私って、いつフラれたの?~『A LIFE~愛しき人~』第4話
実梨 私って、いつ振られたの?
壮大 バッティングセンターの帰りだよ♪
実梨 そうそう。空振りの後、遠位弓部に凄い当たりだった☆
というわけで、今週も一部で人気のバットを振る話から入ろう(笑)。
またか! 「テンメイのRUN&BAT」、走りとバットのブログだ♪
RUN&BIKEだろ!
☆ ☆ ☆
今週は変則的な用事が色々と入ってるので、短いレビューで済ま
せたい。ただし、あくまでマニアックに。
「山椒は小粒でもピリリと辛い」。
ちなみに、キムタクのラジオ『ワッツ』によると、
「パンツは小さくてもタンガがエロイ」♪
似てないだろ!
木村拓哉ファンなら当然、知ってるエピソードのはずだが、万が一
知らない人は、ウチの記事をご覧あれ。同じようでも、Tバックを身
につけると、後ろのヒモが細過ぎてイマイチの反応らしい♪
キムタクと上手く付き合うには、細かすぎて伝わらない部分でも区
別できる繊細な感性が必要だ、というお話なのだ。ラジオでも、ドラ
マでも。。
☆ ☆ ☆
さて、『A LIFE』第4話は、女性2人が主人公になってた。普通
の視聴者の目線は、ヒロインの深冬(竹内結子)に注目しがちか
も知れない。脳腫瘍よりむしろ、「W失恋」のエピソードで。
ただ、特にナースとか女性の医療関係者なら、由紀(木村文乃)
の姿に「ある、ある」って感じだったはず。もちろん、事務職のOL
とか専業主婦でも共感できることで、男性社会の内部にもある。
自分だって頑張ってるのに、みんな、自分を下に見てる(と思う)。
自分自身もつい、自分を下に見てしまう。。
☆ ☆ ☆
由紀の場合、個人的な不運も重なって、医師への進路にフラれてし
まったらしい。親の病院が医療ミスで傾いて、医者を目指す経済的
余裕が消滅。上から下への転落。仕方なく奨学金を借りて、看護学
校に進学。医師の下で手助けする、オペナースに。
私の身内でも、ちょっと似た例がある。実家の格差は、自分ではど
うしようもない運命だけど、たまたま上の立場にいる人間は、問題
の深刻さに気付かない。というのも、上はしばしば上同士で固まっ
てるから、上下の違いを実感してないのだ。
そして、たまたま下から上に到達できた人は、「やれば出来る」、
「境遇なんて関係ない」、「自分の努力次第」とか口にしてしまう。
やって出来なかった多くの人達を視界に入れることもなく、自分の
幸運を理解することもなく。
「上とか下とか、人間の価値にとって関係ない」といった建前的な
言葉も、似たようなものだろう。そもそもこれは、中の上くらいの人
が、多少の余裕を持って口にしがちな台詞なのだ。
☆ ☆ ☆
そこでまず、自分でも自分を下だと感じてしまう由紀の生きづらさ、
運命にフラれてしまった後の居場所の無さを示す、映像の分析と解
釈を示そう。
提携予定の片山関東病院の医師から圧力を受けて、壇上病院を
辞めようとしてた時、井川(松山ケンイチ)に誘われて「いいよ」とOK
したドライブ。つまり、ナースとしての職場にもフラれて、仕方なく金持
ちのおぼっちゃまと気晴らしするシーンだ。フラれた後にも、大なり小
なり、出会いやチャンスは訪れる。それは深冬でも同じこと。
画像は公式動画(TVer)からキャプチャーさせて頂いた。非営利
の個人ブログのレビューにおける限定的、明示的な引用であって、
著作権・肖像権の問題は生じないと考える。
☆ ☆ ☆
デートもどきのシーンの最初は、このカットから。向こうにそびえ
る白い門は、迎賓館だろうか。上の権威のシンボル。その前には、
走る前にストレッチする女性ランナーが2人。体育会系の元気女子
の代表。左には仲良し女子2人。これらは全て、由紀が入れない
(と思ってる)世界だ。
続いて、華やかな上の世界を目指すアイドル予備軍らしき女の子
3人が、ビミョーに地味で可愛い洋服で踊ってる。YouTube
動画用の安上がりの撮影♪ その右には、子どもと仲良く公園の
お散歩を楽しむ若いママ。これらもまた、由紀には別世界の幸せそ
うに見える人達。すべて、由紀と同じく、若い女性の姿になってる。
橋部敦子の脚本か、加藤新の演出か。何気なく見えるこのシーンが
巧妙に構成されたものだということは、このカットでハッキリする。
左から由紀が歩いて来ると、撮影中だからといって制止されてしま
う。由紀は入れてもらえないのだ。キャピキャピ・アイドルの世界に
もママの育児にも、体育会系女子(右端)にも、白くそびえる門にも。
そこへ右から、ポルシェという馬車に乗った王子様の代わりに、井川
の白い普通車が迎えに来る。全員の視線、由紀と車と門の位置。こ
の撮影には、プロのこだわりとテクニックが感じ取れる。全体の秒単
位の調整が必要。
☆ ☆ ☆
そして、江ノ島の近くの湘南・鵠沼(くげぬま)海岸。由紀が思わ
ず、自分の恵まれない境遇と屈折した思いを叫んだ時のこの
映画的なショット。
主役は、左手前で傾いてる杭(くい)だ♪ つまり、中央の辺りに、
傾いた杭と挫けそうな由紀が映されてる。右端には、しっかり直立
した杭と、金持ちの医師の井川。キレイな象徴表現だ。
左側で、倒れそうな杭を支えるような土台まで見えてるのも素晴ら
しい。美術さんのグッジョブ。小粒でもピリリと光る、いい仕事だった。
この流れが分かると、直後に井川がわざとコケた優しさも分かる。
頭のいい由紀は、直ちに内心でそれを理解。そっけない素振りで、
焼肉を食べに行く。その後、食べられたのだった。金持ちのバット
だから、黄金バットだ♪ コラコラ!
☆ ☆ ☆
繰り返すが、失恋の後には、新たな出会いもある。それは二重、
三重の意味でそうなのだ。
上の2つの画像を見比べてみよう。深冬が沖田にメールして、
壮大からプロポーズされたのを伝えたのが2010年5月。
そして、由紀が壇上病院で働き始めたのが、2010年6月。
由紀の最初(No.1)のノートにしっかり書かれてた。
ということは、深冬と沖田が同時に「フラれた」と思った頃、由紀
には新たな出会いの世界が始まったことになる。若い美人ナー
スは当然、合コンに行かなくてもチヤホヤされたはず。
それらをスルーしてると、やがて素敵な王子様が迎えに来てくれ
たのだ。野菜は食べなくても、私は食べてくれるはず。手先も器用
だし♪
実際、沖田をまじえた会話は意味深でラブラブだった。
由紀 相変わらず、動き、最高ですね♪
沖田 あ~、やりやすかった。
・・・・・・・・・・
由紀 私、ナース辞めません。沖田先生と、できるから。
☆ ☆ ☆
まさか、「引用が一部間違ってる」とかいう指摘は無いだろう♪ 現
在の世界は、「ポスト・トゥルース」。真実を超えたレベルの混沌に
なってる♪
そもそもこのドラマ自体、今回は完全に幻想の世界と融合してた
のだ。壮大の脳の中には、深冬が死んだように横たわってる姿が
焼きついて離れなくなってた。
「私って、いつ死んだの?」。それは、壮大が脳腫瘍を知った時と
言ってもいいし、病院の屋上で深冬が沖田と仲良くしてるのを見ら
れた時と言ってもいい。
壮大にとっては、深冬の姿に、愛と憎悪がぶつかりながら重なっ
ていく。愛する存在から、アンビバレント=両面価値的な存在へ
の変化。憎悪の先には、死の欲望も芽生える。愛する深冬には
死んで欲しくない。と同時に、無意識的には死も願ってしまう。
矛盾に心を引き裂かれる壮大。
☆ ☆ ☆
今回のレビューは、沖田と深冬の「失恋」はいつなのか、時間性
の問題を本質的に考える予定だったのに、かなりズレてしまった。
まあ、ちょっとズレた方がいいのかも。遠位弓部を刺激して♪
まだ言うか!
ごく簡単に言うなら、一般に、出来事の時間・時刻というものは、
一つに定まらないことも多い。
沖田と深冬の場合、沖田が米国のシアトルに行ったのが最初の
大きなキッカケではある。ただ、沖田がどうしても別れたくないの
なら、シアトルに行かないという選択もあったし、行った後の関係
の維持もできたはず。
むしろ、本当に関係を維持したかったのなら、米国の方が簡単だっ
たとも言える。「言わなくても分かる」路線が取りにくいから、声や
文字(メール)での意思伝達が必要。自然と、「口にしなきゃ分から
ない」路線に近づく。
だから、深冬がフラれたのは、沖田が米国行きを決める前とも言
えるし、行った後、沖田が意志を示さなかった数年間とも言える。
逆に、「まだフラれてない」とも考えられるのだ。
それは沖田の側でも同じこと。深冬から来た、壮大のプロポーズを
伝えるメールに、「おめでとう」と返信してしまった瞬間、沖田はフラ
れてしまったとも言えるが、学歴コンプレックスその他でシアトル行
きに追い込まれた時、病院長の娘にフラれたとも言える。もちろん、
深冬が壮大と結婚した今でも、まだフラれてないとも見れるのだ。
☆ ☆ ☆
かつて、フランス現代思想のデリダは、出来事に一つの時間だけを
与えてしまうような考えを「現前の形而上学」と呼んで批判した。
表面的に何かが前に現れた時だけを考えてしまう思考は、様々な
問題を抱えてる古い悪習だというような見方だ。物事の多様なあり
方や見方を、一つの固定されたものへと回収してしまおうとするから。
ちなみに、ドラマの終盤、「松果体部腫瘍」という症例が映されたが、
松果体とは脳の奥の場所。400年前のフランスの哲学者デカルト
が、心と脳のつながる場所と考えたことで有名だ。深冬という名前自
体も、心と脳がつながる深奥の問題点を表してる。。
・・・とかいう理屈を書いてる時間はもうないから、終わりにしよう。
普通の医療ドラマとはかなり違う路線だし、視聴率12.3%と
いう数字はそんなもんだろう。テレビドラマとしては斬新な挑戦で、
今のAIブームを先取りしてた『安堂ロイド』を思い出せば、気にす
るほどのこともない。
結局、4000字書いてしまった (^^ゞ 時間は絞り込めないのだ♪
それでは今日はこの辺で。。☆彡
cf. 切ってつないで治す、心の穴、頭の影
~『A LIFE~愛しき人~』第1話
華麗なるキムタク、雪山へ~第2話
みどりの目に映る FIRST PASSION COLOR~第3話
少年たちの冒険と、最小の傷の手術~第5話
逆行性の解離と、二つの穴~第6話
僅かな可能性の扱い方と、リスク管理~第7話
穴(アナ)と由紀&深冬の女王〜第8話
包丁を研ぎ続ける職人たち〜第9話
闘いと穴埋め、自らの存在のために~最終回
(計 4135字)
(追記 111字 ; 合計 4246字)
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