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リスク(risk)の正しい語源と、自分の場所探し~『地味にスゴイ! 校閲ガール』第7話

今回はまず、「リスク(risk)」という言葉の意味を示す冒頭の画面を

キャプチャーするところから始めよう。レビューへの正当な個人的引用

で、著作権の問題は生じないと考える。肖像権に配慮して、悦子(石原

さとみ)の姿はカットした。

  

 危険。危険性。

 語源はプラスとマイナス

    

161117a

  

この2行の説明の下にもう一行あるような気もするけど、スロー再生

しても読み取れないほどだから、断念。私はこれを見た時、面白いし、

使えるネタだなと思った。しかし、テレビのこの種の説明はあまり正確

でないことが多いから、いつものように早速チェックしてみた。

   

まあ、お堅いコネタより、悦子のくしゅくしゅルーズソックスの足裏(ベッ

ドの朝)について書く方がウケるんだろうけど(笑)。去年の『5→9』

第1話、パンスト足裏にはかなりのアクセスが集まったのだ♪

         

    

     ☆        ☆        ☆

リスクの語源の話に戻ろう。残念ながら、日本語と英語で信頼できそう

な情報を探しても(ほとんど)見当たらない。その一方、関連する誤解ら

しきものは拡散してるので、「語源」としてはかなり怪しいと思う(この記

事の後半で解説)。

          

間違いとも言い切れないし、「意味」の説明としてなら許容範囲だろう

けど、「語源」としてこれを信じて話や文章に使うのは、まさにリスクが

高そうだ♪ 

      

まあ、ハイリスク、ハイリターンという言葉も一応あるけど、小学校・

中学校の朝礼や会社の小話、著作、講演などで使うのは、ハイリス

ク、ローリターン。敢えてリスクを取っても、割に合わない。。

   

   

     ☆        ☆        ☆

今回のテーマは、ドラマやマンガなど、大衆向けのフィクションが大好き

な、リスクテイク&サクセスだった。勇敢にリスクを取って、見事に成功

するハッピーエンド。9割以上は成功物語、成功エピソードだと思う。

   

主題歌、栞菜智世(かんな・ちせ)『Heaven’s Door

~陽のあたる場所~』の歌詞もそのタイプだ。

   

 あきらめないで 手を伸ばせばヒカリが射す

 信じていいよ 重いドア こじ開けて ・・・

         (作詞 玉井健二・HiRO・前澤希)

     

私ももちろん、嫌いではないし、子どもの頃は好きだったけど、大人に

なると、違う現実も見えて来る。少なくとも成功と同じくらい、リスクを

取って失敗することもあるのだ。自分の人生も含めて(笑)

   

そもそも成功する確率が高い場合だと、リスクという言葉は使わない。

経営関連とか金融関連の一部を除けば。

   

   

     ☆        ☆        ☆

最初に出たリスクは、光岡(和田正人)が『回道刑事の事件簿 ~

秘湯に消えた美女~』に指摘出しする際のリスク。

   

中日本鉄道の時刻表が改定されて、トリックが成立しなくなってること

に気付いたけど、それを指摘してしまうと小説全体が手直し不能になる。

時代設定の変更でも上手く行かないから、作家に激怒されるか、出版

停止になるか、その両方か。いずれにせよハイリスクで、出版社員とし

てためらうのは当然。

   

新しい時刻表で何とかならないか。光岡は時刻表をダイヤグラムに

図示して考え込んでたけど、結局失敗したらしい。縦横の列に駅と時

刻を配置して、多くの列車の進行を線で書き込むダイヤグラムは、

マニア魂をくすぐる♪ でも、あの一瞬の映像だと解読できなかった。

    

   

      ☆        ☆        ☆

一方、悦子が取ったリスクもかなり巨大で、折角いい感じになって来た

幸人(菅田将暉)に嫌われてしまう可能性が高かった。

   

それでも、彼と本郷大作(鹿賀丈史)の親子関係に触れたのは、本郷

のエッセイ「我が人生 最悪の日」の校閲のため。わざわざ本郷自身の

ご指名で校閲するのだから、生き別れとなってる息子が本当に左利き

なのか、事実確認する必要があった。というのも、息子は実は幸人で、

彼は右利きに見えたから。

   

悦子は幸人とのキャッチボールで確認しようとしたけど、やっぱり右利

きに見えたから、思い切って、本郷の息子が左利きだったかどうかの

確認だと告げる。また、「悦ちゃん、ウザイ」と言われてしまうかと思った

ら、幸人はあっさり左利きだったことを認めて、本郷と会う決心までして

くれた。

  

父・本郷との再会も大成功で、本郷は幸人と悦子を恋人扱いしてくれた。

「人生 最良の日」。まさに、ハイリスク、ハイリターンの大成功。もちろ

ん、女性向け甘口テレビドラマだからこその、ハッピーな展開なのだ♪

脚本家も女性で、川﨑いづみ。

     

ちなみに、「立田橋」と「立日橋」の再登場のおかげで、ウチの第1話

レビューにもちょっとアクセスが増えてる。ノーリスク、ローリターンと

言うべきか♪

      

   

      ☆        ☆        ☆

他に、幼い幸人へのプレゼントとして、漫画家・蛭子能収(えびすよし

かず)に会わせた本郷も、リスクテイカーだった♪ 

   

こちらは単なる小話、「人生最悪の日」のエピソードの1つに過ぎない

から、完全に失敗。「ヘタウマ」(下手・上手)という概念が大人だけの

ものなのかどうかは知らないけど、あのナンセンスなシュールさは大

人しか味わえないだろう。平成ブロガーには何とか理解できたけど、

どこにでもありそうな下手上手イラストにも見える(失礼♪)。

    

森尾に、雑誌で小説を紹介してくれとお願いしたり、御礼に食事をご

馳走すると言ったりした、貝塚タコ八郎(青木崇高)も、可愛いリスク

テイカー。たまたま森尾が不倫を清算した直後だったこともあって、

これも成功するのであった。

   

森尾が貝塚を受け入れるのもハイリスクだけど、どうせ上手く行くん

だろう。そろそろ、ドラマの終盤だから♪ 幸人の写真選びのチャレン

ジも成功するはず。

   

本郷が純文学から「エロミス」へと路線変更したのも成功につながっ

たから、次は幸人=是永是之が路線変更するのか、あるいはモデル

のYUKITOで勝負して大成するのか。。

   

    

     ☆        ☆        ☆

ドラマの物語の内容を確認したのは、リスクがマイナスとプラスの

両面を持つことを具体的に理解するためだ。

    

それでは、リスク(risk)が「語源はプラスとマイナス」という冒頭の

テロップは正しいのかというと、かなり怪しい。

   

英単語の語源を、手軽に、それなりの信頼度で調べるなら、英語版

wiktionary(ウィクショナリー)が便利だ。説明文は英語

だけど、調べる対象の単語は多言語。ウィキペディアもそうだが、ウィ

クショナリーも日本版より英語版の方が遥かにレベルが高い。

    

161117b

   

   

     ☆        ☆        ☆

上でキャプチャー画像として引用したのは、riskの語源の前半。

この最初の3行がメインの説明で、イタリア語の「risco

や「rischiare」まで遡ってる。

   

それぞれ、リスク、危険に飛び込むこと、と説明されてるだけであっ

て、普通に解釈するならマイナスの話だ。少なくとも、プラスの意味

は明示してない。

   

ただ、その語に続く少数意見とか、上で引用してない後半の少数

意見を読むと、中立的な意味も一応書かれてる。だから、「語源は

プラスとマイナス」という説明を間違いと言い切ることも出来ない。

    

とはいえ、脚本家か美術さんが何を根拠にそう書いたのか考えると、

おそらくごく簡単な日本語のネット検索だろう。あるいは、同レベル

のビジネス本とか。

    

    

     ☆        ☆        ☆

例えば、信頼性の低い日本語のウィキペディアはこう書いてしまってる。

    

 語源はラテン語でrisicareは「勇気をもって試みる」

 ことを意味する。それから派生した英語riskも、

 動詞としては同じ意味をもつ。そのため、マイナス

 だけを考慮する方法は語源から外れており、ブラ

 スとマイナスを考慮する方法の方が語源に近い。

  

  

これを短くまとめると、ドラマのテロップになる。ところが、この説明に

は出典が付けられてないし、「ラテン語でrisicare」という言

葉をいくら検索しても、信頼できそうな情報源が出て来ないのだ。

        

ラテン語に詳しい山下太郎氏も、サイトでその言葉の質問を受けて、

「存じ上げません。調べた限りでも見つかりません」と応答(今年2月)。

    

   

     ☆        ☆        ☆

実は、上の日本語ウィキの説明は、1999年の経済企画庁の記事

と、2003年、滋賀大学(当時)の有馬敏則の論文「金融リスクとリ

スクマネジメント」(彦根論叢、第342号)を融合させて追記した形

になってるのだ。どちらも、日本語ウィキより先に執筆されたもので、

簡単に検索でヒット。すぐに読める。

    

しかし、経済企画庁は出典なし、ラテン語という話も無しで、「由来し

ていると言われている」とか曖昧に書いてるだけ。

   

滋賀大の論文は、『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)を出典に

挙げてるが、私が会員制サイト『ジャパンナレッジ』とgoo辞書

通じて大辞典の「risk」解説を調べた限り、その説明は見当たらない。

     

滋賀大の説明は、直接の引用ではなく、引用の引用、つまり孫引きの

ようにも見える。孫引きする際に間違えたか、元の本が間違えてたの

ではないか。すぐ直後の注が、簡単な一般向けの本、『図解 リスク

のしくみ』(東洋経済新報社)に付けられてるので、かなり疑問が生じる。

  

(☆追記: 『リスクのしくみ』第2版も語源の出典は無し。)

      

少なくとも、ラテン語ではなく、「イタリア語のrisicare」と書く

べきところなのだ。これなら、ウィクショナリーが挙げてる

「rischiare」の別の形だから、問題ない。ランダムハウス大

辞典に書かれてたかどうかはさておき。

           

とはいえ、いずれにせよ、日本語のウィキの説明がほとんど信頼で

きないのは明らかだし、「語源はプラスとマイナス」という話にもなら

ないのだ。

     

なお、英語版のウィキは、「意味」としてプラスとマイナスを書いてる

だけだから、別に問題ない。

   

  

(☆追記: 研究社『英語語源辞典』には、先頭に「?」マーク

      を付けた上で、俗ラテン語の「risicare」を掲載。)

   

   

      ☆        ☆        ☆

最後に、言葉の語源から意味を探るというのは、言葉の本来の場所

を探すことでもある。

   

今回のドラマで、リスクテイクと共にテーマとなってたのも、自分の場所

を探すことだった。悦子、森尾、本郷、幸人。いずれも、自分の場所を

探す中で、さしあたり「求められてる場所」で頑張ってる。幸人が本郷に

会いにいったのも、悦子の話を通じて、そこで自分が求められてること

が分かったからだ。

     

それはむしろ、リスクが低い生き方。ローリスクの選択だから、リスク

テイクで大成功という物語の流れとは合ってない。ある意味、生活の

根本はローリスク、安全第一、という解釈もできるだろう。良し悪しは

ともかく。

     

そう言えば、名作ドラマ『ビーチボーイズ』の社長(マイク真木)も、最

後に自分探しのハイリスクな挑戦で命を失ってしまった。だからこそ

人々の心に永遠に残るわけだが。。

     

これ以上書いても、長すぎて誰も読まないリスクが高いから、そろそろ

終わりとしよう♪ ブログは私にとって、仮住まいに過ぎないことだし。

私は子どもの頃、レンゲとスミレではなく、ツミレとスミレを聞き間違え

たよな・・とか思い出しつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡

   

    

  

cf. 時は親切な友達、きのうを物語に・・~『校閲ガール』第1話

   補う技術、シール・付箋・ファッション、そして愛~第2話

   是永是之の小説『犬っぽいっすね』内容&外見も大切~第3話

   相乗効果と一石二鳥、『明日も、あすか。』~第4話

   無用の用、塞翁が馬、無駄はムダだが役に立つ~第5話

   悦んで残業する、残業せん隊(戦隊)♪~第6話

   全力疾走&跳躍、人生の走り幅跳び~第8話

   地味でスゴくないものも輝かせるスカーフ~第9話

   未完の夢にときめく、人間たちの出会いとB-SIDE~最終回

        

                       (計 4418字)

           (追記 156字 ; 合計 4574字)

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