等速円運動、円すい振り子、万有引力と人工衛星~物理の問題と解き方4
数研出版『物理重要問題集』の中から、適度な問題を選んで紹介&解説
するシリーズ、第4弾。これまでの3本は次の通り。アクセス数は期待
してなかったが、多少の需要はあるようだ。
等加速度直線運動、放物線、モンキー・ハンティング~物理1
運動の法則、浮力、物体の連結と分離~物理2
動滑車、摩擦力(静止・動)、バネの弾性力~物理3
今日は時間が無いし、風邪気味で体調が悪いから、すぐ1問目に
向かおう。第4章、円運動・万有引力。p.25のA問題2つから。
☆ ☆ ☆
33 (ばねにつけられたおもりの円運動) 愛知医大
水平に置かれた円板上に半径に沿った溝があり、その中に
質量mのおもりAをつけた軽いばねが水平に置かれている。
図は円板を上から見たようすを示している。
ばねの定数は k、自然の長さは L0 であり、ばねの
一端は円板の中心Oに固定されている。おもり、および
ばねと溝の間には摩擦はなく、おもりの大きさは無視で
きるものとする。この円板を水平面上でOを中心として
一定の角速度で回転したら、ばねの長さが L1 になった。
そのとき、次の各量はいくらか。
(1) ばねにはたらく力の大きさ。
(2) おもりAの加速度の大きさ。
(3) おもりAの速さ。
(4) 円板の角速度。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) (ばねの力)=(ばね定数)×(伸び縮み)
=k( L1-L0 ) ・・・答
(2) (ばねの力)=(向心力)=(質量)×(加速度)
∴ k( L 1 - L 0 )=m×(加速度)
∴ (加速度)= k( L1 - L0 )/m ・・・答
(3) (加速度)={(速さ)の2乗}/(半径)
∴ (速さ)=√{(加速度)×(半径)}
= √ { kL1( L1-L0 )/m } ・・・答
(4) (角速度)=(速さ)/(半径)
= √ { k( L1-L0 )/mL1 } ・・・答
(感想・解説)
非常に親切で簡単な誘導問題だが、円板の溝を難しく考えて
しまうと面倒な話になる。溝は、全体が安定するまではおもり
に力を与えるが、等速円運動として安定した後は無関係。
おもりの速さが変わらなくなった後は、溝はおもりに力を
与えてない。
ただし実際の装置だと、完全な理想的状態は作れないので、
溝からおもりへの力が僅かにあるはずだ。
☆ ☆ ☆
34* (円すい振り子) 東京商船大 90年
次の文章の中の〔 〕にあてはまる式を記せ。
自然の長さが L0、ばね定数が k のつる巻きばねの上端を
固定し、下端に、質量がmの質点を結ぶ。
図のように、このばねと質点を、鉛直線のまわりに大きすぎ
ない角速度 ω で回転させたとする。ただし、ばねの質量は
小さくて無視できるとする。
このとき、ばねの伸びを m、ω、L0、k で表す式を以下の
順序にしたがって求めたい。
ばねの伸びを x、ばねが質点から受ける力の大きさをT、
質点の円運動の半径をr、質点が受ける遠心力の大きさ
をFとすると、明らかに、T=kx である。また、Fを m、ω、
r で表す式は、F=〔 ア 〕である。よって、F/Tを
k、x、m、ω、r を用いて 〔 イ 〕のように表すことが
できる。一方、力のつりあいの考察から、F/Tを
r、L0、x を用いて 〔 ウ 〕のようにも表せる。F/T
についての、以上の2つの式を利用して計算すると、
ばねの伸びxをm、ω、L0、kで表す式
x= 〔 エ 〕を得る。
☆ ☆ ☆
(解答)
(ア) 少なくとも短時間、等速円運動と考えられるから、公式より
(遠心力 F) = mr(ωの2乗) ・・・答
(イ) F/T= mr(ωの2乗)/kx ・・・答
(ウ) ばねの力Tの半径方向の成分が遠心力Fだから、
T×r/(L0+x)=F
∴ F/T=r/(L0+x) ・・・答
(エ) (イ)と(ウ)より、
mr(ωの2乗)/kx=r/(L0+x)
∴ m(ωの2乗)(L0+x)=kx
∴ {k-m(ωの2乗)}x=m(ωの2乗)L0
∴ x=m(ωの2乗)L0/{k-m(ωの2乗)} ・・・答
(感想・解説)
やり方も使う文字も指定されてるが、おそらく重力加速度g
を使って答えた受験生は少なくないはず。鉛直方向のつり合
いを(とりあえず)無視して、水平面での円運動を中心に見た
問題なので、出題の意図に合わせて考えて行くことが必要。
あと、等速円運動かどうかもハッキリしないので、(ア)の解答
で一言付け加えておいたが、この点で迷った受験生はほとん
どいないだろう。
☆ ☆ ☆
40* (人工衛星) 東京電気大
万有引力を向心力として地球のまわりを等速円運動する
人工衛星について、次の問いに答えよ。人工衛星が地球
から受ける力は、地球の中心に地球の質量が集まったと
して計算してよい。ただし、人工衛星の質量をm〔kg〕、
地表からの高さをh〔m〕、万有引力定数をG
〔N・(mの2乗)/(kgの2乗)〕、地球の質量と
半径をそれぞれM〔kg〕、R〔m〕とする。
(1) 地表面における重力の加速度をG、M、Rを
用いて表せ。
(2) 人工衛星の速さ(m/s)を求めよ。
(3) 人工衛星の周期(s)を求めよ。
(4) 地球から無限に離れたときの位置エネルギーを基準に
して、人工衛星のもつ位置エネルギー(J)を求めよ。
(5) 地表面近くを円運動でまわる人工衛星の速さを第1
宇宙速度とよぶ。一方、物体を地球の引力から脱出
させて無限遠方に飛び去らせるための地表面での
最小の速さを第2宇宙速度とよぶ。第2宇宙速度は
第1宇宙速度の何倍か。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) 地表面にある質量1kgの物体について、重力加速度を
g とすると、
(重力)=(万有引力)より
1×g=G×1×M/(Rの2乗)
∴ g = GM/(Rの2乗) 〔m/(sの2乗)〕 ・・・答
(2) 人工衛星の速さを v とすると、
(向心力)=(万有引力)より、
m(vの2乗)/(R+h)=GmM/{(R+h)の2乗}
∴ v = √{GM/(R+h)} (m/s)・・・答
(3) (周期)=(円軌道の長さ)/(速さ)
=2π(R+h)/√{GM/(R+h)}
=2π√〔{(R+h)の3乗}/GM〕 (s) ・・・答
(4) 公式より、 -GmM/(R+h) (J) ・・・答
(5) (2)で、地表からの高さh=0として、
(第1宇宙速度)=√(GM/R)
一方、(4)の答でもh=0として、
地表での人工衛星の位置エネルギーは、-GmM/R。
∴ (第2宇宙速度v)
=(位置エネルギー0の無限遠に運ぶ最小の速さ)
=(運動エネルギーがGmM/Rである速さ)
∴ m(vの2乗)/2=GmM/R
∴ v=√(2GM/R)
∴ (第2宇宙速度)/(第一宇宙速度)
=√(2GM/R)/√(GM/R)
=√2 (倍) ・・・答
(感想・解説)
まるで教科書の説明みたいな、完全な基本問題。
人工衛星の位置エネルギーとは、無限遠に行くまでに
「する」仕事のこと。つまり、無限遠までに「される」仕事
にマイナスを付けたものになる。
される仕事は、引力にさからって動かす仕事だから、中心
と結ぶ距離方向に引力を積分したもの。引力の分母が
距離の2乗だから、積分すると分母は距離の1乗になる。
分数関数の積分で、積分定数を省いて書くと、
∫{1/(rの2乗)}dr=-1/r
この分母が0(ゼロ)だとまずいので、地球の中心(r=0)を
考える代わりに、無限遠(r=無限大)を考えることになる。
最後の答、宇宙速度の倍率は美しいので、多くの少年・少女を
宇宙関連、ロケット関連の道に誘い込んで来たことだろう。
それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf. 単振動、ばね振り子、水平ばね2本~物理5
(計 2974字)
(追記 23字 ; 合計2997字)
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