« ランニングバイク(走る自転車)、STRIDER(ストライダー)とは | トップページ | ドローン(drone)が飛び交うSF的世界、まもなく現実に・・ »

紀伊国坂のっぺらぼう怪談、小泉八雲「狢(むじな)」~全国学力調査2015・中学国語B

「どろん」と言えば、最近は小型無人飛行機「ドローン」のことを指す♪ 今日

は、首相官邸の屋上に放射能を帯びた機体が墜落してたなんて事件も騒が

れてるが、ここでは珍しく、「お化け」の話を書いてみよう。

 

丸10年近く毎日更新してるこのブログに、その種の話がほとんど書かれて

ないのは、私が怖がりだからかも♪ 小学校2年生くらいまで、夜のトイレに

行く時は親を起こしてた気がする (^^ゞ 6年生くらいまでは、怪談やホラー

(テレビ・映画)は本気でビビってた。

 

その後、一番怖かった体験は、サイクリングで夜の山を越えた時だと思う。

東京・奥多摩から山梨へと抜ける途中の、柳沢峠。距離40kmで標高差

1100mを登るような感じで、途中はホントに真っ暗な部分もかなりある。人

も車もほとんど通らない中、月明かりと小さなヘッドライトで登るのは、精神

的にも肉体的にもキツかった。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

それに対して、昨日(2015年4月21日)の全国学力調査・中学国語Bで出

題された坂は、実際にはわりと短くてなだらかな坂だ。小泉八雲(出生名、パ

トリック・ラフカディオ・ハーン)の名作、「狢(むじな)」の舞台となる、紀伊国坂

(きのくにざか)。別の表記は、紀国坂、紀之国坂。まず、国土地理院の標高

付き地図を利用して、位置と高さを確認しておこう。

 

下図の赤い矢印のあたり(矢の先が上側)。簡単に言うと、都心の皇居の西

側あたりだ。坂の西側は赤坂御用地。東側は外堀通り、高速道路を挟んで、

弁慶濠(べんけいぼり)。

 

150422a_2

 

 

          ☆          ☆          ☆

近くに同じ名前の坂(東京都・千代田区)があって紛らわしいが、怪談の舞台

港区の坂で、坂下には標識がある。坂のサイト「坂マップ」の該当ページ

で、原寸大の標識写真を見ると、次のように3行で書かれてる。

 

  きのくにざか  坂の西側に江戸時代を通じて、紀州(和歌山県)徳川家 

  の広大な屋敷があったことから呼ばれた。 

  赤坂の起源とする説がある。

 

ちなみに、ウィキペディアで赤坂区の説明を読むと、紀伊国坂が赤坂と呼ば

れた由来としては、坂上の茜草、そこから名前がついた赤根山、坂に干され

てた赤い絹とかが挙げられてるらしい。

 

この坂、坂マップでは「距離231m 高低差12.88m」と書かれてる。一方、

坂学会では、「長さ340m 高低差5m、平均斜度0.8度」。坂学会の高低

差はいくら何でも小さ過ぎるし、坂マップの表示も普通の感覚とは違うような

気がする。普通、坂と言えば、一番低い所から一番高い所までの一続きを言

うはずだ。もちろん昔は、起点や終点となる標識も交差点の信号もない♪

 

そうすると、むしろ赤坂見附の交差点の南側を起点として、1km弱(800m 

前後)、標高差20m程度(標高10m~30m)の坂と考えられる。定義と言う

ほどのものでもないが、ウィキペディアの説明とも整合的。怪談とも合ってる。

 

いずれにせよ、街灯その他のライトが無い時代の深夜、一人で登ると、街中

としては怖くて長い坂だ。時速4kmの歩行速度で登っても、12分もかかる。

のっぺらぼうに驚いて、死に物狂いで走っても、4分前後かかるだろう♪ 端

から端までなら。。

 

 

         ☆          ☆          ☆

ではいよいよ、その4分の全力疾走の物語。育ちの良さそうな若い女の子

が、暗い夜道で1人で泣いてたら、昔の男は心配するフリをして声をかけた

だろう(笑)。今だと、痴漢扱いされて悲鳴を上げられるリスクがあるから、

お嬢様好きの私でさえ、見るだけにするかも♪ ちなみに作者の説明によ

ると、主人公は優しい男で、下心はなかったことになってるようだ。

 

テストの文章の前半から、まず引用させて頂こう。朝日新聞(4月21日・

朝刊)より。青空文庫で全文を読みたい方は、こちらへどうぞ。

 

   「・・・お女中、まあ私の言うことをお聞きなさい。ほんのちょっとの間

    でいいから。・・・・・・お女中、お女中」 

    ・・・・・・するとその時、女はこちらを振向いて袖を落すと、自分の 

   顔をその手でつるりと撫でた。──と見れば女の顔には眼もなけ 

   れば、鼻もない、口もない、──アッと男は悲鳴をあげて逃げ出した。

 

150422d  というわけで、女のコをナンパして

  もっと暗い場所に連れ込もうとした

  ら、天罰で狢(むじな)に化かされ

  たのだった(笑)。案外、フツーの

  素顔を見て驚いたのかも♪ コラ

  コラ! 左はウィキメディアで公

  開中、恋川春町『妖怪仕内評

判記』の絵(1777年、江戸時代)。

 

150422b  「むじな」とは、アナグマ、タヌキ、

  ハクビシン(最近、首都圏で話題)

  の類。左もウィキメディアで公開

  中、寺島良安の『和漢三才図会』

  の絵(1712年)。可愛いのに、

  化け物扱いされたらしい♪

 

  下は、人間に化けた姿。ウィキメディ

ア、鳥山石燕の『今昔画図続百鬼』より(1779年)。仏壇(?)の前で、人

150422c  間を切り刻んで、鍋でグツ

  グツ煮込んでる所か(笑)。

 

 

    ☆    ☆    ☆

  その後、男は「真暗闇、

  前方は空無」の坂道を

  駆け上って、800m走

  の自己新記録を達成♪

  ようやく僅かな明かり、

  提灯の火にたどり着く。

  蕎麦の屋台のおやじ

に、恐怖の体験を話すラストシーン。再び引用してみよう。

 

   「出たんだよ・・・・・・出たんだよ女が。──お濠端で。──そして

    あの女が見せたもの・・・・・・ああ、あの女が私に見せたものを

    おまえさんに口で言ったって話にならない!」

   「へえ! もし、ひょいとして女があなたに見せたものはこんなの

    ではございませんでしたか?」

    と一声言うと蕎麦屋は、その自分の顔を手でつるりと撫でた。

   ──と途端に蕎麦屋の顔は大きな卵のようにのっぺらぼうとなった。

   ・・・・・・そして、それと同時に、屋台の火も消えた。

 

 

ちなみに、元は英語(1904年)のようで、「むじな」はそのまま「MUJINA」、

「のっぺらぼう」は「Egg(卵)」となってた。坂は、紀伊(きい)という地名を強

調して、「Kii-no-kuni-zaka」。

 

 

           ☆          ☆          ☆

さて、テストでは、まず2つ簡単な選択肢付き問題を出した後、第三問で、

一番最後の文(上の最後の行)が「あった方がいいと思いますか、ない方が

よいと思いますか」と問いかける。よくある昔話のラストだと、蕎麦屋がのっ

ぺらぼうになった所で終了だろうから、ちょっと面白い設問だ。

 

もちろん、どちらを選んでも、50字以上、80字以内で書けばいいはず。た

だし、「話の展開を取り上げて、理由を書くこと」。

 

話の展開の読み取り方は、大きく分けて2つだと思う。のっぺらぼうを軸にす

るか、あるいは、暗闇を軸にするか。

 

子供の関心は当然、妖怪の方に向かうから、特に絵本なら、のっぺらぼうで

終了だろう。真っ暗闇は絵に描けないし♪ 試しに私が解答例を作ってみよう。

 

  「最後の一文は、ない方がよい。なぜなら、これは妖怪の怪談で、話の

   展開が、のっぺらぼうに驚いて逃げたら再びのっぺらぼうが出た、と

   いう流れになっているから。」 (75字)

 

 

          ☆          ☆          ☆

一方、暗闇を軸にするのは、大人向けの発想。そもそもお化けが出るのは

暗い場所で、暗い気持ちになってるからだ(おそらく♪)。すると、物語の最後

は、絶望的な暗闇で終わる方が形式的にいいだろう。再び、解答例を作成。

 

   「最後の一文は、あった方がよい。なぜなら、これはのっぺらぼうの

    怪談と言うより、むしろ場所や心の暗闇の物語であって、話の展開

    は暗闇の恐怖を軸にしているから。」 (76字)

 

まあ、頭の回る中学生なら、「どうせ作者は大人だし、最後の一文をつけた

いんだろう。国語の教師なら、妖怪より暗闇を好むはず」と考えて、こちらで

解答する所かも♪

 

 

          ☆          ☆          ☆

ここまで記事を書いた後、模範解答(「正答例」)を読むと、やっぱり暗闇を軸

にしたものになってた。

 

   「最後の一文はあった方がよいと思います。なぜなら、最後が真っ暗闇

    で終われば、暗闇の恐ろしさが繰り返される展開になるため、読み手

    の恐怖感が一層増すと思うからです。」 (79字)

 

私が採点者なら、これだと「のっぺらぼうとの比較に触れてない」ってことで

減点するかも(笑)。ないより、あった方がよいという事だから、ない場合につ

いても一言触れるべきなのだ。焦点は、2パターンの比較なのだから。

 

本当は中学数学Bで書くつもりだったけど、今年はわりと普通だからスルー

した。また統計の問題で、2012年のスキージャンプ原田・船木問題みたい

なトンデモ解答を作ってるんじゃないかと思ったのに、ちょっと残念かも♪

 

それでは、今日はこの辺で。。☆彡

 

                                  (計 3416字)

| |

« ランニングバイク(走る自転車)、STRIDER(ストライダー)とは | トップページ | ドローン(drone)が飛び交うSF的世界、まもなく現実に・・ »

文化・芸術」カテゴリの記事

教育」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« ランニングバイク(走る自転車)、STRIDER(ストライダー)とは | トップページ | ドローン(drone)が飛び交うSF的世界、まもなく現実に・・ »