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過去の負から未来の正へ、脳死と臓器移植~『コード・ブルー3』第6話

 それでも 医療の現場では出会ってしまう 

 激しく揺さぶられてしまう自分に 

 そして落ち込む

 

 医者を続けている限り 私たちは 

 自分に落胆し続けるのだろう 

 自分に落胆することは 悪いことじゃない 

 心底 自分が嫌になってはじめて 

 人は変わろうと思えるから 

 

 落胆は成長につながる 

 でもそれは若い人の場合だ 

 私たちはもう 昔の自分じゃない 

 落胆が成長につながる時期は 

 とっくに過ぎてしまった 

 

 今の私たちに求められるのは 

 成長ではなく結果 それだけだ

 

         (脚本 安達奈緒子)

 

 

    ☆        ☆        ☆

含蓄に富んだモノローグ(独白)だし、意外なストーリー展開とも関連

してる。攻めてる言葉でもあるし、いいね♪

 

これ、「アラサーは若い人じゃないの?!」という驚きのつぶやきとか、

「そうそう、落胆は落胆でもう成長しないよ」という中高年視聴者の

自虐的な定年・・・じゃなくて諦念とかをもたらすだけじゃない。

 

遥か遠く深い視野で、脳死の問題も語ってるのだ。脳死においては、

ある意味、落胆は成長につながらない。正確に言うと、元・患者や

家族の落胆は、元・患者の成長にはつながらない。

 

そこで、他者の生を長くすることにつなげようとするわけだ。つまり、 

脳死者の落胆は、他者の「生長」につながる。あるいは、つなげる。

 

今回のサブタイトルの「落胆の向こう側」には、そんな意味も込められ

てる気がする。本当は他人じゃなく、患者自身の成長や生長につなげ

たかったのに。。

 

 

     ☆        ☆        ☆

今回、表面的には2つの話がメインになってた。一つは、荷崩れ事故

が発生した冷凍倉庫が落雷で停電になって、フェロー2人が閉じ込め

られた話。もう一つは、脳死&臓器移植だ。

 

しかし、この2つは、二通りの意味で重なるのだ。まず、過去の負

(ネガティブ)から現在・未来の正(ポジティブ)に向かうという意味で。

 

ビビリの灰谷(成田凌)は、シアンガス騒動で自分の不甲斐なさに落胆

した後、藍沢(山下智久)の強い言葉を聞いて、パワハラで訴えた♪

違うわ! 横峯(新木優子)の手助けを受けつつ、麻酔なしで鼠径部

(そけいぶ)の切開&結紮(けっさつ)に成功した。灰谷の胸の無線

カメラ映像で、白石(新垣結衣)がアドバイス。

 

一方、脳死&臓器移植は、元患者の過去の負から、他の患者の未来

の正に向かうもの。その様子を緋山(戸田恵梨香)と共に見守る中で、

名取(有岡大貴)も今までの共感性や責任感の乏しさから成長できた。

 

 

     ☆        ☆        ☆

けれども、そういった「いい話」の次元とは別に、挑発的な次元でも、

冷凍庫手術と脳死移植は重なってたのだ。どちらも、主たる当事者

は、積極的には手術に同意してないから。

 

先に横峯が切ってた時、患者の森口さん(?)は泣き叫ぶようにして、

「止めてください」と懇願してた。

 

冷凍食品のミックス・ベジタブルによる冷却だけだと、痛みに耐えられ

ない。事故が自分のせいだというのは後知恵に近い理屈だろう。苦痛

が激し過ぎる時、死を望むのは自然なこと。その点は、末期ガンでも

拷問でも同じで、灰谷が自分の事情を話した後、「やらせてください」

と頼んだ時も、患者は(ほとんど)黙ったままだった。

 

 

     ☆        ☆        ☆

これは、現在の日本の脳死・臓器移植でも同様なのだ。本人の意思

がなくても手術が実施される。

 

日本臓器移植(JOT)ネットワークHPで確認しとこう。今回のドラマ

の最後、エンドロールに名前が記載されてた組織(公益社団法人)だ。

 

170822a

 

日本の歴史を簡単にたどると、激しい論争の末にようやく1997年、

臓器移植法が施行されたものの、本人の書面による意志表示が必要

だったために、脳死移植はほとんど実施されなかった。

 

そこで、希望患者は外国に向かうことになるが、外国でも臓器は足りて

ない。2008年、国際移植学会が「自国で救える努力」を促したことを

受けて(イスタンブール宣言)、2009年に日本で法律改正。2010年

に施行。そうしないと、富裕国の日本が、貧しい外国人患者から臓器

を奪い取る形になる恐れもある。

 

下は改正後の法律原文、第六条だ。改正に関する論争はそれほど

盛り上がってないが、細かい言葉遣いに、問題の難しさと関係者の

苦労がにじみ出てる。例えば、「『脳死した者の身体』とは、脳幹を

含む全脳の機能が不可逆的に停止するに至ったと判定された者の

身体」という言い回しとか。

 

170822b

 

 

     ☆        ☆        ☆

これによって、国内の脳死移植は約5倍前後に急増した。16年まで

の提供者(ドナー)の推移グラフも添えとこう。総数423件。

 

170822c

 

2017年の7月までの提供は39件だから、7月末までのトータルは

 423+39=462件。

 

ちなみにドラマの山口匠くん(17歳、高校2年生)は、8月15日に

第461例目となってたから、正確に実際のデータを反映してる。

 

もちろん、今でも全く足りてないわけで、現在の移植希望登録患者

は約14000人弱(腎臓12000人、心臓600人など)。橘の

息子・優輔くん(歸山竜成)も、順位が2位だったために移植されず。   

ただ、現場を見た直後の橘(椎名桔平)は、個人的な残念さよりも、

脳死移植というものの重さに心を奪われてた。

 

提供に関する意思登録者は約14万人で、大部分は脳死で提供する

と選択。全人口と比べると、1000人に1人、0.1%の割合。。

 

 

     ☆        ☆        ☆

このドラマの医療監修の正確さは、大掛かりな手術シーンにもよく

表れてた。6人の移植希望者(レシピエント)を担当する病院から、

それぞれ5人ほどのスタッフが到着。コーディネーター1人を含めて、

6人くらいのチームになってた。

 

壁には分刻みのスケジュールが貼られてる。実際のものと同じ形式

であることは、公式サイトの動画で確認できた。ここには書かれて

ないけど、ドラマで印象的だったのは、執刀前の黙とう。10秒程度。

 

 移植チーム

  手術室入室 8/15 12:30~

 ミーティング 

  開始~終了 12:50~13:10

 ドナー入室 13:30

 執刀 14:05

 全身ヘパリン化 15:05 (注. 抗凝固剤の投与のこと)

 大動脈遮断 15:25

 心臓摘出 15:40

 (以下、肺、小腸など・・・)

 

そして、クーラーボックスに入れた臓器が、全国6か所に運ばれる。

心臓は、西日本の10歳代・女性のもとへ。

 

ちなみに心臓移植は総額で数百万円。保険が適用されるから、命の

値段としては高くないだろう。提供は、報酬とか謝礼はなしで、善意

によるとされてる。ただ、それは国内の(建前の)話。貧しい外国とか

の実情だと、そういった建前は通じないはずだ。生殖医療も同様。

 

脳死は死なのか?という生命倫理の問題は、最近の日本も含めて、

意外なほど世界で話題になってない。この記事でもスルーしとこう。

死ぬ際に脳死になる確率は1%程度だし、自分の臓器が移植される

確率はゼロに近い。心配なら、「提供しない」意思を示せば大丈夫。

 

 

      ☆        ☆        ☆

話の次元は違うが、ドラマの場合、摘出後の身体の処理は、緋山や

名取以外、若くて美人のナース3人が担当してた。ドラマだから、芸能

事務所が若手タレントやモデルをプッシュしただけかも知れない。

 

ただ、私は、家族が大病院の特別室に入った時のことをよく覚えてる。

他に空き部屋が無くて、たまたま一時的に入っただけだが、スイート

ルームみたいに大きくて綺麗な部屋で、やっぱり若くて可愛いナース

が担当してたのだ。

 

もちろん、それも偶然とか主観の問題かも知れない。でも要するに、

世の中には、建前に出ない本音の側面、裏側があるという話だ。外見

の問題、お金や臓器のやり取り、就職活動、公務員の対応、etc。

過去、窮地に陥った政治家がすぐ入院したことも思い出される。。

 

 

      ☆        ☆        ☆

最後に一言。今回の演出について。西浦正記ではないし、葉山浩樹

ともちょっと違うけどな・・と思ってたら、田中亮。2010年頃から活躍

してる若手で、『医龍3・4』、『リッチマン』、『ラスト・シンデレラ』、

『オトナ女子』など。

 

映像、演技、音楽、どれも基本に忠実なわかりやすいものになってて、

ちょっとした遊び心やお笑いも入ってた。

 

冒頭の冴島(比嘉愛未)の映し方が目立ってたね。最初は手前で身体

のみ映して、声は緋山と白石のおしゃべり。ナース雪村(馬場ふみか)

いじりが冴島いじりに変わった所で、休み明け出勤の冴島の仏頂面が

いきなり登場♪

 

他に、灰谷と横峯の上着の奪い合いとか、太ったさん・・じゃなくて

太田さんの使い方もコミカルだった。『ボク運』とか、日テレの土曜

みたいな軽いノリ。

 

 

      ☆        ☆        ☆

来週は、約束を破って藍沢が奏(田鍋梨々花)の手術をしてなかった

とかいうストーリーかな? 普通のヘリコプターはよく落ちるから、

ドクターヘリが墜落してもそれほど不思議はない。

 

まあでも、撮影だと急ぐ必要がないし、天候や場所も選べるから、

事故の確率は低いはず。残り数回、安全第一で制作して欲しいね。

電線の無い場所で。

 

なお、視聴率はほぼ変わらずで、13.7%。ビデオリサーチ、関東

地区。あんまし関係ないけど、真木よう子の視聴率ツイート問題は、

東スポが9割悪いと思う。明らかに間違ってる部分があるし、デマ

らしき部分もある。ただ、真木のtwitterもちょっと不用意かも。

 

それでは今日はこの辺で。。☆彡

 

 

 

cf. 救命の良心=両親、子ども達のために

             ~『コード・ブルー3』第1話

   「親子の心、共に知らず」、されど共に生きる~第2話

   身体の答え、ピアノの答え~第3話

   かすかな笑顔、ささやかな花火~第4話

   藤色のシオン(紫苑)、他人の命に寄り添って~第5話

   呵責、責任、罪責感~第7話

   無意識の気まぐれ、運命のいたずら~第8話

   大好きなあなたの「死」は見たくない~第9話

   仲間と共にトンネルウォーク、光さす出口を探して~最終回

     ・・・・・・・・・・

   僅かな積極的休養ラン&『コード・ブルー2』第1話  

   ドクターヘリを取り巻く腕~『コード・ブルー』第1話

   『コード・ブルー』のヘリコプターMD902について

 

                  (計 3921字)

          (追記 81字 ; 合計 4002字)

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コメント

さすが、マニアックブロガー(拍手)
臓器移植について、とってもわかりやすい説明ありがとうございます。

免許証の裏に署名して提供を意思表示してありますが、今回のドラマ見て根こそぎ持っていく感にビビってしまいました。
まぁでも死んだらわからないし、書いたの消すのもなんなんでそのままです。

今回も藍沢先生のヘリへの乗り降りや、白車への乗り込むシーンとか、かっこよくってリピが止まりません(笑)

最後の藍沢先生の「俺はただ約束を破っただけだ」の言葉に奏ちゃんの手術が自分で出来なかったのかな?と私も思ってます。
来週はヘリが墜落??とか気になる予告で視聴率UPするに違いないと思ってます。

隠れジャニーズオタとか言ってたなんて、すっかり忘れてました(汗)
名前も全角だったり半角だったりで、わかりにくくてすみません→半角にしておきます。
でも、テンメイさんしっかりわかってくれてて嬉しいです( ´ ▽ ` )

投稿: hiro | 2017年8月23日 (水) 15時20分

> hiro さん
   
こんにちは
お褒めいただき、どうもです
  
マニアックでわかりやすい記事っていうのは
難しいんですよ (^^ゞ
フツーにわかりやすい記事ならすぐ書けるけど、
それじゃ僕がやる意味がないですからね。
  
やっぱり、法律改正の背景とか、法律の条文、
移植の分刻みスケジュールとか書きたいわけです。
ほとんどの人がスクロールで飛ばしても、
きっちり読んでるらしき人はちゃんといますからね。
    
今回、3人くらいが別々にツイートしてくれてるようです。
アルジャーノン最終回レビューとはケタが違うけど♪
    
で、無償の善意を示してると。実に素晴らしい!
たまに「痛い」時もあるみたいですよ
脳死後の身体の機械的反射か何かで。
ドナー側の病院が麻酔医を立ち会わせるとか書いてました。
脳死後なら冷凍ミックス・ベジタブルでもいいかも♪
  
      
リピートは、一般人の僕がやってたらまずいから、
録画は早めに削除してます。
「英語」はリスニングの学習用に残してるけど(笑)
  
奏ちゃんは新海先生が担当したんじゃないかな。
エレベーターでモゴモゴ、口ごもってたし。
白石を飲みに誘うのも忘れるほど♪
 
ヘリは、ホントに墜落させると制作費オーバーだから(笑)、
単なるトラブルじゃないかと。。
   
僕がブログでジャニーズばっか扱ってるから、
男友達も誤解してました (^^ゞ
あくまで、過去の経緯と読者サービスってことで♪
  
アルファベットの全角・半角は、苦い思い出があってね。
PCの初心者時代、メールの自分の名前に全角と半角が
ゴチャ混ぜになってて、友達にバカにされました (^^ゞ
でも教えてもらって良かった。恥ずかしっ。。
   
あっ、比嘉愛未を「愛実」と変換してた!
・・って感じで、またお待ちしてます♪

投稿: テンメイ | 2017年8月24日 (木) 13時55分

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