本庶佑教授のノーベル医学生理学賞2018、受賞理由(免疫のブレーキ分子PD-1、英語原文と和訳)
本庶佑(ほんじょ・たすく)教授がノーベル医学・生理学賞受賞
ということで、いつものように英語の公式サイトに飛ぶと、いつの
間にか地味なサイトになってる。前はもっとキラキラ輝くデザイン
だったから、アクセス先を間違えたのかと思ったほど。
ひょっとすると不祥事を受けて控えめなデザインに変更したのか
と思ったけど、よく見ると、毎度お馴染みの受賞者イラストに
ついては、単なる表示エラーで見れなくなってるらしい。ニクラス・
エルメヘド氏の味わい深い作品だ。
IE(インターネット・エクスプローラー)だと映らないから、
ブラウザをChrome(クローム)に変えると、イラストが登場。
それも含めていつものように、英語の公式HPからコピペ&翻訳
させて頂こう。世界レベルの公的発表(プレス・リリース)でも
あるし、著作権の問題は生じないと考える。
なお、原文は遥かに長いので、以下はあくまで主要な部分のみ。
悪しからずご了承を。
☆ ☆ ☆
Nobelforsamlingen
The Nobel Assembly at
Karolinska Institutet
ノーベル会議
カロリンスカ研究所・ノーベル会議
カロリンスカ研究所のノーベル会議は本日、2018年ノーベル
医学生理学賞を、ジェームズ・P・アリソン氏とタスク・ホンジョ氏
に贈ることを決定した。
免疫を抑制する働きの阻害による、ガン治療法の発見に対して。
要旨
ガンは毎年、数百万の人々を死亡させており、人間の健康に
おける最大の課題の一つである。腫瘍細胞を攻撃する我々の
免疫システム固有の能力を活性化することで、今年のノーベル
賞受賞者たちは、がん治療法の全く新しい原理を確立した。
ジェームズ・P・アリソン氏は、免疫システムのブレーキとして
働くことで知られているタンパク質を研究した。彼は、ブレーキ
を解放することで我々の免疫細胞の束縛を解き、腫瘍を攻撃
させることの可能性を理解した。彼はそれから、この考えを、
患者治療に対する全く新しい取り組み方へと発展させた。
それと並行して、本庶佑氏は、免疫細胞上のあるタンパク質
を発見し、その機能を注意深く探求。それが、別の作動メカニズム
を用いたブレーキとしても働くことを、偶然明らかにした。彼の
発見に基づく治療法は、ガンとの闘いにおいて際立って有効
だと判明した。
アリソン氏と本庶氏は、ガンの治療において、免疫システムの
ブレーキを阻害する様々な戦略が利用可能だと示した。2人の
受賞者の将来性豊かな発見は、ガンに対する我々の闘いの
ランドマークとなる。
☆ ☆ ☆
上の右図(訳者注: 左側にあったアリソン氏の図は省略):
PD-1は、T細胞の活動を阻害する、もう一つのT細胞
ブレーキである。
下の右側: PD-1に対する抗体は、ブレーキ機能を阻害し、
T細胞を活性化させ、ガン細胞に対する非常に効果的な攻撃
へとつなげる。
(訳者注: APCとは、Antigen Presenting Cell。
直訳すると抗原提示細胞で、マクロファージなどを
指す。要するにT細胞に対して、攻撃対象である
抗原(紫色の丸印)を教える細胞。大きな紫はガン。
また、PD-1のブレーキを踏む足の役割を果たす、
灰色の丸2つがPD-L1。ブレーキを踏めない
ようにジャマする緑の三ツ矢マークが阻害物質、
つまりオプジーボ。
あと、青緑の丸印付きの棒は、T細胞のアクセル。)
PD-1の発見と、ガン治療法におけるその重要性
1992年、アリソン氏の発見の数年前、本庶佑氏は、T細胞
の表面に現れる別のタンパク質、PD-1を発見した。その
役割の解明を決意した彼は、京都大学の彼の研究所で長年
行われた一連の見事な実験の中で、その機能を詳細に探究。
その結果PD-1は、CTLA-4(注.アリソン氏の研究対象)
と同様に、T細胞のブレーキとして機能するが、別のメカニズム
で作動することが分かった。本庶氏や他のグループが示した
ように、動物実験において、PD-1を妨害することはガンとの
闘いの有望な戦略であることも示された。
こうして、患者の治療において標的としてPD-1を活用
する道が開かれた。臨床的な発達も続き、2012年の重要
な研究では、様々なタイプのガン患者の治療における明白な
有効性が例証された。
結果は劇的で、長期の寛解(症状の緩和)につながり、以前
なら根本的に治療不能と考えられた転移性ガンの患者の
一部でも治療可能となった。
☆ ☆ ☆
なお、PD-1のPDとは、Programmed Death
(予定された細胞死)という意味。もともとは、細胞が自ら死を
選ぶアポトーシスに関わる遺伝子を探していたので、この
名前が付けられたが、実験すると細胞死は起きなかった
らしい(朝日新聞・朝刊、18年10月2日)。
結局、PD-1はここ数年話題の薬「オプジーボ」(小野薬品工業)
につながって、細胞死を引き起こすどころか、人間の死を防ぐこと
になった。しかし非常に高価なため、医療財政や保険制度の死を
招く恐れはある。値段が下がった現在でも、患者1人あたり年間
1000万円かかるようだ(朝日の解説から計算した結果)。
ちなみにオプジーボ(opdivo)という商品名の由来は、
optimal pd-1 nivolmab
(最適な PD-1 ニボルマブ)とのこと。
ニボルマブとは一般名だが、今のところ意味や由来を発見
できてない。
ともあれ、本庶教授と研究グループの皆さんに拍手を送りつつ、
今日のところはこの辺で。。☆彡
cf. 重力波の観測 by LIGO(ライゴ)
~ノーベル物理学賞2017、授賞理由(英語原文と和訳)
体内時計と遺伝子の解明
~ノーベル医学生理学賞2017、授賞理由
大隅良典教授のノーベル医学生理学賞2016、
受賞理由(英語原文と和訳)
大村智教授のノーベル医学生理学賞2015、
受賞理由(英語原文と和訳)&休養ジョグ
(計 2409字)
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コメント
本庶佑博士こそが若手研究者の見本にすべき存在であり、若手研究者が目標にすべき存在であると思う。それは研究者としての実力、実績だけではない。謙虚そのもので周囲から尊敬される人格者。研究者は視野が狭い分、どうしても高慢で偏屈、自分勝手な裸の王様になりがち。そんな姿とは程遠い本庶佑博士には感服するしかない。
投稿: 森田研究所 | 2018年10月 6日 (土) 15時00分
> 森田研究所さん
はじめまして。コメントありがとうございます。
本庶教授は最近の日本人受賞者の中だと
山中教授と並んで明るい人柄に感じますね。
ゴルフ仲間というのも偶然ではないでしょう。
若手支援の基金も設立するそうで、まだまだ
日本の科学界を引っ張って欲しいと思います
投稿: テンメイ | 2018年10月 8日 (月) 14時56分