自転車連発&人妻不倫のぞき見♪(『昼顔』第3話)
豪州電車救出劇&人妻悪女不倫♪(『昼顔』第4話)&僅少自転車
続・氷水挑戦&人妻悪女開花(『昼顔』第5話)&パンク回避走行
人妻不倫中断~『昼顔』第6話、軽~い感想♪
人や昆虫の痛み、命の長短~『昼顔』第8話
嫉妬と窃盗~『昼顔』第9話&ジョギング2日目
夢か現実か、人妻蝶のピクニック~『昼顔』第10話
(計 6374字)
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