「WGIP」(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)と『真相はこうだ』、占領軍GHQによる日本人「洗脳」?~保守vsリベラル
元の文献を自分で調べた上で記事を書こうとしてる内に、早くも
1週間が経過。まだしばらく余裕がないから、とりあえず軽い感想
記事だけでもアップしとこう。
「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(WGIP)と
いう言葉や問題を初めて知ったのは、18年12月5日の朝日
新聞・夕刊を通じてのこと。最初は完全にスルーした記事だが、
新聞を処分する前にもう一度流し見してる時、目に留まった。
現在、朝日新聞デジタルにも掲載中。
左派・リベラルの代表メディア、朝日の記事では、次のような議論
にまとめられてる。
──占領軍の教育計画が、保守の論壇では、日本人に
自虐史観を植え付けた洗脳のように語られてる。
しかし歴史研究者・賀茂道子が当時の史料を調べたところ、
洗脳とは思えないし、体系的な施策でもなかった──。
ただ、賀茂も「それなりに影響はあった」とみるそうだから、洗脳と
見るかどうかは程度の問題、主観・立ち位置の問題とも言える。
あと、朝日は書いてないが、今回の著書はどうも博士論文がもと
になってるようで、非常勤講師の彼女はおそらく、4月に名古屋大学
大学院を出たばかりだろう。若手研究者の1人の見解ということだ。
☆ ☆ ☆
この種の話題は、右と左が全く違う主張をすることが多いので、
まず全体のバランスを考慮する必要がある。
「war guilt information program」という英語
が実際どの程度使われてたのか、ハッキリしない。ただ、言葉の
意味は、「戦争の罪・罪悪感・有罪性を知らせる計画」だと考える。
運営システムが違うので一概には比較できないが、朝日のサイト
で「WGIP」を検索すると、実質的には2件のみヒット(今回の記事
含む)。どちらも洗脳という見方に否定的な内容だ。
逆に、右派・保守の代表メディアである産経新聞のサイトで検索
すると、73件ヒット。見出しと冒頭の引用だけに目を通すと、
ほとんど(全て)が洗脳されたという見方のような感じだ。
さらに、相対的には中立に近い日経とNHKも検索すると、どちらも
ヒット数ゼロだった。何とも分かりやすいメディア全体の構図だ。
☆ ☆ ☆
AMAZONの「本」カテゴリーで、「ウォー・ギルト」を検索
すると、6件のみヒット。上段の中央が、朝日の記事が扱ってる
『ウォー・ギルト・プログラム: GHQ情報教育制作の実像』
(法政大学出版局、2018年8月)。左右、ほぼ半々か。
同じアマゾンでも、「WGIP」の検索だと45件ヒット。右寄り
の書籍が並ぶのは自然なことで、朝日によると、「WGIP」と
いう略語は保守陣営が使うことが多いようだ。上図の右側の
本『閉された言語空間』(江藤淳、文春文庫)が、議論の出発点
の一つらしい。
最後に、「war guilt information program」をグーグル
の「語順も含め完全一致」で検索すると、ほとんどの結果は日本
のページになる。英語版ウィキペディアにも項目なし。というより、
その項目は日本版ウィキにしか存在しないようだ。
というわけで、この話が日本の右派・保守の好むものだという
点は確かだと思う。
ただ、そこから「右翼の偏見」とか「虚構」、「間違い」だと直ちにいう
ことはできない。敗北して占領された日本の側の保守だけが正しく
歴史を見てる可能性もある。
被害というものは一般に、被害者のみが最初は声を上げるのだし、
被害者がしばらく声をあげないとか、気付かないこともある。イジメ
や体罰、セクハラ、パワハラの問題がその典型だろう。。
☆ ☆ ☆
いずれにせよ、占領軍によるある種の「教育」が行われたのは事実
らしい。代表は2つ。新聞の全国紙の連載『太平洋戦争史』と、その
ラジオ放送版のシリーズ番組『真相はこうだ』。
前者はその後、中屋健一が書籍化(高山書院、1946年)。
これは確認しにくいが、後者の『真相はこうだ』は「再録」本が国立
国会図書館デジタルコレクションで全文公開されてる。
「真実こそ如何なる国家にとっても最も強い同盟国である」。
聯合(=連合)国軍最高司令部民間情報教育局編、ラジオ放送
『質問箱』の再録、『眞相はかうだ』第一集(連合プレス社、
1946年)。
☆ ☆ ☆
全体を軽く眺めると、戦争の細かい説明が多い。個々の戦闘・展開、
有名な戦艦、個別の軍人など。そのため、個人的にはそれほど
「洗脳」というイメージは受けなかった。
原子爆弾に関する説明は、日本の被爆者らへの配慮もあるのか、
かなり中立的なものに感じられる。つまり、原爆投下の負の側面が
少なからず記されてるのだ。天皇への言及も慎重。「侵略」という
言葉の説明も、英語の辞書を用いて淡々と短く行われてる。
ただ、アジアの各国・地域との関係、いわゆる「南京大虐殺」問題
など、かなり論争になりそうな記述もあった。それについてここでは
引用しないので、原書とその後の膨大な歴史研究に任せよう。ここ
では1つだけ、引用する。日本が負けた理由。
☆ ☆ ☆
本書の冒頭。「今次大戦で日本が鋭鋒をくじかれ、守勢に転じた
のは何時頃ですか 又その理由は何でしたか お知らせ下さい」。
理由の第一は、想定外だったドイツ敗北。第二は生産力不足に
よる兵力逆転、優勢から劣勢への転落。第三は、科学力でアメリカ
に劣ってたこと。
大なり小なり反論・修正できなくもないだろうが、少なくとも洗脳と
いうほどの極論は書かれてない。書き方の点でも、感情的、扇動的
なものではない(南京などの項目は別)。
☆ ☆ ☆
大きく見た時に、『真相はこうだ』の分かりやすい欠点は、連合国
側の当時と過去の問題点が大幅に省かれてることだと思う。
日本にももちろん、様々な問題があっただろう。では戦勝国側は
どうだったか。それと日本と比べると、あるいは合わせて考えると、
相対的・総体的にどうなのか。別に問題のすり替えとか責任転嫁
などではなく、冷静な包括的議論が必要なのだ。実際、司法裁判
でも、法と共に過去の事例、判例というものが重視される。
とりあえず穏当な感想・意見を書くなら、当時こんな教育もあったと
いう事くらいは知る価値があるだろう、ということになる。その教育
の評価・吟味、他の施策との関係や、現在までの社会的影響に
ついては、また別の話だ。
真相はこうだ・・と語るのは、何時、誰にとっても非常に困難だろう
と痛感しつつ、今日のところはこの辺で。。☆彡
(計 2632字)
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