夏目漱石『夢十夜』の第六夜、問題と正答への疑問~全国学力調査2017中学・国語A
この記事は2500字くらいは書こうと思ってたが、残念ながら仕事
その他に追われて余裕が無い。仕方がないので、ごく簡単に全国
学力調査の「正答」例を批判しとこう。2017年4月18日に実施さ
れたテストで、19日の朝日新聞・朝刊に掲載されてた。
当サイトでは5年前、中学数学Bの問題の解答例を批判する記事
をアップ。地味なアクセスが集まり続けてる所を見ると、私と同様の
疑問を感じた人は少なくなさそうだ。
全国学力調査2012・中学数学B、
スキー・ジャンプの問題(原田vs船木)
その時は、大まかに言うと論理的な疑問が生じたわけだが、今回
は半ば、文芸作品鑑賞のセンスに対する疑問だ。ただし、それ以外
にも色々な事がからんでると思う。解釈力、出題の仕方、等々。。
☆ ☆ ☆
中学・国語Aの問題6の出典は、一番最後に丸カッコで、(夏目漱
石「夢十夜」による)、とだけ書かれてる。実際は、短い「十夜」の内
の第六夜で、ほぼ全文だが、そういった説明は無い。ちなみに『夢
十夜』は、無料の電子図書館「青空文庫」で全文公開中。
問題文の第六夜のあらすじは次の通り。主な登場人物は3人で、
1200年ごろに活躍した彫刻の天才・運慶と、見物人の若い男と、
「自分」。自分は夢を見ていて、運慶の仕事ぶりを見に行く。非現実
的で幻想的なストーリー。
運慶が仁王を彫る様子を、自分が感心しながら見物してると、若い
男が言った。
「あれは眉や鼻を鑿(のみ)で作るんじゃない。あのとおりの
眉や鼻が木の中に埋まっているのを、鑿と槌(つち)の力で
掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなもの
だから決して間違うはずはない」。
「自分はこの時はじめて彫刻とはそんなものかと思いだした。
はたしてそうなら誰にでも出来ることだと思いだした」。
だから自分は家へ帰って彫り始めたが、
「不幸にして、仁王は見当(みあた)らなかった。・・・・・・自分
は積んである薪(まき)を片っ端から彫ってみたが、どれも
これも仁王を蔵(かく)しているのはなかった。」
(問題冒頭の文章終了)
☆ ☆ ☆
さて、問1は、主な登場人物3人の関係をたずねる簡単な選択肢
付きのもので、異論はない。それに対して、問2はかなり疑問だ。。
「どれもこれも仁王を蔵しているのはなかった」とありますが、
この部分の意味として最も適切なものを次の1から4までの
中から一つ選びなさい。
1. 木挽(こびき)が隠した仁王を見付けられなかった。
(注. 木挽とは薪を切り出した人)
2. 木が堅くて鑿では仁王を掘り出せなかった。
3. 薪が小さすぎて仁王が入っていなかった。
4. 仁王を彫刻することはできなかった。
☆ ☆ ☆
一読してすぐ、出題者が4番を正答と考えてるのは分かる。しかし、
それが正答とか模範解答とはとても思えない。
まず、あまりに平凡な解釈で、漱石の短編の内容や言葉遣いの面白
みを消してしまうものになってしまってる。
また、これはあくまで夢であって、700年も前の彫刻師を見物しに
行くような物語なのだ。「どれもこれも仁王を蔵しているのはなかっ
た」という言葉も、夢の中の自分の思いを表してる。
「自分」が若い男の言葉を、「彫刻は実は簡単だ」といった感じで普
通に解釈した証拠は書かれてないのだから、本気で文字通り、仁王
を探したと考える方が自然。実際、終盤の描写は全てそうなってる。
☆ ☆ ☆
ここでおそらく出題者や解答制作者はこう反論したくなるだろう。選択
肢の他の3つは選べないから、消去法で残るのは4番だけだと。
確かに、1番は「木挽が隠した仁王」という文が言い過ぎになってる。
若い男の説明に木挽は出てないし、その後の文章にもその木挽が
隠したと示す部分は無い。2番は「堅くて掘り出せなかった」という
部分がおかしい。自分は勢いよく彫り続けたのだから。
ただ、3番はいい線行ってる。出題者の側は、「薪が小さすぎて」とい
う文がおかしいと考えてるのだろうが、この問題には絵が載ってて、
人間の背丈ほどの大きな木を運慶が彫る姿が描かれてるのだ。
それに対して、「自分」が彫った木は薪だから、当然小さいはず。さ
らに、問題文の最後に3番を付加すると、夢独特の滑稽さも増す。
というわけで、どれか選ぶのなら3番か4番だろうけど、どちらも正答
とか模範解答と呼べるほど明らかではない。それなら根本的に、出
題の仕方がおかしいということだろう。むしろ例えば、簡単な記述問
題にして、答え方にある程度の広がりを持たせる方が良かった。
☆ ☆ ☆
人によって色々な見方があるのは当然として、選択肢から正答を
一つ選ばせるのなら、それなりに飛び抜けた説得力や優越性が必
要だ。義務教育で全員参加のテストなんだから、出題の際はもう
少し熟慮すべきだろう。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 1970字)
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