人間ピラミッドの組み方、荷重計算、リスクと安全性
ダメだ。どうしても、体育祭などで10段人間ピラミッドを組む人数の計算が合
わなくて、仕事も手につかないほど♪
朝日新聞HP、2015年4月6日の記事を見ると、前(=正面)から見た時の
人数は、上から1人、2人、2人、3人、・・・・、9人となってた。つまり、最上部
だけは少人数で高くしてるわけだが、各段の後ろに逆三角形状に並ぶ人数
をどう考えても、朝日が書いてる「組む人数 127人」にはならない。内部で
支える「かすがい」役の9人を加えても136人だ。
上から2段目を除いて逆三角形に組んで、最下部の一番後ろの1人を省略
しても(後述)、 1+2+3+6+10+15+21+28+36+44=166人に
なってしまう。おそらく、全体の後ろ側でかなり省略するんだろうけど、検索し
ても動画を見ても、ハッキリしないのだ。
左は主導的な役割を果たしてる、兵庫県伊丹市立南中学校の保健体育担
当、吉野義郎(よしの
よしろう)教諭がアッ
プしてる成功例の
この先生の動画は、
アスペクト比(縦横の
比率)が変なので、
私が補正した。お
そらく、16:9で撮影した映像を4:3でアップしたのだと思う。
先日の大阪・八尾市の失敗例とされる動画を見た時には怖いなと思ったけど、
成功例を見ると意外にあっさりスムーズ。何事も多角的に見て、冷静に考える
必要がある。ちなみに現存する失敗例は5日間で再生回数50万回弱。成功
例は5年間で300万回弱だ。
☆ ☆ ☆
この件で、逆に反対派の中心となってるのは、名古屋大・大学院の内田良
准教授。Yahoo!で「土台の最大負荷量は一人あたり200kg前後」と書い
てるが、荷重の計算も、組み方の詳細も示してない。
(☆追記: 内田の計算「結果」ならYahoo!にあった。ただし、計算「方法」
や計算「式」は無いし、10段は151人で計算している。また、天
王寺川中学校の137人については、想像を加えたコメントのみ
で、計算結果も示してない。ちなみに、なぜ朝日の報道が136人
と137人の2通りあるのかも分からない。)
J-CASTだと「およそ3.9人分」と書いてるが、これも解説抜きの記事に過
ぎないし、たった1人(一番下、後ろから2番目の列の中心)の生徒のみに加
わる値。例外的な最大値だ。しかも後述するように、成功例より大きな値に
なってしまってる可能性が高い。そうした説明なしに最大値を出すのは不適
切でミスリーディング(誤解を招きやすい)だろう。
松谷創一郎の本格的な記事も、内田の大まかな数字を引用しつつ、「大学
院でここまでのことをちゃんと勉強し、荷重計算したのだろうか」と書いてる
が、自分では計算を示さず、尾木ママと同様、人文的な批判に留まってる。
「ハイリスクの巨大組み体操」と題するレビューなら、リスク計算と評価が必
要なのだ。そのポイントは、事故発生率や件数、重症度と共に、荷重の物理
的考察や計算になる。
☆ ☆ ☆
内田は、男子中学生の体重を1人50kgちょっとで計算したのだろうから、こ
こでも簡単に1人50kgと仮定しよう。手と足の荷重の比率は、吉野によると
3:7という話だから、仮にそうしてみる。最も単純な場合として、3段ピラミッド
で考えてみよう。
3段といっても、作り方は少なくとも
3種類ある。1つは、左のように、最
も少ない6人で組む場合。そうでは
なく、下から逆三角形を積み上げる
にせよ、足を伸ばすか、全員が四つ
ん這いかで違って来る。
吉野ほか、日本の主流は足を伸ば
して逆三角形を積み上げるもの
だろうから、ここでもそうしよう。
足は手より上部
だし、高さがあ
る方が見栄えが
いいという事か。
左は吉野の解
説動画より。
☆ ☆ ☆
左が真横から見たイ
ラストだ。首は足の間
に入れてるけど、原則
的には荷重を受けて
ない(崩れた場合など
は別)。上から腰に受けた荷重を、手と足で3:7に分けて支えることになる。
左は真上から見た図。一番下、
一段目の6人が黒。二段目の3
人が青。三段目の1人が赤色で
示してある。
一段目と二段目の一番後ろは、
自分自身しか支えてないので
省略可能。ただし二段目の後
ろは、三段目の「安心感」や後ろ向きの落下防止につながる。
私は最初、正面から見た三角形のみで計算してしまったし、ネット上にも同じ
ミスがあったが、少なくとも7段以上だと、その「平面型」では困難なので、「立
体型」、3次元で考えるのが妥当。吉野のビデオでも、後ろに後ろにという、奥
行きの話が強調されてた。
赤い生徒の手は左右7.5kg重ずつ、計15kg。足は左右17.5kgずつ、
計35kgを加重する。すると、一段目の前から二番目の生徒の腰には、
足によって17.5kgの荷重が生じる。一方、二段目の後ろの生徒からは、
手によって7.5kgが加わってる。
☆ ☆ ☆
以上より、数式にまとめると次の通り。
(一段目の前から二番目の生徒に対する荷重)
=(三段目の足から)+(二段目の手から)
=17.5+7.5
=25kg
これに自分の体重50kgを加えて、75kg。すると、両手で22.5kg、両足
で52.5kgを支えるだけだから、ほとんど問題ない。むしろ、反対派の内田
があまり批判してない騎馬戦の方が安全性が低いはず。
もちろん一番ラクなのは、一段目の前列の両端(一番後ろは荷重ゼロだか
ら例外)。二段目の手から、8.625kgの荷重があるにすぎない(計算問題
としてお試しあれ♪)。
逆に言うと、中心部の方がキツイわけで、バランスや揺れが上部で厄介な
ことも考慮すると、大阪の動画が中心の上部から崩れ落ちたように見える
のは納得しやすいのだ。
ちなみに4段で、後ろ
側を省略した場合は、
ほぼ左図のようにな
る。赤い2人の上に
もう1人乗れば完成
(図が見づらくなるの
で一番上は省略)。黒い一段目が7人、青い二段目が3人、赤い三段目が
2人、省略してる一番上が1人。合計で13人。
一番下、一段目の後ろ側の真ん中には、三段目の2人の足によって52.5kg
の荷重がかかってる(1.05人分)。三段目の2人と一番上の1人、合わせて
3人の体重の7割(3段目の足への配分)の半分ということで、
(50×3)×0.7×0.5=52.5(kg)
☆ ☆ ☆
これを10段にした場合を計算するには、組み方の詳細が必要だし、群数列
や漸化式を考える必要がある。後で挑戦するかも知れないが、とりあえず今
日はこの辺で終了。
4段、7段、10段の組み方の例や計算については、大阪経済大学の西山豊
教授が示してた。ただし、内田の著書『教育という病」を参照した10段の人数
は、朝日より多い151人なので、内田や西山の計算は、吉野の成功例より
大きな(静止)荷重を示してる可能性が高い。西山は「完成から解除まで3分
~5分もかかる」と書いてるが、成功例を見ると1分で解体されてる。
実際には、ピラミッドの内部に「かすがい」と呼ばれる生徒も入って、まとまり
を調整するらしい。朝日によると、10段ピラミッドで9人。横向きに広がろうと
する力や、それを防ぐ力も考慮する必要があるし、事故のシミュレーションや
「動的荷重」も欠かせないから、物理学や人間工学の専門家がコンピューター
を使って計算すべきものだろう。
もちろん、机上の空論を防ぐために、実際の測定や生徒の体感調査も必要
になる。事故の統計調査や訴訟判決・賠償金・和解金も含めて、まだまだ研
究不足、議論不足の話なのだ。ピラミッド作りの人員配置や技術向上も含め
て、今後の進展に期待しよう。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2999字)
| 固定リンク | 0
「スポーツ」カテゴリの記事
- 人気女性騎手(ジョッキー)藤田菜七子がスマホ不正使用で突然の引退、まだ27歳、本当の理由は?&7km走(2024.10.12)
- 2024パリ五輪、スローガンはフランス語の掛け言葉「五輪を広く開こう=目を大きく開いて世界を見よう」~雨の開会式の感想(2024.07.27)
- ヒトラーのベルリンからミュンヘン五輪のテロへ、ドイツ、ユダヤ(イスラエル)、パレスチナの対立の歴史~NHK『映像の世紀』(2024.07.23)
- 大谷翔平の日本語会見と新・通訳アイアトンの英語訳、賭けの送金をめぐる微妙な違い2ヶ所&長めの出張終了(2024.03.27)
- 大谷翔平の通訳・水原一平氏の当初の英語インタビュー核心部、賭博の借金のネット送金について(ESPN、BBC、直後に撤回)(2024.03.22)
「数学」カテゴリの記事
- Python(パイソン)入門4~ランダムなサイコロの目の予想、数値データのリストの処理(ChatGPT4oも使用)(2024.09.20)
- パズル「絵むすび」31、解き方とコツ、考え方(難易度4、ニコリ作、朝日新聞be、2024年9月14日)(2024.09.15)
- 四角形や丸の「真ん中」に正三角形を配置するデザイン(YouTubeほか)、長さ、重心、三角形分割錯視を考慮した視覚調整(2024.09.08)
- パズル「推理」、小学生向け8、カンタンな解き方、表の書き方(難易度3、ニコリ作、朝日be、24年8月31日)(2024.09.01)
- パズル「ナンスケ」解き方13、2024年7月13日の問題は間違い「ではありませんでした」(難易度4、ニコリ作、朝日新聞be)(2024.07.13)
「教育」カテゴリの記事
- インドの摩訶不思議な「ヴェーダ数学」、100に近い2つの数の掛け算のやり方、明星学園の中学入試問題(算数)と一般的証明(2024.07.06)
- Mrs. GREEN APPLE の曲『コロンブス』のMV炎上、探検家の歴史的評価の変化と、山川出版社の現在の高校教科書『世界史探究』(2024.06.15)
- 2進法の計算、直接的な減法(引き算)と、コンピューター内部で「2の補数」を用いる減算 ~ 高校『情報Ⅰ』(2024.06.04)
- ChatGPT-4oが音声と画像認識を利用して家庭教師、三角関数(三角比)のsinを英語で教えるビデオ動画の解読(2024.05.18)
- 朝ドラ『虎に翼』で受験、昭和初期(戦前)の国家・高等試験問題とAIの解答〜司法科・選択科目「論理学」、繋辞(コプラ)の意義(2024.05.11)
コメント