ラブドールとドブ川のぬいぐるみ、人形と交わす契り~又吉直樹「いつか見る風景」最終回(朝日be)
ちょうど1年間で終了か。いい企画で文章も面白かったから、残念だ。
又吉も冷めてるだろうね。自分自身の文章の評価はこんなもんかと。
大きな話題になった芥川賞『火花』(文芸春秋)は、単行本(1296円)
だけで250万部、文庫(626円)も合わせると300万部に達してる
らしい。出版不況が進む中、社会現象といっていい大ヒットで、ドラマ
や映画もすぐ出来た。
ところが月1回のこのコラム(朝日新聞・別刷be)に関するツイートは、
初回から気の毒なくらい少なかった。最後となる今回(18年3月3日)
は、珍しく30人ほどつぶやいてるけど、それはラブドールの話だから
だろうし、つぶやきの多くは朝日のツイートの拡散。印税と知名度は
稼いでるけど、私が彼なら淋しいと思う。『火花』の冒頭みたいに。
ちなみにウチでは、過去3回記事を書いてる。4月、7月、11月。
当然アクセスは少ないけど、「きっちり読んで評価してる人間もいる
から頑張って!」という応援メッセージだ♪
cf. 横浜競馬場の「老いた3人の賢者」
~又吉直樹のいつか見る風景(朝日be)
なにも書けない孤独な夜を・・
~又吉直樹 in 旧江戸川乱歩邸(朝日be)
又吉直樹『火花』、吉祥寺の安アパートで思うこと
~『いつか見る風景』(朝日be)
☆ ☆ ☆
まず、朝日新聞デジタルから写真を引用させて頂こう。撮影は
時津剛。紙面だと白黒で、左右が少しカットされてるけど、HPでは
カラーで横幅も広がってる。
知る人ぞ知るオリエント工業のラブドール自体も精巧だけど、この
写真の加工も精巧。少なくとも構図的に、紙面で左右をカットした
のは感心しない。又吉のそばで一番ハッキリ写ってる右端のラブ
ドールと、見やすい左端の薄い横顔が、消えてしまってたから。
又吉は、「ラブドール」自体の直接的な描写を意図的に避けてる。
最後に少しあるだけで、そこまでは延々と「ドール」(人形)の思い出
を語ってるのだ。最初は「ラブ」を感じなかったけど、やがて感じる
ようになった・・という流れで。
☆ ☆ ☆
紙面での見出しというか、サブタイトルは、
「それと契りを交わしている僕は
やがて声を聴くかもしれない」
まず幼い頃(小学校入学以前)は、人形ごっこする同世代の子供達
について行けなかったらしい。人形を戦わせる男の子にも、赤ちゃん
人形の母親になり切って泣き声を聴きとる女の子にも。
「おそらく、その行為を信じることができなかったからだと思う」。
人形ごっこというのは、意外と高度な遊びだと思う。というのも、子供
でさえ、人形が単なるオモチャだという事くらい分かってる。その上で、
人形を、オモチャ以上の存在、人間とか怪獣、超人として扱うわけだ。
役者・監督・脚本家を1人でこなすようなものだろう。報酬ゼロなのに、
本気になって。
私の場合、人形を使った怪獣ごっこ、ロボット遊びもやってたと思う
けど、それより自分自身がヒーローや怪獣になりきる遊びの方が
遥かに好きだった。
人形だと小さ過ぎるし、自己愛・ナルシシズムの強さもあるけど、
自分自身の姿(特に顔)は見えにくいということもある。だから、何かと
幻想的に同一化しやすいのだ。
☆ ☆ ☆
又吉は数年後、小学二年生の時に、ドブ川でぬいぐるみを拾って
「ドブ太郎」と名づける。「世界的に有名な」キャラクターとか名前
だと書いてるから、くまのプーさんだろうか。ミッキーやムーミンでは
ない気がする。
又吉はドブ太郎と会話を交わしてないし、声が聞こえたとも書いて
ない。ただ、愛着(ラブ)を抱いて可愛がってたから、その人形は
「ラブドール」と言える。だから、既にその時、又吉はラブドールと
契りを交わすことができるようになってたのだ。
「契りを交わす」という古風な言い回しは、この文脈での自然な意味
だと、「男女が肉体関係をもつ」ことを指す。もちろんオリエント工業
の高級ラブドールを意識して言葉を選んでるわけだけど、「愛の
対象と身体的関係をもつ」と考えれば、ドブ太郎でもおかしくない。
大人になってから、新幹線の三人用の席で窓側に座ってると、中央
に座ってた老人が人形と会話してたらしい。老人は、通路側の女性
には「なんだ、貴様!」と怒鳴ってたのに、又吉がトイレに行く時は
人形に対するように優しく対応してくれた。
それはそれで、私ならちょっと怖い気もする♪ 怒鳴られる方が気楽
かも。まあでも、人形と契りを交わせる者同士、老人は雰囲気を感じ
取って、仲間扱いしてくれたのかも知れない。通路側の女性は納得
いかない表情をしてたそうだ(笑)。
☆ ☆ ☆
最後に、上野にあるラブドールのショールームについて。想像を
超える外見と触り心地に驚いた後、こう締めくくる。
知識や観念を捨てて越えなければならないはずの境界が
極めて薄い。その存在感たるや、声が聴こえるかもしれない
と思った。
ロボットやアンドロイドの世界だと、「不気味の谷」という概念がある。
かなり人間に似たレベルの物には不気味さを感じるのに、その境界
を越えるレベルまで突き抜けた物だと、不気味さが薄らいで行くとか
いうお話だ。
又吉にとって、オリエント工業のラブドールは、不気味の谷を越えた
レベルだったのかも。数億円の印税があれば、最高級の女の子を
買い揃えることも可能。価格は50万円~70万円くらいだ。
ただ、声が聴こえてしまうとアブナイかも♪ 幻聴は、統合失調症の
典型的な症状だから。まだ、「契りを交わす」方が健全だろう(笑)。
ラブドール自体は声が出ないし、口を使えないとのこと。
なお、公式サイトのショールーム紹介だと、意外と広いし明るく健全な
世界にも見える。私も見学して記事を書きたいけど、電話予約して
店員に案内されるのはちょっと敷居が高いかな。まあ、高級品の
展示販売だからそんなもんか。網タイツのバニーガール、いいね♪
「声」を聞いてみたくなる(笑)。
☆ ☆ ☆
ここで思い出したのは、同じく朝日の連載コラムで、本谷有希子
の「間違う日々」。18年2月19日のサブタイトルは、
“「声」に耳を澄ませても”。
知り合いの女性には、野菜や洋服の声が聴こえるらしい(爆)。自分
に語りかけてくれた物を買うようだ。
私なら多少、距離を取ってしまいそうな女性だけど、本谷は絶賛。
むしろ、声が聴こえない自分は凡人であって、恥ずかしくて惨めな
気持ちになるらしい。案外、その女性の家には、男性版ラブドール
があって会話してるのかも♪
ちなみに、リリー・フランキーがオリエント工業の顧客なのは有名な
お話。ジャニーズの律儀な「美青年」が遊びに行った時、ラブドール
に丁寧に挨拶したというエピソードもある。彼も声が聴こえたのか♪
マニアとして有名な、みうらじゅんも所有者で、リリーと居酒屋で
Wデートしたら、
「お通しは出なかったけど、席のチャージ料は取られた」(爆)。
ドリンクや料理はどうしたのかね。
とにかく1年間、又吉の取材エッセイは楽しく読ませて頂いた。
感謝&拍手しながら、今日はそろそろこの辺で。。☆彡
(計 2877字)
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