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パノプティコン(一望監視装置byベンサム)と、安倍首相の一強体制

先日、朝日新聞でちょっと面白い連載が始まった。興味深いという

よりも単純に、色んな意味で面白い内容だ。2017年4月18日

から朝刊に掲載されてる、「パノプティコンの住人」。

   

大型企画「1強」の第2部のタイトルで、第1回の大見出しは「首相

から電話 質問を封印」、「意をくみ、自ら縛る議員たち」となってる。

  

この2つの見出しだけでも、

 「パノプティコンの住人」=「安倍一強に支配された世界の人々

という意味だろうと想像できる。記者は、二階堂友紀、中崎太郎。

  

ちなみに言葉的には、パン(pan)が「すべての」、オプティコン

(opticon)が「目の、視覚の」というような意味だから、パノプ

ティコンとは「すべてを見るもの」といった感じの意味になる。

     

   

      ☆        ☆        ☆

170422a

     

知る人ぞ知る言葉だが、ほとんどの人は知らない「パノプティコン」

(panopticon)。朝日は3面に上図を掲載すると共に、1面で

こう説明してた(1面担当は二階堂記者だけかも)。

     

  パノプティコン 権力による社会の管理・統制システム

 パノプティコン。もともとは監視者がいてもいなくても囚人が

 監視を意識する監獄施設のこと。転じて20世紀にフランス

 の哲学者フーコーが、権力による社会の管理・統制システム

 の概念として用いた。

  

 独房で権力のまなざしを常に意識する。パノプティコンの

 監獄に閉じ込められた囚人のありようは、権力に分断され、

 従属し忖度(そんたく)する「1強」の政治状況で起きている

 現象に似ている。

  

 自民党、野党、官僚、メディア。それぞれが「1強」のもとで、

 「パノプティコンの住人」のように支配されていないだろうか。

 連載第2部で探っていく。

   

   

    ☆        ☆        ☆

3面には、フーコーの専門家として、石田英敬・東大教授の説明

もあった。

  

パノプティコンとは、「権力が支配される側を『自己規制させる技術』

のことだ」。「権力がどんな手法で、支配しようとしているのか。それ

を認識することが、パノプティコンの構造から解放される第一歩だ」。

   

この説明を普通に読むと、まるで権力とは向こう側にあるもので、

自分たちとは別の強者のように感じてしまうが、フーコーの権力論

というのは、そうした古い単純な構造にはなってない。

   

権力とは、メディアや国民の側にもあるものであって、問題は大小

さまざま、無数に存在する権力が織り成す複雑な構造と作用なの

だ。専門家は、そうした基本は理解してるはずだが、朝日の記事に

は反映されてない。今後の連載内容にも注目するとしよう。

      

    

     ☆        ☆        ☆

ここで、ウィキメディアから、写真と図を引用しておく。まずは、パノ

プティコン的な施設の典型的な実例。キューバの写真らしい。

   

170422c

   

一方、フーコーの著書『監獄の誕生』(原書の主たる題名は「監視

と処罰」)に掲載されてた図の1つは、下の通り

      

170422b

  

英語版ウィキペディアによると、哲学者ベンサムのアイデアに合わ

せて、建築家ウィリー・レヴェリーが描いたものらしい(共に英国)。

ベンサム全集・第4巻所収。横から見た図(左上)とその断面(右

上)、さらに上から見た断面(下側)を組み合わせた設計図だ。

18世紀の末、1791年の作品とのこと。

   

   

     ☆        ☆        ☆

続いて、フーコーの著作の日本語訳(新潮社)から引用してみよう。

   

 「見られてはいても、こちらには見えないのであり、ある情報の

  ための客体ではあっても、ある情報伝達をおこなう主体には

  けっしてなれないのだ」(p.203)

  

 「権力の自動的な作用を確保する可視性への永続的な自覚

 状態を、閉じ込められる者にうえつけること」(同上)

    

上の二番目の内容を実現するだけなら、別にパノプティコンなど

必要ない。監視人や監視の回数を増やすとか、現代なら監視カ

メラを多数設置するとか、色々な方法がある。

   

「一強」が単独で監視するには、パノプティコンが好都合なのは確

かだが、一強が人間一人の場合には、実はパノプティコンの効果

は薄れてしまう。一人で24時間、すべての部屋と囚人を監視でき

るはずはないからだ。

   

私が囚人で、何かたくらむとすれば、ランダムな時間をおいて少し

ずつ何度も行う。それらの行為の大部分が、ただ一人の監視者に

見つかってしまう確率は非常に低いからだ。

   

さらに、決定的な行為に踏み切った時、ただ一人の監視者がそれ

に気づいて止めに来たとしても、間に合わない可能性が十分ある。

中央の監視塔(の上部)と囚人の個室が遠すぎるからだ。

    

要するに、パノプティコンを全能視するのは、単なる政治的主張へ

の利用などであって、現実的で客観的な分析ではない。

    

    

      ☆        ☆        ☆

さらに、上のフーコーの引用の一つ目を見てみよう。「見られては

いても、こちらには見えない」と書いてある。

    

普通にパノプティコン的な建築を作れば、中央の監視者は周囲の

囚人から見えてしまう。監視者=一強は見えないどころか、全員

から逆に監視されてしまうわけだ。

   

そこで、監視する側には、見られないための工夫が必要になる。

フーコーの著作だと、例えば次のように書いてるのだ。

  

 「ベンサムは、監視者が塔に居るかどうかを人には確定しがた

  くするために、また囚人たちには独房から一つの人影を認め

  ることも一つの逆光を捕捉することもできなくさえするために、

  あらかじめ次の措置をとった。中央部の監視室の窓によろい

  戸をつけるだけでなく、さらには、その室内を直角に区切るいく

  つかの仕切壁を設けて・・・」(p.203-204)

   

この辺りまできっちり具体的に考察する所に、フーコーの価値があ

る。あるいは、細部まで理解して初めて、フーコーを読む意味があ

るのだ。大まかに要点だけ読んでしまうと、直ちに反論や疑問が生

じてしまうだろう。様々な先入観を持っていない状態なら。。

     

    

     ☆        ☆        ☆

こうして、実際の監視施設やフーコーの著作と比較しながら考える

と、安倍首相の一強体制をパノプティコンとする見方に足りない部分

や側面が分かるのだ。

     

つまり、実は首相の側は、自分を隠す仕組みが十分無いどころか、

周囲の「囚人」(=政治家)よりも遥かに細かく監視されてるわけだ。

直接会ってる人や機会の数も圧倒的だし、メディアその他の注目度

も圧倒的。

    

おまけに、周囲の政治家の側は、何かを安倍首相に発見されたとし

ても、あまり厳しい罰を受けない可能性が高い。厳しい処罰を乱発

すると、一強体制を維持できなくなるリスクが高まってしまうからだ。

  

パノプティコンの塔の中は、囚人から見えないし、塔の維持には、

囚人は必要ない。

   

しかし、首相は周囲の政治家その他からかなり見えてるし、監視体

制の維持には政治家たちの協力や支持が必要となる。首相のすぐ

そばに常にいる首相夫人の側から、一強体制に亀裂が入る可能

性も高い。

   

   

      ☆        ☆        ☆

果たして、朝日の記事がその辺りまで考えた上での現実的な内容

になるかどうか。面白い着眼点でもあるし、今後に期待しよう。

  

ちなみに、安倍一強よりもっとパノプティコンに似た例を挙げるな

ら、マイナンバー制度がある。こちらからは監視者が見えないし、

国民一人一人は孤立して個人情報を守ってる。おまけに、監視者

の視線を何となく前提として、内在化して行動するのだから。

   

それでは今日はこの辺で。。☆彡

       

                   (計 2908字)

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