少年たちの冒険と、最小の傷の手術~『A LIFE~愛しき人~』第5話
ぼくらはみんな 生きている
生きているから かなしいんだ
・・・・・・・・・・
みんな みんな 生きているんだ
友だちなんだ
(作詞 やなせたかし)
☆ ☆ ☆
全国のバット(Bat)ファンの皆さん、こんばんは(笑)。今回も壮大
(浅野忠信)と実梨(菜々緒)のバッティング・シーンを描こうかと
思ってた。バット(But=しかし)、1回お休みしとこう。1回か!
あんまし続けると、私がバッドな(Bad=悪い)男だと誤解されそ
うだから♪
ちなみにオーソン・ウエルズの名作映画『市民ケーン』で印象的
だった台詞は、「rose bud」(ローズ バッド)。この多義
的な言葉はもちろん、開く前のバラ(rose)の花びらとバット
(bat)の話も暗示してる。普通に言うなら、女と男の性=生。
いつか、本格的なレビューを書いてみたい、文句なしの名画だ
と思う。私は時々、ドラマや映画のレビューで映像の分析を書
いてるけど、最初に映像の文法に気付いたのは『市民ケーン』
だった。
言葉や物語の筋道とは少し違う次元に、映像の筋道というも
のがある。そして、bat、but、bad、budみたいな、音声
の筋道、つづり字の筋道というものもあるのだ。そしてもちろん、
バットにはバットの筋道がある。裏側に(笑)。コラコラ!
お硬いバットじゃなくてお堅い私にとって、不本意な読者サービ
スも大変なわけだが、だからと言って、「出家」する予定もない。
ブログ活動の「引退」も、もう少し先だろうか。長年の「所属」先
が変わる可能性は高まって来たけど。。
☆ ☆ ☆
さて、ドラマ『A LIFE』の第5話。かなり変則的で複雑な物語
になって来たので、視聴率13.9%への回復は健闘だと思う。
一話完結のスッキリ爽快型とはかなり離れてるし、善なる主人公
の大活躍とも距離がある。分かりやすく言うと、同じキムタク=
木村拓哉主演でも、『HERO』と『A LIFE』は違うのだ。
もちろん、一般的に人気があるのは『HERO』であって、それ
は数字にもハッキリ表れてる。あのタイプだと、何度か見逃して
も、安心して次の回を楽しめるのだ。高齢者から子どもまで。そ
れどころか、文部科学省の道徳教育ともタイアップしてたほど。
それに対して、『A LIFE』を第5話で初めて見た人はとまどう
はず。見事な成功もないし、どうして脳腫瘍で危ない深冬(竹内
結子)が患者の手術を担当してるのかも分からない。羽村(及
川光博)の行動や心理、立ち位置もややこしい。センター試験の
国語の問題で説明させると、炎上してしまうだろう♪
☆ ☆ ☆
つまり、脚本家の橋部敦子らは際どいチャレンジを行ってるわけ
で、ある意味、型にハマった医療ドラマの世界を「手術」してるの
だ。難しい手術だから、血も流れるし、失敗するリスクもある。
しかし倫理的な問題はないし、冒険に痛みや危険は付き物。そう
言えば、キムタクの憧れはトム・ソーヤの冒険だった♪
沖田先生を単なる聖人君子と考えると、数々の疑問点が生じてし
まう。しかし半ばトム・ソーヤと考えれば納得できるのだ。『A L
IFE』と言うより『B LIFE』。これもまた一つの生(a life)。
熱いものを胸の内に秘めて、正しいものも追い求めるし、危ない
事やあまり感心しない事もするガキ。失敗も当然ある。その人間
の原点の姿、少年の生き方が魅力なのだ。
だからつい、患者の安全より、深冬の医師としてのプライドを尊重
して、脳腫瘍の症状が出てるのに危ないオペをさせてしまう。いざ
となったら、自分がすぐ助ける準備をした上で。羽村にケンカを売
られたら、反射的に買いそうになってしまう。半ば、熱い少年だから、
ごく自然な反応だ。一瞬の後に、大人に戻って、大人しくなる。
☆ ☆ ☆
それでは、ようやくこの記事の冒頭に戻ろう。童謡『ぼくらはみんな
生きている』・・・じゃなくて、『手のひらを太陽に』。歌詞の書き
方がいくつか微妙に分かれてるようなので、私の判断で書いた。
この題名は、命の全肯定であると共に、お遊戯という行為への誘
い、広くて明るい世界の認識への誘いでもある。
可愛い莉菜(竹野谷咲=たけのや・さき)が踊りながら、深冬ママ
の前で元気に歌ってた。ある意味、反転させた形の「死亡フラッグ」
(今後の死を示す目印)とも解釈できる。
ただ、普通に歌詞をみると、どんな生でも「友だちなんだ」と歌って
る。ミミズだって、オケラだって。生きているだけで、みんな仲間。
見た目がどうでも、好きになれなくても、正しくなくても。そう言え
ば悪役に見える壮大と、善玉に見える沖田も、友だちだった。
☆ ☆ ☆
逆に言うと、生きていないと、仲間と認めてもらいにくいということ
だ。もちろん、死んだ後も仲間のままという関係はあるが、多くの
場合、徐々に記憶が薄れていくし、関心も小さくなっていく。たまに
墓参りとか法事に行った時だけ思い出すとか。
というわけで、生きていることがまず大切。それなのに、恩師で
ある優秀な医師・山本先生(武田鉄矢)を沖田が「殺した」と思っ
たからこそ、羽村は沖田を殴った。まるで小学校の教室で、子ど
もがケンカするみたいに、一人の教え子という子どもに戻って。
見方を変えるなら、羽村が殴ったのは自分自身とも言える。医療
事故調査報告書で、最終的に山本先生のミスを指摘して、桜坂
中央病院の辞職に追い込んでしまったのは、自分自身。その自
分への怒りを、目の前にいる沖田に投影したとも見れるわけだ。
心理的な防衛メカニズムの典型的なパターンで、医師なら大学時
代の初歩的な授業で習ってるはず。殴った後は、羽村の方が遥か
に痛いのだ。あまりに自分が恥ずかしくて、情けなくて。。
☆ ☆ ☆
だからこそ、まず、自分を仲間だと受け入れてくれる家族に電話す
る。ホッと一息ついた後、留守電に切り替えて録音した、山本先生
からのメッセージを聞いてた。
すると、意外なことに、山本先生は死んでなかったのだ。むしろ、人
間として、医師として、死にかけてた自分を、教え子の羽村が救って
くれたかのように感謝してた。少なくとも、表面的には。
このメッセージほど優れた医学教育はないからこそ、羽村は号泣す
る。先生、本当に申し訳ありません。そして、ありがとうございます。。
☆ ☆ ☆
ここで思い出すのは、山本が行った手術「MICS」(ミックス)。
英語と日本語の直訳は次の通り。
Minimally Invasive Cardiac Surgery
最小で 傷つける 心臓の 手術
テレビ画面のテロップには、「開胸せず小さな切開創による心臓
手術」と出てた。医学的には、皮膚が切れるダメージを「創」、切
れないダメージを「傷」と呼び分けるとかいう話だが、日常的には
むしろ皮膚が切れる方が傷だろう。
専門的な用語法はさておき、山本はMICSの手術を行って
る途中、最小の傷の手術では済まない病状だと気付いた。とこ
ろが、もっと大きく傷つけて手術すると、MICSの症例とはカウ
ントされないから、名医としての評判が上がらない。
だから、最小の傷のMICS手術だけで終わらせてしまって、患者
は完治しなかった。それは、「山本少年」がやってしまった大失敗
であって、結局はバレて、自分が最大の傷を受けてしまった。
・・・かと思ったら、実はその最大に見えた傷、つまり不正の発覚
と病院辞職こそ、山本にとって最小の傷の手術になったというお
話なのだ。ヒネリの入ったハッピーエンドで、めでたし、めでたし。
患者のMICS手術で冒険して失敗した山本が、羽村や沖田のおか
げで、自分自身のMICS手術に成功。結局、ぼくらはみんな、生き
ている。冷静さを失ったって、失敗したって。
こうした重層的な構造が見えて来ると、ネットその他で色々言われ
てる脚本家の実力、底力も分かるだろう。なかなか理解されない
くらいの高度な技術なのだ。
☆ ☆ ☆
最後に、沖田くんと深冬ちゃん、少年少女の冒険についても簡単
に見ておこう。
深冬が米国の沖田に送った携帯メールは、冒険なのだ。壮大から
のプロポーズを知らせて、沖田の出方を見るカワイイ冒険。ただし、
自分の本心は書かない。その場での、自分の傷を最小にしたい
から。結婚して欲しいと伝えて断られたら、大きな傷になると思っ
たから。
それは沖田にとっても同様のこと。既に、深冬のメールでかなりの
傷を受けてしまった。そこでさらに、「オレと結婚して欲しい」などと
伝えて断られてしまったら、致命傷になってしまう。そこで、自分の
傷を最小にするオペ(操作)が、「おめでとう」の文字入力だった。
結果的には2人とも失敗で、大きな傷を受けてしまったけど、まだ
みんな生きている。ここで2人の傷を治すには、まず、深冬の脳
腫瘍手術を最小の傷で成功させなければならない。
その困難な試みにはパワーが必要だからこそ、ねぎ抜き、紅しょ
うが抜きの牛丼をガツガツ食べなきゃいけないし、差し入れして
くれた美人ナースもガンガン食べなきゃいけない♪ コラコラ!
どうせ、後の編集でカットすればいいのだ。
☆ ☆ ☆
ちなみに私は、由紀(木村文乃)よりも、横に座ってた2人の方が
可愛いと思う。聞いてない? あっ、そう♪
若くて可愛い2人が席の中央に座って、地味にカワイイ洋服(ピン
クと白)とカクテルグラスと共に、羽村とカメラの視線を集めてたこ
と。一方、場の雰囲気に引いてる由紀が、黒い服で端っこに座っ
て、普通のビールグラスを持ってたこと。
これらが映像の文法でもあり、平川雄一朗の演出や美術関連ス
タッフの地道なお仕事でもある。
一番上の羽村だけはワイン。お坊ちゃまの井川(松山ケンイチ)だ
け、白い紙ナプキン。そして、羽村と井川の視界に入らない場所
(すぐ横)には、ビミョーなナースが配置されるのだ♪ 失礼だろ!
現実社会は厳しいのであった。それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 切ってつないで治す、心の穴、頭の影
~『A LIFE~愛しき人~』第1話
華麗なるキムタク、雪山へ~第2話
みどりの目に映る FIRST PASSION COLOR~第3話
私って、いつフラれたの?~第4話
逆行性の解離と、二つの穴~第6話
僅かな可能性の扱い方と、リスク管理~第7話
穴(アナ)と由紀&深冬の女王〜第8話
包丁を研ぎ続ける職人たち〜第9話
闘いと穴埋め、自らの存在のために~最終回
(計 4068字)
(追記 91字 ; 合計 4159字)
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