等加速度直線運動、放物線、モンキー・ハンティング~物理の問題と解き方1
荷物を片付けてたら、たまたまダンボール箱から高校物理の問題集が出
て来た。小型で安くて問題ぎっしり、数研出版『物理重要問題集』。物理よ
り、数学のシリーズの方が遥かに有名だと思う。私の高校では、数学の授
業で時々使ってた。
最近は、時代のニーズに応えて、しっかりした解答が付いてるらしいが、
10年くらい前までは、ほとんど最終的な答(数値)しか載ってない薄い
本だった。当然、普通のレベルの高校生、浪人生が自宅学習するのには
向いてない。
学校や塾などか、自分でスラスラ解ける人にとっての、文字通り、手軽な
問題集。片手で持ってもスマホより軽いかも。それでいて、内容はズッシ
リ重いのだ。
数学の問題を解く記事はかなり書いてるのに、物理の問題を解く記事は
少ないから、久々に1本書いてみよう。放射線、核分裂シリーズ以来か。
読者がどの程度いるのか読みにくいが、個人的に面白くて勉強(復習)
になるので、シリーズ化したいと思ってる。高校だけでなく、いずれは大
学レベルの物理も含めて。。
☆ ☆ ☆
では、記念すべき最初の問題は、問題集の第1章、第1問にしよう。
年は書いてないが、大阪電通大の入学試験が出典。問題Aで「*」
(アスタリスク)付きだから、「重要中の重要な問題」ということになる。
項目名は編集部が付けたものだろうが、私なら「等加速度直線運動
と・・・」と付ける。物理は問題文が長いのが面倒。。
*A.1 (等加速度運動と等速度運動)
高さ105mの高層ビルの屋上までエレベーターで昇った。
エレベーターは、最初の5秒間は一定の加速度aで、次の
12秒間は一定の速さで上昇して高さ87mまで達し、あと
は一定の加速度bで減速しながら上昇して屋上に着いた。
(1) 最初の5秒までは、エレベーターの高さyは出発
からの時間tを用いるとどんな式で表されるか。
(2) 加速度aはいくらか。
(3) 一定の速さで上昇した距離はいくらか。
(4) 加速度bはいくらか。
(5) エレベーターは地上から屋上まで昇るのに
全部でどれだけの時間を要したか。
☆ ☆ ☆
(解答) 以下すべて、鉛直方向、上向き正で考える。
(1) 初速度0(m/s)、加速度a(m/s²)の等加速度直線運動
だから、 y=(1/2)at² ・・・・・・答
(2) 5秒後の高さは、(1/2)a×5²=12.5a 。
その時の速度5aのまま、12秒間は等速直線運動するので、
この間の上昇距離は、 5a×12=60a 。
∴ 12.5a+60a=87 ∴ 72.5a=87
∴ a=1.2(m/s²) ・・・・・・答
(3) 60a=60×1.2=72(m) ・・・・・・答
(4) 減速の開始時点での速度は、5a=6。
終了時点での速度は0。
加速度はb、変位は105-87=18。
∴ 0²-6²=2b×18
∴ b=-1(m/s²) ・・・・・・答
(5) 加速度-1で、6から0へと-6減速したのだから、
減速した時間は6秒間。
∴(全時間)=5+12+6=23(s)・・・・・・答
☆感想
誘導つきで、数値計算も簡単。基本問題だから、公式に
当てはめるだけだが、(4)の速度・加速度・変位の関係式は
覚えてない人も少なくないかも。図やグラフを描いてもいい。
おそらく、重力加速度gとか使ってしまった受験生もいたはず。
物理の問題で加速度が与えられてる時、軸の向きを書いてない
ことが多いが、この問題だと当然、上向きを正とすべきだろう。
☆ ☆ ☆
続いて、いわゆる「モンキー・ハンティング」。木の枝にいる猿をめがけ
て、ハンターが銃で撃つ。同時に猿が枝から落下すれば、重力の影響が
銃弾と猿に同様に働いて、見事に命中するという話だ。放物線を描く弾
が、真下に落ちる猿に当たるのは、美しい現象。人間にとっては♪
とはいえ、猿を撃っていいのかどうか動物愛護問題が生じるから、以
下ではおもちゃを使用してる。
*A.6 (モンキー・ハンティング) 朝日大
右図(注. ここでは上図)のような、水平な台Sから
高さh(m)の所の点Aにある小さなおもちゃのサル
に向かって小球をこの台S上の点Bから撃ち、小球
を撃ったと同時にサルが自由落下し、空中で小球
がサルに命中するモンキー・ハンティングの装置が
ある。いま、この装置で小球を速さv₀(m/s)で水
平となす角θで撃ったとき、次の問いに答えよ。た
だし、空気の抵抗は無視できるとし、また、重力の
加速度はg(m/s²)を用いよ。
(1) 小球がサルに命中するまでで、小球が撃たれてから
t秒後での、サルと小球のそれぞれの速度の水平成分
と鉛直成分とはどのようになるか。
(2) このとき、サルから見た小球の相対速度はどのように
なるか。その大きさと水平とのなす角とで答えよ。
(3) 小球がサルに命中するまでの時間はどれだけか。
(4) 小球がサルに命中するまでにサルが落下した距離は
どれだけか。
(5) この装置で小球をサルに命中させるためのv₀の
条件式を求めよ。
☆ ☆ ☆
(解答) 以下すべて、水平方向、右向き正、鉛直方向、
上向き正で考える。ただしgは、正の数と考える。
(1) サルの速度は、
水平成分0(m/s)、鉛直成分-gt(m/s)・・・答
小球の速度は、
水平成分v₀cosθ(m/s)、
鉛直成分v₀sinθ-gt(m/s)・・・答
(2) 小球の速度からサルの速度を引いた相対速度は、
水平成分v₀cosθ、鉛直成分v₀sinθ。
∴ (大きさ)=√(v₀²cos²θ+v₀²sin²θ)
=v₀(m/s) ・・・答
また、(水平とのなす角のtan)=(sinθ)/cosθ
∴ (水平とのなす角)=θ ・・・・・・答
(3) 最初のサルと小球の距離は、h/sinθ。
∴ (命中するまでの時間)=h/v₀sinθ (s) ・・・答
(4) (命中するまでにサルが落下した距離)
=(1/2)g×(h/v₀sinθ)²
=gh²/2v₀²sin²θ (m)・・・・・・答
(5) (4)の距離がh以下であればいいので、
gh²/2v₀²sin²θ≦h
∴ v₀≧(1/sinθ)√(gh/2) ・・・答
☆ ☆ ☆
☆感想
正直、問題文の日本語があまり滑らかでないが(失礼♪)、
誘導付きの基本問題だし、(3)の相対速度の向きは面白い。
要するに、サルから見ると、常に最初と同じ角度で弾丸が
飛んで来ることになる。
加速度gは、おそらく下向き9.8と考えてるのだろうが、g
にはマイナス符号が付くこともあるので、受験生にとってまぎら
わしい。「加速度の大きさg」と書く方が正確で親切だ。
設問や誘導は、物理の問題だとよくあるものだが、数学的・論
理的には、(3)(4)(5)の順に導くのはおかしい。というのも、
v₀が(5)の条件を満たす時に初めて、(3)に答えられるのだから。
物理はやはり基本的に、論理や正確さより、実用性を重視する
学問なのだ。
☆ ☆ ☆
もう1問書くつもりだったが、ここで時間切れとなってしまった。解くだ
けならすぐだが、記事だと100倍くらいの時間がかかる。
モンキー・ハンティングとは斜方投射の問題でもあるから、参考までに
下に、関連記事へのリンクを付けとこう。ややハイレベルな内容だ。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf.高い地点からの斜方投射の軌跡(弾道)、角度と水平到達距離
・・・・・・・・・・・・・・・
運動の法則、浮力、物体の連結と分離~物理の問題と解き方2
動滑車、摩擦力(静止・動)、バネの弾性力~物理3
等速円運動、円すい振り子、万有引力と人工衛星~物理4
単振動、ばね振り子、水平ばね2本~物理5
(計 2933字)
(追記 113字 ; 合計 3046字)
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コメント
ご無沙汰しています。
「モンキー・ハンティング」かなり前になりますが
早稲田の入試に出題されてましたね。解答はテンメイさんと同じです。各地の科学館にこのような装置があり、猿が手を放したと同時に打てば100発100中で当たることが体験できますね。
投稿: gauss | 2016年7月10日 (日) 00時14分
> gauss さん

こんばんは。ちょっと心配してましたよ♪
コメントとそちらの更新を見て、安心しました。
かなり前の早稲田の問題というのは、01年ですかね?
検索しても、軽いつぶやきが1つヒットしただけ。
僕なら、「命中」までにサルが落下した距離ではなく、
サルの真下に小球が当たる時のv₀を求めて、
v₀がそれ以上の値であるのが条件だとします。
一方、「科学館 モンキーハンティング」で
検索すると、すぐ名古屋市科学館がヒット。
モンキーの代わりにボールを使ってるのが
時代だな・・と思いました。
参考文献が数研出版の本だというところも
興味深いですね。。
投稿: テンメイ | 2016年7月11日 (月) 01時01分