満月の大きさと楕円軌道の変化~月・地球・太陽の万有引力による三体問題
昨日、2016年11月14日は、「スーパームーン」が見れるという
ことで、メディアが多少盛り上がってた。
国立天文台HP(暦計算室)は、スーパームーンにはっきりした定義は
ないと書いてるが、要するに「超・月」。「超」大きく見える満「月」という
こと。1年ちょっと経つ度に現れる大きな満月か、その中でも数十年
に1回くらいしかない大きさの満月か、どちらかを表してるわけだろう。
どちらにせよ、それほど変わらないようで、小さい時と比べて大きさ
が14%増えて、明るさが30%増えるというお話。
(面積比)=(相似比)の2乗
∴ (面積の倍率)=1.14倍×1.14倍=1.30倍
明るさは面積に比例するので、1.30倍。つまり30%増。
という単純な計算だろうか。この記事では明るさ問題にはこだわらない。
☆ ☆ ☆
この現象に関する天文学的説明を、国立天文台HPで細かく読むと、
なかなか納得できない点が色々あった。昨夜は、本物の月の代わり
に、各種の解説図の月を延々と眺めることになったのだ。
おかげで、それなりに理解できたし、国立天文台の説明が多少おかし
いことにも気付いた。もちろん、一般市民向けの説明として、専門家が
分かりやすさを心がけた結果だろうが、数学好きの私から見ると、間
違いと言っていいような部分もあるし、論理的に飛躍した部分もある。
例えば、離心率eが大きくなるから、最近距離a(1-e)が小さ
くなるとか。楕円軌道の長半径aも同時に大きくなると、そんなことは
必ずしも言えないし、実際、aが大きくなってる図を書いてたのだ。
既に早くも流行遅れだし、数学的・物理学的にマニアックな話にもな
るが、個人的考察を簡単にまとめとこう。図はすべて、天文台のイラ
ストを加工して、引用させていただいた。
☆ ☆ ☆
最初に、月、地球、太陽の位置関係と満月について、確認しとこう。
小学校の理科の話に近いが、満月が「望」、反対の新月が「朔」(さく)
と呼ばれる点に注意。
下側のピンクの丸印が、満月、つまり「望」。太陽、地球、月の順に、
一直線に並んだ時に生じる。太陽に照らされてる月の表面全体を、
地球から見てるわけだ。以下では、この満月=望に焦点を絞り込
んで考える。
まず、上図を90度回転して、以下の話に合わせとこう。月の軌道の
右端、ピンクの丸印を付けてるのが満月、つまり「望」だ。
☆ ☆ ☆
ここまで、月が地球中心に円運動してるかのように説明してるが、
より正確には楕円運動だ。
下図は、太陽を回る惑星(地球など)の軌道だが、地球と月の関係も
こんな感じになる。太陽は、楕円の焦点と呼ばれる位置にある。
右端のピンクの丸印は、地球などの惑星が最も太陽に近づく「近日点」。
お日様に近い点という意味だ。
だから、月の楕円軌道で最も地球に近づく時なら、地球に近い点という
意味で「近地点」と呼ばれる。また、地球はこの楕円の焦点あたりに位
置する。要するに、中心から少しズレた場所だ。
☆ ☆ ☆
次に、太陽を回る地球の公転と、地球を回る月の公転を合体させる。
ここでは、地球の軌道はほぼ円、月の軌道はかなり極端な楕円として
描いてる。地球の軌道の方が円に近いので、分かりやすく対比を付け
てるわけだ。青丸が地球。ピンクの丸印が、近地点での満月。ここでは
点線は気にしない。
☆ ☆ ☆
地球は1年で太陽の周りを公転するから、大まかに言うと、1年に
1回くらいピンク色の丸印の位置に月が来て、近地点だから大きな
満月=月になる。
正確には、近地点と満月は時間的に少しズレるようで、例えば今回
の場合だと、近地点の2時間半後が満月。まあ、月の見え方というの
は巨大なスケールの話だし、細かい誤差は気にしないということか。
あと、実は月の楕円軌道自体も回転する。イメージがつかめなけれ
ば、こちらに簡単なアニメがある。地球の周りを8.85年で1回転。
その他、複雑な理由が重なって、近地点の満月は約410日に1回
くらいになるらしい。この日数を、天文台は「約14朔望月」と書いてる。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、1年ちょっとで大きな満月が見れるわけだが、その大き
さも微妙に変化するらしい。月と地球の中心の距離(地心距離)で、
数km~数十kmほど。
昨日のスーパームーンは、その意味で68年ぶりの近さ(つまり大きさ)
だったが、天文台はかなり冷めた書き方をしてた。そんな僅かな差より、
真上で月を見るか、地平線の辺りで見るかの違いの方が遥かに大きい
からだ。
言われてみれば、真上に見る時の方が、地球の半径の長さ6400
kmくらい近いことになる。ただし、心理的効果によって、真上の月は
逆に小さく感じてしまい、地平線の辺りの方が大きく見えるのが普通。
私も何度も試したが、錯覚だと教えられても、そうとしか見えない。
☆ ☆ ☆
最後に、遥かに難しい話に向かおう。ここで私は悩むことになった。
近地点の満月では、特殊な2つの効果も加わって、より近くに満月が
来るというのだ。「出差」(しゅっさと読む)と、「二均差」。
左下の「出差」の図については、この記事の最後で再び考え直す。
「出差は太陽の影響で楕円がゆがむ効果」。「二均差は太陽の
影響で軌道のカーブが変化する効果」と書かれてるが、何がどう
違うのか、どうして分けるのか、なかなか分からなかった。
☆ ☆ ☆
英語のウィキペディアなども読みながら考えた結果、おそらく原理的に
はこうゆう事だと思う。
本当は、月と地球と太陽、三つの天体が万有引力によって非常に複雑
な運動をするのであって、知る人ぞ知る、三体問題。より一般的に言う
と、「多体問題」。万有引力の3本の方程式から、キレイに軌道の式を
導くことはできない。そもそも、楕円軌道とか焦点という話も、正確には
近似に過ぎない。天体は無数。質量が重心の一点にあるわけでもない。
だから、シンプルな三体問題に絞り込んで、数値解析のような近似計
算を使うと共に、実際の計測で補うのだと想像する。
その一方で、三体問題を二体と考える近似的やり方も、ニュートン以前
からある。まず、太陽と月、太陽と地球の関係を考えて、それらを総合
するのが出差。たとえば、月の方が地球よりも太陽に強く引き付けられ
るから、月と地球の距離が変わるとか。
また、地球と月の関係を基本にして、それに対する太陽の僅かな影響
を考えるのが、二均差。一般的には、「摂動」と呼ばれる補正的な項目。
要するに、出差も二均差も、昔ながらの近似的で実用的な説明だから、
物理学的・数学的な違いがハッキリしないのだと思う。近地点の満月
の周期が約410日(14朔望月)になることについて、定量的な
説明が見当たらないのも、そうした背景によるものだと想像する。。
☆ ☆ ☆
最後に、天文台HPの図の問題点について、一言だけ書いとこう。
出差の図の一部分だけ再掲する。
この楕円だと、ゆがみ過ぎてて、地球にもっとも近い点は上と下に
あるように見えてしまう。
それは強調表現としても、この点線の軌道だと、右端にある近地点
の満月は、実線の軌道より離れてしまってる。これでは、「出差に
より・・・・・・最近距離は小さくなり」などの説明と矛盾してしまう。
おそらく、正しくは、点線を次のピンク色のように書くべきだろう。
これなら確かに、右端の近地点の満月が、黒い実線よりも地球
(青丸)に近づいてる。その後の説明文とつじつまが合うのだ。
いずれまた、データや数式をまじえて、もっと細かい話を書きたいと
思ってる。今日のところは、この辺で。。☆彡
(計 3055字)
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