笑顔と任侠、野ブタ、武士道~『怪盗 山猫』第6話
山猫 あんたのコアって何だ?
中岡 笑顔だ。隣の、そのまた隣の人間の、笑った顔だ。
昔の仁侠は、それを守るためにあったんだ。
いやぁ、凄いね、「野ブタ。パワー、注入」☆ 14.3%、13.6%、11.1%、
10.0%、7.9%と急降下してた『山猫』の視聴率は、第6話で12.4%ま
で上昇したとか言われてる(ネットの非公式情報)。
私はそもそも、ドラマを見たのさえ月曜の深夜(公式動画)だから、堀北真希
が出演するなんて情報は知らなかった。最近、妙に10年前の『野ブタ。をプ
ロデュース』関連記事へのアクセスが増えてるな・・とは気付いてたけど、2月
17日の夜に予告情報が流れてたわけね。
モデルプレスの記事によると、堀北主演、同じ日テレのドラマ、『ヒガンバナ~
警視庁捜査七課~』第6話終了後、『山猫』6話の予告映像が流れて、山猫=
修二=亀梨和也が「野ブタパワー」と口にしてたらしい。まあ、ドラマ『野ブタ』
だと、野ブタ=堀北に野ブタパワーを注入したのは彰=山Pみたいだけど(忘
れてた)。最近は彰の代わりに、山本耕史が注入してるわけか♪ コラコラ!
亀梨と山Pの仲良しエピソードなんてものも、山下智久のラジオ『Sound
Tripper!』で本人が語ったとの事(モデルプレス)。正月を一緒に過ごすほど
の仲なんて、私は初耳で驚いた。
ちなみに、ウチの『野ブタ』関連レビューの中から3本だけリンクを付けとこう。
このドラマがキッカケで、スポーツ系ブログだったウチも変わって行ったんだ
から、私もパワーを注入されたことになる(笑)。今、胸がキュンッとしてしまっ
た貴女は、BLの深みにズブズブはまって頂きたい♪
誰かのために、自分のために 野ブタ最終回
生きる場所を求めて~野ブタ再考 (全体のまとめ)
リアルな人間との向き合い方~野ブタ原作 (小説批評)
☆ ☆ ☆
さて、原作小説のバッドエンド(=良くない結末)と違って、テレビドラマの『野ブ
タ』はハッピーエンドに近い。「修二と彰」は野ブタ=堀北をプロデュースしつつ、
彼女と自分たち自身を救い上げてた。つまり、いじめられっ子と冴えない高校
生を、笑顔にしたのだ。ジャニーズ・ファンやドラマ視聴者も笑顔になったはず。
一方、ドラマ『山猫』だと、侠武会・組長の中岡(笹野高史)にウロボロスの正
体を突きとめてくれと頼まれた山猫は、「高い」報酬を決める前に、中岡のコ
ア=核は何か?とたずねた。すると中岡は、「隣の、そのまた隣の人間の、
笑顔だ」と応答。山猫は大いに納得したようで、報酬は100円玉に決定♪
これはもちろん、「2軒隣の人の笑顔」が特別大切という意味ではない(笑)。
ただ、「すべての人の笑顔」ともちょっと違う。「隣」という言葉を2回、間を空け
て口にしたということは、一人ずつ数え挙げれる程度の「身の回りのみんな
の笑顔」のことだ。
☆ ☆ ☆
その考えは、原始的なヤクザ組織や暴力団のあり方と結び付いてる。つま
り最初は、顔が分かる狭い範囲の仲間が集まって、少人数で近所を仕切っ
てたはず。だからこそ彼らは、町内会レベルのお祭りを盛り上げたり支えた
りする一面もあったわけだ。少なくとも、今ほど取り締まりが厳しくなかった昭
和期には。
中岡は「任侠」という言葉を使ってた。これは一般社会だと「ヤクザ」の綺麗
な言い換えに近いだろうけど、辞書的には、「弱い者を助け強い者をくじき、
義のためならば命も惜しまないといった気性に富むこと」(『大辞泉』)。『大
辞林』でも同様の説明になってる。かなり良い意味の言葉だ。
さらに「任侠」という言葉の語源を遡ってみても、「任」は他人を大切にする態
度、「侠」はそれらの人を辱めるものに報復する人だから、極端に暴力的な部
分を除くなら、いい意味で「男らしさ」を表してる。女の持つ男らしさも含めて。
任侠道によって助けられた人や地域には、笑顔が生じるはずだから、中岡の
言葉はある意味、元々は正しい。ところが、「強きをくじき」という側面がやがて
悪質になってしまうし、自分たちの生活やお金の問題も生じる。そうなるといつ
の間にか、「弱きもくじき」になり、笑顔を消す側の存在になってしまうのだ。。
☆ ☆ ☆
一方、いい意味での任侠は、武士道と本質的に通じ合うものを持ってる。義
のため、大切な人のためなら、命も惜しまない勇敢さという点で。
ただし、「笑顔」というものは、山猫が愛読する新渡戸稲造『武士道』にはほ
とんど登場しない。特に、他人を笑顔にするという発想は、直接的には存在
せず。その点は任侠でも同じで、「任侠 笑顔」で検索しても、めぼしい記事
は全くヒットしないのだ。
ということは、周囲の人を笑顔にするという発想が、かなり現代的、ドラマ的、
大衆的なのかも。ひょっとすると、みんなの「幸福」の追求というような発想も
同様で、欧米から輸入された表現や価値観なのかも知れない。実際、良い
生き方、正しい生き方にとって、別に笑顔とか幸福は必須ではないはずだ。。
☆ ☆ ☆
それでは、新渡戸『武士道』の中で、あえて笑顔と直接関わる部分を探して
みるとどうなるか。英語の本だから、電子図書館グーテンベルクを使って、
「smile」や「laugh」で書籍内検索。重要な場所は一ヶ所しかないようだ。そ
こから4つだけ、英文を直訳してみよう。
Call upon a Japanese friend in time of deepest affliction
and he will invariably receive you laughing, with red eyes
or moist cheeks.
日本人の友達を最も深い苦悩の時期に訪ねたとすると、彼はいつもと
変わらずに笑いながらあなたを迎えてくれるだろう。赤い目と濡れた頬で。
・・(中略)・・Indeed, the Japanese have recourse to risibility
whenever the frailties of human nature are put to severest test.
確かに、人間本性の弱さが最も厳しい試練に直面してる時でさえ、
日本人は笑い性を頼みとする。
・・(中略)・・laughter with us oftenest veils an effort to regain
balance of temper, when disturbed by any untoward circumstance.
我々の笑いは、困った状況に陥った時、心のバランスを回復する
努力を隠すために、最もよく使われるものなのだ。
It is a counterpoise of sorrow or rage.
笑いは、悲しみや怒りに対してバランスを取るためのものである。
☆ ☆ ☆
結局、日本人の笑いには、心の平穏さを保つためのセルフ・コントロールとい
う側面があるという話で、日本人なら納得しやすいはずだ。典型的なのは、目
の前の相手にキツイ言葉を投げかけられた時、笑って受け流すパターンとか。
これがどの程度「日本独自」のものなのか、諸外国の事情を調べてみないと
分からない。例えば欧米の有名人がインタビューを受ける時には、笑顔をキー
プしてることが多いと思う。欧米の一般人にはあの笑顔は少ないのだろうか?
試しに、フランスの代表的な哲学者ベルクソンの著書、『笑い』(岩波文庫)を
流し読みすると、そういった感じの笑いの説明はなかなか発見できなかった。
まあ、この本は喜劇=コメディの笑いを中心としてるからかも知れないけど、
フランスと日本とで笑いの質が違うというような話は、ネットにも幾つかあった
(ほぼ個人サイト)。
下の画像は、Internet Archive、『LE RIRE』より。1900年の本で、41年
に亡くなってるから、著作権切れで公開中。
☆ ☆ ☆
そのベルクソン、日本人の笑いは分析してないけど、笑い一般に関する興味
深いポイントを3つ指摘してるのだ。まず、笑いの対象が人間的なものだとい
う点。次に、精神の平静さとか無感動というものを条件としてること。さらに、
社会的なものであること。
これらは、任侠や武士道の笑いとも共通することだと思う。苦しい状況の武
士が笑顔を見せる時、笑いの対象は何よりも自分自身。そして、相手。その
笑いは、本来の平静さを保つものだった。さらに、昔の任侠が目的としてた
はずの周囲の笑顔は、要するに、自分たちの社会の親密さを表現するもの
だろう。社会の平和さと、仲間への好意の表現。
私が特に、なるほど・・と思ったのは、二番目の注目点。そう言えば野ブタ
にせよ、堀北にせよ、普段は無表情に近い女性だった。だからこそ、その
笑顔には特別の価値があるわけだ。いつも笑ってる女子アナ・小林麻耶の
3倍くらいは♪ ・・とか言いつつ、結構ぶりっ子(死語)好きだったりする(笑)
☆ ☆ ☆
最後に、私は放送を直接見てないけど、先週の『スマスマ』のビストロには、現
代の武士とも言うべき力士・琴奨菊が夫婦で出演。流石は10年ぶりに優勝し
た日本人ということで、新妻の祐未さんも笑顔が非常に可愛い女性♪ 琴奨
菊も常にニコニコ。
その祐未さんでも、琴奨菊のキリッと引き締まった表情が好きだと言ってた
ようだ。やはり、ベルクソンも言うように、緊張と弛緩の繰返しが本質なんだ
ろう。自分の笑いにとっても、周囲の笑顔にとっても。
というわけで、市民ランナーとしての私は、レース中には基本的に笑顔を見
せないのだ。それは高橋尚子らでも同様。引き締まった表情で走って、ゴー
ル後にホッと一息、笑顔を見せればいい♪
ドラマ『山猫』も、複雑な闇の世界を描いてるけど、最後は笑顔でゴールと
なるはずだ。KAT-TUNにも、いずれ充電期間が終われば、笑顔が浮か
ぶんじゃないかな。彼らにも、ハイフン(=ファン)の方々にも。。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf. 新渡戸稲造『BUSHIDO(武士道)』、英語原文~『山猫』第1話
節義・道義、新渡戸『武士道』&真木和泉『何傷録』~第2話
吉田松陰「かくすれば・・・大和魂」出典と新渡戸『武士道』~第3話
新渡戸『武士道』における「母」と「自己否定」~第4話
生、死、そして沈黙~第5話
生きるべきか、死ぬべきか・・~第7話
誕生日違った山猫死ね!~第8話
死ぬ恐怖、殺す快楽~第9話
維持に負けた改革、音痴の「上を向いて歩こう」~最終回
(計 4094字)
(追記 72字 ; 合計 4166字)
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