宇宙が収縮する時、時間の矢は逆転する~ホーキング博士が訂正した間違い(英語原文)
今日(2018年3月22日)の朝日新聞・朝刊に掲載されたホーキング
博士の「まちがい」の話を読んで、ちょっと前に読んだ気がするな・・
と思ったので、ネット検索。3月14日の朝日新聞デジタルに、ほぼ
同じような内容の追悼記事が掲載されてた。
見出しは、デジタルが
「宇宙観変えたホーキング博士 ノーベル賞と無縁の理由は」
紙面だと、
「共感呼んだ 希代の科学者」。
執筆はどちらも、朝日の元・科学医療部長、尾関章。やはりネット
の方が、拡散を呼ぶ見出しだろう。
最近、先にネットに出した記事を後で紙面に載せることが増えてる
けど、これは極端な時間差だ。本来なら紙面が先で、HPが後だから、
「時間の逆転」が起きてることになる♪
☆ ☆ ☆
その「時間の逆転」こそ、朝日の記事がこだわったコネタだった。
1985年に京都大学で講演した頃は、博士はまだ何とか声を出せた
ようで、付き添いの青年が言い直す形で聴衆に語りかけた。題名は、
「時間の矢」。過去から未来に向かう時間の流れの一方向性のことだ。
朝日によると、博士は、
“カップが割れる映像を逆回しで見せ、膨張中の宇宙がいずれ
収縮に転じれば、「熱力学的な時間の向きは逆転する」と語った”
ところが88年の世界的ベストセラー『A Brief History of
Time』(時間の短い歴史、邦訳「ホーキング、宇宙を語る」)
で自分の間違いを認めて訂正。ついでに、自分は訂正したけど、
間違いを訂正しない科学者もいる、というような批判まで載せてた。
朝日は「失敗を逆手にとるちゃっかりぶりに愛すべき人柄が見て
とれる」と好意的に伝えてるけど、愛せない読者もいるだろう♪ 正論
とはいえ、日本人なら自分の立場もわきまえて差し控えるのが普通。
ちなみに、天才の追悼記事が非常に温かい絶賛になるのも日本の
特徴だ。海外のニュースでは、夫婦や家族のスキャンダルのような
ものまで詳しく報じられてた。まあ、私も日本人だから、ここに書く
のは差し控えとこう。。
☆ ☆ ☆
前置きはこのくらいにして、本題のホーキングの間違いについて。
私は本を買ってるけど見つからないから、ネットで検索。邦訳の該当
箇所は発見できてないけど、英文なら発見できた。
最も役に立つのが、コロラド大学のpdfファイル。著作権の処理が
怪しいけど、米国社会ではあまり気にしないのかも。今回に限らず、
しばしば微妙なファイルが堂々と公開されてるのだ。先日の記事に
使ったブラッドベリの短編小説『霧笛』も同様。
ホーキング自身の文章を見る前に、非常に大まかな前提知識を、
ネットで拾った図で確認しとこう。『Gravitation』(重力)
というタイトルの有名な本にあるそうで、その本もさらに他の出典
から引用してるような気もする。ありそうで無い、わかりやすい図だ。
上図の左端が、宇宙の始まりの大爆発ビッグ・バン(Big Bang)。
左から2番目が、現在の宇宙。まだ膨張中。
3番目は、膨張と収縮の転換点。最も膨張した未来の宇宙。
最後に右端が、ビッグ・クランチ(Big Crunch)。宇宙が収縮、
時間の終わりとされる。
☆ ☆ ☆
あくまで一つの考えであって、最近あまり聞かなくなってるから、
少数派なのかも。ただ、物理学的モデルとしては左右対称で美しい。
なお、宇宙が膨張するとか収縮するとかいう話は、例えば星の距離
の変化に着目する。下は英語版ウィキペディア、「Ultimate
fate of the universe」(宇宙の最終的運命)より。
右下の点線のモデルの場合、横軸(時間軸)で右側に進むと、縦軸
(銀河の平均距離)でゼロになる。つまり、1点に収縮するということ。
物質の密度や暗黒エネルギーの密度の想定に応じて、複数のモデル
や理論が考えられる。
☆ ☆ ☆
では、ホーキング自身の説明を読んでみよう。英文をコピペした
後、私が簡単に超訳する♪ 正確な直訳とは程遠いので念のため。
まず私は、宇宙が収縮する段階だと、膨張する段階における
時間の流れが逆転すると考えた。人々は生まれる前に死んで、
そこから徐々に若返るのだ。
私は最初、無境界条件(宇宙に時間的な端は無いという条件)が、
時間の逆転を意味すると考えた。しかし、同僚の1人が、必ずしも
時間の逆転は要求されてないと指摘してくれた。さらに、学生の
一人が、僅かに複雑なモデルを考えるだけで、収縮は膨張と
大きく異なるものになることを発見した。
私は間違ってた。収縮期でも、ブラックホールでも、時間の矢は
逆転しないだろう。
自分の間違いに気づいた時、どうすべきか。決して間違いを
認めない人々もいる(エディントンなど)。しかし私は、間違い
を印刷物で認める方がいいと思う。良い例がアインシュタイン
で、彼は宇宙定数を導入したことについて、生涯で最大の誤り
だと呼んだのだ。
☆ ☆ ☆
ちなみに、この箇所における説明だけだと、「時間の矢は逆転しない」
という説明にはなってない。単に、「逆転すると考える必要はない」と
いうことだ。
もちろん、必要がないなら奇妙な考えを主張すべきではない、とか
いう大前提があるのかも知れない。いずれにせよ、宇宙論における
時間の逆転は我々が経験できるものではないから、科学的な面白話
の類ではある。
逆に、心理や思考、創作においては、日常的に時間は逆転可能だ。
実際、ホーキングに限らず、時間の逆転という話は時々あるし、読者
や聞き手もイメージできるのだ。映像をスローで巻き戻してもいい。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2293字)
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