アニメ・映画の原作マンガ『3月のライオン』第1巻、軽い感想
なるほど! これは個人的にもツボだし、一般ウケもするだろうね♪
アニメ化、映画化されたのも納得。原作自体も、第4回マンガ大賞、
第35回講談社漫画賞一般部門、第18回手塚治虫文化賞マンガ
大賞授賞。
地味な将棋を題材にしたマンガで、読む層が限られてるだろうと思っ
てたけど、実際に読んでみると、普通に面白くて絵が可愛い「少女
マンガ」だった。
もちろん、青年誌『ヤングアニマル』連載で、主人公は少年。少なく
とも第1巻は恋愛の要素も少なめだから、少女マンガと呼ばない人
もいると思う。逆に、少年マンガとか青年マンガというジャンル分け
も出来なくはない。
ただ、人物の可愛い描き方や擬声語の多さ、背景によく出る花柄み
たいな模様、食べ物のコネタの多さ(笑)などから、私は少女漫画だ
と考える。ちなみに原作者・羽海野(うみの)チカの前作であり、代表
作でもある『ハチミツとクローバー』は、もっと少女漫画に近い感じだ。
とにかく、私も含めて、男性も女性も楽しめる作品で、将棋を知らな
くても、将棋自体に興味がなくても大丈夫。子どもから大人まで、軽
い読み手から重い読み手まで、広い層をターゲットにした漫画だ。
☆ ☆ ☆
さて今回、原作を読んでみようと思った直接のキッカケは、たまたま
大きな新聞広告が目に入ったから。映画公開に合わせた全面広告
が朝日の朝刊に出てたから(17年3月15日)、サラッと読み流すと、
可愛い有村架純の名前を発見♪ そうゆう理由か!
倉科カナもフツーに可愛いけど、週末の混んでる映画館へ新作を
見に行くのも大変だから、とりあえず無料の試し読みをネット検索。
出版社である白泉社の試し読みは、登録してないからなのか、私
のiPad Proだと読めなかったから、「ソク読み」というサイトを利用。
アプリ不要で動きも軽くて、登録も不要。まさに「即読み」だった♪
☆ ☆ ☆
まず、「3月のライオン」という奇妙な題名について。マンガのタイト
ルには、小文字の英語で、
「March comes in like a lion」
と書いてる。「3月はライオンのようにやって来る」。
いつものように早速、英語版ウィキペディアで調べてみると、
「March comes in like a lion
and goes out like a lamb」
という英国のお天気の諺がヒット。
エルの発音を揃えてるのが諺らしい特徴(like、lion、lamb)で、
普通に直訳するなら、
「3月は、ライオンのようにやって来て、子羊のように去る」。
ということは、「3月の天気はまず荒々しくて、やがて春の穏やかさ
に変わって来る」という意味で、おそらく原作者も主にその意味で
使ったのだろう。つまり、主人公・桐山零(映画では神木隆之介)の
人生は荒々しく始まったけど、やがて安らぎが訪れるという意味だ。
ライオンから子羊への流れ。
☆ ☆ ☆
ただ、英語版ウィキの説明を読むと、実際の3月の天気はあまりそ
うなってないという話も書かれてる♪ 逆に、子羊みたいな天気で
始まったらライオンみたいな天気に変わるとか、ウェールズならむ
しろ4月の天気に当てはまる諺だとか。
まあ、そこまでマニアックな細かい話は、フィクションの原作者には
おそらくないと思う。それは大ヒットしたドラマ『逃げ恥』のタイトル、
「逃げるは恥だが役に立つ」というハンガリー語の諺とされるもので
も同様。
こちらについては、ウチで去年、突っ込んだ話を書いてて、ハンガ
リーからのアクセスも頂いた。要するに、これが本当にハンガリー
の諺と言えるかどうかちょっと怪しいという記事で、現地からのク
レームは入ってない♪ ただ、日本のアクセスも多くない(笑)
ちなみに、『3月のライオン』は日用品の大手LIONとタイアップして
るようで、タイトル決定との関連は今のところ不明。有名な『魔女の
宅急便』とクロネコヤマトの関連も、登録商標とか特許庁とか、複雑
で微妙な大人の事情が絡んでるようで、真相はよく分からない。。
☆ ☆ ☆
話を戻すと、第1巻で語られた内容だけで考えると、不幸な運命
の中で必死に生きようとする男の子の切ないお話だ。天才少年
が大活躍しながら成長していく、典型的なヒーロー物ではない。
以下、まだ作品を知らない方は、ネタバレにご注意あれ。
零の子ども時代に、両親と妹が交通事故で他界。施設は嫌だと思っ
てた彼を救ってくれたのは、冴えないプロ棋士らしき男性・幸田だっ
た。亡き父の将棋仲間で、心温かい申し出でもあっただろうけど、
零の将棋の才能に目をつけた形にもなってる。
孤児(みなしご)の零には、将棋で強くなって、この義父に認めても
らう道しかなかった。将棋好きだとウソをつくことから始まった養子
(正確には内弟子かも)の生活では、義父の実の娘・香子(有村架
純)と実の息子・歩(あゆむ)に勝つことになる。
実の子2人は将棋の道から外れて遊びふけるようになってしまい、
零は辛い生活から目を背けるようにして将棋に没頭。中学2年の
終わりに、プロの一歩手前(奨励会・三段リーグ)まで到達。
一刻も早くプロになって自立するために、高校進学さえ諦めたはず
なのに、なぜか17歳・五段の時点だと高校生活を送ってる一方、
たまたま酔いつぶされてたところを助けてくれて、その後も親切にし
てくれる女性が、あかり(倉科カナ)。
妹のひなた、もも、おじいさんも交えて、下町の人情あふれる優しさ
で包んでくれるけど、実はこの明るい家庭にも陰の部分、哀しい過去
があるらしい。。
☆ ☆ ☆
このマンガは現在も連載中で、コミックは12巻まで刊行。2007年
から10年近くも続けてるわりに、巻数が少ないのは、時々休載して
るかららしい。作者の体調の問題が大きいのかも。
第1巻の冒頭は、いきなり『新世紀エヴァンゲリオン』の主人公・碇
シンジが落ち込む時の暗い描写みたいになってる。黒字に白抜き
の文字も使って、
「ゼロだって── ヘンな名前ぇ──
──でも、ぴったりよね アナタに ・・・・・・
アナタの居場所なんて この世の何処にも無いじゃない?」
☆ ☆ ☆
この残酷な言葉を発してるのは、零に負けて将棋の道を諦めた
香子。ちなみにこの名前は、将棋の駒「香車」(きょうしゃ)の別名、
「香子」(きょうす)から付けられてる。ひたすら真っ直ぐ前に進む
だけの駒で、鋭いけど融通が利かない香子の性格に似てるのだ。
弟の名前・歩(あゆむ)は、地味な駒である歩(ふ)から来てる。
一方、あかり、ひなた、モモという三姉妹の名前は明るいものばか
りで、名前の付け方はすごく分かりやすい。
ただ逆に言うと、今後、名前の由来とキャラが分かれて来るんだろ
うとも思う。零は無限の可能性に進むんだろうし、香子の人生は曲
がりくねって、多面性を持つ。あかり達は既に、名前に反した暗さも
表してた。あかりは夜の女のバイトもしてるし、下の2人はよく泣く。
☆ ☆ ☆
個人的には、東京の下町(足立区)出身の女性作者らしい、和風
文化のコネタ(お盆とか)が興味深かったし、将棋のコネタだけでも
楽しめた(監修・先崎学)。何度か書いてるように、私も田舎街の少
年時代、微かに将棋のプロを夢見てたのだ。
アマチュアの少年としては一応、全国大会の活躍もして、零の担任
の先生が愛読する雑誌『将棋世界』にも名前が載ったけど、プロの
世界はあまりに敷居が高いし、レベルも高い。もし本気で挑戦して
たら、おそらく挫折して、香子や歩みたいに屈折した人生になって
たと思う。まあ、事の良し悪しはともかく。。
話変わって、零みたいに居場所がない少年の物語としてすぐ思い
出すのは、『野ブタ。をプロデュース』。ウチのブログがドラマレビュー
を始めたキッカケになった作品だ。主演の2人は、まもなく春ドラマ
で再共演となる。
『3月のライオン』における必死の将棋に対応するのが、『野ブタ』
におけるゲームのプロデュース。最近の日本でも、子供の貧困や
格差問題がよく話題になるけど、必死に生きるしかない少年・少女
よりは、遊びで生きるしかない子供の方が遥かに多いだろう。
少し前まで、代表的な遊びはテレビゲームだったけど、今では完全
に、スマホやSNSというゲーム=戯れになってる。毎日楽しくて、み
んなとつながってて、いいね♪・・と本心から思ってる子供は少ない
はず。本人に、表面的な自覚があるかどうかはさておき。
その意味では、現代社会も『2010年代のライオン』だ。この先、子
羊がやって来るのか、あるいは更なる猛獣や恐竜がやって来るか。。
☆ ☆ ☆
私としては、将棋界どころか、遥かに複雑な囲碁の世界でも、人間
を上回る実力まで到達してしまった、AIやロボットというライオンが
最強だろうと考えてる。だから、この猛獣と上手く付き合えるかどう
かが最大のポイントだろう。特に、将棋や囲碁のプロ棋士達にとっ
ては死活問題になってるはず。
30年後には、AIがこうした人間味あふれるマンガも描けるようになっ
てるのかも・・とか、ロボットがマンガを読んで楽しんでるかも・・とか
思いつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 最終章(10章)の「カッコーの巣の上で」というタイトルは、
映画その他で有名な言葉を借用しただけで、本来ならむしろ
「モズの巣の上のカッコー」と言うべきだと思う。
要するに、よそ(モズ)の家に勝手に入り込んで、本来の住人を
追い出してしまう存在(カッコー)のことで、零を表してる。「カッ
コーの巣」という英単語は、「精神病院」を意味するネガティブ
な隠語だから、零の悲惨な精神状態も表してるのかも。。
(計 3863字)
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