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「サバイバー生存率」でガン患者に希望を~医学統計データと確率の計算式

2018年5月27日の朝日新聞・朝刊に、やや分かりにくいが興味

深い医学・医療記事が載ってた。私にとっては、初めて聞く言葉だ。

 

 前向き指標 サバイバー生存率

   診断から一定期間たった時点で算出

 

朝日デジタルの記事はこちら。執筆は編集委員・田村建二。

 

一言でまとめると、最大のポイントは患者に希望を与えることだろう。

1年とか2年とか生き抜いた患者に、「頑張りましたね。これだけ

生存率が上がりましたよ♪」と数字で示せる。だから「前向き指標」

という見出しが付けてあった。

 

 

     ☆       ☆       ☆

私の個人的興味は具体的なデータを用いた数式計算だが、先に

大まかな話をしとこう。計算だけ知りたい方は、しばらくスクロール

すると、この記事の終盤に書いてある。

 

普通の生存率というものは、年を追うごとに減っていく。少しずつ

死亡者が増えて行くから、1年生存率より5年生存率が低いのは

自然なこと。

 

ただ、患者の心理としては、生存率が下がるグラフを見るのは

プレッシャーだし、誤解も生じてしまう。「もう1年生き残ったから、

そろそろ死ぬ確率が高まって来たかな・・」といった感じで。

 

 

     ☆       ☆       ☆

本当は逆なのだ。簡単にいうと、診断後や手術後に1年生きた人は

病状がわりと良かった人(「予後」がよい患者)で、しかもこの1年で

さらに状態が改善してるだろうから、その後の生存率は上がるのが

自然。これ自体は数学的な話ではなく経験則。つまり統計的事実だ。

 

下図は朝日より引用。上側のグラフで、黒い「一般的な生存率」

のグラフは右下がりになってるけど、青い「サバイバー5年生存率」

のグラフは右上がりになってる。これなら、年を追うごとに希望や

安心が増すことになるだろう。

 

180528a

 

下側の「種類ごとのサバイバー生存率(女性)」のグラフを見ると、

甲状腺がん・胃がん・乳房がんだと徐々に100%に向かって上昇。

肺がんや膵臓(すいぞう)がんでも、80%くらいまで上昇している。

もっと詳しいグラフも朝日のHPに掲載されていた。

 

 

     ☆       ☆       ☆

さて、その計算方法。朝日の記事にも登場していた、大阪医科大

(おそらく現在の所属)の伊藤ゆり氏らによる短い論文がネットで

公開されていたので拝見。2012年頃の執筆だと思う。

 

 大阪府におけるがん患者のConditional Survival

    -がんX年サバイバーのその後の5年相対生存率

 

180528b

 

ちなみにサバイバー生存率の英語は、最後の「rate」(率)と

いう単語を省略してある。ネットで見る限り、省略が普通のようだ。

「相対」生存率というのは、「がんになってない普通の人と比べた

時の」といった意味だが、ここでは重要でないので省いておこう。

 

 

     ☆       ☆       ☆

一番基本的な数値は載せてなかったけど、計算方法は確認できた。

米国で「条件付き生存率」と呼ばれてることから予想できるように、

高校数学で習う「条件つき確率」の応用例。「普通の確率」を、「条件

が起きる確率」で割り算して求める。

 

教科書の例題レベルで、理屈は単純だし、数式も短くて簡単。ただ、

苦手とする人が多い分野で、専門家でもうっかりミスしてしまうことが

あるほど。当サイトの過去の数学記事でも何度か書いて来たことだ。

 

180528c

 

上で、「累積相対生存率」と書いてる箇所(上の段の数値)が、

ほぼ普通の生存率だ。ここでは、最初に100人の患者がいたと

仮定。数年後の生存者(サバイバー)の数へと書き直してみる。

 

 1年後 2年 3年 4年 5年  6年 7年

 77人 67人 63人 61人 60人 59人 58人

 

 

     ☆       ☆       ☆

最初から5年後には60人になるから、5年生存率は0.60。

つまり、60%。

 

ところが、1年後からの5年間(合計で6年後まで)を見ると、

77人が59人になってる。

 

 ∴ (1年サバイバーの5年生存率)

     = 59÷77

     ≒ 0.77 (つまり77%

 

元の小数をそのまま使うなら、0.59÷0.77で、答は同じ。

 

同様に、2年後からの5年間(合計で7年後まで)を見ると、

67人が58人になってる。

 

 ∴ (2年サバイバーの5年生存率

     = 58÷67

     = 0.87 (つまり87%

 

数学の公式の形でまとめると、一般に、

 (X年サバイバーの5年生存率)

   =(普通の X+5 年生存率)÷(普通のX年生存率)

 

 

     ☆       ☆       ☆

こうした簡単な割り算を色々と行ってまとめると、次の表になる。

 

180528d

 

一番最後(右下)、「5年生存者の5年相対生存率」は、0.97

と書かれてるが、上の表から計算する限りは0.95になる。

 

重要な数字みたいだから、入力ミスや計算ミスではなく、元の人数

データに遡って計算すると0.97になるのかも知れない。データ

Period analysis (特定の期間に注目

した分析)という特殊な集め方を使用。

 

なお、細かい話を追加すると、一つ前の図にある「期間生存確率」と

いうのは、1年目からの1年間の生存率、2年目からの1年間の

生存率・・などのこと。

 

 ∴ (1年サバイバーの5年生存率)

  = (1年後から6年後までの期間生存確率5つの掛け算)

  = 0.87×0.93×0.97×0.98×0.99

  ≒ 0.76 (つまり76%)

 

最後のケタの数が1だけ小さくなってるのは、期間生存確率を

求めた時の端数の処理のせいだろう(四捨五入など)。

 

 

     ☆       ☆       ☆

いずれにせよ、元の生存率から条件つき確率で求めればよい。

より正確には、元の生存者の人数データ(論文では非掲載)から

計算するのが最も正確な数字になる。ただ、誤差は僅かだから、

気にする必要はない。

 

それでは今日はこの辺で。。☆彡

 

           (計 2251字)

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