第2回・大学入学共通テスト試行調査(プレテスト)、国語・第1問(記述式、ヒトと言語、指差し)の解説・感想
センター試験に代わって2020年度(正確には2021年1月)
に始まる大学入学共通テスト。主導してるのが大学入試センター
だから「センター試験」と言いたくなるし、「共通」という言葉を聞くと
「共通一次」と言いたくもなる。
いまだに馴染まない名前だから、まずは、この名前を一般市民に
たずねるテストから始めた方がいい気もする。軽口はさておき、
既に1週間遅れだが、1年ぶりに簡単な記事を書いておこう。
去年の記事2本は以下の通り。
「大学入学共通テスト」試行調査(プレテスト)、
国語・第1問(部活動)の解説・感想
数学ⅠA・第3問(高速道路の確率)の解説
なお、問題と正解、ねらい等は、公式サイトで公表中。
☆ ☆ ☆
第一問(記述式)は、まことさんが「ヒトと言語」の探求レポートを
書くときに参考にした文章を3つ読んで答える。文章Ⅰ、Ⅱ、資料。
著者名と書名しか示されてなかったので、出版社と出版年度を
調べて補足しとこう。
文章Ⅰの出典は、
鈴木光太郎『ヒトの心はどう進化したのか
──狩猟採集生活が生んだもの』(筑摩書房、2013年)
文章Ⅱの出典は、
正高信男『子どもはことばをからだで覚える
メロディから意味の世界へ』(中央公論新社、2001年)
資料の出典は、
川添愛『自動人形(オートマトン)の城 人工知能の
意図理解をめぐる物語』(東京大学出版会、2017年)
3人の専門は、実験心理学、ヒト&サル(霊長類)、言語学&
コンピューター。
一見、3人目だけが最新の研究に感じられるが、要するにすべて
言語活動の基本を探っているわけだ。人間の基本が子どもとサル。
言語の基本からインプットする必要があるのが、コンピューター。
☆ ☆ ☆
問1は、文章Ⅰの傍線部「指差しが魔法のような力を発揮する」
の説明。句読点を含む30字以内だから、ポイントになる言葉を
入れるだけで終わりになる。
直前から直後までの文章は以下の通り。
「ことばのまったく通じない国に行って、相手になにかを
頼んだり尋ねたりする状況を考えてみよう。この時には、
指差しが魔法のような力を発揮するはずだ。なんと言っても、
指差しはコミュニケーションの基本なのだ。」
私なら、正答の条件に「指差し」とか「ポインティング」という言葉
を入れたくなる。「ことばが通じなくても、指差しでコミュニケーション
できること。」(30字)。
コミュニケーションという言葉の代わりに、頼んだり尋ねたりと書いて
いるのが、公式の正答例2。私の感覚なら、3つの例の中でこれ
だけが満点だ。例1は、「指差し」という言葉が入ってなくて字数が
少ない(21字)。例3はさらに、「注意を向けさせる」と書いているが、
それは段落の最初の言葉であって、説明がやや曖昧になる。
実際の「正答の条件」はもう少し緩くなっているが、要するにその
段落の主要な言葉をつないで答える形。朝日新聞の取材では、
受験生が、「答えを抜き出すよう求めている設問ばかり」と話して
いた(11月11日・朝刊)。
受験者も採点者も多い中で客観性を持たせるためには、仕方ない
ことではあるが、これで大学入学者の思考力・表現力を問うとか
言われても微妙なところだ。記述式導入への批判には、一理ある。
なお、採点評価はまず各問4段階(a~d)で行った後、組合せで
5段階(A~E)にする。問3重視の複雑な「総合段階」だ。
☆ ☆ ☆
問2は、ヒトの「初期の指差しと言語習得」についてまとめたノート
の空欄補充、40字。文章Ⅱの内容を基に、と指示されている。
ある単語を耳にする。
→子供は無数の候補の中から適切な一つを選ぶ必要が生じる。
しかも大人は・・・(大きな空欄)・・・。
→だから子どもは積極的に指差しをする。
私なら、ほとんど文章Ⅱと同じ文で答える。“英語の先生のように、
本を手にとって「これはブック」と教えてはくれない。”(35字)。
この「ブック」の代わりに「本」と書いているのが、公式の正答例3
だが、英語の先生が「これが本だ」と教えるというのは変な話。
原文の英文は気が引けるから、カタカナのブックが妥当だろう。
正答例1と2は、指示対象とか対象という言葉を使っているが、
設問のノートで、原文の「対象」という言葉をわざわざ「候補」と
書き直しているのだから、私なら「対象」という言葉は避けたい。
というより、そもそも設問のノートに「対象」という言葉を入れておく。
☆ ☆ ☆
最後の問3は、80字以上、120字以下で、2文に分けて答える。
ちょうど、受験生も好きそうなツイッターのつぶやき1本分。
レストランのメニューで料理を指さすと、その写真自体ではなく、
本物の料理のことだと理解できる。つまり、「指さされたものが、
話し手が示したいものと同一視できないケース」もある。
資料を読んでその事に気づいたまことさんは、「話し手が地図上
の地点を指さす」行為もそのケースだと気付いて、なぜ理解できる
のか、考えをまとめた。そのまとめを答えるわけだが、そう言えば
単純な「まとめ」というのも、若者がネットで好むものだ。
私なら、丁寧すぎるほどの親切な指示に従って、次のように答える。
ピンク色の部分は、指定された言葉。
「話し手が地図上の地点を指さす時、示しているのは地図
そのものではなく、地図が表している現実の場所である。
それが理解できるのは、聞き手が、話し手と同一のイメージ
や関心、文化を共有し、相手の立場に身をおけるからである。」
(106字)。
☆ ☆ ☆
本来なら80字ほどで書けるが、120字以内という指定だから、
わざわざ少し伸ばしておいた。これは、公式の正答例2に近い
もので、例1と例3はあまり賛成できない。
というのも、その2例は相手の「視点に立つ」という文章Ⅰの主張
を取り入れているけれども、それでは限定が狭すぎるからである。
視点に立つという表現を、文字通り視覚的な狭い意味で使って
しまっている上に、そもそも指差しに関して半ば事実誤認している
と思われる。
指差しの理解に、相手の視点に立つことは「必要」ではない(部分
否定)。例えば、外国のお店で買いたい商品の数センチ手前を
指さす時、相手は指の位置だけから直ちに商品を確定できるし、
実際それは反射的な機械的反応のはず。
ロボットの設計でも単純に可能だろう。指のすぐ先に小さな物体が
ある時は、それを対象の第一候補とみなせばよい。他にも、自分と
相手と指が同一直線状にある時は、自分の視点のままでよいこと
になる。「相手の視点」でもあるが、わざわざ「相手の視点に立つ」
わけではなく、むしろ相手が私の視線に合わせて指差している。
☆ ☆ ☆
そうした簡単な反例、例外を考慮していない文章の説明を、自分で
改善する行為や能力こそ、思考の名に値する重要なものなのだ。
相手の言葉を抜き出すだけでは、コミュニケーションにも値しない。
とはいえ全体的に見ると、無難に完成された記述式問題だろう。
「それが理解できるのは、読み手の私が作り手の立場に身をおく
からである」。
書き手の私が、問題作成者と文体を共有したところで、それでは
今日はこの辺で。。☆彡
(計 2911字)
| 固定リンク | 0
「教育」カテゴリの記事
- 1~7の数字を並べた整数A、Bの和が9723になるのは何通りか(高校・場合の数)~開成中2023年入試、算数・問題5の解き方(2023.02.04)
- 桜(ソメイヨシノ)の開花予想と、気温の時間積分(1次関数、2次関数)~2023年共通テスト数学ⅡB・第2問〔2〕(2023.01.29)
- トランプの4種の絵柄(ハート・スペード・クラブ・ダイヤ)を並べた暗号と解読方法~2023年共通テスト・情報関係基礎・第2問(2023.01.26)
- バスケットボールのシュートの軌道(リングへの放物線)、高身長プロ選手と普通女子~23年共通テスト数学ⅠA・第2問〔2〕(2023.01.17)
- 誰が、何に、どれほど飢えているのか?~梅崎春生『飢えの季節』(初出『文壇』2巻1号、2023年・共通テスト・国語)(2023.01.15)
コメント