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闘いと穴埋め、自らの存在のために~『A LIFE~愛しき人~』最終回

素晴らしい☆ 橋部敦子の脚本らしい、マニアックで綺麗なエンディ

ングの形に拍手!

  

  「Let’s save her life」

  (レッツ セイブ ハア ライフ

   

彼女の命を救おうという英語の台詞の最後に、『ア ライフ』という

タイトルの発音をさりげなく持って来てたのだ。

   

「ハー」ではなく「ハア」と読むのは、単なるこじつけではない。不定

冠詞の「a」と、代名詞の所有格の「her」は、母音の発音がほぼ同

じで、「e」を上下ひっくり返した発音記号。

      

こういった言葉遊び的なハイレベルのテクニックをラストに持って来

た作品は、少なくともテレビドラマだと滅多に無いと思う。英語を使っ

た日本のドラマだと、ほとんど初めてかも。

   

ちなみに映像的・物語的なテクニックをラストで誇示したドラマなら、

『ビーチボーイズ』が筆頭。イメージとお話の両面において、連ドラ

の一番最初と一番最後を完璧に合わせたファンタジックなドラマは、

他に知らない。こちらも、脚本家が優秀な作品だった(岡田惠和)。

    

   

     ☆        ☆        ☆

話を『ア・ライフ』に戻そう。最初から感じ取れたことだけど、『A 

LIE~愛しき人~』というタイトルの隠された意味が最終話でハッ

キリした。分かりやすく書き直すと、「A LOVE~愛しき男~」♪

    

沖田(木村拓哉)の愛しき人とは、ドラマ的にはまず壮大(浅野忠

信)。年下の浮気相手が井川(松山ケンイチ)。壮大にとっては、

本命が沖田で、愛人が羽村(及川光博)♪ BL系女子も狂喜乱

舞の内容で、小説・マンガその他の二次創作もしやすいだろう。

      

深冬(竹内結子)や由紀(木村文乃)との男女の恋愛に注目してた

女性視聴者、キムタクファンには、曖昧な宙吊りのままでちょっと

物足りない結末だったかも知れないけど、わざと続編の可能性を

残してる気もする。連続ドラマでなくても、単発スペシャルや映画

とか。

    

実際、この後、沖田がまた日本に帰って来る方が自然だし、その

前にシアトルかどこかの海外で、井川(松山ケンイチ)が沖田の

前に現れる展開も十分予想できる。そう言えば、莉菜ちゃん(竹野

谷咲)が終盤、海の向こうには何があるの?とかママに聞いてた。

海の向こうには、ブロンド美女とのロマンスもあるはず♪

    

壇上病院の急激な経営改革の今後も気になるし、羽村と実梨(菜々

緒)の密会も思わせぶりなままの放置プレイになってる。父に会い

に行った実梨が、続編で羽村との略奪婚を報告するとか♪ 無い

だろ! ハイハイ。長年の穴を埋める、父と娘の美しい和解ね。

   

とにかく、それなりの視聴率と評価を獲得。続編を期待させること

にも成功したから、いい作品になった。ありがちなスーパードクター

ものとはビミョーに違う路線の医療ドラマを切り開いたという意味

でも、成功だと思う。正直言うと、期待以上の出来栄えだった♪

     

    

     ☆        ☆        ☆

ドラマの中盤の見せ場で、カズ(=沖田)と壮大が熱く抱擁するBL

シーン(笑)。演出の平川雄一朗のカメラは、上半身と片手だけを

強調してた。これは、ある意味、上手い撮影テクニックだ。沖田の

右手と、壮大の左手の動きを自由に想像できるから♪ 

    

そう言えば今回、「テント切開」なんて言葉も登場。ファスナーを

開いてバットを握るという意味の隠語だ(笑)。最後までバットか!

    

マジメな医学用語「テント切開」の説明としては、大脳と小脳を分け

る膜(tentorium)を切り開いて患部に向かうことね。下図は

英語版ウィキペディアより。夏のキャンプに使うテントも同様で、

幕みたいに薄く広がる物を指す言葉だ

   

170320a

   

ついでに書いとくと、「バイパスペイテンシー」という用語は、日本

語どころか英語(bypass patency)でもあまり使われて

ないけど、バイパス管が開いて通じてること(医学用語で「開存」)

を指すらしい。バイパス開通性と訳した方が分かりやすい。

  

もう一つ、「VEP波高=大脳機能評価」という画面テロップは、

Visual Evoked Potentials

 (視覚誘発電位)の波の高さ 大脳の機能評価の一つ」と書け

ば明確になる。目の網膜に光刺激を与えて、脳の電気的反応

を確認することだ。

    

   

     ☆        ☆        ☆

話を戻して、ファスナー・・じゃなくてテント切開はさておき、この作

品の根底に、男女の恋愛と同等かそれ以上に、男の友情がある

のは確かだ。広い意味の男性同性愛の常識的な形を描いたとも

言える。男性同士の友情と性愛とを統一的にとらえる考え方だ。

    

ということは、タイトルには微かに、「Anal LOVE」という

意味も込められてた・・と解釈できなくもない。抵抗を感じる人も

少なくないだろうけど、間違いなく生=性の現実の一つの側面。

   

まあ、ウワサによると、BL系女子の一部はそれを否定して、

代案となるキレイな穴を別に空想してるらしいけど♪

    

    

     ☆        ☆        ☆

マジメな話、人間という存在には本質的に「穴」が空いてる=開

いてる。身体的には、口から肛門まで、中心は長い穴なのだ。

  

性愛の営みが、それを双方向から埋めようとする象徴的行為に

なってるのは興味深い。しかも、その行為が反復的だということ

は、完全に埋めることはできないという事態を表してる。埋まら

ないからこそ、繰り返すわけだ。

  

あるいは無意識的に、埋めたくない思いもあるからこそ、繰り返

すのかも。埋めたくて仕方ない。でも、一方では埋めたくない。

穴を埋める行為が、開ける行為でもあるから、まさに二律背反。

アンビバレント(両面価値的)な穴=欠如。それは、埋めようとす

ること自体が快楽だからだろう。

        

そう考えると、深冬の命を救いたいけど死んで欲しいとか、壮大

の支離滅裂な姿もそれなりに理解できる。そもそも人間とは、

根本的に矛盾した存在なのだ。ホラー映画やお化け屋敷、バン

ジージャンプの逃げ出したくなる恐怖が、快感にもなるのだから♪

  

ちなみに、矛盾した人間を理解する時、矛盾しない理論を作り上

げようとすると、無理が生じる。したがって、あらゆる人間理論に

は穴=欠点があると思っておいた方がいい。

   

もっとも完成度の高い理論である数学でさえ、その全体に矛盾

が無いという証明は無いのだ。単に、潜在的な矛盾が運良く表

面化、顕在化しないから、問題とされないということにすぎない。。

     

     

     ☆        ☆        ☆

このドラマは、初回から「穴」を強調してたし、ウチのレビューも

初回からその点に注目して来た。

     

壮大の部屋の絵の後ろ側、壁の穴は、心の穴を示してる。まず

第一に、壮大の穴。さらに、壮大の愛人である実梨の穴。2つあ

るのは、過去と現在、2つの時点にあるからで、両者が深く関係

してるからこそ、隣り合わせにある。

    

壮大なら、過去の父(&母)との関係に生じた穴がトラウマ的に

作用して、現在の穴につながってる。深冬や実梨との関係の穴、

傷。そして、「自分は誰にも必要とされてない」、「自分には存在

価値がない」と思ってしまう、自我の穴。

   

しかし、心の穴=欠如は、誰にでもあるものだ。普段は意識しな

くても、無意識に穴があるからこそ、ちょっとしたキッカケで、穴

埋めの強い衝動が突き上げて来る。

  

例えば、沖田と深冬がふれあう姿を見た瞬間、壮大が愛人・実梨

を呼び戻すとか。一般の人なら、何かストレスが加わると空腹を

感じて、食べ物や飲み物が欲しくなるとか。

   

飲食とは、性愛と並んで、身体的にも精神的にも、穴埋めの代表

なのだ。腹が減るという言葉は、存在の内なる穴が広がることを

表してる。男性が女性に手を出すことを、「食べる」と表現するの

も興味深い♪

      

       

     ☆        ☆        ☆

もちろん、穴は単にネガティブな存在ではなく、ポジティブにも作

用する。沖田の場合、母を失った穴と、勉強が苦手な自分に対す

る劣等感の穴が、外科医としての天才的技術につながった。

   

沖田が今回、壮大への嫉妬に近いリスペクトを口にしてたのは、

無精ひげでウイスキー(or バーボン)に溺れる壮大を励ますた

めだけではない。誰でも、自分なりの穴があって、他の人にはな

かなか分からないということだ。

    

ちなみに私自身は、最近ようやく、自分の本質的な穴を理解でき

て来た気がする。当然、かなりマニアックな穴♪ 遠い過去に、あ

る意味、偶然の流れで空いたけど、より大きな目で見るなら必然

とも言える。天の命令、天命(テンメイ)なのだ。 

   

   

     ☆        ☆        ☆

深冬という女性の場合、穴埋めの欲望は子どもに向かうことに

なる。実際、自分の手術の担当を、夫の壮大ではなく沖田にして

欲しいと言ったのは、娘の莉菜のためだった。パパの失敗でママ

を失った悲し過ぎる子どもにしたくない。。

   

深冬の愛情表現も、一番ハッキリしてるのは、娘に対して。特に、

自分にもしもの事があった時に備えて、将来の娘に向けて書い

た日記のメッセージが典型で、これを沖田から渡されて読んだ壮

大はようやく深冬を助けようと改心した。「面倒くさい」男なのだ♪

    

面倒くさいと言えば、女性には女性特有の面倒くささがあるけど、

男性にもある。代表の一つが、闘いたがること。

   

男同士の勝負をしたがること。女性とか地位の奪い合いが目立つ

けど、もっと些細なことでも争いたがるものだ。大切なもののため、

自らの存在を確立するために闘う一方、闘うこと自体も楽しむ。

    

闘争や勝負を通じて、はじめて成り立つ男の絆というものもある。

沖田の父・一心(田中泯)がカワイイ憎まれ口を叩き続けるのも、

言い合いを通じて息子との本音の絆を深めつつ、自分を超える

存在へと育て上げたいから。それこそ昭和の育て方で、『巨人の

星』の父・一徹もそうだった♪

   

   

     ☆        ☆        ☆    

美しい女に辛い運命が訪れる。そして、彼女を愛する2人の優れた

男が戦いながら、力を合わせて救い出す。その流れを通じて、男

たちも成長していく。。

  

この物語の構造は、ウチのブログが11年半前に初めてレビュー

した連ドラ、『野ブタ。をプロデュース』と同じものだ。

   

子どもや若者向けに、ジャニーズの美少年を使ったのが『野ブタ』。

大人向けにしたのが、『A LIFE』。この後、たまたま(?)野

ブタの2人が春ドラマで共演、木村文乃まで出演するのも、面白い

つながりだと思う・・というのは、一部読者へのご挨拶だったりする♪ 

   

   

     ☆        ☆        ☆     

ウチは時々、ドラマブログと勘違いされるけど、全体をよく読めば

そうでないことは明らかなはず。ドラマ記事は、週1本くらいしか

書いてないし、字数的に際立ってるわけでもない。

   

ただ、長い間、ドラマと格闘して来たのは事実だし、恵まれない作

品や脚本、演出、映像を救い出す努力はして来た。「ハア ライフ」

とか、夜のバッティング・シーンとか(笑)

   

ドラマと無関係な理屈系の記事でも同様。その意味ではやっぱり、

男性的なんだろう。かなりマニアックで、面倒くさいブログ♪

    

Save a life. 些細な存在を救え。その闘いは、他者と共に、

自分という小さな生をも救おうとする、些細な営みなのだ。それが

分かれば、大抵の存在や物事は、愛すべきものに見えるはず。

可愛らしい一つの存在の生、ア・ライフ=ライヴとして。

     

特殊な芸能状況の中、一つの存在を救出する闘いに全力を尽くし

たキャスト&スタッフに拍手しつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡

     

   

   

P.S. 最終回の平均視聴率(関東地区、ビデオリサーチ)は

    16.0%で自己最高。おめでとう! 

    瞬間最高視聴率は17.5%で、沖田が深冬とお別れ

    したシーン。やはり男女の恋愛が強いということか。

    

    

cf. 切ってつないで治す、心の穴、頭の影

              ~『A LIFE~愛しき人~』第1話

   華麗なるキムタク、雪山へ~第2話

   みどりの目に映る FIRST PASSION COLOR~第3話

   私って、いつフラれたの?~第4話

   少年たちの冒険と、最小の傷の手術~第5話

   逆行性の解離と、二つの穴~第6話

   僅かな可能性の扱い方と、リスク管理〜第7話

   穴(アナ)と由紀&深冬の女王〜第8話

   包丁を研ぎ続ける職人たち~第9話

   

                      (計 4761字)

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受信: 2017年3月21日 (火) 18時55分

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