リスク(risk)の正しい語源と、自分の場所探し~『地味にスゴイ! 校閲ガール』第7話
今回はまず、「リスク(risk)」という言葉の意味を示す冒頭の画面を
キャプチャーするところから始めよう。レビューへの正当な個人的引用
で、著作権の問題は生じないと考える。肖像権に配慮して、悦子(石原
さとみ)の姿はカットした。
危険。危険性。
語源はプラスとマイナス
この2行の説明の下にもう一行あるような気もするけど、スロー再生
しても読み取れないほどだから、断念。私はこれを見た時、面白いし、
使えるネタだなと思った。しかし、テレビのこの種の説明はあまり正確
でないことが多いから、いつものように早速チェックしてみた。
まあ、お堅いコネタより、悦子のくしゅくしゅルーズソックスの足裏(ベッ
ドの朝)について書く方がウケるんだろうけど(笑)。去年の『5→9』
第1話、パンスト足裏にはかなりのアクセスが集まったのだ♪
☆ ☆ ☆
リスクの語源の話に戻ろう。残念ながら、日本語と英語で信頼できそう
な情報を探しても(ほとんど)見当たらない。その一方、関連する誤解ら
しきものは拡散してるので、「語源」としてはかなり怪しいと思う(この記
事の後半で解説)。
間違いとも言い切れないし、「意味」の説明としてなら許容範囲だろう
けど、「語源」としてこれを信じて話や文章に使うのは、まさにリスクが
高そうだ♪
まあ、ハイリスク、ハイリターンという言葉も一応あるけど、小学校・
中学校の朝礼や会社の小話、著作、講演などで使うのは、ハイリス
ク、ローリターン。敢えてリスクを取っても、割に合わない。。
☆ ☆ ☆
今回のテーマは、ドラマやマンガなど、大衆向けのフィクションが大好き
な、リスクテイク&サクセスだった。勇敢にリスクを取って、見事に成功
するハッピーエンド。9割以上は成功物語、成功エピソードだと思う。
主題歌、栞菜智世(かんな・ちせ)『Heaven’s Door
~陽のあたる場所~』の歌詞もそのタイプだ。
あきらめないで 手を伸ばせばヒカリが射す
信じていいよ 重いドア こじ開けて ・・・
(作詞 玉井健二・HiRO・前澤希)
私ももちろん、嫌いではないし、子どもの頃は好きだったけど、大人に
なると、違う現実も見えて来る。少なくとも成功と同じくらい、リスクを
取って失敗することもあるのだ。自分の人生も含めて(笑)
そもそも成功する確率が高い場合だと、リスクという言葉は使わない。
経営関連とか金融関連の一部を除けば。
☆ ☆ ☆
最初に出たリスクは、光岡(和田正人)が『回道刑事の事件簿 ~
秘湯に消えた美女~』に指摘出しする際のリスク。
中日本鉄道の時刻表が改定されて、トリックが成立しなくなってること
に気付いたけど、それを指摘してしまうと小説全体が手直し不能になる。
時代設定の変更でも上手く行かないから、作家に激怒されるか、出版
停止になるか、その両方か。いずれにせよハイリスクで、出版社員とし
てためらうのは当然。
新しい時刻表で何とかならないか。光岡は時刻表をダイヤグラムに
図示して考え込んでたけど、結局失敗したらしい。縦横の列に駅と時
刻を配置して、多くの列車の進行を線で書き込むダイヤグラムは、
マニア魂をくすぐる♪ でも、あの一瞬の映像だと解読できなかった。
☆ ☆ ☆
一方、悦子が取ったリスクもかなり巨大で、折角いい感じになって来た
幸人(菅田将暉)に嫌われてしまう可能性が高かった。
それでも、彼と本郷大作(鹿賀丈史)の親子関係に触れたのは、本郷
のエッセイ「我が人生 最悪の日」の校閲のため。わざわざ本郷自身の
ご指名で校閲するのだから、生き別れとなってる息子が本当に左利き
なのか、事実確認する必要があった。というのも、息子は実は幸人で、
彼は右利きに見えたから。
悦子は幸人とのキャッチボールで確認しようとしたけど、やっぱり右利
きに見えたから、思い切って、本郷の息子が左利きだったかどうかの
確認だと告げる。また、「悦ちゃん、ウザイ」と言われてしまうかと思った
ら、幸人はあっさり左利きだったことを認めて、本郷と会う決心までして
くれた。
父・本郷との再会も大成功で、本郷は幸人と悦子を恋人扱いしてくれた。
「人生 最良の日」。まさに、ハイリスク、ハイリターンの大成功。もちろ
ん、女性向け甘口テレビドラマだからこその、ハッピーな展開なのだ♪
脚本家も女性で、川﨑いづみ。
ちなみに、「立田橋」と「立日橋」の再登場のおかげで、ウチの第1話
レビューにもちょっとアクセスが増えてる。ノーリスク、ローリターンと
言うべきか♪
☆ ☆ ☆
他に、幼い幸人へのプレゼントとして、漫画家・蛭子能収(えびすよし
かず)に会わせた本郷も、リスクテイカーだった♪
こちらは単なる小話、「人生最悪の日」のエピソードの1つに過ぎない
から、完全に失敗。「ヘタウマ」(下手・上手)という概念が大人だけの
ものなのかどうかは知らないけど、あのナンセンスなシュールさは大
人しか味わえないだろう。平成ブロガーには何とか理解できたけど、
どこにでもありそうな下手上手イラストにも見える(失礼♪)。
森尾に、雑誌で小説を紹介してくれとお願いしたり、御礼に食事をご
馳走すると言ったりした、貝塚タコ八郎(青木崇高)も、可愛いリスク
テイカー。たまたま森尾が不倫を清算した直後だったこともあって、
これも成功するのであった。
森尾が貝塚を受け入れるのもハイリスクだけど、どうせ上手く行くん
だろう。そろそろ、ドラマの終盤だから♪ 幸人の写真選びのチャレン
ジも成功するはず。
本郷が純文学から「エロミス」へと路線変更したのも成功につながっ
たから、次は幸人=是永是之が路線変更するのか、あるいはモデル
のYUKITOで勝負して大成するのか。。
☆ ☆ ☆
ドラマの物語の内容を確認したのは、リスクがマイナスとプラスの
両面を持つことを具体的に理解するためだ。
それでは、リスク(risk)が「語源はプラスとマイナス」という冒頭の
テロップは正しいのかというと、かなり怪しい。
英単語の語源を、手軽に、それなりの信頼度で調べるなら、英語版
のwiktionary(ウィクショナリー)が便利だ。説明文は英語
だけど、調べる対象の単語は多言語。ウィキペディアもそうだが、ウィ
クショナリーも日本版より英語版の方が遥かにレベルが高い。
☆ ☆ ☆
上でキャプチャー画像として引用したのは、riskの語源の前半。
この最初の3行がメインの説明で、イタリア語の「risco」
や「rischiare」まで遡ってる。
それぞれ、リスク、危険に飛び込むこと、と説明されてるだけであっ
て、普通に解釈するならマイナスの話だ。少なくとも、プラスの意味
は明示してない。
ただ、その語に続く少数意見とか、上で引用してない後半の少数
意見を読むと、中立的な意味も一応書かれてる。だから、「語源は
プラスとマイナス」という説明を間違いと言い切ることも出来ない。
とはいえ、脚本家か美術さんが何を根拠にそう書いたのか考えると、
おそらくごく簡単な日本語のネット検索だろう。あるいは、同レベル
のビジネス本とか。
☆ ☆ ☆
例えば、信頼性の低い日本語のウィキペディアはこう書いてしまってる。
語源はラテン語でrisicareは「勇気をもって試みる」
ことを意味する。それから派生した英語riskも、
動詞としては同じ意味をもつ。そのため、マイナス
だけを考慮する方法は語源から外れており、ブラ
スとマイナスを考慮する方法の方が語源に近い。
これを短くまとめると、ドラマのテロップになる。ところが、この説明に
は出典が付けられてないし、「ラテン語でrisicare」という言
葉をいくら検索しても、信頼できそうな情報源が出て来ないのだ。
ラテン語に詳しい山下太郎氏も、サイトでその言葉の質問を受けて、
「存じ上げません。調べた限りでも見つかりません」と応答(今年2月)。
☆ ☆ ☆
実は、上の日本語ウィキの説明は、1999年の経済企画庁の記事
と、2003年、滋賀大学(当時)の有馬敏則の論文「金融リスクとリ
スクマネジメント」(彦根論叢、第342号)を融合させて追記した形
になってるのだ。どちらも、日本語ウィキより先に執筆されたもので、
簡単に検索でヒット。すぐに読める。
しかし、経済企画庁は出典なし、ラテン語という話も無しで、「由来し
ていると言われている」とか曖昧に書いてるだけ。
滋賀大の論文は、『ランダムハウス英和大辞典』(小学館)を出典に
挙げてるが、私が会員制サイト『ジャパンナレッジ』とgoo辞書を
通じて大辞典の「risk」解説を調べた限り、その説明は見当たらない。
滋賀大の説明は、直接の引用ではなく、引用の引用、つまり孫引きの
ようにも見える。孫引きする際に間違えたか、元の本が間違えてたの
ではないか。すぐ直後の注が、簡単な一般向けの本、『図解 リスク
のしくみ』(東洋経済新報社)に付けられてるので、かなり疑問が生じる。
(☆追記: 『リスクのしくみ』第2版も語源の出典は無し。)
少なくとも、ラテン語ではなく、「イタリア語のrisicare」と書く
べきところなのだ。これなら、ウィクショナリーが挙げてる
「rischiare」の別の形だから、問題ない。ランダムハウス大
辞典に書かれてたかどうかはさておき。
とはいえ、いずれにせよ、日本語のウィキの説明がほとんど信頼で
きないのは明らかだし、「語源はプラスとマイナス」という話にもなら
ないのだ。
なお、英語版のウィキは、「意味」としてプラスとマイナスを書いてる
だけだから、別に問題ない。
(☆追記: 研究社『英語語源辞典』には、先頭に「?」マーク
を付けた上で、俗ラテン語の「risicare」を掲載。)
☆ ☆ ☆
最後に、言葉の語源から意味を探るというのは、言葉の本来の場所
を探すことでもある。
今回のドラマで、リスクテイクと共にテーマとなってたのも、自分の場所
を探すことだった。悦子、森尾、本郷、幸人。いずれも、自分の場所を
探す中で、さしあたり「求められてる場所」で頑張ってる。幸人が本郷に
会いにいったのも、悦子の話を通じて、そこで自分が求められてること
が分かったからだ。
それはむしろ、リスクが低い生き方。ローリスクの選択だから、リスク
テイクで大成功という物語の流れとは合ってない。ある意味、生活の
根本はローリスク、安全第一、という解釈もできるだろう。良し悪しは
ともかく。
そう言えば、名作ドラマ『ビーチボーイズ』の社長(マイク真木)も、最
後に自分探しのハイリスクな挑戦で命を失ってしまった。だからこそ
人々の心に永遠に残るわけだが。。
これ以上書いても、長すぎて誰も読まないリスクが高いから、そろそろ
終わりとしよう♪ ブログは私にとって、仮住まいに過ぎないことだし。
私は子どもの頃、レンゲとスミレではなく、ツミレとスミレを聞き間違え
たよな・・とか思い出しつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 時は親切な友達、きのうを物語に・・~『校閲ガール』第1話
補う技術、シール・付箋・ファッション、そして愛~第2話
是永是之の小説『犬っぽいっすね』内容&外見も大切~第3話
相乗効果と一石二鳥、『明日も、あすか。』~第4話
無用の用、塞翁が馬、無駄はムダだが役に立つ~第5話
悦んで残業する、残業せん隊(戦隊)♪~第6話
全力疾走&跳躍、人生の走り幅跳び~第8話
地味でスゴくないものも輝かせるスカーフ~第9話
未完の夢にときめく、人間たちの出会いとB-SIDE~最終回
(計 4418字)
(追記 156字 ; 合計 4574字)
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