慢心=警護(security)は人間の最大の敵(『マクベス』第3幕)~『BG~身辺警護人~』第1話
面白かった☆ 保険勧誘のおばちゃん(濱田マリ)と、マラソン大会の
スタートで無駄に猛ダッシュするエキストラの方々が(笑)。そこか!
荒川市民マラソンを何度も走ってる市民ランナーとしては、荒川の
支流で開催されてた第18回隅田川都民マラソンを温かく見守ってた
のだ。観客が16000人には見えないなとか思いつつ♪ コラコラ!
いや、真面目な話、久々に文学的な教養を感じるドラマを見た気が
する。単なるコネタの羅列じゃない、奥深い教養。シェイクスピアの
使い方もあまりに凝ってたから、「細かすぎて伝わらない」状況に
なってるほど♪ 英語の原文を知ってたんだろうね。
流石は立命館大学・文学部卒の脚本家、井上由美子のオリジナル
作品だ。『人妻』・・じゃなくて『昼顔』も『同窓会』もよく出来てた。
『まっしろ』は初回の途中で真っ白になってリタイアしたけど(笑)。
設定や台詞(セリフ)のあちこち(特に終盤)に、自衛隊とか安保の
香りがしてたけど、とりあえず『テレビ朝日』らしいかもと指摘する
だけにしとこう。政治や防衛は、軽く匂わせるだけにした方がいい。
官と民、拳銃(武器)と丸腰の対立も、微妙なお話なのだ。。
☆ ☆ ☆
さて、キムタク=木村拓哉主演の『BG~身辺警護人~』。今回の
ストーリーのポイントは、何度も強調してたシェイクスピアの台詞、
『慢心は人間の最大の敵だ』。女子アナ政治家の追っかけ記者、
『週刊時論』の犬飼(勝地涼)が昔、愛を込めて贈ってた言葉。
過信してはいけない、うぬぼれてはいけないとか、自分だけは安全
で正常の範囲内だと思ってしまう「正常性バイアス」に注意せよとか、
普通の意味だけなら、文字映像付きであれほど繰返すはずはない。
別の意味が裏側で何重にも重なってるからこそ、繰り返してたのだ。
例えば「警護は人間の最大の敵だ」とか♪ シェークスピア四大悲劇
の1つ、『マクベス』の原文をウィキソースで確認してみよう。
400年前、1606年頃の戯曲、第三幕(Act Ⅲ)・第五場
(SCENE Ⅴ)のラスト。魔女の親分みたいな存在が、主人公
マクベスを追い詰める計略を話してるシーンだ。
☆ ☆ ☆
He shall spurn fate,
scorn death,
彼は運命を蹴飛ばし、死を馬鹿にして、
and bear his hopes ’bove
wisdom,grace,and fear:
智恵や神の恵み、そして恐れをも上回る
望みを抱くだろう。
And you all know,
security is mortals’
chiefest enemy.
もう、お分かりだよね。
安心は人間の最大の敵なんだよ。
☆ ☆ ☆
もうお分かりだよね(笑)。そう。「慢心」と訳されてた言葉は、元の
英語だと「security」(セキュリティ)なのだ。
この言葉は、直前の「fear」(恐れ)を受けてのもの。恐れを忘れて
安心しきってる状態こそ、最も危ないと言ってるのだ。マクベスという
人間をそそのかそうとしてる自分たちにとっては、シメシメと笑う状況。
「慢心」(おごりたかぶること)と訳すのは、誤訳ではないけど、多少
ズレてるし、含蓄が足りない。
今回のドラマだと、若い沢口(間宮祥太朗)が「安心」しきってた。
それに対して、元・自衛官の高梨(斎藤工)は「慢心」に近い。人妻
との不倫に没頭してるからだろう♪ 『昼顔』か!
一方、島崎章(木村拓哉)の場合は、6年前にボルト(=ネジ)が
絡む大きなミス(?)をして、「警護」という仕事を恐れてる。その意味
では、「警護は自分という人間の最大の敵だ」という事になる。最終回
辺りでは、「身辺警護人の誰かが最大の敵」になるかも知れない。
さらに、原文の「人間」は、「mortal」(死すべき運命の存在)と
いう単語になってる。だから、「警護は死の最大の敵だ」、つまり、
「警護は生の最大の味方だ」という意味にもなる。
こう考えて来ると、この『マクベス』の台詞を多用した井上の実力
がよく分かるだろう。大学の文学部で鍛えた英語の解釈力が発揮
されてるのだと想像する。
島崎が高梨に、「怖くない人と組むの、怖い」と言ってたのも、安心
より恐れが大切だということ。1行の名言だけでなく、『マクベス』の
直前の文脈も理解してるからこそ書ける台詞だろう。
なお、国立国会図書館デジタルコレクションで公開中の坪内逍遥
の訳(1923年)だと、「油断は人間の大敵だらう」となってた。慢心
と訳すより正確。著作権は消滅済み。
☆ ☆ ☆
一方、島崎がランニングや斜め懸垂する時、上に着てたスウェット
(パーカー)のロゴも上手かった。実在するブランドの名前で、
「CARPE DIEM」(カルペ・ディエム)。
ブラジリアン柔術道場のショップだから、ポルトガル語かと思ったら、
ラテン語だった。古代ローマの詩人ホラティウス(Horatius)
の有名な文より。
carpe diem,
今、この日をしっかりつかめ、
quam minimum credula postero
そして、先のことはほとんど信用するな。
まさに、いつ死ぬか分からないボディガードにぴったしの言葉だろう。
まして、島崎は過去に大きなトラウマ(傷)を抱えてるらしいのだ。
☆ ☆ ☆
最後に、「用心棒」というものの使い方。「敵から身を護るために
用心する棒」が最初に出たのは、冒頭の警備員シーンだった。
通行止めに突入しようとする車を止める横棒は、用心棒の一種♪
自分が車にひかれないように誘導する、光る棒も用心棒。だから
こそ、最後も警備員シーンで終わってた。ちなみに立原愛子(石田
ゆり子)が出てるキリン・ファイアのコーヒーCMでも警備員が登場。
案外、ドラマの予告のタイアップかも♪
個人的にふと思い出したのは、私の田舎の実家。そういえば寝る前、
両開きの扉の下に、太くて長い棒を差し込んで開かないようにしてた。
あのつっかえ棒も用心棒だったのか。鍵はついてなかったけど(笑)。
不用心だろ!
まだ書くべき事が沢山あるけど、マクベスでかなり時間を取られた
ことだし、今回は短めのレビューで済ませとこう。たぶん今後、ドラマ
と関係ない出典探しの検索も稼げるはず♪ セコッ!
いや、SNS全盛時代、ブログには「安心」してる余裕はない。常に、
ツイッターとかに書いてないマニアックな解説を書かないと、消える
ことになる。ブロガーは「用心坊」でないと生き残れないのだ♪
まあ、生き残る必要があるかどうかはさておき(笑)。生き物はみな、
mortal、やがて死すべき運命の存在だから。。
☆ ☆ ☆
とにかく、キャラが立ってる登場人物ばかりで、今後の展開も楽しみ。
ヒーロー役が多いキムタクが、素うどんみたいな自然体だったのも
好感触。若い犯人に苦戦する姿も新鮮でリアルだった。年を重ねると
肉体は衰えるから、知恵と経験で補うしかない。
今回なら、壊れたベンチの板を使えることまで計算ずみ。転んでも
タダでは起きない。あの細長い板ももちろん、用心棒なのだ。女性
BG・まゆ(菜々緒)の細い脚も、悪者を蹴る用心棒♪ 無理やりか!
美女の周りに男だらけだから、用心・棒。まだ言うか!
警視庁SP・落合(江口洋介)と村田(上川隆也)もカッコ良かったなと
思いつつ、それでは今日はこの辺で。。☆彡
P.S. 初回の視聴率は15.7%となった(ビデオリサーチ調べ、
関東地区)。まずまずだから、安心せずに水準を警護すべき♪
cf.窮屈からの自由、オーダーメイドのフットガード
~『BG~身辺警護人~』第2話
緊縛かのん、谷底へのバンジージャンプ~第3話
ウェディング・イブ、涙は夜更け過ぎに雪へと・・♪~第4話
捨てるな!、新たなマイウェイへの出発~第5話
安全が一番と言いつつ、危険に向かう人間~第6話
誤差あり!、お互いのズレを埋める謝罪と行動~第7話
無駄死にさせてはいけません!、人も組織も~第8話
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奇跡のリターンがもたらす輝き~『ロングバケーション』第1話
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『華麗なる一族』最終回、ドラマと原作の比較
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(計 3730字)
(追記 207字 ; 合計 3937字)
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