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映画『昼顔』(Belle de Jour)~あらすじ、感想、ドラマとの比較

(☆17年6月25日の追記: 続編映画の記事をアップ。

  映画『昼顔』ノベライズ、軽~い感想(ネタバレ少なめ♪) )

 

 

      ☆        ☆        ☆

映画『Belle de Jour』(ベル・ドゥ・ジュール、邦訳『昼顔』、1967年、フラン

ス・イタリア合作、101分)を知ったのは、この夏クールの人気ドラマ『昼顔』

(2014年、フジテレビ)を通じてのこと。まず、その関係についての公式情報

を確認する所から、レビューを始めよう。

 

ドラマ公式HPでTrailer(予告)の最初、0番を見ると、こう書いてある。

 

   「“平日昼顔妻”とはフジテレビの『ノンストップ!』が、ルイス・ブニュエル

    監督、カトリーヌ・ドヌーブ主演の映画『昼顔』から着想した造語で、夫

    を会社に送り出した後、平日昼に別の男性との恋に落ちる主婦のこと。」

 

『ノンストップ』とは、フジの平日午前の情報バラエティ番組のことで、ドラマのプ

ロデューサー・三竿玲子が平日昼顔妻特集を見て驚いたのが一つのキッカケ

のようだ。

 

ドラマの放送自体だと、初回の一番最後で、“このドラマは映画「昼顔」をオマー

ジュしたオリジナル作品でフィクションです”というテロップが映されてる。オマー

ジュとは、元のフランス語「hommage」だと単なる敬意や称賛を表す単語だが、

英語や日本語で文芸作品に使う時は、敬意を込めた模倣を指すことが多い。

 

わざわざオマージュなどと言わなくても、実質的に敬意を込めた模倣を行って

る作品はいくらでもあるはず。例えば、当サイトでも度々指摘して来たように、

フジの名作ドラマ『ビーチボーイズ』へのオマージュとなってるドラマは色々あ

るのだ。去年夏の『SUMMER NUDE』もそうだった。シェークスピアの『ロミ

オとジュリエット』へのオマージュなど、世界で無数にあるだろう。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

さて、元の映画のタイトルは、直訳すると「昼の美女、昼の恋人」という意味。

ヒルガオ科の花(三色朝顔など)の俗称でもあるけど、映画の中での意味を

簡単に言うなら、「昼の売春婦」ということだ。カトリーヌ・ドヌーヴ演じるヒロイ

ンが身体を売る時だけ用いる仮名、いわゆる源氏名となってたから、映画の

タイトルは、ヒロイン1人を指す固有名詞でもあるわけだ。

 

この点で、既にドラマとの違いが色々ある。ドラマだと、不倫した人妻の紗和

(上戸彩)や利佳子(吉瀬美智子)がお金を稼ぐわけではないし、一番の中心

人物である紗 和の恋愛相手はただ一人、北野先生(斎藤工)のみ。源氏名は

使われてないし、ドラマのタイトルは平日昼顔妻を表す一般名詞なのだ。

 

映画の内容を少し細かく見る前に、全体のあらすじを簡単に書いとこう。完全

なネタバレなので、ご注意あれ。私自身が見て、自分の言葉でまとめたもの

だが、英語版ウィキペディアのあらすじは一応参考にした。

 

   ──若くて美しい人妻・セヴリーヌは、金持ちでハンサムの医師・

   ピエールを夫に持ち、上流階級(ブルジョア)のリッチな生活をパリ

   で送ってる。ただ、「不感症」(映画の字幕)で夜の夫婦生活は無し。

   幼い頃の性的体験がトラウマとなってるようで、性への恐怖と同時

   に、屈折したマゾヒスティック(被虐的)な欲望も強く、性的な夢をよ

   く見る。

 

   いやらしい男友達・ユッソンらに、売春宿(マンションの一室)の話を

   聞かされた彼女は、欲望と好奇心を抑えきれず、晩秋のパリで密か

   に売春を始める。時間は午後2時~5時。罪悪感に苛(さいな)まれ

   る一方、最高の性的満足も得て、夫との性的交渉も可能になった。

 

   ところが、客の1人の若いチンピラ(下っ端のヤクザっぽい青年)・マル

   セルと本気の男女の仲になってしまい、ユッソンにも売春がバレてしま

   う。そこで彼女は、売春を止めたものの、マルセルに自宅も実名も突き

   とめられてしまった。

 

   嫉妬に狂うマルセルは、彼女の夫を銃で撃った直後、警官に撃ち殺さ

   れる。ほとんど身体を動かせず、口もきけない障害者となった夫に、ユッ

   ソンは真実をバラしてしまったような感じだ(不確定)。

 

   その後、夫のそばで彼女がウトウトした後、(目を開けると)夫はなぜか

   元通りの元気な姿で微笑みかける。遠くから、馬車の鐘の音がシャン

   シャンと聞こえて来たので、彼女はマンションのベランダに出て、下の

   通りを眺めた。

 

   そこに広がるのは、自宅前の通りではなく、かつての淫らな夢の情景。

   ただし、落ち葉の一本道をやって来た馬車の客席には、彼女と夫の姿

   はなく、空席のままになってた──(完)。

 

 

            ☆          ☆          ☆

このラストシーンだけでも分かる通り、映画は幻想的で多義的な芸術作品に

なってる。非常に大勢の視聴者が気軽に楽しむテレビドラマとは、根本的に違

うし、50年近く前のフランスだから、現代日本とはかなり違うように感じる。

 

もちろんそれが、逆にレトロで新鮮な、非日常的魅力にもなってる。メイド(女

中)がいるリッチな生活、ウィンブルドンみたいに真っ白な伝統的テニスウェア、

何気ない郊外の風景みたいに映るスキー・リゾート、パリの街路樹の落葉、妖

しい大邸宅、等々。

 

ただし、既にドラマの最終回レビューで触れたように、類似箇所も色々ある。例

えばドラマの最初と最後は、火事と消防車になってた。もちろんこれは、危険な

「火遊び」を表すものでもあるけど、映画の2つの要素を組み合わせたものでも

ある。馬車と、暖炉の炎だ。

 

 

           ☆          ☆          ☆

まず、映画の冒頭とラストは、馬車が一本道をやって来るのだ。このシャン

シャンという鐘の音が、ドラマの消防車のカンカンという警報と重なる(ドラマ

冒頭ではパトカーのサイレンと重なってる)。そして共に、人妻の危険な欲望

と運命を表してる。無意識の、あるいは前意識(意識と無意識の中間)の性的

欲望、強烈な衝動。

 

冒頭、馬車で夫婦仲良く話してたのに、夫が「不感症」という話を出した途端

に妻が不機嫌になり、逆に夫が激怒。妻のセヴリーヌを馬車から引きずり降

ろして、森に連れ込み、両手首をロープで縛って木に吊るす。御者2人が彼女

を鞭で打つと、最初は嫌がるものの、やがて顔をのけぞらせて喘ぎ声をあげ

る。夫が御者に、レイプするよう命じた所で、夢から目が覚めるのだ(普通に

解釈するなら・・)。

 

この馬車は、ラストシーンで客を乗せずにやって来る他に、映画の途中でも登

場。夢とも現実とも思えるような、幻想的で奇妙な出張売春に使われるのだ。

ただし、売春と言ってもそこでは、セヴリーヌは棺の死体になりきるだけ。大邸

宅に住む相手の男性客は、棺の横で悲しんだ後、棺の下にもぐって何かゴソ

ゴソ動いてる。

 

そこを彼女が覗きこんだ後、雨の屋外に叩き出されてるから、おそらくこっそ

り自慰(マスターベーション)の類を行ってたのだろう。実際、似た話が、別の

性的な幻想シーンにも出るのだ(彼女&ユッソン、レストランのテーブルの下)。

 

一方、火という要素は、映画だと暖炉の火として何度か登場する。一番印象

的なのは、彼女が初めて娼婦になった直後、自宅に帰って下着とストッキン

グを燃やすシーンだ。普通に見るなら証拠隠滅だけど、自らの秘められた性

的欲望に「火をつける」象徴として解釈することも可能。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

続いて、ドラマの最後の乱闘。利佳子の不倫相手・加藤(北村一輝)が、元・彼

の少し若い男・智也(淵上泰史)に襲われて大ケガするシーンも、映画にヒント

を得た形になってる。映画だと、夫が若いチンピラに襲われて、植物状態に近

い障害者になる。

 

見方によっては、映画のラストで、実は夫が死んでしまったパニック状態だと

解釈することも可能。あまりのショックと罪悪感で、妻が幻覚の世界に逃避し

たと考えるわけだ。実際、急に元気になる直前の夫は、まるで死体のように

不気味な暗い姿で映されてる。

 

それに対して、ドラマの場合、右手を使えなくなった画家の加藤は、左手で不

自由しながら頑張って生きて行くわけだ。やはり、テレビの場合は、分かりや

すい甘口のポジティブ・ストーリーに近づく。

 

ちなみに、映画の原作となってる同名小説(ジョゼフ・ケッセル作、1928年、

フランス)のあらすじを英語版ウィキで読むと、終盤が大きく違ってるようだ。

小説だと、妻がチンピラに、真相を暴露しそうな男友達(ユッソン)を殺すよう

頼んで失敗。代わりに、夫が重傷となるらしい。チンピラは死なずに、彼女を

かばって黙秘するそうだから、彼には多少の共感が可能。むしろ、妻がひど

い悪女なのだ。

 

 

           ☆          ☆          ☆

いずれにせよ、映画はブロンド美女の若い人妻セヴリーヌを1人だけ前面に

押し出した作品だけど、実は知人女性が先に売春し始めて、それが事の発端

になってた。

 

だから、映画のセヴリーヌと知人女性を融合して、再び2人に分け直したのが、

ドラマの紗和と利佳子だと考えられる。セヴリーヌに近い側が紗和、知人女性

に近い側が利佳子。

 

あと、映画の中盤に、何ともステレオタイプの(型にハマった)日本人客が登場

して、「芸者クラブ」という名前のクレジットカードを提示、女主人アナイスに断ら

れる。仕方なく現金を出して、情事を始める前、女性たちに箱を見せると、中か

らは、羽虫みたいなブーンという不気味な音。他の売春婦が嫌がるのに、セヴ

リーヌは動揺せず、かなり激しい行為の後でも、既に客は帰ってるのに、「最高

に感じたわ」(字幕)と告白。

 

この虫好きの変わった日本人が、ドラマの紗和の不倫相手・北野先生であるの

は明らかだろう。見た目が大きく違うから、斎藤工のファンは認めたくないだろう

けど、鈴の音でもセヴリーヌを喜ばせる特別な脇役なのだ。

 

その一方、ドラマの加藤に似た男性は、映画だと見当たらない。脚本家・井上由

美子らのオリジナル・キャラだろう。あえて探すなら、大邸宅に住む変わり者の

年配男性だが、むしろ相違点の方が目立つと思う。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

最後に、現実と幻想について。既にドラマの最終回レビューにも書いたように、

「胡蝶の夢」という有名な話がある。要するに、私が蝶の夢を見たという時、実

は逆に、蝶が私になった夢を見てるのかも知れない・・・という話だ。

 

普通の人間の場合、情景の鮮明さや「起きてる」「意識してる」という自覚の強

さ、他者や外部との関係などから、夢と現実はハッキリ分けられる(と思ってる)。

しかし、その区別がついてないような精神疾患や事件の例はいくらでもあるし、

芸術作品やマンガその他でも無数にあるだろう。

 

『昼顔』という映画の場合、普通に見ても、かなり病的な人妻が主人公だし、冒

頭とラストがよく似た幻想的シーンとなってる。おまけに、途中の大邸宅シーン

も微妙だし、売春を経験した後、妻が「贖罪の牛」と呼ばれて罰を受ける荒野の

シーンは完全に幻想的だ。真っ白いドレスに包まれた、王女みたいな姿のセヴ

リーヌが、また手首を縛られて、汚い言葉と共に、泥を投げつけられるのだ。今

の日本のテレビでは、まずあり得ないシーン。

 

だから、どこが現実でどこが幻想なのか、いくらでも解釈、改釈の余地がある。

たとえば、現実が単なる売春婦で、上品な人妻生活の方が幻想とか。あるい

は、全てが夢と考えてもいいし、全てが劇中劇、映画の中の映画だと考えるこ

とも可能。最後に、映画館の客席のセヴリーヌが映る様子を思い描けばいい。

もちろん、その点はこの映画に限らず、人生そのものでも同様なのだ。。

 

 

          ☆          ☆          ☆   

別にポルノとかアダルト映画というほどでもないので、ドラマファンの女性の

方々にもお勧めしとこう。67年のヴェネチア国際映画祭、金獅子賞(最高の

賞)に輝く、シュールレアリスティック(超現実的)な古典的名作。

 

映像的には、豊満な下着姿の他に、シースルーの衣装の後ろ姿が映る程度

だから、現代日本の映画と比べても、それほど過激ではない。胸さえ出てな

いほどだから、ボカシやモザイクも必要なし。着衣SMと幻想を織り交ぜた映

像芸術、アートなのだ。滑稽な変態男が這い回る姿は、単なるお笑い的な味

つけだろう。

 

個人的には、少しだけフランス語を聞き取れたのが小市民的喜びだった。もっ

と聞き取れれば、さらに楽しめると思うから、実力をつけて再チャレンジしたい

と思ってる。時計の針の音や時報のメロディーに注目、時間の流れや順序を

再考してみるのも面白そう。娼館の使用人の可愛い娘に着目すると、少女時

代のセブリーヌが大人になった自分を空想してるとみることも可能だ。

 

今週は計17371字となった。それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf.  夢か現実か、人妻蝶のピクニック~『昼顔』第10話

    人妻蝶の炎、新たな束縛の快楽へ~『昼顔』最終回

    ドラマ『昼顔』ノベライズ本、別の結末のあらすじ&感想♪

 

                  (計 5044字)

       (追記 57字 ; 合計 5101字)

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