「日本消滅」、超巨大噴火の確率計算~対数正規分布とBPT分布
今後100年間で、日本が消滅するほどの超巨大噴火が発生する確率は、
約1%。神戸大学大学院の巽好幸教授と鈴木桂子准教授が衝撃的発表を
行ってから、1週間が経過したが、社会の反応はかなり小さい気がする。
これには、色んな理由があるだろう。そもそも、正式な論文発表はまだ少し
先(11月11日、日本学士院紀要)であること。気象庁・火山噴火予知連絡
会が翌日すぐ、データが不十分だから巨大噴火の発生確率は当面検討し
ない、と記者会見で述べたこと。
さらに、もっと身近なリスクである巨大地震の確率が、30年で数十%のレベ
ルだから、100年で1%という数字がかなり小さく感じられることも挙げられる。
30年以内に70%と言われてる南海地震でさえ、いまだに世間的反応は弱い
のが現実。そもそも、100年も経たない内に、ほとんどの人は死んでるので、
日本が消滅しても直接的影響は受けない。
他にも、実はその超巨大噴火の確率だけなら、専門家レベルだと遥か前か
ら分かってた事だという理由を挙げられる。確率の値だけでなく、計算方法
もおそらく普通のものだろう。ただ、巽氏は火山学の狭い世界で重鎮の1人
みたいだから、派手な発表をたしなめるのも難しい。そうなると、軽くスルー
するのが妥当な所なのかも知れない。。
☆ ☆ ☆
私は単なる素人の数学好き、科学好きとして、確率の計算方法が気になった
のだ。過去2回、当サイトで地震と噴火の確率計算に用いたポアソン分布な
のかどうか。
神戸大HPの発表を見ると、ワイブル関数(または分布)というものを使って
るような感じだし、巽氏の2年前の著書『地震と噴火は必ず起こる』(新潮社)
を書店で見ると、BPT分布というものを使ってるようにも感じた。ところが、そ
の2つの聞き慣れない確率分布は、ネット、書店、図書館で適当な解説を探
してもなかなか見つからない状況。特にBPTには苦戦。
ただし、わりと近いものに対数正規分布というものがあるようで、これなら高
校数学の正規分布に似たものだろうし、カシオの計算サイトで具体的計算も
実行できる。
そこで、今日の記事ではとりあえず、対数正規分布を使う試みをメインにし
て、BPT分布にも少し触れてみよう。結論から言うと、どちらで計算しても
確かに今後100年で1%程度になった。ただ、それは最も単純な算数レベ
ルの計算結果と(たまたま?)同じでもある。つまり、1万年で1回だから、
100年で0.01回。要するに、1%なのだ。。
☆ ☆ ☆
ではまず、対数正規分布について。簡単に言うと、対数をとると正規分布に
従うような確率変数の分布のこと。つまり、その変数を時間 t とするなら、
log t の確率が正規分布になるのだ。正規分布とは何かという話は、今回
は省略して、また別の機会に書くことにしよう。
ここでのlogは、eを底とする自然対数だから、lnとも言える。ウィキペディア
の「対数正規分布」の項
目にある、確率密度関
数の式(変数はx)でも、
lnと書いてた。
ちなみに、普通の正規分布と違って右辺の先頭の分母にxが入ってるのは、
置換積分で変数をlog xから x へと置換する際、log xの微分を掛けることに
なるから。また、ここでのμ(ミュー)は平均ではないし、σ(シグマ)も標準偏
差ではない。似て非なるパラメーターなのだ。
原理的には、上の難しい式の定積分で確率を求めるわけだが、実際は表を
使ったりコンピューター計算したりするだけで、手作業の計算は必要ない。高
校の教科書の場合、最後に付いてる標準正規分布表の値を使って計算す
ることになる。
☆ ☆ ☆
さて、「巨大カルデラ噴火」とも呼ばれる、超巨大噴火(噴火マグニチュード
7以上)の基本データは、神戸大HPの手短な発表によると、千年で0.10
回、つまり1万年で1回の累積頻度となってる。累積とは7以上の合計だろ
うと解釈した。それと併記する形で、ワイブル関数による近似値0.73回と
いうデータも示されてたが、ここではそれは使わない。
問題はパラメーターμとσの求め方。詳しい噴火データで「分散」(散らばり
具合)が分かれば、英語版ウィキの変換式を使って正確に求められる。しか
し今、次の超巨大噴火までの時間が平均で1万年というデータと、直近の鬼
界アカホヤ噴火から7300年経過したというデータしか手元にない。
そこで、2001年に地震調査委員会が発表した2つのpdfファイル、「長期的
な地震発生確率の評価手法について」、「長期的な地震発生確率について
の解説」を読むと、数百~数千年に一度の大地震の場合、σは0.2~0.3
程度の値になってる。
よって以下では、σ=0.25と仮定しよう。すると、次の計算でμが決定する。
ウィキの平均の式を、μについて解き直しただけだ。
μ=log(平均)-σ²/2
=log10000-(0.25)²/2
=9.21-0.03125
≒9.18
☆ ☆ ☆
これで2つのパラメー
ターの値が揃ったの
で、カシオの計算サ
イトで対数正規分布
の計算を実行できる。
下側累積確率(赤い
面積)と上側累積確
率(青い面積)の値を
見ればいい。
(次の噴火が前回から7300年以内の確率)=0.128 ・・・赤い領域の面積
(7400年以内の確率)=0.139
∴ (7300~7400年の確率)=0.139-0.128=0.011
(7300年以後の確率)=1-0.128=0.872 ・・・青い領域の面積
∴ (今後100年の確率)=0.011/0.872
≒0.01
ということで、確率は約0.01。確かに、約1%ということになる。結論には影
響しないが、理論的に、0.011を0.872で割ることは重要。要するに、「こ
れまでの7300年には発生しなかった」という条件を考慮した上での、条件付
き確率なのだ。。
☆ ☆ ☆
一方、BPT(Brownian Passage Time)分布について。前述のpdfファイ
ルに確率密度関数f(t)の式が一応載ってた。平均がμ、分散が(μα)²として、
ただ、これでどう計算すればいいのか困ってしまう。おそらく理数系の専用ソ
フトなら計算できるのだろうけど、カシオのサイトだと大変で、差し当たりは
やる気がしない(しばらく後で試す予定・・)。
代わりに、pdfファイルに載ってた表とグラフを見てみよう。次の表で、横軸
10000年、縦軸0.7(7300÷10000)の箇所を見ると、今後100年以内
の確率が1%になってる(右端、下から2段目)。もちろん、地震でも噴火でも、
同じ変数値とパラメーター値(α=0.24と仮定)なら同じ答だろう。
同じ計算の異なる表現として、グラフも掲載されてた。下の右端の太い黒線
が、平均活動期間10000年の場合で、最新活動からの経過期間(横軸)が
7300年くらいの点の確率(縦軸)を見ると、確かに1%程度だと読み取れる。
上の表やグラフは、他の場合でも、BPT分布の計算に役立つはずだ。ちなみ
に、経過期間が平均の1.5倍程度なら、BPT分布も対数正規分布もほぼ同
じ値になるらしい。つまり、今後まだ8000年程度は、BPT分布の代わりに対
数正規分布を使っても、似たような答になる。ただ、どうしてそんな分布になる
のかという科学的説明を考えると、BPT分布の方が納得しやすいらしい。
☆ ☆ ☆
それにしても、ポアソン分布の時もそうだったが、特別な確率分布など仮定し
なくても、普通に計算した値で十分のような気がしてしまう。どうせ、元のデー
タにせよ、確率の受けとめ方にせよ、非常に大まかな話だから、精密な話を
する必要性をあまり感じない。
今回なら、100年で0.01回だから1%。これで、対数正規分布やBPT分
布とほぼ同じ値になるのは、「単なる偶然」と「言い切れる」のかどうか。今後
の課題としとこう。直感的には、「ほぼ同じになる確率がわりと高い」ような気
がするのだ。もちろん、かなり異なる場合もある。
なお、日本が消滅するという巽氏らの説は、別に「日本沈没」を予想しての事
ではない。列島が海に沈むのではなく、九州の噴火の灰が偏西風に乗って
全国に積もり、実質的に麻痺してしまうという話だ。道路、電線、水がどうな
るのか、人類が経験したことのない状況なので、私にはまだよく分からない。
7300年以上前の超巨大噴火とでは、全く状況が異なるのだから。
とりあえず、今日はこの辺で。。☆彡
cf. ポアソン分布(過程)による地震の確率計算(by政府・委員会)
富士山の噴火の確率計算~二項分布とポアソン分布
(計 3471字)
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