自民党の改憲マンガ、『ほのぼの一家の 憲法改正ってなあに?』の中立的感想
15年7月3日の朝日新聞・夕刊、社会面トップ記事は、大見出しが「改憲PR
漫画 議論呼ぶ」と書かれてた。執筆記者は、岩崎生之助、安倍龍太郎。続
く2つの見出しは、「自民作成の冊子 批判も」、「『押しつけ』『権利と義務』な
ど論点」。ネットの朝日新聞デジタルの記事なら、こちらから。
5月3日の憲法記念日の前に、自民党が発表(4月28日)。5万部+35000
部印刷して、他に公式HPからのダウンロードもできるらしい。制作は自由民
主党改憲推進本部。作画は柴田工房。
私も遅まきながらネットで読んでみたので、ごく簡単に感想を書いとこう。ちな
みに私は、護憲派でも改憲派でもないので、左派の朝日の記事にも右派の自
民のマンガにも少し引っ掛かるものを感じたが、どちらも許容範囲ではある。
議論や考察のきっかけ、土台としては、共にそれなりに役立つと思う。
☆ ☆ ☆
ではまず、朝日の記事の内容と論調について。要するに、多少の疑問を感じ
るということだ。弁護士1人、憲法学者1人の言葉を引用してるが、どちらも
自民のマンガに対してネガティブなもの。施行当時、基本的人権などをうたう
新憲法は歓迎されたし、「押しつけだから憲法を変えるべきだという議論は、
事実に反する・・・」(憲法史・古関彰一)と書かれてる。
ただ、同じ朝日の5月末の論壇時評(高橋源一郎)などとは違って、今回の
記事はそれなりのバランス感覚を保ってる。自民党側の担当者・磯崎陽輔
の話を別扱いで引用。両論併記的に、「『押しつけ』という言葉も使っていな
い」と書かれてた。実際、私がチェックしても、マンガに「押しつけ」という言葉
そのものは入ってなかったから、「押しつけだから」というのは古関の解釈に
よるものだ。まあ、間違った解釈とも思わないが。
他にも今回の記事では、自民のパンフを受け取った改憲派の一般男性の
言葉を引用。中立派の私が朝日新聞を読み続ける理由の1つは、こうした
最低限の配慮が一応あるからだ。その点は、原発問題でも同様。朝日は反
原発メディアだが、東日本大震災の直後から、放射能の危険性をあおるよ
うな書き方は少なかった。それよりも、客観的データや科学的知識を伝えて
たのだ。
とはいえ、記事で引用してたマンガの一部は、「GHQが与えた憲法のまま
では いつまで経っても日本は敗戦国なんじゃ」という箇所と、国家に対す
る国民の義務の重要性を示す箇所。どちらも、護憲派や左派が拒絶反応
を示すものであって、やはり朝日は朝日。読売や産経とは全く違うし、日経
とも違うのだ。。
☆ ☆ ☆
一方、自民のマンガ。論壇時評の高橋は一言、わざわざ前後を改行して、
「マンガとしてつまらないじゃん・・・・・・」と書いてた。おそらく彼は、普通のマ
ンガの中で良質のものと比較してるのであって、それなら一理あると思う。
ただ、私は政治的主張のための無料マンガとして、期待せずに読んだから、
「意外とフツーに面白いじゃん」と感じた。タイトルは『ほのぼの一家の 憲法
改正ってなあに?』で、全64ページ。「その1 なぜ憲法を改正するの?」
(p.1~)、「その2 憲法改正でどうなるの?」(p.23~)、「その3 国民投
票ってどんなこと?」(p.43~)、「その4 みんなで考えよう!」(p.55~)。
文字通り「声高に」主張する主役は、ひいじいさん、92歳。70年ほど前の
憲法制定時を覚えてる、唯一の登場人物だ。他に、多少の理屈を語るおじ
いさん(64歳)、夫(35歳)、妻(29歳)、長男(2歳)の4世代、5人家族。
最初から最後まで、基本的には文字通り、「ほのぼの一家」だ。ひいじいちゃ
んを含め、誰一人として積極的な政治的活動はしてないし、ひいじいちゃん
も気合が入るのはポイントの箇所のみ。あとは物静かに語るか、窓際のイス
でまったりしてるだけ♪
ただ、男4人、女1人で、唯一の女性が「心配性」で感情的な所は、一部の人
達に「女性差別」とか言われても仕方ないと思う。女性の不安が目立つのは、
憲法改正よりもむしろ、安全保障や放射能関連だろうし、政治的効果を考え
るとやや配慮に欠ける部分だったかも知れない。客観的、統計的な男女差、
性差はともかく。。
☆ ☆ ☆
現行憲法の問題点として挙げられてるのは、古さ、環境問題(エコ)やプライ
バシーへの配慮の無さ、個人主義(国や社会)、地震など緊急事態に関する
規定の欠如、自衛隊の存在や許容との不整合(第9条)、他国と比べた時の
憲法改正手続きの難しさ、など。
もちろん、最も強調されてるのは、「基(もと)を作ったのがアメリカ人だから」
という点。「史実を踏まえ、再構成」した物語によると、最初に日本側が出した
憲法案は明治憲法をうわべだけ変えたものだから、連合国軍・最高司令官、
マッカーサーの指令によって、GHQ(連合国軍・総司令部)が新憲法案を作
成。日本を無力化する目的を持って、僅か8日間で作成された英語の新憲
法案をもとにして、今の憲法が出来た。。
この、いわゆる押しつけ問題について、手元の中学校の教科書『社会科
中学生の歴史』(帝国書院)を見ると、冷静な記述が載ってた。「『総司令部
のおしつけ』といわれることもありますが、総司令部は、政党や民間の学者
らによって独自につくられた憲法草案も参考にしました」。
また、合衆国憲法その他の言い回しが前文に使われてるという点は、私も
ちょっとだけ確認してみた。確かに似てる部分があるけど、だからといって
「コピペ」(保守派の憲法学者・西修)とまで言えるかどうかはよく分からない
し、人類の基本的な考えが似たものになるのは当たり前とも言える。他の国
の憲法でも「コピペ」らしきものはあるはずで、日本国憲法の「コピペ」がど
のくらい多いのか、程度の問題も重要だ。
☆ ☆ ☆
それよりも、(翻訳口調の)文体の古さや分かりにくさの方が気になる所。特
に前文の最初の文、つまり憲法の一番最初は、日本語として非常に不自然
で、欧米の人文系学術書の古い直訳みたいになってる。いかに分かりにくい
か、学校の国語のテストに使ってみればハッキリするはず。
憲法改正より先に、現行憲法のままの文体改正というか、公式の「口語訳」
は出来ないものか。もちろん、民間レベルだとあるだろうけど、公の現代版
を作るだけでも、読む人が増えるだろう。裁判その他では、今まで通りの憲
法を使えばいい(改正するまでは)。
この自民党のマンガを左派が批判するのは別に構わないが、それよりもむし
ろ、左派のマンガを作って対抗する方が生産的だと思う。それを今度は右派
が批判する。あるいは、一般国民、特に少年少女達が、憲法自体と共に読み
比べる。そういった形で、少しずつ国全体が考えを深めて行けばいい。
☆ ☆ ☆
マンガ、SNS(ツイッター、Facebookなど)、テレビなど、普通の人達が広
く接することが出来るメディアがますます重要になって来た現代社会。そも
そも、どうすれば見てもらえるのかを考えた時、この件での自民党のメディ
ア戦略はそれほど不思議なものではない。
もちろん、気に入らない新聞を力づくでつぶすようなメディア戦略は論外だ
が、百田尚樹でさえ、そこまでは主張しないそうだ(本人の弁明によると)。
ちなみにマンガの最後の1コマは、日の出(=日本の上昇)を見ながら子ど
もが(内心で)語る台詞だった。「お父さん お母さん おじいちゃん ひいお
じいちゃん 僕たちのためにも ちゃんと考えてね ♡」。
なお、今週は計17193字で、また書き過ぎてしまった。ではまた来週。。☆彡
(計 3075字)
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