京都大のダウン症向け新化合物「アルジャーノン」(ALGERNON)、英語論文の和訳(米国『PNAS』抜粋)
様々な意味で、現実と虚構の境界が揺らいでる現代社会だが、昨日
(2017年9月5日)、京都大学が発表した新物質「アルジャーノン」
には驚いた。
当サイトでも2年前、山下智久主演の連続ドラマ『アルジャーノンに
花束を』のドラマ・レビューを書いてるからだ。原作は米国の小説、
『Flowers for Algernon』(Daniel Keyes)。
知的障害の新しい治療法を試すと、ネズミも人間も最初は上手く行く
ものの、結局失敗する悲劇で、半世紀前の当時としてはSFだった。
☆ ☆ ☆
ダウン症だけでなく、アルツハイマー病やうつ症状、パーキンソン病
などへの応用も期待される、新しい化合物。なぜ、この命名なのか。
アルジャーノンは、悲劇の実験用ネズミの名前だ。ネズミの名前の
由来となってる詩人のアルジャーノンも、悲劇的人生を送ってる。
小林亜希子・医学研究科助教や萩原正敏・同教授による説明は、
今のところネット上に見当たらない。わりと詳しい地元紙・京都新聞
HPの記事にも無し。
ただ、itmediaの取材によると、京大学・広報課は、
「『アルジャーノンに花束を』は、研究グループも知っていると
思うが、特別なぞらえたわけではない」
と応答したとのこと。
しかし、この形式的で短い応答を、そのまま真に受ける人は少ない
だろう。小説・ドラマでお馴染みの名作『アルジャーノン』を、「多少」
意識して命名したとみなすのが自然。同じ京大・山中教授のiPS細胞
も、アップルのiPodを遊び心で意識した名前だと認めてる。
ただ、今回は文芸ではなく科学の分野の研究だし、『アルジャーノン』
という過去の作品は、人間と実験ネズミの悲劇だったから、医薬品
関連の名前の由来として認めるのは避けた。知名度は利用して、
負のイメージは切り離した。命名の理由と公式説明については、
そう考える方が納得できる。
ちなみに、当サイトの『アルジャーノン』記事を5本だけ挙げとこう。
ドラマ、化学、数学、文学、哲学、一通り揃えてある。
ママ、お利口になるから嫌わないで・・~第1話
Yesterday Once More♪~最終回
新薬ALGの原料キサンチンの化学式C5H4N4O2と構造式
x² のフーリエ級数展開~第5話、咲人(山P)が書いた数式
ダニエル・キイス『アルジャーノンに花束を』と、
哲学者プラトン『国家』洞窟の比喩
☆ ☆ ☆
さて、今日の当サイトの記事は、現地の米国時間で9月5日に発表
された英語の学術論文の日本語訳がメインだが、その前に最低限
の基礎知識をまとめとこう。
ダウン症のほとんどは、21番の染色体が2本ではなく3本あること
が原因とされる(医薬品会社MSDの説明)。
この過剰な状態(21トリソミー)によって、
大脳の神経幹細胞の増殖が低下 → 神経細胞の供給が減少
→ 大脳の発達が不十分 → 知的障害など
という流れが生じてしまう。下図は京都大のpdfファイルより。
京大の新物質アルジャーノンは、染色体の上の遺伝子DYRK1A
を阻害して、上の悪い流れを断ち切り、認知機能を改善するものだ。
☆ ☆ ☆
では、電子媒体の科学雑誌『PNAS』(Proceedings
of the National Academy of Sciences:
米国科学アカデミー紀要)の、Early Edition(早版)
を読んでみる。
2017年9月5日の更新で、確かに京大の論文が掲載されてた。
簡単な説明と添付資料は、登録なしの無料公開となってるので、
直訳してみよう。テレビドラマの新薬と同じ「ALG」という略号が
使われてた。
☆ ☆ ☆
Prenatal neurogenesis induction
therapy normalizes brain
structure and function in
Down syndrome mice
出生前の神経新生を促進する治療が、ダウン症マウスの
脳の構造と機能を正常化する
意義
ダウン症は21番染色体のトリソミーで引き起こされるので、
現在、ダウン症の出生前診断が可能となっている。
にも関わらず、ダウン症と診断された胎児の両親には、
2つの選択肢しかない。
妊娠を中絶するか、重い障害を持つ子どもを育てるか。
我々はそうした両親に三つ目の選択肢を供給するために、
新しい化合物「アルジャーノン(Altered
generation of neurons:神経細胞
発生の改善)」を開発した。
アルジャーノンによる母マウスの治療は、薄い皮質板など、
脳の形態の異常を妨げた。注目すべきことに、これらの
子マウスは、治療してないダウン症の子マウスと比較して、
より正常な認知行動を示した。
アルジャーノンは、ダウン症だけでなく、多数の神経発達
障害の治療をもたらす潜在能力を持っている。
☆ ☆ ☆
Abstract(抜粋)は専門的すぎるので、一部を省略して和訳する。
21番染色体のトリソミーによるダウン症(DS)は、知的障害の
発生原因として、最も一般的なものである。出生前診断が可能に
なったが、神経認知的な障害の治療法は無かった。
我々が新たに同定した成長促進物は、DYRK1Aを阻害する
能力を持ち、神経細胞増殖の欠陥を救うことが分かった。
アルジャーノンと名付けた、この化合物の経口投与は、神経
幹細胞の増殖を回復させ、新生ニューロンを増加させた。
さらに、母マウスへのアルジャーノン投与は、異常な皮質形成
を阻害し、ダウン症の子マウスの異常行動の発達を妨げた。
これらのデータは、アルジャーノンによる出生前治療によって、
ダウン症の神経発生形質を妨げられることを示唆している。
☆ ☆ ☆
以上、非常に明るい見通しの研究発表となってる。文芸作品の
『アルジャーノンに花束を』と違って、ハッピーエンドとなることを期待
しよう。もちろん、治療しないという選択肢も十分可能だ。その点は、
他の障害や病気でも同様。
ただ、安全性が確認されれば、中絶という選択肢よりは良いと思う。
なお、新物質の詳細は無料情報には書かれてないが、添付資料で
「♯688」と呼ばれてるような気がする。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2549字)
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