「犯罪者は外見で判断できる」、ロンブローゾの学説と著書~『高嶺の花』第5話
良かったら 初対面ですし
お互い顔を見せ合いませんか?
お世話になっといて声だけなのも何なんで
ロンブローゾは
犯罪者は外見で判断できると言いました
もっとも 今では科学的根拠に乏しいと
ほぼ結論付けられてますけど
ヤバイ奴はやっぱ ヤバイ顔してるもんね
ニュースの犯人とかも
どっち?
うん 大丈夫
(脚本 野島伸司)
☆ ☆ ☆
日テレの連続ドラマ『高嶺の花』第5話、後半に出て来た上の
会話シーンは、色んな意味で興味深いものだったが、ほとんど
ツイートされてない。
「高嶺の花 犯罪者 外見」でツイッター検索をかけると、ヒット数
ゼロ。「ロンブローゾ」だけで検索すると、無関係なゲーム関連を
除いて、実質的にツイート3つだけだった。放送翌日の昼の時点で。
世帯視聴率8.2%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と苦戦中
とはいえ、個人の視聴者数は700万人ほどいる計算になる。
おそらくこの学者の名前がほとんど知られてないし、いきなり
早口で言われて聴き取りにくかったんだろう。
☆ ☆ ☆
ストーリー的には、新たに登場した謎のキャラ・坂東(博多華丸)
が、自転車少年・宗太(舘秀々輝)を任せていい人物かどうか、
直人(峯田和伸)らがスマホのテレビ電話でチェックする場面。
直人が「犯罪者は外見で判断できる」とか喋ってるのが聞こえた
坂東は、あわてて無理やり作り笑顔♪ 直人的には「大丈夫」
らしい。ちなみに番組プロデューサーは、博多の顔は「とてつも
なく悪い人」(笑)にも見えると語ってる。
このシーンが面白い理由の一つは、逆の視点も何気なく入れてた
から。つまり、坂東の側から見て、直人や秋保(高橋ひかる)達も
かなりビミョーな外見だけど、坂東は無言で宗太に向かって手を
上げてみせた。つまり坂東から見て、直人たちも信用できると
判断された形だ。
☆ ☆ ☆
それ以上に興味深いのは、直人が「今では科学的根拠に乏しい
とほぼ結論づけられてますけど」と言いつつ、しっかり外見で
判断してる点。秋保なんて、そんな科学的否定は完全に無視♪
ヤバイ奴はやっぱヤバイ顔だと応答してた。
見た目、特に顔の問題はよく話題や論争になるけど、「事実と
して今現在かなり影響力がある」のは間違いない。倫理的な問題
や判断はさておき、まず事実は率直に認めるべきだろう。実状を
踏まえて、人種差別とか科学的真理(or虚偽)とか論じるべきだ。
このドラマのメインのスポンサーも、女性の顔を美しくする化粧品
をPRしてるし、そのCMに出てるのはドラマのヒロイン、綺麗な顔
の石原さとみだ。それと冴えない顔の峯田の対比が物語の基本。
世界で人気の『美女と野獣』も同様、美しい女性と醜い男性との
外見の対比が基本になってる。
ウチの近所には、不審者を見たら通報とかいうポスターが数枚
貼られてるけど、これも外見的判断だ。NTT東日本は、AIカメラ
の監視で万引きを防止する「AIガードマン」を発表したばかり。
不審な「行動」をチェックするという建前だけど、単なる「外見」も
見てるだろうと想像する。
犯罪とか治安がからむと、人権とか平等の話が吹っ飛ぶのは、
古今東西変わらない。もちろん、外見が怪しいだけで逮捕は
できないけど、職務質問や別件逮捕なら可能になるわけだ。。
☆ ☆ ☆
19世紀に活躍したイタリアの犯罪学者&医師、ロンブローゾ
(Cesare Lombroso)の顔は、私の感覚だと不審者には見えない。
大きめの額、眉間にシワを寄せた厳しい表情、メガネ、典型的な
昔の研究者といったイメージだ。英語版ウィキペディアより。
犯罪者は多数の身体的特徴・異常(anomaly)で区別できる
という統計学的な主張は、ダーウィニズム(進化論)ともつながる。
類人猿など、遺伝的に遠い祖先へと先祖返りしたような外見が
犯罪者の特徴というわけだ。
生まれつきの典型的な犯罪者(生来性犯罪人、born
criminal)は、斜めに下りた額、普通でないサイズの耳、顔
の非対称性、下あごの突き出し、長過ぎる腕、頭骨の非対称性
などで同定できる。盗人、レイプ犯罪者、殺人者など、各犯罪者
には独自の特徴がある。彼はそう信じた。 (大まかな翻訳)
☆ ☆ ☆
上の『CRIMINAL MAN』(犯罪者、1911)は、娘が
まとめ直した英語の本で、ロンブローゾ自身が死の直前に(?)
序文を書いてるから信頼できる。インターネット・アーカイブより。
鼻は、盗人だとしばしば、ねじれて上向きになってるか、・・・
人種のように平たい。殺人者は逆に、猛禽のくちばしみたいな
ワシ鼻になってる。口は顔の中で最も多くの特徴を示す。発達
し過ぎたあごなど。 (部分的な和訳、一部は翻訳を避けた)
☆ ☆ ☆
もちろんこうした議論には、当初から批判が強かったらしいが、
上の要約本を少し読んだだけでもかなり詳細な研究だと分かる。
主著『L’uomo delinquente』(犯罪的人間)
その他、批判する前に精読するだけでも大変だろう。
当然、今ならAIやビッグデータ解析とつながるし、遺伝子DNA
の選別とか優劣、優生思想の議論にもつながる。今後、不正確
ながらも先駆的な業績だったと再評価されても不思議はない。
なお、2年前に津久井やまゆり園で19人を殺害したとされる
植松聖被告は、逮捕直後に不気味な笑顔の写真を撮られた
のは失敗だったと語ってた(『開けられたパンドラの箱』)。瞬間
の表情と普段の表情は分けて考えるべきだろう。特に容疑者や
被告は、一瞬の犯罪者的な表情を狙われやすいから。
ちなみにロンブローゾは、外見が犯罪を引き起こす「原因」である
ことは否定してた。あくまで、犯罪者であることを示す徴候、サイン
と考えてたのだ。
とりあえず、監視カメラの撮影・録画はなるべく自然に避けといた
方が無難だろうなと思いつつ、今日はこの辺で。。☆彡
cf. 傷つけられた時に哀しむ人は、愛の人、いい女です
~『高嶺の花』第1話
後ろ生けと鏡に映るもう一人の自分、力学の意味~第2話
華道の様式、天・山・海・心と流れ菱(京都・神宮流)~第6話
ハンナ・アレント『責任と判断』とゲイン・ロス効果~第7話
エリアス『時間について』と、子どもの頃の自分~第9話
黄色い高嶺の花は、純潔な太陽の光~最終回
(計 2429字)
(追記 103字 ; 合計 2532字)
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