「重力波」観測の英語論文、要約(アブストラクト)の日本語訳
本や新聞の解説を読んでも、専門家の説明を聞いても、何とも分かりにくい
「重力波」検出のニュース。分かりにくさのポイントの一つは、重力による空
間のゆがみを、普通の空間で表現・イメージしようとするからだ。2次元にせ
よ、3次元にせよ。
普通の空間の中で、物が歪むのなら簡単に分かるし、画像を作ることもで
きるが、それは空間自体が歪むこととは違う。そもそも、空間が歪むとはど
うゆう意味なのか。その時、歪まないもの(別の空間、物差し、理論、法則
など)は何なのか。どうも理解できない。
普通の説明を軽く見聞きしても分からないのなら、試しに元の科学論文自
体を読んでみよう。もちろん、相変わらず分かった気にはなれないが、やは
り普通のニュース解説とは違う表現になってることだけは、分かるのだ。。
☆ ☆ ☆
以下、速報版の物理学誌『Physical Review Letters』(フィジカル・レ
ビュー・レターズ=物理学レビュー通信)のHPから、論文の要約(アブス
トラクト)を引用&翻訳させて頂こう。公益性その他を考えて、著作権の
問題は生じないと考える。
原論文の著者は、B.P.アボットほか多数(実験施設LIGO=ライゴに関
わる1000人以上の研究者)。論文タイトルは、
Observation of Gravitational Waves from
a Binary Black Hole Merger
(2つのブラックホール合体からの重力波の観測)
「Binary」は、「連星」ブラックホールと訳してもいい。2コ組、ペアを表す。
波が「Waves」と複数形になってる理由はまだ分からない。
☆ ☆ ☆
要約に入る前に、添付された図を2枚確認して、イメージをつかんでおこう。
ブラックホール合体のプロセスと、重力波の変化のプロセス(増幅・増加、
減衰、安定)が連動する様子が何となくつかめた気になれるだろう。
続いて、重力波を検出するレーザー干渉計装置の場所と仕組み。
図の左上に描かれてるように、アメリカの北西と南東に遠く離れた2つの装
置を併用して、精度を上げるらしい。光が10ms(ミリ秒)かかる距離だから、
30万km×10/1000=3000km。
十字型の装置は、左の光源から出るレーザーを分配器で2つの方向(上と
右)に分けた後、それらを反射させて、再び一体化させてる。重力波が来る
と、レーザーが進む2方向の距離(4km)にほんの少しの差が生じて、「明
滅」が生じるとのこと。高校物理の干渉縞のようなものだろう。
もちろん、まだ1つのチームが一度検出したと報告してるだけだから、科学
的実証とまでは言えないはず。ただ、今の所、専門家達の評判は非常に
いいようだ。。
☆ ☆ ☆
それでは1文ずつ、ほぼ直訳していこう。
On September 14, 2015 at 09:50:45 UTC the two detectors of
the Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory
simultaneously observed a transient gravitational-wave signal.
(2015年9月14日、協定世界時9時50分45秒、レーザー干渉計
による重力波観測所の2つの検出器が同時に、一時的な重力波
の信号を観測した。)
The signal sweeps upwards in frequency from 35 to 250 Hz
with a peak gravitational-wave strain of 1.0×10^(-21).
(その信号は、周波数で35ヘルツから250ヘルツ、
最大のゆがみで1.0×(10の-21乗)である。)
It matches the waveform predicted by general relativity for
the inspiral and merger of a pair of black holes and the
ringdown of the resulting single black hole.
(それは、2つのブラックホールによる渦巻と合体に対して
一般相対論が予測する波形に合致し、一つのブラックホー
ルに収束する際のリングダウン(減衰安定)にも合致する。)
☆ ☆ ☆
The signal was observed with a matched-filter signal-to-noise
ratio of 24 and a false alarm rate estimated to be less than
1 event per 203 000 years, equivalent to a significance greater
than 5.1σ.
(その信号は、マッチド(整合)フィルターによる観測で、信号対
ノイズ比24。また、誤警報確率の評価は203000年に1回
未満となり、これは5.1シグマを超える有意性に値する。)
The source lies at a luminosity distance of 410(+160 -180) Mpc
corresponding to a redshift z = 0.09(+0.03 -0.04).
(波源の位置は、光度距離で410(+160~-180)メガ・パーセク
であり、赤方偏移なら0.09(+0.03~-0.04)である。)
In the source frame, the initial black hole masses are
36(+5 -4) M₀ and 29(+4 -4)M₀, and the final black
hole mass is 62(+4 -4)M₀, with 3.0(+0.5 -0.5) M₀
radiated in gravitational waves.
(波源の全体において、最初のブラックホールの質量は、
36(+5~-4)太陽質量と29(+4~-4)太陽質量
であり、最後のブラックホールの質量は62(+4~-4)
太陽質量。3.0(+0.5~-0.5)太陽質量が重力波
によって放射されている。)
訳者注。(36+29)-3=62という計算だろう。合体によって質量が減った
分が重力波になった形だ。
☆ ☆ ☆
All uncertainties define 90% credible intervals.
(すべての不確定性は、信頼区間90%とする。)
These observations demonstrate the existence of
binary stellar-mass black hole systems.
(これらの観測は、2つの星=質量から成るブラックホール・
システムの存在を示している。)
This is the first direct detection of gravitational waves
and the first observation of a binary black hole merger.
(これは、重力波の最初の直接的検出であり、
また連星ブラックホール合体の最初の観測である。)
専門用語だらけで、直訳だけでも大変だったので、今日はこれだけにしと
こう。いずれまた、関連記事を書くと思う。アインシュタインの元の英語表
現も確認してみたい。それでは、また明日。。☆彡
(計 2888字)
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