ハンナ・アレント『責任と判断』と、心理学のゲイン・ロス効果~『高嶺の花』第7話
前回7.8%まで落ちた『高嶺の花』の平均視聴率が、第7話で
9.9%までV字回復(ビデオリサーチ、関東地区)。第二章入り
だからか、新たに香里奈が登場したからか。少なくとも、難しい本
のおかげではないようだ♪
「高嶺の花 香里奈」でツイッター検索すると、リツイートを除いて
60ほどヒットしたけど、「高嶺の花 アレント」だと1つ、「高嶺の花
責任と判断」だと2つだけ。まあ、一瞬しか映ってないし、作家も
内容もお堅い硬派なものだから当然か。
図書館の哲学書コーナーで、メガネっ娘看護師・千秋(香里奈)が
直人(峯田和伸)に譲り渡した本は、『責任と判断』(筑摩書房)。
著者は最近ごく一部で話題の女性思想家、ハンナ・アレントだ。
画像は公式無料動画から限定的にキャプチャー引用させて頂いた。
今夜は個人的に、遠征の準備に追われてほとんど時間が無い
状況だけど、マニアック・ブロガーの「責任」を最低限果たすべき
だと「判断」♪ ごく簡単に触れとこう。
☆ ☆ ☆
上の画像は0.1秒くらいしか映ってないが、美術スタッフさん
が周到に準備してるのは明らかだ。まず、中央に話題の著者
アレントの本を置いて、その左にはプラトン、アリストテレスと
いう誰でも知ってそうな古代哲学者の名前を並べてる。
おまけに、アレントの遺稿集の書名は『責任と判断』。その左には
『プラトンの弁明』。逆に右側には、『善と悪』。これらは、予定以上
の茶番劇となってしまった、もも(石原さとみ)との結婚式についての
直人の思いを表す言葉なのだ。
もちろん看護師である千秋にとっても、医療現場での責任と判断は
大切だけど、彼女は微笑んで直人に譲った。台本にそう書いてる
から(笑)・・じゃなくて、巧妙な逆ナンパでもなくて、直人の方が
その本を必要としてそうに見えたからだろう。
☆ ☆ ☆
直人は結婚式の前から、新婦ももの奇妙な狙いを理解、許容
してた。
つまり、ドタキャンで直人を裏切ることで、ももは月島流の華道に
再び打ち込める(と思ってる)。「もう一人の自分」(兵馬=大貫
勇輔の言葉なら、空蝉=うつせみ)も再び見えるようになる(と
思いたがってる)。
本当に上手くいくかどうかはともかく、直人はももが花を生ける
のを手伝おうとしてたのだ。池のカエルが、画家モネが水連の絵
を描くのを手伝うように(脚本家・野島伸司の分かりにくい比喩♪)。
☆ ☆ ☆
ところが、実際の直人は、最後の決定的瞬間で致命的失敗を
してしまう。ももへの愛や未練が衝動的にこみあげてしまって、
ももの心に自分を印象付けるような表情をしてしまった。それが、
「笑うところじゃない」所での妙な笑顔。
まさかの笑顔を、冴えない男が最悪の状況で見せる。すると、
プラスのものが、マイナスの状況でさらに際立つことになる。
だからプラス・マイナス効果と言えば分かりやすいのに、(特に
日本の通俗的な)心理学用語では、「ゲイン・ロス」とか呼ぶらしい。
gain(獲得)とloss(喪失)のコントラスト=比較で生じる認知的
バイアス。そう言うと理屈っぽくて、秋保(高橋ひかる)や芽衣
(田畑志真)が嫌がるから、直人は「ギャップ萌え」という言い方
もしてた。誉め言葉(ゲイン)を、怖い先生(ロス)からもらうと
嬉しい。
それなら、秋保じゃなくて、なな(芳根京子)がミニスカ&ニーハイ
のコスプレをした方がゲイン・ロスになると思うけど、それは無し♪
だからと言って、龍一(千葉雄大)と母・ルリ子(戸田菜穂)の浮気
の目撃で心が壊れたななが、裸足で地面をフラフラ歩いても、
ギャップ萌えは生じないのであった。まあ、その程度の理論だ。
☆ ☆ ☆
ストーリーの流れに戻ると、基本的にはももが加害者、直人が
被害者であって、フツーの感覚なら、直人が「責任」を感じたり、
「弁明」する必要はない。
ところが直人は、頭でっかち・・じゃなくて頭脳優秀で心優しい
自転車屋さんだから、自分の責任を重く受け止めてしまう。俺が
悲しそうな表情を見せてれば、ももは真っすぐ華道の世界に戻れた
のに、何と罪深い笑顔を見せてしまったんだ。。
違う言い方をするなら、直人はフラれる瞬間の「判断」を誤った
ことになる。「ここは哀しむべきだ」と判断すべき時に、「ここは
微笑むべきだ」と判断してしまったのだ。これは個人的で直接的、
基礎的な考えであって、一般的な知識やテクニックで受験問題を
解くような思考とは違ってる。
☆ ☆ ☆
こうした点こそ、アレントの政治思想が問題にしてた事の一部
なのだ。
彼女はドイツのユダヤ人で、ナチス政権が成立した後、米国に
亡命。ナチズムや旧ソ連のスターリズムなど、全体主義について
考える時、一部の悪者(ヒトラー、アイヒマンら)や悪徳に責任を
負わせてしまうのでなく、大衆の普通の考えや行動も問題とした。
あるいは、強制収容所の悲劇にユダヤ人自身も関与してるとか。
だからこそ、現在の社会だと、特に左派=リベラルが全体主義
的・排他的で危険な動き(?)を批判する時の手がかりにもなる。
つまり、一部の悪役(例えばトランプ大統領、安倍首相など)は
結構フツーの人間とも考えられるし、逆に一般大衆とか多数の
有権者も平凡で些細な悪とも考えられるわけだ。悪の「凡庸さ」
(陳腐さ)。
もちろん、批判する側の自分自身も反省すべきだけど、そうした
姿勢はあまり見当たらない気がするとまで言うと、言い過ぎか♪
ただ、直人が悪役のももを責めずに自分を責め続けるのに対し、
アレントを持ち出す人間の姿勢はかなり違ってると感じる。
☆ ☆ ☆
ひょっとすると、アレント自身も直人みたいに、自分の責任と判断
を問い続ける人だったのかも知れない。
英語の原書、『RESPONSIBILITY AND JUDGEMENT』
(HANNAH ARENDT)の表紙では、アレントがたばこの
煙をくゆらせてる。
映画『ハンナ・アーレント』でもタバコを強調。重過ぎる歴史と
現実に対する自分たちの責任を真面目に考え続けると、タバコ
でも吸わないとやってられなかったのかも。
ちなみに彼女の死は1975年だから、まだ嫌煙権とか受動喫煙
の問題は今ほど騒がれてなかったはず。だから、タバコについては
「責任」を感じる必要はないと「判断」したとしても、罪は少ない。
現代から見た印象、イメージが少し落ちる程度か。
本当は英語の論文を読んだり、もっと色々準備してたんだけど、
ここでもう時間だから、スパッと記事を終わるべきだと判断した。
ではまた明日。。☆彡
cf. 傷つけられた時に哀しむ人は、愛の人、いい女です
~『高嶺の花』第1話
後ろ生けと鏡に映るもう一人の自分、力学の意味~第2話
「犯罪者は外見で判断できる」、ロンブローゾ~第5話
生け花の形と様式、天・山・海・心と流れ菱(神宮流)~第6話
エリアス『時間について』と、子どもの頃の自分~第9話
黄色い高嶺の花は、純潔な太陽の光~最終回
(計 2746字)
(追記 46字 ; 合計 2792字)
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