事件vs義挙、殺人vs処刑、暴力vs肉体言語~NHK『未解決事件 赤報隊』
バブル期前半、1987年の5月3日夜。朝日新聞阪神支局で男が
散弾銃を2発打ち、小尻知博記者が死亡、犬飼兵衛(ひょうえ)記者
が重傷を負った殺人事件が発生。一連の「赤報隊」事件の中で最大
の犯行だが、最初ではない。3ヶ月前の東京本社銃撃が発端だ。
その後、名古屋本社寮襲撃、静岡支局爆破未遂と、朝日が攻撃
された後は、中曽根康弘・前首相や竹下登・首相らも脅迫された。
言論弾圧からスタートしてるが、それだけではなく、後半は行動の
弾圧となってる。NHKの年表を参照。
これらは、警察庁「広域重要指定116号事件」とも呼ばれてるが、
2003年にはすべて時効。その後、死刑に相当する殺人に対しては
時効なしという法改正があったが、既に時効が成立してる赤報隊事件
などには適用されない。
というわけで、この事件は影響力や知名度も含め、代表的な未解決
事件となってる。朝日新聞は繰返し紙面で扱ってるが、一昨日(18年
1月27日)と昨日(28日)は2夜連続でNHKスペシャルが取り上げた。
シリーズ第6弾、File.06。
一昨日の再現ドラマ(草なぎ剛主演、樋田記者役)は流し見しただけ
だが、昨日のドキュメンタリーは普通に見たので、感想を書いとこう。
ちなみに朝日HPには草彅のインタビュー記事が掲載されてた。
☆ ☆ ☆
昨日は、一昨日とかぶる内容もかなりあったが、新たな興味深い
内容も色々あった。まず、重要な容疑者とされた右翼活動家たち
への取材。そして、「テキスト・アナリティクス」(文章分析学)による
声明文の分析。
先に後者から触れとこう。同志社大学・金明哲教授が2ヶ月かけて
分析したところ、8つの声明は同一人物ただ一人が書いた可能性
が高いとのこと(目出し帽の実行犯かどうかは別問題)。信頼性は
ともかく、重要な指摘だと思う。
文章を品詞などで細かく分解して行う統計学的分析は、数年前の
NHKの数学ドラマ『ハードナッツ』でも扱われてた(計量文献学)。
普通に声明を読むだけでも共通した特徴を感じるのは確か。例えば
私でも気づく点として、ひらがなと改行が多いし、接続詞は少ない。
ただし、分析の結果の信頼性がどの程度あるかについては定か
でないし、分析の具体的内容も番組やHPでは示されてない。既に
時効とはいえ、AIの活用も含め、今後さらなる研究に期待しよう。
☆ ☆ ☆
一方、それより本質的な問題は、この「事件」のとらえ方だ。番組
に登場した右翼関係者によると、事件というより「義挙」、暴力という
より「肉体言語」、殺人というより「処刑」とのこと。
興味深いというのもやや不謹慎かも知れないが、ある右翼によると、
殺人は許されないけど処刑は許されるらしい。私はこの時、「殺人
がいけないことは普通に認めてるのか」と少し安心したが、この時も
含め、番組では確か2回、「一方的」な言い分だと批判してた。
国営テレビ放送の看板番組としては常識的な判断かも知れないが、
考えが激しく対立してる時、相手を「一方的」と批判しても自己満足
に過ぎない。当然、直ちにその言葉は自分の側にもブーメランの
ように跳ね返って来る。相手にとっては、こちら側の正義感こそが
「一方的」なのだから。
激しい対立や戦争とは、一方の正義vs他方の正義の形で生じる
ことを思い出すべきだろう。
☆ ☆ ☆
忘れてはいけないのは、日本その他の少数派の国々では、現在も
「死刑」が認められてるということ。極悪の人間を死なせることなら、
許容されてるのだ。
もちろん、長くて慎重な司法の裁判・手続きを経てのことだが、それ
をいうなら、赤報隊も犯行までに相当な時間をかけて慎重に準備
したはず。実際、類似の事件は非常に少ない。合法的かどうかを
判断基準にするとしても、死刑も憲法違反だという反論が直ちに
予想される。
テロを出来るだけ防ぎたいのなら、「悪い人間は殺してもいい」、
「極悪人の処刑は、殺人とは違って正しいことだ」といった考え方や
行動を根本的に議論し直すべきだろう(撤回かどうかは別問題)。
私はそう思うし、世界的には死刑を行わない国の方が多数派だが、
日本人の多くも含め、そう思わない人達がまだかなり多いようだ。
私も、単純な死刑即時廃止を唱えてるわけではない。
しかし、もし死刑実行の映像を公開すれば、おそらく一気に世論は
反転するだろう。テレビドラマでさえ死刑映像を見ないのはなぜか、
その辺りから考え直してもいい。
☆ ☆ ☆
さらに視野と論点を広げるなら、相手を死なせることも含めて、肉体
を攻撃することの評価が問題となる。
格闘技や格闘系スポーツは除くとしても、肉体による攻撃はダメで、
言論による攻撃は良いとされる考えの根拠は何なのか。いまだに
ほとんど問われてないと思う。
平手打ち一発と、不快な言葉の一言と、どちらがダメージが大きい
のか。体罰と暴言と、どちらが許せないのか。
私自身はどちらも度々受けてるが、言葉の方が遥かに許せない。
傷と怒りがいつまでも消えないのだ。少し前に海外で大きな問題に
なった宗教関連の事件だと、表現の自由にも限度があると考えた
人々は大勢いたはず(私も含めて)。ヘイトスピーチや差別発言への
激しい抗議や批判も思い出される。
もちろん、肉体攻撃も言論攻撃も無いのがベターかベストだと思う
が、実際の世の中では、不快な言葉が会話でも文字でも溢れてる。
それは自殺という死亡事故にもつながるのだ。耳や目を押さえても、
防ぎきることは出来ない。
言論や表現の自由だけを過度に強調・実行するからこそ、「我々の
行動は肉体言語だ」という反論や正当化が生じることになるのだ。
「そんなものには言論の自由は適用されない」という批判もまた、
直ちに自らに跳ね返ってしまう。相手も、「反日的言論に自由など
ない」と考えてるのだから。国全体を滅ぼすものとみなすのだから。。
☆ ☆ ☆
寛容さとか非暴力を本気で訴えるなら、言論や表現まで含めて一度
考え直す必要があると思うし、少なくとも朝日新聞はその辺の難しさ
を一応認識してるように見える。
それと同時に、攻撃に対する防御や耐性の強化も必要。例えば、
ネット(特にSNS)の使い方を学ぶのも、不特定多数からの攻撃に
対する予防として大切なのだ。慣れによる免疫にもつながる。
なるべく攻撃しない。そして、攻撃されてもなるべくダメージを減らす。
テロとか事件に限らず、普通の人の生活全般と深く関わるのは、
そうした素朴で基本的なことのはず。もちろん、それだからこそ、
言うは易し、行うは難しなのだが。
ともあれ、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
cf. ロッキード事件の真相(NHK『未解決事件』5)&湾岸自転車
(計 2717字)
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