運動の法則、浮力、物体の連結と分離~物理の問題と解き方2
いつの間にか1ヶ月半も経ってしまったが、『物理重要問題集』(数研出版)
の解説シリーズ2本目の記事をアップしよう。ちなみに1本目は次の通り。
等加速度直線運動、放物線、モンキー・ハンティング
~物理の問題と解き方1
☆ ☆ ☆
今回は、高校物理の基本中の基本を扱う章、「2 運動の法則」について。
たとえば次の問題は、「A」で「*」(アスタリスク)付きだから、特別重
要な問題ということだ。問題の項目名は編集部が付けたものだと思う。
*A.13 (水平投射・浮力) 91九州産大 空欄補充
積荷を含めて全体の重量M〔kg〕の気球が一定の高さh〔m〕
で東方へ等速u〔m/s〕で流されている場合を考える。この気
球からm〔kg〕の砂袋を静かに落とすと、これはT〔s〕後に落
とした場所から東方へX〔m〕離れた地表面に到達した。落下す
る砂袋に対する浮力と空気の抵抗を無視し、重力加速度の
大きさをg〔m/s²〕とすれば、Tはg、hを用いて (1) で表
され、またXはT、uにより (2) という式で表される。
g=9.8m/s²、h=1960m、u=5m/s
のときには T= (3) s、 X= (4) mである。
また気球に対する浮力F〔N〕の大きさはM、gにより (5)
で表され、M=420kg、m=20kgとすれば質量m〔kg〕
の砂袋を落とした直後の気球の加速度の大きさは
(6) m/s²となる。
答えの数値は有効数字2桁で示せ。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) 鉛直方向には、速度0、加速度gの等加速度運動だから、
(1/2)gT²=h ∴ T=√(2h/g)
(2) 水平方向には、速度u(m/s)の等速直線運動だから
X=Tu
(3) T=√(2×1960/9.8)=√400=20
=2.0×10
(4) X=(2.0×10)×5=100=1.0×10²
(5) 気球の浮力と重力が釣り合ってるのだから、
F=Mg
(6) (気球の浮力)=F=Mg=420×9.8
=4116 (N)
砂袋を落とした後の気球の質量は、
420-20=400(kg)
よって、気球の鉛直方向・上向きの運動方程式より、
(加速度)=(力)/(質量)
=(4116-400×9.8)/400
=4.9×10⁻¹
(感想) 浮力の問題としては、体積を使ってない簡単なタイプ。
気球の質量は、まず砂袋込みで与えられてるが、
後で砂袋なしで計算することになる。有効数字にも注意。
ただ全体的には、数値も簡単で、のどかなイメージ。
基礎的な良問だろう。図があればもっと良かった。
(6)は、砂袋に加わってた重力が新たに気球の上向き
の力になると考えてもいい。
☆ ☆ ☆
A.14 (質量のある棒に生じる加速度) 武蔵工大
長さl〔m〕、質量m〔kg〕の一様な棒の一端Aに質量M〔kg〕
の物体Pをつけて、図のようになめらかで水平な台上におき、
他端BをF₁〔N〕の力で水平に引っ張るとき、
(1) 棒の加速度a₁はいくらか。
(2) 棒の中央における張力T₁はいくらか。
次に、この棒のA端の物体Pをはずし、棒を鉛直につるし、
上端をF₂〔N〕の力で引き上げるとき、
(3) 棒の加速度a₂はいくらか。
(4) 棒の下端から距離x〔m〕(l>x)の位置における
張力T₂はいくらか。ただし、重力の加速度を
g〔m/s²〕とする。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) 全体を質量M+mの物体と考えれば、運動方程式より、
a₁=F₁/(M+m) (m/s²)
(2) 棒の中央の張力が、その左側の部分全体を加速度aで
引っ張ることになるので、
T₁=(M+m/2)a₁
=(M+m/2){F₁/(M+m)}
=(2M+m)F₁/2(M+m) (N)
(3) 鉛直方向・上向き正の運動方程式より、
a₂=(F₂-mg)/m
=F₂/m-g (m/s²)
(4) 張力T₂と重力の合力が、棒の下側部分を
加速度a₂で引っ張ることになるので、
T₂-(x/l)mg=(x/l)ma₂
∴ T₂=(x/l)m(g+a₂)
=xF₂/l (N)
(感想) (4)で差がつく所だろう。xをlに近づけると、もちろん
T₂はF₂に近づく。上端での力に近付くから当然。
ちょっと変わった問題で、「どうしてそんな途中の場所
の力を考えるのか?」と言いたくなるところでもある。
要するに、一定の加速度で運動させてるだけの話で、
少なくともこの問いの内容だけだと、「力」という概念は
役立ってない。公式で形式的に計算しただけだろう。。
そう思った鋭い高校生・受験生は、「受験の後で」深く考
えてみると面白い。運動方程式とは単なる力の定義式、
約束事に過ぎないとかいう考え方につながる。規約主義、
約束主義とか呼ばれるものだ。棒の伸びとかを考慮に入れ
ても、事態は本質的に変わらない。
作用・反作用の法則や弾性の法則を、力を使わずに質量
と加速度と長さだけで書き直しておけばいいだけのこと。
ただし、そうした考えは、普通の物理の先生や学生には
相手にしてもらえないのだ。「どうしてそんな事を考える
の?」、「ニュートンの基本法則だよ?」といった感じで。。
☆ ☆ ☆
*A.17 (連結物体の運動) 東海大
図のように物体A、B、Cを軽くて丈夫な糸でつなぐ。AとB
を水平でなめらかな机の上におき、Cを机の端にあるなめらか
で軽い滑車にかけた糸の端につり下げて、静かに放した。ただ
し、A、B、C各々の質量は、3.0kg、2.0kg、5.0kg
である。初めBから滑車までの距離は130cmであり、床
からCの下端までの距離は80cmであった。
重力加速度の大きさを9.8m/s²として、次の問いに答えよ。
(1) 物体A、B、Cが動き始めたときの、加速度を求めよ。
(2) 物体A、B、Cが動き始めたときの、BとCの間の
糸の張力を求めよ。
(3) 物体A、B、Cが動き始めたときの、AとBの間の
糸の張力を求めよ。
(4) Cが床に着いた直後のBの速度をエネルギー
保存則を用いて求めよ。
(5) Bが初めの位置から120cm移動するのに
要する時間を求めよ。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) Cの重力で全体を引っ張るのだから、運動方程式より、
(加速度)=5.0×9.8/(3.0+2.0+5.0)
=4.9 (m/s²)
(2) BとCの間の張力が、AとBを引っ張って加速度
4.9m/s²をもたらすと考えて、
(張力)=(3.0+2.0)×4.9
=24.5 (N)
(3) AとBの間の張力が、Aを引っ張って加速度
4.9m/s²をもたらすと考えて、
(張力) =3.0×4.9
=14.7 (N)
(4) エネルギー保存則を使って速度を求めるということは、
Cが床と衝突して運動エネルギーを失う直前で考えると
いうことのはず。
Cが最初に持ってた位置エネルギーが、A、B、Cの
運動エネルギーになるのだから、速度をvとすると、
5.0×9.8×0.8=(1/2)×10.0×v²
∴ v=√7.84=2.8 (m/s)
(5) まず80cm移動するまでは、初速度0、加速度
4.9m/s²の等加速度直線運動。
∴ (時間)=2.8/4.9=4/7
その後、40cm移動するまでは、2.8m/sの
等速直線運動。
∴ (時間)=0.4/2.8=1/7
∴ (合計時間)=4/7+1/7=5/7
≒0.71 (s)
(感想) 問題集の解答(最後の数値のみ)では、(2)(3)(5)
は四捨五入して2ケタだけ書いてある。ただ、有効数字
の話が問題文に無いし、明らかでもないので、正確に
書いておく方が無難だろう。
実はこの問題、前の問題と似てるのだ。前の問題で、
物体P、棒の左半分、棒の右半分を分けて、ごく短い
糸で結んだと思えばいい。
ちなみに(1)を、運動方程式とか力を使わずに解くなら、
A+BとCの間の作用・反作用の法則より、
(3.0+2.0)×a=5.0×(9.8-a)
∴ a=4.9
質量と加速度のみで解けるのだ。
あと、(4)の問題文は紛らわしいと思う。私が出題者なら、
Cが床に「着く直前」のBの速度と書く。この方が親切だし、
正答率が上がるだろう。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 動滑車、摩擦力(静止・動)、バネの弾性力~物理3
等速円運動、円すい振り子、万有引力と人工衛星~物理4
単振動、ばね振り子、水平ばね2本~物理5
・・・・・・・・・・・・・・・
ニュートン物理学の基礎、「運動の法則」再考~その1
「運動の法則」再考2~質量と重さ
「運動の法則」再考3~運動方程式を使わずに問題を解く方法
(計 3301字)
(追記 85字 ; 合計 3386字)
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