行列の固有値、固有ベクトルと対角化~2次、3次の簡単な問題と計算
大学レベルの数学記事を追加しようと思いつつ、長い間サボリ続けてしまった。
そこで今日は久々に、線形代数とか行列関連の記事をアップしよう。これが5
本目で、何と丸2年ぶりのこと。今までの4本は下の通り。最初の2本には、今
回の記事を理解するために必要な基礎知識が書かれてる。
行列の基本変形、逆行列の求め方、1次方程式の解法
行列の基本変形と1次方程式(2)~逆行列が存在しない場合など
置換・互換による行列式の定義~初心者向け
置換・互換と14-15パズルの不可能性~3パズル、8パズルからの証明
☆ ☆ ☆
使用する教科書・参考書の類は、今回も齋藤正彦『線型代数入門』(東京大
学出版会)。一般的な理論を重視したハイレベルのテキストなので、簡単な
例の具体的計算は大幅に省略されてる。この記事は、その省略を補いなが
ら、問題解法のポイントをまとめ直すものだ。
固有方程式、固有値、固有ベクトルと対角化は、この本だと、線形空間にある
基底を取って線形写像を行列で表すといった話の中で説明されてる。その場
合、前置きの理論や説明が長くなってしまうし、理解も難しい。この記事では、
いきなり行列から始めて、例題を解いてみよう。図形的、幾何学的な意味も省
くことにする。
ではまず、第5章・第1節の例2(p.134)、2次正方行列Aの対角化。テキス
トでは、改行で挿入された数式込みで18行の説明だが、実際に自分で計算
すると、2~3倍の作業になる。
上のAに対して、適当な正則行列(=逆行列を持つ行列)Pを見つけて、下の
ように、対角行列へと変形することを目指す(対角化)。この対角成分αとβが、
行列Aの固有値と呼ばれる数だ。後の計算では、αや x で表してある。
☆ ☆ ☆
固有値の定義は、0ベクトルではないあるベクトル(x,y)に対して、下の式を
満たす値α。対応するベクトルが、固有ベクトル。
右辺のαのすぐ右に単位行列Eを挿入した後、変形すると、
もし正方行列に逆行列があると、両辺の左側から掛けて (x,y)=(0,0)になっ
てしまい、固有ベクトルの条件を満たさない。よって逆行列は無いはずだから、
行列式は0。ここで導かれるαの方程式が、固有方程式(または特性方程式)
と呼ばれるものだ。
∴ (α-2)(α-2)-(-1)・(-1) =0
∴ α²-4α+3=(α-1)(α-3)=0
∴ α=1,3
☆ ☆ ☆
固有値1,3を求めた後、固有ベクトルを求める。行列式を計算する直前の
式に、まずα=1を代入すると、
∴ -x-y=0 ∴ y=-x
これを満たす(x,y)の内、簡単なものを固有ベクトルとすればいい(ただし0ベ
クトル以外)。よくあるパターンは、xやyに1とか0を入れて求める方法。ここで
はテキストに合わせて、x=1,y=-1としとこう。下が、固有値1に対する固有
ベクトルの一例だ。
全く同様に、α=3の場合を考えると、条件式は x-y=0。よって例えば
x=1とすれば、y=1で、固有値3に対する固有ベクトルが求まる。
2つの固有ベクトルを左から順に並べて、正方行列にしたものが、行列Aを対
角化するための正則行列P。行列式は2で、逆行列も簡単に求まる。高校数
学の参考書のように、具体的な計算式を入れとこう。
☆ ☆ ☆
結局、n次正方行列Aの対角化は、固有方程式から始まる。上では文字αを
使ったが、方程式らしくxを変数とするなら、
|xE-A|=0
別の書き方なら、 det(xE-A)=0
ちなみに「det」は、「行列式」を指す英単語「determinant」の省略記号だ。
では、下の3次正方行列Aなら、どうなるか。テキストの例6(p.136)だ。
固有方程式を求めると、
∴ (x-6)(x-2)(x+6)+3・(-1)・(-5)+7・1・3
-(x-6)(-1)・3-3・1・(x+6)-7(x-2)(-5)=0
∴ x³-2x²-x+2=0
∴ (x-1)(x-2)(x+1)=0
∴ x=1,2,-1 (注. 下の固有ベクトルの成分xとは別物。)
固有値1に対する固有ベクトルを求めると、係数行列 1E-A を使って、
∴ -5x+3y+7z=0 ・・・ (1)
x-y-z=0 ・・・ (2)
(1)+(2)×5より、 -2y+2z=0 ∴ z=y ・・・ (3)
(3)を(1)に代入して、 -5x+10y=0 ∴ x=2y ・・・ (4)
連立方程式(1)(2)が、より簡単な(3)(4)へと変換されたことになる。
ここで例えば、y=1を(3)と(4)に代入すると、 x=2,z=1
よって、次の固有ベクトルが求められた。
残り2個の固有値2,-1に対する固有ベクトルも同様に求めると、例えば下の
通り(テキストのもの)。他にも無数の書き方があるし、簡単な数字のものだけ
でも色々考えられるので、念のため。
以上の3つの固有ベクトルを、左から順に並べて正則行列を作ると、
逆行列は、以前の記事で説明した通り、基本変形で求めることになるが、普
通のテストだと書く必要はないはず。なお、3次でさえかなり面倒だが、5次
正方行列の問題をテストに出す大学教師も実在するようだ。
☆ ☆ ☆
ここでは、4次の問題を1つ紹介するに留めよう。テキスト第5章の章末問題
1のハ)。固有方程式を立てるだけでも面倒だ。固有値は0,2,1で、重解1
に対しては、線形独立な2つの固有ベクトルが定まるから、正則行列Pが定
まる。余裕のある方はお試しあれ。
ちなみに、異なる固有値に対する固有ベクトルは線形独立だが、重解となる
固有値に対しては、その重複度に一致する数の線形独立な固有ベクトルが
必要となる。もし無ければ、対角化はできない。また、固有方程式が実解を持
たない場合は、虚数まで含めた複素数範囲で探すしかない。
この種の記事は非常に手間ヒマかかるので、いつになるかは未定だが、次
は数列の漸化式の解全体が作る線形空間への応用を解説したいと思う。
いつもの手書きと違って、Wordで行列の数式を入力するのは大変だった。
ではまた。。☆彡
cf. 数列の3項間漸化式、線型代数による解き方と考え方
数列の3項間漸化式(その2)~ずらし変換、行列の対角化
数列の3項間漸化式(その3)~対角化と基底の取替え行列
(計 約2770字)
(追記 81字 ; 合計 2851字)
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コメント
手計算でするのは3次が限界ですよね。
4次を手計算でする人にはめったに会いません。
5次は議論にもなりません・・・
投稿: 凄い | 2016年4月 5日 (火) 00時27分
> gauss さん(多分♪)

こんばんは。
内容と文体から考えて、gaussさんでしょうね。
手計算だと、テストなら普通、3次まででしょう。
趣味なら4次も一応アリですけどね。
5次は流石にやる気がしません。
よほど上手く問題を作って、すごく計算能力が
高い人が解くんでしょう。
とりあえず、この記事の4次の問題は、
手頃な計算練習になりました。
とはいえ、入力は省略ってことで。。♪
投稿: テンメイ | 2016年4月 5日 (火) 19時56分
すいません、先のコメント私(gauss)です。
間欠的にプログラミングの記事を載せてますが、
5次を計算するプログラミングなどはどうですか?
投稿: gauss | 2016年4月 5日 (火) 22時08分
> gauss さん

こんばんは。度々のご登場、どうもです。
プログラミング記事も1年以上サボってるから、
もう完全に忘れてしまいました (^^ゞ
自分の記事を読んで復習しないと♪
行列式のプログラムはどこかにあるだろうと思って
検索したら、例のカシオのサイトでn次(!)を発見☆
逆行列もn次であるんですね。
固有値、固有ベクトルのプログラムも、vectorに
あったから、僕の出る幕はないようです♪
投稿: テンメイ | 2016年4月 6日 (水) 23時34分