気体の状態方程式、熱気球、ピストンと仕事~物理の問題と解き方8
問題文を書き写すのが面倒で、なかなか進まない『物理重要問題
集』シリーズ、第8弾。何と4ヶ月も間が空いてしまったが、今回も
数研出版が集めた過去の大学入試問題を解説してみよう。
今回、ずいぶん間が空いたのは、この単元の内容がどうもピンと
来ないからだ。熱気球の上昇と下降、ピストン運動、断熱膨張など、
何の値が固定されてて何が変化するのか、どうやって変化させてる
のか、自分で実験したこともないし問題文でも説明が不十分。まあ、
それが自分で想像できるのも物理の実力ということか。
これまでの7本は次の通り。他にも物理カテゴリーの記事は色々あ
るし、数学カテゴリーには多数の記事がある。相変わらずアクセス
は地味に続いてるので、受験生その他の需要はあるようだ。
等加速度直線運動、放物線、モンキー・ハンティング~物理1
運動の法則、浮力、物体の連結と分離~物理2
動滑車、摩擦力(静止・動)、バネの弾性力~物理3
等速円運動、円すい振り子、万有引力と人工衛星~物理4
単振動、ばね振り子、水平ばね2本~物理5
物体の衝突、運動量保存法則、はねかえり係数~物理6
温度と熱量、熱容量、比熱~物理7
今回は第8章、気体分子の運動(p.48~)のA問題から3問。化学
に近い分野でもあるので、私自身も含め、化学があまり好きでない
人は苦手意識を持ちやすいと思う。
いつものように、式や説明は私が書いたもの。読みやすさと入力
環境のため、小文字を大文字に変えたり、添え字を小文字に変え
たりしてるが、言葉遣いは元のままだ。
☆ ☆ ☆
76 (気体定数の計算) 関西学院大
1molの理想気体は、標準状態でその体積は22.4Lと
なる。この事実から気体定数を〔J/mol・K〕の単位で
導け。有効数字は2桁まで計算せよ。1atmでは一端を
封じた長さ約1mのガラス管に水銀を満たし、そのガラス
菅を水銀の入った容器に、開口部を下にして鉛直に
立てると、ガラス管の上部に空間を生じる。ガラス管内
の水銀面は水銀容器の水銀面からの距離、すなわち
水銀柱の高さは76cmである事を利用せよ。また水銀
の比重は13.6であり、重力の加速度を9.8m/s²
とせよ。
☆ ☆ ☆
(解答)
(大気圧)=(ガラス管内の水銀の重さがもたらす圧力)
=(管内の水銀の重力)/断面積S(m²)
=(体積)×(単位体積あたりの質量)×
×(重力加速度)/S
=0.76×13600×9.8
≒101300 (N/m²)
この値を、気体の状態方程式に代入すると、
101300×0.0224=1×R×273
∴ R≒8.3 (J/mol・K) ・・・答
(解説・感想)
非常に有名な実験だから、ほとんどの人は知ってる
だろうし、結果の値も有名で、受験生なら暗記してる
のが普通。
ということは、途中の式で単位の換算ができてるか
どうかが採点のポイントになる。すべてmks単位系
で揃えればよい。長さはメートル、質量はkg。
☆ ☆ ☆
77 (熱気球) 電気通信大
圧力p₀、温度T₀の大気中に容積V、質量mの変形
しない容器がある。
(1) まず大気の密度ρ₀を求めよ。ただし、大気を
理想気体とみなし、その1molの質量をM₀、
気体定数をRとする。
(2) 器内の圧力をp₀に保って器内の温度を上げて
いくと、ある温度Tで器が宙に浮き始める。その
温度Tを求めよ。ただし、器は熱を伝えないもの
とする(熱気球の原理)。
(3) 器内の温度をT₀に保って器内の圧力を下げて
いくとある圧力pで器が宙に浮き始める。その
圧力pを求めよ。
(4) はじめ、器内を真空にし、のち、温度をT₀に
保ちながら、ヘリウム・ガスを詰めていくとある
圧力pで器が宙に浮かなくなる。その圧力pを
求めよ。ただし、ヘリウムも理想気体とみなし、
その1molの質量をMとする。
(5) p₀=1atm、T₀=273K、V=44.8L、
m=14g、M₀=28g/mol、M=4g/mol、
R=0.082atm・L/mol・Kとおいて
(1)のρ₀、(2)のT、(3)のp、(4)のp
を計算せよ。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) 大気の1molあたりの体積をV₀とすると、
p₀V₀=1RT₀より、 V₀=RT₀/p₀
∴ ρ₀=M₀/V₀
=M₀p₀/RT₀ ・・・答
(2) 温度を上げると、器内の気体分子は外に
逃げる。器内の新たなモル数をnとすると、
p₀V=nRT ∴ n=p₀V/RT
よって器内の大気の質量は、 p₀VM₀/RT
器の質量はmだから、重力加速度をgとすると、
(容器全体の重力)=(p₀VM₀/RT+m)g。
浮き始める時には、この重力が浮力と一致。
∴ (p₀VM₀/RT+m)g=ρ₀Vg
∴ p₀VM₀/RT+m=M₀p₀V/RT₀
∴ T=p₀M₀T₀V/(p₀M₀V-RT₀m) 答
(3) 器内のモル数がnになったとすると、
pV=nRT₀ ∴ n=pV/RT₀
∴ (容器全体の重力)
=(pVM₀/RT₀+m)g
これが浮力と一致するから、(2)と同様に
pVM₀/RT₀+m=M₀p₀V/RT₀
∴ p=p₀-(RT₀m/VM₀) ・・・答
(4) 器内のヘリウムのモル数がnとすると、
pV=nRT₀ ∴ n=pV/RT₀
(2)(3)と同様に考えて、
pVM/RT₀+m=M₀p₀V/RT₀
∴ p=(M₀p₀V-mRT₀)/MV ・・・答
(5) 代入して計算すると、
ρ₀=1.3(g/L), T=3.6×10²(K)
{(3)のp}=0.75(atm)
{(4)のp}=5.3(atm) ・・・ 答
(解説・感想)
(2)は地上から浮き始める時。(3)はかなりの
上空で、大気圧が下がった時の話だと思う。
(4)は下降する時だと思うが、真空にすると
いう設定の意味は不明。大気を追い出して、
ヘリウムだけ満たすということか。
最後の計算の過程は省略したが、約分と近似
を上手く使ってもちょっと面倒だった。完答した
受験生はかなり少ないだろう。
☆ ☆ ☆
83 (ボイル・シャルルの法則と
外気のする仕事) 熊本大
図のように1molの単原子理想気体の入った
断面積S〔m²〕の円筒容器が軸を鉛直にして
固定されている。この容器にはなめらかに動く
ピストンがあり、外気の温度がT〔K〕、その圧力
がP〔N/m²〕のときに容器の上の内面から
ピストンまでの距離はL〔m〕であった。ビストン
の重さは無視できるものとし、重力加速度を
g〔m/s²〕として次の問いに答えよ。ただし、
答えは気体定数R〔J/K・mol〕を用いずに
表せ。
(1) このピストンに質量M〔kg〕のおもりを
つるすとピストンは下の方へ動く。十分
時間がたって気体の温度が外気と同じに
なったとき、ピストンはもとの位置からいくら
下がっているか。
(2) 次に、ピストンがもとの位置へもどるまで
容器内の気体を冷やした。このとき気体の
温度はいくら下がったか。
(3) (2)において外気がした仕事はいくらか。
(4) (2)において容器の中の気体が失った
熱量はいくらか。
☆ ☆ ☆
(解答)
(1) ピストンが下がることで増した分の浮力が、
おもりの重力とつり合う。
ピストンが動く前後で、ボイル・シャルルの
法則(温度一定)を使用。圧力をP₁、
下がった長さをx(m)とすると、
P(SL)=P₁S(L+x)
∴ P₁=PL/(L+x)
「増した分の浮力=おもりの重力」より、
{P-PL/(L+x)}S=Mg
∴ x=LMg/(PS-Mg) (m) ・・・答
(2) 冷やした後の容器内の圧力をP₂、温度を
T₂とすると、ボイル・シャルルの法則より、
P/T=P₂/T₂ ∴ P₂=T₂P/T
「初期状態より増した浮力=おもりの重力」
より、(1)と同様に、
(P-T₂P/T)S=Mg
∴ T₂=T-(MgT/PS)
よって、元の温度Tから下がった温度は、
MgT/PS (K) ・・・答
(3) 外気は圧力Pのまま、体積Sxだけ
ピストンを押してるから、
(外気がした仕事)
=PSx
=PSLMg/(PS-Mg) (J)・・・答
(4) まず、気体定数を求める。
初期の容器内の状態方程式は、
P(SL)=1×RT
∴ R=PSL/T
よって、
内部エネルギーの減少は、
(3/2)(PSL/T)(MgT/PS)
=3LMg/2
外気が容器内の気体に対してした仕事は、
(外気がした仕事)-(おもりに対する仕事)
=PSLMg/(PS-Mg)
-Mg{LMg/(PS-Mg)}
=LMg
熱力学の第一法則より、
(内部エネルギーの変化量)
=(外から加えた熱量)+(外からされた仕事)
∴ (外から加えた熱量)
=-3LMg/2-LMg
=-5LMg/2
∴ (中の気体が失った熱量)
=5LMg/2 (J) ・・・答
(解説・感想)
最初から気体定数Rを求めて解いてもいいが、
出題者としてはボイル・シャルルの法則を使う
ように誘導したつもりだと思う。
最後、熱力学の第一法則は、書き方や読み方
が色々細かく分かれるので、その場に応じて
適当な形を使うことが必要。
「外からされた仕事」にマイナスをつけると、
「外に対してする仕事」。
「外から加えられた熱量」にマイナスをつけると、
「外に加えた熱量」。あるいは「失った熱量」。
次回は2ヶ月以内に書きたいと思うが、年末年始と重なるので、
年明けの1月下旬になるかも。今日のところはこの辺で。。☆彡
(計 3731字)
| 固定リンク | 0
「数学」カテゴリの記事
- パズル「ナンスケ」の解き方、考え方10~難易度4、ニコリ作、朝日新聞be、2023年2月25日(2023.02.26)
- パズル「絵むすび」26、解き方とコツ、考え方(難易度3、ニコリ作、朝日新聞be、2023年2月11日)(2023.02.12)
- 1~7の数字を並べた整数A、Bの和が9723になるのは何通りか(高校・場合の数)~開成中2023年入試、算数・問題5の解き方(2023.02.04)
- 桜(ソメイヨシノ)の開花予想と、気温の時間積分(1次関数、2次関数)~2023年共通テスト数学ⅡB・第2問〔2〕(2023.01.29)
- パズル「推理」、小学生向け7、カンタンな解き方、表の書き方(難易度5、ニコリ作、朝日be、23年1月28日)(2023.01.28)
「物理」カテゴリの記事
- 冬(寒い日)にスマホの電源が急に落ちる物理的な理由・原因~電池の内部抵抗が増加、端子電圧が降下、保護回路が作動(2023.01.07)
- 量子もつれ(エンタングルメント)の実験的検証~ノーベル物理学賞2022、授賞・受賞理由(英文和訳)(2022.10.07)
- 家庭崩壊の恨みを抱く古芝=山上徹也、手作りの科学的武器で政治家の暗殺を計画~『ガリレオ 禁断の魔術』レビュー(数式解説付き)(2022.09.19)
- 恋多き天才アインシュタイン、再婚した妻エルザよりも、義理の娘イルゼを愛して結婚したかったのか?(2020.09.19)
- NHKドラマ『太陽の子』の物理学、ウラン235濃縮(遠心分離)と核分裂反応式、熱中性子の断面積の数式(2020.08.16)
コメント