数列の3項間漸化式、線型代数による解き方と考え方
大学レベルの行列関連の話(線型代数)というのは、高校でお馴染みの逆
行列や一次方程式の解を求めた後、どうもピンと来ない抽象的理論が延々
と展開される。それら全ては意味や意義を持つ内容だが、よほどの数学好
きか、抽象的な思考に慣れた人でないと、しんどい所だろう。
そこで今回は、高校数学でも時々登場した、簡単な3項間漸化式を解くこ
とを考える。a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0。より一般的に表すなら、
a(n+2)+pa(n+1)+qa(n)=0のタイプ(2階斉次線形漸化式)。
2項間だと簡単過ぎて、わざわざ大学レベルの数学を使う意味が無いし、4
項間だとちょっと面倒になるから、3項間が初歩的な説明に合ってると思う。
実際、齋藤正彦『線型代数入門』(東京大学出版会)でも、3項間でごく簡単
に説明してた。
ここではもっと具体的に、最初の段階から一通りの流れを解説してみよう。
上のテキストだと、第4章のあちこちにある話を念頭においてるが、書き方
は大幅に変えてある。数列の漸化式に絞って、高校とのつながりや実用性
を考慮したものだ。
ちなみに当サイトの今までの関連記事は下の5本。特に、1ヶ月前にアップ
した行列の対角化の記事が、今回の話と深い所で関連してる。
行列の基本変形、逆行列の求め方、1次方程式の解法
行列の基本変形と1次方程式(2)~逆行列が存在しない場合など
置換・互換による行列式の定義~初心者向け
置換・互換と14-15パズルの不可能性~3パズル、8パズルからの証明
行列の固有値、固有ベクトルと対角化~2次、3次の簡単な問題と計算
☆ ☆ ☆
では今回のターゲット、a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0について。初期条
件、つまり初項a(1)と第2項a(2)の値は、後回しにする。
ちなみに先ほどの参考書だと初項をa(0)としてるが、以下では高校的な発
想で、初項はa(1)とする。つまり、n=1,2,3,・・・。
高校レベルだと、この漸化式なら、
a(n+2)-1a(n+1)=2{a(n+1)-1a(n)}
と変形して、2項間漸化式をまず求め、そこからa(n)を求める所だろう。1と
いう係数はわざと書き添えてる。
あるいは、もう一つの変形を使うことも可能。
a(n+2)-2a(n+1)=1{a(n+1)-2a(n)}
さらに、上の2種類の変形から解く途中で、両者を組み合わせてもいい。ど
ちらの変形でも、1と2という係数が重要な役割を果たしてる。大学レベルで
も同様だけど、その意味付けや理論がかなり変わるのだ。
ただし大学レベルでも、理屈抜きで答だけなら、簡単に出せる。これで十分
と思う学生や先生もいるだろう。
x²-3x+2=0 ∴ x=1,2
∴ a(n)=α・{1の(n-1)乗}+β・{2の(n-1)乗}
=α+β・{2の(n-1)乗}
☆ ☆ ☆
さて、最初に予備知識として、「基底」について簡単に確認しておこう。
平面の2次元ベクトル(x,y)の全体を例に取ると、それは、
x(1,0)+y(0.1)
と書き直せる。つまり、基本ベクトル2つの定数倍の和(線型結合)で表せる。
これら2つの組合せは、全体の基本かつ根底だから、基底と呼ばれる。英語
だと、basis。
基底となる2つは、向きが異なるもの(線形独立、1次独立)であればいい。
例えば、(1,1)と(-1,1)とか。同じベクトル(2,2)を、2種類の基底で書
き比べてみよう。
(2,2)=2(1,0)+2(0,1)
=2(1,1)+0(-1,1)
基底<(1,0)、(0,1)>だと、係数は2、2。基底<(1,1)、(-1,1)>だ
と、係数は2、0。つまり、基底を取り替えると、同じものの表現が変わる。これ
は数列全体でも同様で、線形空間に共通する特徴なのだ。
☆ ☆ ☆
問題の漸化式 a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0 の場合、移項すると、
a(n+2)=3a(n+1)-2a(n)
よって、初項と第2項だけで数列全体が次々に決定していく。
a(1)=1、a(2)=0の場合、
1,0,-2,-6,-14,・・・
a(1)=0、a(2)=1の場合、
0,1,3,7,15,・・・
これらは共に漸化式の解で、しかも一方が他方の定数倍にはならないから
(最初の2項で明らか)、線形独立であり、解の全体に対する基底となる。そ
れぞれの数列を、b(n)、c(n)としとこう。
例えば、a(1)=3、a(2)=4の場合、解の数列は
3,4,6,10,18,・・・
= 3(1,0,-2,-6,-14,・・・)+4(0,1,3,7,15,・・・)
= 3 b(n)+4 c(n)
つまり、基底それぞれの3倍と4倍を足したものとなるし、3倍と4倍という
係数も初項と第2項そのものだから、すぐに分かる。別の初項と第2項から
始めても、同様に簡単だ。任意の解は、基底の線型結合となる。ということ
は、解の全体は2次元。
逆に、一般に基底の線型結合として{αb(n)+βc(n)}と表された数列
に対して、
αb(n+2)+βc(n+2)
=α{3b(n+1)-2b(n)}+β{3c(n+1)-2c(n)}
=3{αb(n+1)+βc(n+1)}-2{αb(n)+βc(n)}
だから、α、βの値に関わらず、漸化式は成立する。つまり、線型結合は
解である。
ただし基底<b(n),c(n)>のそれぞれが、一般項を求めにくい数列だから、
このままでは漸化式の解決につながらない。
☆ ☆ ☆
そこで、一般項がすぐ分かる別の数列を基底にすることを目指す。先に結
論をいきなり書いてしまうと、次の2つの線形独立な数列が好都合だ。
1,1,1,1,・・・ 一般項 a(n)=1
1,2,4,8,・・・ 一般項 a(n)=2の(n-1)乗
結局、漸化式の解の全体は、任意の係数α、βを用いて、
{α×1+β・(2の(n-1)乗)} ・・・答
この内、以前触れた初項3、第2項4のものなら、
3=α+β 4=α+2β
∴ α=2、β=1
∴ {2+(2の(n-1)乗)} ・・・答
ちなみに、基底となる2つの数列は、それぞれ公比1、2の等比数列という
ことになる。公比2つは、前に高校レベルの解法で出て来た数と同じだ。
☆ ☆ ☆
では最後に、解全体(=解空間)の基底の求め方について。単なる計算方
法としては、a(n)=xの(n-1)乗(x≠0)とおき、漸化式からxを求めればよい。
a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0より、
xの(n+1)乗-3(xのn乗)+2{xの(n-1)乗}=0
両辺を、xの(n-1)乗(≠0)で割って、
x²-3x+2=0
∴ x=1,2
これで、2つの簡単な解、つまり基底が求められた。1の(n-1)乗、つまり1と、
2の(n-1)乗。だから結局、漸化式a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0に対して、
固有方程式とか特性方程式と呼ばれるx²-3x+2=0を解けばよい。
☆ ☆ ☆
しかし、なぜxの(n-1)乗とおけるのか、おけない場合はどうするのか、まだ
説明されてない。さらに、固有方程式が重解を持つ時とか、もっと高次の漸
化式になった場合まで考えると、「ずらし変換」と呼ばれる「線形変換」が役
立つ。
数列1,0,-2,-6,-14,・・・ を、
数列0,-2,-6,-14,・・・
へとずらす変換は、「線形性」(線型結合の変換=変換の線型結合)を持ち、
何らかの基底に対して行列で表現できる。
その行列をAとした時、その「固有値」「固有ベクトル」から別の基底を上手く
考えて、「基底の取り替え行列」Pを求め、
P⁻¹ AP=(対角行列)
となるようにする。
これによって、ずらし変換を単純に表し、基底と解を求めれば、前にxの
(n-1)乗とおいた理由も納得できる。一見、関係なさそうな、微分方程式との
本質的関連も分かる。
それで上手くいかなければ、さらに「ジョルダン標準形」といった高級な話を持
ち出す流れになる。。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、話の全体は広くて深いものなので、以降は次の機会に回す
としよう。
(☆追記 : 新記事をアップ、リンクを下に付けた。)
3項間漸化式の解全体は線形空間であって、その簡単な基底2つ(等比数
列)を固有方程式から求められれば、線型結合で一般解となる。そこに初期
条件を付加すれば、個々の解も求められる。
その点を、簡単な例題を通じて説明した。それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 数列の3項間漸化式(その2)~ずらし変換、行列の対角化
数列の3項間漸化式(その3)~対角化と基底の取替え行列
(計 3374字)
(追記 81字 ; 合計 3455字)
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