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日本の戦後は主権を回復した1952年から~佐伯啓思「異論のススメ」(朝日新聞)

かなり個性的な保守派の論客、佐伯啓思(さえき・けいし)については、6年

半前に1本記事を書いただけだが、朝日新聞に時々登場する時には読むこ

とが多い。左派の朝日が一番注目している右派のような感もある。

 

最近だと、2015年1月6日・朝刊に掲載された、「(安倍政治 その先に) 

保守を考える 佐伯啓思・京大教授に聞く」というインタビューが興味深いと

言うか、面白かった。安倍政権は保守層にとってわかりづらい。今の安倍さ

んは保守とは言い難い。(しかし?)基本的には期待している、等々。

 

朝日の記者・岡村夏樹による、安倍批判への誘導にはなかなか乗らない。

しかし、単純な安倍擁護とも相当異なる。議論の展開の仕方、屈折も含め、

ひと癖もふた癖もある論客だ。

 

今回ここで扱う、4月からスタートした新年度企画の一つ、「異論のススメ

でも、「いささか耳障りで、読後感がざわつくようなこと」を書いている。なるほ

ど・・とも思わないし、おかしいとも思わないが、自分で考え直したくなるよう

なキッカケを与えてくれる文章として、まずは成功だろう。

 

「異論や異説・・・・・・と出会うことによって、われわれの考え方は多少はき

たえられ」。その結果が保守への傾斜かリベラルへの傾斜か、あるいは

中道への回帰その他かはさておき。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

3月末に京大を退職した佐伯が、毎月1回(原則として第1金曜)の新連載

の初回(4月3日・朝刊)に持ち出したテーマは、「日本の主権」、「本当に『戦 

後70年』なのか」。実は1月のインタビューでも、戦前、戦後の分かれ目の

辺りや、アメリカとの関係について、こだわりを見せていた。

 

佐伯の主張を簡単にまとめると以下のようになる。

 

   今年(2015年)は戦後70年だとされているようだが、その起点である

   1945年8月15日は「敗戦の日」であって、本当は終戦の日ではない。

   国際法的な意味では、戦争の終結は1952年4月28日、サンフランシ

   スコ講和条約が発効した日付けだから、本当は戦後63年である。

 

   45年から52年の間は、アメリカを中心とする連合国による占領の期

   間であって、日本には主権が無かった。主権をもたない国家が、主権

   の最高の発動である憲法を制定できるとは思えない

   (注. 憲法の公布は46年、施行は47年。)

 

   「押し付け」問題や、護憲・改憲・廃憲などについて議論する前に、そ

   もそも憲法の正当性が疑わしいという「原則論」をまず押さえておくべ

   きだろう。たとえ、68年間その憲法を擁して来たという「現実論」があ

   るにせよ。。

 

 

        ☆          ☆          ☆

さて、この異論について、憲法学者や政治学者なら直ちに反論(=メタレベ

ルの異論)を示す所かも知れないが、私が最初にやったのは、事実の確認

だった。特に2点。条約の原文はどうなっているのか。また、中学校の義務

教育や高校の日本史ではどう教えているのか。

 

条約の名前は、日本語の正式な翻訳だと、「日本国との平和条約」。英語

なら、「Treaty of Peace with Japan」だ。この条約名だけでも、根本的

に連合国の立場から書かれているのが分かる。ちなみに、平和条約と同時

に署名された日米安保条約では、「between ・・・ and ・・・」となっている。

つまり「米国と日本の間の」であって、一応ほぼ対等の名前なのだ。

 

ウィキソースで日本語原文を読むと、前文をのぞく一番最初には、次のように

書かれている。

 

   第一章・平和   第一条

   (a) 日本国と各連合国との間の戦争状態は、第二十三条の

       定めるところによりこの条約が日本国と当該連合国との 

       間に効力を生ずる日に終了する。

   (b) 連合国は、日本国及びその領水に対する日本国民の

      完全な主権を承認する。

 

 

第二十三条とは、条約の批准について定めたもの。日本は51年11月に

素早く批准。米国の52年4月の批准後まもなく、発効となった。米国以外

の連合国は、もう少し早く批准したということだろうか。当時の日本の首相

は吉田茂、米国大統領はトルーマン。

 

ちなみに、安倍政権がらみで興味深いことに、条約内で主権(sovereignty)

についての説明は、ただ一つしかない。第五条、「国際連合憲章第五十一条

に掲げる個別的又は集団的自衛の固有の権利」と、「集団的安全保障取極

(とりきめ)を自発的に締結できること」。これしかないとまでは書いてないが、

少なくとも憲法の自主的制定の権利のようなものには触れられていないのだ。

 

主権という言葉について、コトバンク(デジタル大辞泉、大辞林、世界大百科

事典その他)やウィキペディアを見ても、大まかな話しか書いていない。国家

統治権、他国からの独立権など。正直、解釈によっては、いまだに日本は

完全な(full)主権を持ってないとも考えられる。その良し悪しはともかく。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

一方、国内の教育について。2014年発行の『社会科 中学生の歴史』(帝

国書院)を見ると、「戦争の終結」という項目で、1945年8月14日のポツダ

ム宣言受諾、15日の天皇のラジオ放送(いわゆる玉音放送)が挙げられて

いた。平和条約については、51年に結んで独立を回復とだけ書いてある。

 

ところが、そのすぐ下には、同時に結ばれた日米安保条約の話があって、日

本国内の米軍基地を認めたと書かれている。独立と米軍基地は別問題とい

うことだろう。

 

ちなみに、おそらく左派を中心に、日本は敗戦を終戦と言い張っている、といっ

た批判がよく行われている気がする。ところが中学の教科書で強調されてい

るのは明らかに「敗戦」。太字の項目名で2回、写真や引用文にも「敗戦」とい

う言葉が並んでいる(他の教科書は未確認)。メディアが語る、いわゆる「終戦

の日」、「終戦記念日」も、82年以降の正式名称は「戦没者を追悼し平和を祈

念する日」。この辺り、事実認識その他について注意が必要だろう。

 

続いて高校の参考書『チャート式 新日本史』(数研出版)や『日本史B用語

集』(山川出版社)も見てみたが、中学より詳しいものの、基本的な語り口は

同じだった。戦争終結は45年、平和条約(or講和条約)の発行は52年。憲

法は、連合国軍総司令部(GHQ)による草案を元にしたものの、単なる押し

つけではなかった、等々。。

 

 

           ☆          ☆          ☆

最後に、佐伯の主張に戻ると、問題なのは、結局、何が言いたいのか、何を

したいのか、という点だろう。

 

彼が語る原則論にはそれなりの妥当性があるが、68年間の現実的歴史を

持つ憲法の正当性を根本的に疑うことが正しいのか。私は別に護憲派では

ないが、要するに佐伯は、改憲の正当性を理論立てているように読めるの

だ。やや遠回しに、やや力づくで。

 

もし、そういった普通の主張でないのなら、佐伯は来月以降、原則論の先の

話や結論を語るべきだろう。たとえば、戦前と戦後の連続性を強調しつつ、旧

憲法(大日本帝国憲法)を再評価するとか、新憲法と旧憲法の折衷やバラン

スについて語るとか。

 

45年を境目に軍国主義が民主主義に変わったなどという見方は「物語」だと

語る佐伯なら、悪しき旧憲法が良き新憲法に変わったという「物語」の疑わしさ

について語っても不思議はない。

 

そうした異論によって心がざわついた読者が、正論や持論について考え直す

こと。その点にこそ、佐伯の連載の価値があるわけだ。ちなみに現在、個人的

には、今でも日本はやや占領状態のような部分、側面を持っていると思ってい

る。ただ、その良し悪しや今後の進むべき方向性については考慮中だ。

 

というのも、完全な独立とは単なる幻想、不在の対象への欲望かも知れないし、

部分的な占領状態より更に悪いものかも知れないのだから。

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

                                    (計 3132字)

 

cf. 福田辞任を生んだのは我々の情緒性~佐伯啓思(京大)の問題提起

 

                         (追記 33字 ; 合計 3165字)

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