ブルーハーツ「終わらない歌」、終わる夢~『ラヴソング』第5話
まずは今週のホワイトボード解説から。<吃音氷山>。わざわざカッコで強調
してたから検索してみると、ジョセフ・G・シーアン(Josef G.Sheehan)が提
案したモデルだった。1970年『吃音:研究と治療』(Stuttering: Research
and Therapy)の、「iceberg」(氷山)の比喩より。
いや、こうゆうマニアックな話を英語で書いとくと、たまに海外から英語検索
が入って嬉しいわけ。日本語もドラマも分からなくて、「直帰」だろうけど(笑)
☆ ☆ ☆
「吃音の全ての問題」の内、「どもること」は「目に見える部分」。ただ、それは
水面の上に出てる氷山の一部みたいなもので、水面下には巨大な「深層の
問題」がある。ここが「目には見えない(他人にはわからない部分)」。
特に、「情緒・情動の問題」、あるいは「心理的問題」が大きいから、セラピ
ストの夏希(水野美紀)としては、さくら(藤原さくら)を色んな形でサポート
する必要がある。やわらかい言葉のやり取りでカウンセリングしたり、さくら
のため息を手でまるめて元に戻したり、頭を優しく撫でてあげたり。
臨床心理士・広平(福山雅治)も、さくらが夜、強引に部屋に入って来た時、
ボディ・ランゲージ(身体言語)で熱くサポートしたはず。「飛んで火にいるク
ライアント」(笑)。ところが、カウンセラーが患者に手を出しちゃいけないこと
くらい、空一(菅田将暉)でさえ知ってたほどだから、1時間の熱い面接は編
集でカットされてた♪
ちなみに「吃音氷山」という理論モデルは、明らかに、例の「陽性転移」という
言葉を普及させた精神分析家フロイト(Freud)を参照したものだ。彼の心的
装置モデルの場合、水面の上の小さな部分が意識、水面下の巨大な部分が
無意識あるいは深層意識だった。氷山という言葉は、本人の著作にはなかな
か見当たらない(多分、書いてない)が、氷山のような図なら二度描いてる。
日本のサイトでそうした点を指摘した記事は見当たらないが、英語だと色々
ヒットした。この辺りが、日本の残念な所の一つ(氷山の上の部分♪)。ただ
し、夏希が手にしてた本格的なテキストは日本人の著書らしい。西尾正輝
『スピーチ・リハビリテーション 2』、インテルナ出版。装丁の美しさもポイン
トかも♪
☆ ☆ ☆
さて、『ラヴソング』第5話では、脚本家と脚本協力が第4話と交替してた。今
回は、脚本が神森万里江、協力が倉光泰子。ドラマ終了直後から、ウチの第
4話レビューに、神森の情報を求める検索アクセスがそこそこ入ってる。
前回書いた簡単な説明を、ここで再掲しとくと、「平成21年度・ヤングクリエー
ター賞・優秀賞。7年前に27歳だから、今は30代半ば。メインの脚本家・倉光
泰子とほぼ同年代だ」。
過去の脚本の実績は、検索しても僅かしか見当たらない。2013年のBS
『大岡越前』第7話と、2015年のフジ『世にも奇妙な物語25周年スペシャ
ル』内の「ゴムゴムの男」くらいか。
☆ ☆ ☆
私はオンタイムのワンセグ視聴だと、オープニングのスタッフ・ロールを見落
としてたけど、話の流れがビミョーに変だなと最初から感じてた。個々のシー
ンが細切れになってる気がしたし、全体的にノリが軽い。特に、キスの数日
後のさくらと空一とか、さくらの部屋に空一と広平が来た時の様子とか。
まあでも、4年前の『もう一度君に、プロポーズ』第4話と違って、大きな流れ
を崩すほどでもないし、福山と木下ほうかの妖しいシーン(笑)とか、倉光に
は書けないような気もする。一部の特殊な趣味をお持ちの女子たちは、BL
的な興奮を味わえたかも。オヤジ攻め×超オヤジ受け♪ 『5→9』か!
さくら&真美(夏帆)の友情シーンも、甘口のモデルプレスは褒めてた。個人
的には、先にもうちょっと、真美の哀しさや淋しさを描いて欲しかったけど、
同郷の真美のために新たな歌に取り組む流れはいいと思う。
視聴率が最低更新で8.4%というのは、前回の8.5%とほぼ同じだから、
神森のせいとは言えない。一方、倉光も低視聴率で交替させられたのでは
ないはず。4月25日のスポニチの記事で、「目下、第8話に取り組む最中」
と書いてた。そこから僅か2週間ほどで、同じく新人脚本家の神森が、第5話
以降を書き直すことはあり得ないと思う。と言うか、倉光に戻した方がいい。
ちなみに、月9の単話視聴率のワースト7.8%(『極悪がんぼ』第10話)を塗
り替えてしまいそうだとサイゾーが書いてるけど、仮に塗り替えたとしても、今
さら打ち切りはないだろう。福山は『ガリレオ』の実績だけでも大きいし、今後
の関係もあるから。結婚その他で福山の人気がどの程度落ちたのかも、まだ
ハッキリしないはず。。
☆ ☆ ☆
それでは今日はこの辺で♪ コラコラ! ハイハイ、肝心の歌ね。サブタイト
ル「私とあなたの終わらない歌」のまんまの曲、『終わらない歌』。
THE BLUE HEARTS(ブルーハーツ)という名前は時々聞いてたけど、
この曲は初めて聞いた。グループ名をそのままタイトルにした、1枚目のア
ルバムの2曲目。歌詞の後半に4文字の差別用語が入ってるのに、敢えて
ドラマに挿入したのは大胆かも。まあ、ラジオのテーマ曲やCMで使われた
実績もあるしね。
中心メンバー、真島昌利の作詞・作曲。曲調は明るいのに、歌詞の全体を
読むと、明るい言葉は僅かしか入ってない。次の2ヶ所くらいだろう。
明日には笑えるように
それでも僕は君のことを いつだって思い出すだろう
他は「クソッタレの世界」とか「全てのクズ共」、「・・・・扱い」(放送禁止用語)
とか、暴言も交えつつ、明るく楽しく「終わらない歌を歌おう」と繰返す。
ただし、例の「保育園落ちた」などとは違って、他人や社会に対してひたすら
自分の要求をぶつけるような事はしない。怒りや不満、悲しさは、陽気なメロ
ディーにのせて笑い飛ばしてるのだ。まるで、さくら&真美の高校時代、青春
の思い出シーンのように♪
☆ ☆ ☆
さくらが、広平にもらったカポを付けてギターで弾いたのは、真美=ラムが
キャバクラの仕事を辞めるのがキッカケだった。
終わる仕事、終わる独身時代、終わる共同生活。だからこそ、「終わらない
歌」を歌い続ける。終わらないために。
真美の憧れの男子が、高校の文化祭の「カラオケ喫茶」で歌った時、彼はそ
れほど深刻に「終わり」をとらえてなかったはず。さくらが高校1年、真美と彼
が高校3年としても、高校時代とか学生生活の終わりより、新たな生活の始
まりの方が遥かに大きく感じられただろう。真美だって、まもなく憧れの東京
生活を始めるんだから。
私も高校3年の頃は、期待で胸を膨らませてた。無限の可能性を信じて。。
☆ ☆ ☆
ところが、一部の幸運な人を除くと、憧れや希望は間もなくしぼみ始めるし、自
らの「存在の終わり」も少しずつ意識し始める。実際、身体は20代半ばくらい
から衰え始めるし、知ってる人達が少しずつ消えて行く。好きだった有名人、お
世話になった目上の方々、肉親。。歌詞の次のフレーズは意味深でもある。
真実(ホント)の瞬間はいつも 死ぬ程こわいものだから
そして実際、広平の最愛の女性・春乃(新山詩織)も突然、いなくなってしまっ
た。ライブハウスの仲間たちも、老眼や近眼、乱視が進んで、空一のパンフレッ
トが読めない状況♪ おそらく本当は、YouTube・・じゃなくて、GAGAでもDU
GAでもなくて、「UTADOUGA」(歌動画)の再生回数も見えてなかっただろう。
広平も、いまやトップレコードの重役になった年下の弦巻(大谷亮平)に、「ま~
だ、やってんですか?!」と驚かれてたほど。自分の人生の終わりが、ハッキ
リ見え始めてるはずだ。
それでも人は、生きようとする。そのためには、最低限の明るさとパワーが必要
なのだ。それこそ、「終わらない歌」、そして、終わらない夢。たとえ、ひとときの
現実離れした幻想であってもいい。「もっかい、もう一回!」。2人で力を合わせ
て、クソッタレの世界でささやかな喜びを増幅して、積み上げて行くのだ。終わっ
た夢の数々も重ね合わせながら。
ちなみにブルーハーツという人気グループも、95年に終わった後、「THE
HIGH-LOWS」という形で再出発。これが2005年に終わった後も、さらに
「ザ・クロマニヨンズ」という形で再生してるらしい。まさに、終わらない歌だ。
☆ ☆ ☆
最後に、終わらない歌を歌い続けるというのは「反復」すること。同じ事を繰返
すことだ。仕事、ギターの練習、スポーツ・トレーニング、反復は基本中の基本
だろう。愛の営みの形式でもある。
ただ、反復には負の側面もある。ドラッグとか悪癖の類は、ある程度以上、意
識的に反復するもの。一方、自らが受けたマイナスの出来事を、自分で自動
的に反復してしまうこともある。それが、真美の抱いてる恐怖なのだ。
私は母親に愛されてない。だからこそ私は子どもを愛する・・・と思いつつ、な
ぜか同じ事を反復してしまいそうな不安、恐怖。それが転じて生じる、無意味
で理不尽な攻撃。幼児虐待でもありがちな、負の連鎖だろう。
その点、真美はまだ恵まれてる方なのだ。包容力ある男性・健太(駿河太郎)
と婚約してるし、同郷の親友も身近に2人いる。たとえキャバクラであっさり忘
れられても、可愛い手作りクッキーにこめた思いが届かなくても、一緒に作っ
てくれたさくらがそばにいるだけで十分。子どもへの無意識的な攻撃や憎悪
は、自然に抑えれるはず。負の連鎖は、真美が断ち切る、ストップする。。
☆ ☆ ☆
人は、かけがえのない人と共に、終わらない歌を歌い続ける。そして、やが
ていつの間にか、「終わる人生」を迎えるのだろう。静かに、穏やかに、夢、
まぼろしのように。。
その後、さらに「もっかい、もう1回」の人生があるのかどうかは、神のみぞ
知る。人間としては、永劫回帰、輪廻転生の終わらない夢を微かに抱くのみ
なのだ。とりあえず今日はこの辺で、終わりとしよう。。☆彡
cf. 故郷の広島、東京から「500マイル」(800km)~『ラヴソング』第1話
吃音(どもり)の多因子モデルCALMS~第2話
やさしさに包まれたなら、二重の陽性転移~第3話
もっかい、もう1回!、音楽療法~第4話
月夜に好きよ♪、ろくでなしのダメ男~第6話
雨の彼方に虹、Leola(太陽の声)「Rainbow」~第7話
過去の自分との幻想的ふれあい~第8話
ラヴソングへのラヴソング~第9話
さよなら、やさしい悪魔(DIABLO)~最終回
(計 4168字)
(追記 109字 ; 合計 4277字)
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