√(ルート)の筆算、開平法~海軍兵学校の数学試験(算術)2
今日は、昨日の記事の続きで、明治36年の海軍兵学校の数学
試験を解説する。最近の学校教育ではあまり見かけない特殊な
計算だし、まず前置きから入ることにしよう。不要な方はスクロール
すれば、すぐに問題と解答を読める。
自然数の√(ルート)や平方根は、誰でもそれなりには計算した
ことがあるだろう。最初に習うのが、1ケタや2ケタの数の√。
4の平方根は±2、√4=2とか、√49=7とか。
これらは九九(くく)を覚えてれば一瞬で解けるけど、元の数が
3ケタ以上になると、多少考えることになる。
☆ ☆ ☆
例えば、263が素数かどうかを考える時、2で割れるか、3で
割れるか・・と考えて行って、√263以下の最大の自然数
(=16)まで試せばいい(正確には素数13まで)。
私が√263の近似値を計算するなら、まず15²=225
を思いつく。続いて、16²=256、17²=289。
∴ 16²<263<17²
∴ 16<√263<17
こんな感じで数秒ほど暗算。「16.・・」だなと考える。
要するに、2乗して、√の中身を超えないような最大の数を
探すのであって、普通は簡単な計算で済む。しかし、√の
中身が大きい数だったり、小数点以下が長い数だったりすると、
ちょっと面倒で、何か工夫をしたくなる。
☆ ☆ ☆
普通は「開平法」と呼ばれ、珠算(そろばん)だと「開平算」とも
呼ばれる方法も、√の計算をちょっと工夫して筆算しやすく
したもの。だから、工夫そのものが難し過ぎるとあまり意味は
ない。それなら普通に手探りで2乗して探してもいいことになる。
その意味で、以下に示す明治期の開平法(の一種)は、手頃な
工夫だと思う。ほどよく丁寧で、ほどよく省略されてるのだ。
もっと丁寧な筆算はあちこちで説明されてるし、極端に省略
した筆算は英語版ウィキペディアにあった。
最大のポイントだけ、先に数式で示しとこう。√263なら、
十の位が1というのはすぐ分かる。一の位をaとすると、
(10+a)² ≦ 263
∴ 10²+(2×10+a)a≦263
∴ (2×10+a)a ≦ 263-100
最後の式は見慣れないものだけど、最初の式より両辺の値
が小さいし、右辺の263-100という計算は普通の割り算
と似た操作。
そこで筆算の左側に(2×10+a)aを書き、ギリギリ
右側の263-100以下になるようにaを決めるのが基本。
ただし、明治の解答では、筆算の左側に 2×10+a
だけ書いてるのだ。慣れれば効率がいいと思う。
より一般的に言うなら、
(2×「既に求めてる答の部分」+a)a
≦ 「残ってる数」
という式を利用して、答の次のケタであるaを決めていく。
☆ ☆ ☆
では、100年以上前の「算術」(算数)の入試問題。当時の
略解が国立国会図書館デジタルコレクションで公開されてる
ので、あえてそれを利用してみる。
問題6
三百坪の正方形の地面あり 其(その)一辺の長さ幾間
(いくけん)幾尺なるか、但し尺の小数第二位以下
四捨五入せよ
(注. 今の言い方なら、小数第三位を四捨五入して
小数第二位まで求める。)
解説込みの解答
(三百坪)=300×(6尺×6尺)
=10800 (平方尺)
よって、√10800を求めればよい。
(注. 当時の解答に合わせるため60√3には変形しない)
10800.0000と書いて、小数点の左右を2ケタずつ
縦線で区切る。その右側に、カギカッコで区切って答を書く。
2乗して、左端の1以下になる0以上の整数は、1しかない。
そこで、まず右上に1と書き(答の百の位)、その2乗
(=1)を元の数から引くと、8になる。
答の最初のケタの1を2倍すると、2。
「2a」(つまり20+a)と掛け合わせて8以下になるような
aは、0しかない(0以上の整数では)。
そこで、右上に0(答の十の位)を書くと共に、左下は20と
書く。そして、8の右側に上から00を降ろして、800にする。
さらに、「20b」(つまり200+b)と掛け合わせて
800以下となるような最大のbは、3。
そこで、右上に3(答の一の位)を書き、
203×3(つまり609)を800から引いて191。
左端は、203に3を加えて206。要するにこれは、
既に求めてる答の部分「103」を2倍した数。
☆ ☆ ☆
さらに同様の操作で、答の小数第一位である9を求め、
2069×9(つまり18621)を19100から引く。
全く同様に、答の小数第2位が2と分かる。第3位は3
になるから、四捨五入によって切り捨てられる。
6尺が1間(けん)だから、答は、
103.92尺=17間1尺92
☆ ☆ ☆
もちろん今なら、
60√3=60×1.73205・・
と計算する問題だ。明治時代に、上の変形や√3の近似値を
使ってよかったかどうかは不明。
上図の下から3行目、「47500」は些細なミスというより
誤植か。正しくはもちろん「47900」で、その後の引き算
と結果は正しい。
なぜかこの解答(金刺芳流堂等)だと、小数点は今と同じ「.」
(点)になってるけど、前回の記事の問題文では「,」(コンマ)
だった。両方が混在してたということか? とりあえず保留。
ちなみに解答の最後は、「92強」と書いてた。切り捨てた時に
そう書き添えるのが当時の慣例だったのかどうか、これも保留
しとこう。なお、10√108
記事をまとめるのにずいぶん手間ヒマかかったので、最後の
問題の開立法(立方根の計算)はしばらく後回し。オマケの
具体例として、√5と√263の計算を付けとこう。
それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 2250字)
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