« オバマの広島演説推敲、「能力」を「手段」に変更&プチ自転車 | トップページ | モハメド・アリ追悼、英語ツイートの和訳&小雨プチ自転車 »

数列の3項間漸化式(その2)~ずらし変換、行列の対角化

この記事は、ここ2ヶ月で書いた以下の2本の続編である。

 

 行列の固有値、固有ベクトルと対角化~2次、3次の簡単な問題と計算

 数列の3項間漸化式、線型代数による解き方と考え方

 

大学レベルの線型代数の応用として、簡単な数列の漸化式(斉次線型漸化

式)の一般解を求める問題がある。前回の記事(上のリンクの後者)では、手

頃な例として、次の3項間漸化式に注目した。

 

 a(n+2)-3a(n+1)+2a(n)=0  (n=1,2,3,・・・)

 

高校レベルから大学レベルまで、解き方や考え方を色々と書いたが、大学

レベルの理論の根幹についてはまだ書いてない。今回は、その点に踏み込

んでみよう。

 

 

           ☆          ☆          ☆

前回書いたように、解の全体は2次元の線形空間となるから、核となる2つ

の解の組合せ(「基底」)を求めれば、一般解は、それらの定数倍の足し算

(線型結合)となる。よって、簡単な基底を見つければよい。

 

すぐ思い付く自然な候補は、初項と第2項が1,0の数列{b(n)}と、

0,1の数列{c(n)}。

 

  {b(n)} : 1,0,-2,-6,-14,・・・・・・

  {c(n)} : 0,1,3,7,15,・・・・・・

 

これらを基底とするなら、例えば、初項3,第2項が4の解は、

  3b(n)+4c(n)

 

一般解は、任意の定数p、qを用いた線型結合で、

  pb(n)+qc(n)。

 

ところが、b(n)とc(n)自体の一般項が簡単に求められないから、この

ままではあまり役に立たない。そこで、もっと簡単な基底を見つけようと

いう話になる。より正確には、簡単な基底へと取り替えようという話。そこ

で登場するのが、「ずらし変換」と行列なのだ。

 

 

         ☆          ☆          ☆

分かりやすさのため、いきなり、都合のいい基底を書いてしまおう。前回

の記事ではa(n)と書いてるが、以下ではx(n)、y(n)と書き直す。

 

   1,1,1,1,・・・   一般項 x(n)=1

   1,2,4,8,・・・   一般項 y(n)=2の(n-1)乗

 

これらをどうやって探したかというと、「各項を後ろに1つずらすと定数倍に

なるような数列」として探してるのだ。「ずらし変換」を と表すなら、

 

 元の数列 {y(n)}    : 1,2,4,8,・・・

 ずらした数列 T{y(n)} : 2,4,8,16,・・・

 

上下を見比べれば、ずらすと各項が2倍になっているのが分かる。

数列{x(n)}の場合なら、ずらすと1倍。つまり、何も変わらない。

 

          ☆          ☆          ☆

ずらし変換Tで単なる定数倍になる解2つ(上の{x(n)}、{y(n)})

を求めるには、列ベクトルと行列の世界に持ちこめばよい。列ベクトル

は以下、転置行列の記号 t を用いて、t(1,2)などと表す。

 

まずは、普通の基底である<{b(n)},{c(n)}>を用いて、

数列を列ベクトルへと対応付ける。1対1、上への同型写像。

 

 {b(n)} : 1,0,-2,-6,-14,・・・・・・ → t(1,0)

 {c(n)} : 0,1,3,7,15,・・・・・・ → t(0,1)

 {3b(n)+4c(n)} : 3,4,6,10,・・・・・・ → t(3,4)

 

1つ後ろにずらすと、何がどう変わるのか。      

{b(n)}なら、0,-2,-6,・・・となるから、

  t(1,0) → t(0,-2)

{c(n)}なら、1,3,7,・・・となるから、

  t(0,1) → t(1,3)

 

よって、ずらし変換Tの、基底<{b(n)},{c(n)}>に関する行列は、

160604a

 

ちなみに一般の斉次線型漸化式の場合も同様に、漸化式を用いて、

ずらし変換の行列を求めることができる。ここでは省略。

 

 

        ☆          ☆          ☆

ここで一度、頭を切り替えて、この行列を「対角化」してみる。

 

つまり、適当な正則行列(=逆行列を持つ行列)Pを見つけて、下のよう

に、元の行列Aを対角行列へと変形することを目指す(対角化)。この対

角成分αとβが、行列Aの固有値と呼ばれる数だ。

160404b

 

このPやα、βの求め方は、既に2ヶ月前の記事で説明した通りなので、

ここでは省略する。不思議なことに、固有値を求める方程式は、元の漸化

式と同じ形の2次方程式になる。

 

  α²-3α+2=0   ∴ α=1,2

 

固有値1に対する固有ベクトルを求めると、簡単なものは、t(1,1)。

固有値2に対する固有ベクトルを求めると、簡単なものは、t(1,2)。

これら2つの固有ベクトルを左右につなげば、行列Pが1つ定まり、

対角化が完成する。

 

160604b

 

 

        ☆          ☆          ☆

最後に、数列の漸化式とずらし変換行列の話に戻ろう。上の対角化で用

いた行列Pは、「基底の取替え行列」だと解釈できる。右辺で出来上がった

対角行列が、新たな基底に関する、ずらし変換行列。

 

元々は、初項と第2項が1,0の数列b(n)と、0.1の数列c(n)を基底に

して、ずらし変換Tの行列を求めた。

 

それに対して、初項と第2項が1,1の数列{x(n)}と、1,2の数列 

{y(n)}を基底にした時のずらし変換行列は、上の対角行列になる。

上の対角化の式は、そのことを表すものだとみなせる(後述)。

 

この場合、{x(n)}と{y(n)}は、ずらすと1倍、2倍の簡単な数列と

なっている。列ベクトルと行列の計算を示しておこう。基底が変わるの

で、列ベクトルとの対応に注意。

 

 {x(n)} : 1,1,1,・・・ → t(1,0)

160604c

 

 {y(n)} : 1,2,4,・・・ → t(0,1)

160604d

 

ちなみに、元の基底<{b(n)},{c(n)}>とその行列を用いても、

ずらし変換で1倍と2倍になることが式に表される。

 

 

         ☆          ☆          ☆

というわけで、結局、

 x(n)=1, y(n)=2の(n-1)乗

 

漸化式の一般解は、任意定数p,qを用いて、

 {a(n)}={p+q(2の(n-1)乗)}

 

q=2rとおき直して、形を整えれば、

 {a(n)}={p+r(2のn乗)}

 

こうして、文字記号の違いを除けば、齋藤正彦『線型代数入門』(東京大

学出版会)のp.118の答と一致する。

 

あとは、「基底の取替え行列」の説明を補えば、全体の理論構成が完結す

るが、それは次の機会に回すとしよう(☆追記: 既にアップ、下にリン

クあり)。複雑で壮大な体系なのだ。とりあえず、今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf. 数列の3項間漸化式(その3)~対角化と基底の取替え行列

 

                        (計 2450字)

              (☆追記 49字 ; 合計 2499字)

| |

« オバマの広島演説推敲、「能力」を「手段」に変更&プチ自転車 | トップページ | モハメド・アリ追悼、英語ツイートの和訳&小雨プチ自転車 »

数学」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



« オバマの広島演説推敲、「能力」を「手段」に変更&プチ自転車 | トップページ | モハメド・アリ追悼、英語ツイートの和訳&小雨プチ自転車 »