2014年12月31日のNHK・紅白歌合戦から、早くも1週間が経過。今さら
ブログの記事にしても流行遅れだが、一連の出来事は根深くて重要な問題
と絡むし、個人的にもここ数年、関心を持ってるので、簡単に記事を書いとこ
う。サザンや桑田も、ファンというほどでもないけど、好感は持ってるし、実績
や一部の曲は高く評価してるのだ。
キッカケは昨日、朝日新聞2015年1月6日の朝刊に掲載されたミニ特集で、
社会面のシリーズ「ニュースQ3」の記事、「サザン 紅白の歌がネットで反響」。
1面の右端には、サザンオールスターズ・桑田佳祐の小さな写真付きで紹介。
社会面の記事本文・左側には、2枚並んだ白黒写真の上側として、桑田が鼻
の下にチョビ髭をつけてる紅白の様子を掲載している(NHKホール・モニター)。
右下には小さく、司会のSMAP・中居正広の笑顔。
ちなみにこの記事は、ネットの朝日新聞デジタルにも掲載されてるし、Yahoo!
にも配信されてるが、会員登録しないと序盤しか読めない。まあでも、紅白の
反響なら、普通にネットで検索するだけで大体分かるだろう。ブログ、ツイッター、
Facebook、YouTube。。朝日と同系列のハフィントン・ポストでは、1月1日
に早くも記事を掲載。こちらは今でも全文読めるが、内容はごく軽いものだった。
☆ ☆ ☆
さて、私自身も紅白の終盤を見て、1月2日の記事にごく簡単な感想を書い
ておいた。サザン・桑田については、
「『ピースとハイライト』って、歌詞がかなり政治的だけど、
桑田の場合、バランスや笑いの感覚があるから受け入れやすい。
あえて、誰と比べてとまで言わないのが、小市民ブロガーなのだ♪」
とだけコメントしてある。
前年のサザン復活の時から、この曲の政治性が話題になってるのは知って
たから、「文化・芸能関連ってホント、リベラル(左寄り)な立場や体制批判が
好きだよなぁ」と思った程度。知識人にもアーティストにも、昔から目立つ傾向
だし、サザンや桑田が特にハッキリ強調してる訳でもない。
ただ、与党・自民党が直近3回の国政選挙で勝利、社会全体でも保守・右寄
りの傾向が増えつつある(と言われる)中、31年ぶりに国営放送の超人気長
寿番組に登場した超人気ロックバンドのパフォーマンスは、左の一部からは
拍手喝采、右の一部からはブーイングで迎えられたようだ。
その辺りについて考えるために、まずこの曲や紅白自体の内容を見てみよう。
☆ ☆ ☆
著作権の関係で歌詞の全文掲載はできないが、あちこちの歌詞サイトですぐ
に無料で確認できる。桑田の作詞した『ピースとハイライト』で問題となるのは、
この曲名(タイトル)と、歌詞の一部だ。
「ピースとハイライト」と言えば、国産タバコの代表的な銘柄。ウィキペディア
の説明を信用するなら、ピースは桑田の父親が、ハイライトは桑田自身が、
かつて吸ってたらしい。
ただし、歌詞には「ほとんど」タバコの気配は無いし、ピースと言えば平和、
平和と言えばリベラルの核心の一つだ。そもそも、この曲は2013年の夏
のリリースで、左寄りの民主党・野田政権から、右寄りの自民党・安倍政権
へと変わった半年後の作品。そうなると、曲名の「ハイライト」の意味も、本来
の意味とされる「hi-lite」(もっと陽の当たる場所)というより、「hi-right」
(強く右寄り、極右)ではないか・・・と考えても不思議はない。
だから、曲名は「左と右」とか「リベラルと極右」という意味「とも解釈可能」。
その場合、歌詞全体の内容から考えて、前者の方が素晴らしいことになる。
おまけに、紅白でのサザンのライブ出演冒頭、桑田がつけてたチョビ髭は、
20世紀最大の悪役の一人、ヒトラーを真似してるようにも見える。ヒトラー
は国家「社会主義」の「革命」を行った
政治家だから、左寄りの部分もある訳
だが、民族主義や差別、力の誇示から
考えて、普通は悪しき極右の象徴。だ
から、やはりハイライト(極右)批判の
ように感じられる。
ヒトラーの写真は、ウィキメディアで公
開中、German Federal Archive(ドイツ連邦公文書館)の作品。
☆ ☆ ☆
そして、肝心の歌詞。全体的に、20世紀以降の現代の国際・地域紛争を扱っ
てるもので、現代史を・・一番知りたいとか、地上に愛を、平和の花咲くまで、
互いの幸せ願う、知ろうよ互いのイイところ等々、無難な内容が並ぶ。半世紀
前から続く、「Love&Peace」(ラブ・アンド・ピース)の主張。
ただ、YouTubeの公式PVでは省かれてる2番の歌詞で、ちょっと気になる
箇所はある。
硬い拳を振り上げても 心開かない
都合のいい大義名分(かいしゃく)で 争いを仕掛けて
裸の王様が牛耳る世は...狂気(Insane)
1番だけのPVでも、米国・オバマ大統領と中国・習近平国家主席が微笑み
ながら小競り合いした後、日本の安倍首相と韓国の朴槿恵大統領が登場。
どちらもランドセ
ルを背負って、パ
ン屋で子どものじゃ
れ合いみたいなケ
ンカごっこをしてる
から、「安倍首相も」
意識してるのは間
違いない。すると、
憲法「解釈」(かいしゃく)による集団的自衛権の容認を批判してるようにも見
てとれるわけだ。もちろん、いわゆる解釈改憲の成立より1年前の曲とはいえ。
そこへさらに、紅白の直前、3日前の情報まで加わって来る。安倍首相が昭
恵夫人と観賞したサザンのライブ。『爆笑アイランド』という曲で、「衆院解散
なんてむちゃを言う」とアドリブで歌ったとのこと。これは1998年のアルバム
の曲だし、桑田は安倍夫妻の来場を知らなかったという情報(ウィキ)もある
が、現政権「も」批判してるのは間違いない。
この歌詞は全体的に、『ピースとハイライト』よりも反体制的で攻撃的な内容
になってる。曲名も、日本という「アイランド」(島国)の惨状を「爆笑」してるわ
けだ。サザンと仲良しらしい、お笑いの爆笑問題と共に。ちなみに爆笑問題
は、正月の3日に放送された『初笑い東西寄席2015』で、NHK側の自粛に
よって、政治家ネタをすべてボツにされたとのこと(TBSラジオでの談話)。
☆ ☆ ☆
以上、かなり客観的に全体をまとめた上で、私の感想を書き添えよう。まず何
より、これらの事自体は昔からありがちな人文系、左派の一部の動きであっ
て、笑って、あるいは苦笑しながら、柔らかく受け流せばいいことだと思う。健
全で適度な、一部向けのガス抜き余興として。
紅白の12分間の出番の中でも、チョビ髭は最初の2分だけだし、直接的な批
判の台詞は何もない。2曲目の『東京VICTORY』は単なるスポーツ系のいけ
いけソング。そして何より、直前の総選挙で安倍政権は信任されてる。「裸の王
様」は、安倍首相と言うより、桑田自身かも知れないのだ。桑田のチョビ髭が示
してるのは、まさに自分自身の左派有名人としてのカリスマ性かも知れない。
例のプロモーショ
ン・ビデオだと、サ
ザンの5人は悪を
退治する戦隊に扮
してるわけだが、こ
れ自体も明らかに
子どものお遊び。
みんなで、正義の
味方ごっこで遊んでるのであって、正義と悪の曖昧さや反転可能性は、初代の
ゴジラやウルトラマンから示されて来たことだ。ゴジラは核兵器に怒る。しかし、
その「正義」の怒りは、社会を破壊し、一般市民をも攻撃する「悪」でもある。。
☆ ☆ ☆
あえて桑田やサザンに注文をつけるとすれば、「ハイライト」=右に対する攻撃
と比べて、自分たち自身を笑い飛ばす側面が弱い。もし、私がPVを作るのな
ら、ゴレンジャー的な戦隊としてのサザンが「悪」に立ち向かう様子を静かに見
つめる第三者的視点を入れようとするだろう。画面の右側に「右」、左側に戦隊、
中央に第三者としての子どもとか。
もちろん、こうした中立的でメタレベルの配慮は、商業的なプロデューサーに
却下されそうだが♪ 何らかの単純化を施した方が一般ウケする、あるいは
大きな集団にウケるという傾向は、最近のテレビドラマでも顕著だ。
「燻(くすぶ)る火種が燃え上がるだけ」という、タバコも意識した歌詞が、自分
たちにブーメランのように跳ね返ることを十分理解した時、はじめてサザン・桑
田は「ハイレフト」(hi-left : 強い左寄り)から「ピース」へと向かうことが出来
る。それには例えば、『ピースとハイレフト』という曲をライブでアドリブで歌うの
がいい♪
その時はじめて、「拳を振り上げ」るのは誰なのか、その全体像も見えて来るだ
ろう。紅白の映像でも、実際に拳を振り上げたのは、桑田(と観衆)なのだ。「硬
い」拳かどうかはさておき。
守るにせよ変革するにせよ、平和という理想の実現は、非常に難しい現実的
問題だ。それでは、今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 1月15日の夜、サザン・桑田と株式会社アミューズの名義で、昨年
末などのライブに関する「お詫び」が発表された。紫綬褒章の扱いや
紅白の演出などについて、悪意や特定の意図はないとの事。
P.S.2 1月17日のTOKYO FM『桑田佳祐のやさしい夜遊び』冒頭で、
14分間にわたって、あらためて謝罪が行われたとの事。
私はそこまで謝る必要はないと思うが、謝るのであれば、もっとシ
ンプルな言葉の方が良かった気がする。「デマ」、「誤解とか曲解」、
「それこそが都合のいい解釈」といった言葉は挑発的だし、それを
言うなら「ピースとハイライト」というタイトル名やPVなどの意味の
「正解」も示すべきだろう。
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