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妻と再会できた夜、月見草の花畑~上林暁『花の精』(2019センター試験・国語)

(☆20年1月19日追記最後のセンター記事アップ。

妻、隣人、そして自分・・戦争をはさむ死の影のレール

~原民喜の小説『翳』(2020年センター))

 

 

(☆19年2月26日の追記: 続編記事新たにアップ

 

 上林暁『花の精』全文と、ノヴァーリスのメルヘン

 

 「ヒヤシンスと花薔薇」(in『ザイスの学徒たち』))

 

 

 

 

 

    ☆       ☆       ☆

 

ここ十年ほどツイッターその他で話題になって来たセンター試験

 

の国語(現代文)だが、今年はあまり話題になってない気がする。

 

 

 

上林暁(かんばやし・あかつき)の私小説『花の精』。初出は各種

 

ネット情報を総合すると昭和15年(1940年)、河出書房の雑誌

 

(?)『知性』だろう。普通に読むだけだと、一般人の日記かブログ

 

のような感じさえある、日常的な話だ。

 

 

 

もちろん、よく読むとやはり文学であって、メモみたいに行動を単純

 

に記録しただけの文章ではない。『花の精』というタイトル自体も、

 

メルヘン的言葉に見えて、心をえぐるような鋭さを秘めてる。という

 

のも、妻の入院先は「精神病院」とされてるから(ブリタニカ国際

 

大百科事典)。

 

 

 

つまり、「花の精」とは、「妻の精神」と綺麗に重なる言葉を選んだ

 

題名なのだ。私は問題文を一度読んだ後にその事実を知ったが、

 

その上で読み返すと妖しく危険な香りを感じた。

 

 

 

それこそ、主人公=彼が最後にかいだ月見草の「かぐわしい香り」

 

なのだ。「天国」とか「脱線」という言葉の解釈も微妙に変化せざる

 

を得ない。2013年に出題された「スピンスピン」(『地球儀』)など

 

を思い出す所だろうか。下はウィキメディア、Michael Wolf

 

氏の作品より。

 

 

 

190120c

 

 

 

 

 

     ☆       ☆       ☆

 

問題は、私自身は河合塾HPで21時過ぎに読んだが、既に

 

あちこちで公開されてる。

 

 

 

解釈込みのあらすじをごく簡単にまとめると、妻の入院中、心を

 

慰めてくれる存在だった月見草が、庭師によって引き抜かれて

 

しまう。そこで、釣りをする友人と一緒に多摩川へ行き、月見草を

 

手に入れる。

 

 

 

夜の建物の明かりで妻を思い出すが、圧倒的な月見草の花畑が

 

感傷を吹き飛ばす。手に抱えるのは、かぐわしい花。やっと「妻」

 

と再会、抱擁できたのであった。。

 

 

 

 

 

     ☆       ☆       ☆

 

190120a

 

 

 

まず、Googleマップをお借りして、場所と位置関係を確認

 

しとこう。右上(JR荻窪駅の北側)辺りが天沼で、作者の自宅。

 

流石は昭和初期の私小説、個人情報を思いきりさらしてるのだ。

 

 

 

JRは当時「省線」などと呼ばれ、荻窪駅の西側に武蔵境駅が

 

ある。そこまから地図の左下の「是政」(これまさ)までは、西武

 

鉄道のガソリン・カーが走ってたらしい。その南西側はちょっとした

 

山(丘陵)になってるが、田舎の「山」ほどの大きさや雰囲気はない。

 

 

 

ちなみに是政というのは多摩川サイクリングロードの「是政橋」と

 

しても有名な地名。私も自転車で度々通過してるが、止まったこと

 

は1、2回しかない。ただ、サイクリストに限らず、スポーツ愛好家

 

がよく休憩してるポイントなのだ。東京・横浜エリアで大きく見ると、

 

下の図のようになる。南東の羽田から北西に伸びるのが多摩川。

 

 

 

190120b

 

 

 

 

 

     ☆       ☆       ☆

 

さて、多くの人と同様、私も全く知らなかった小説だが、ネット

 

上に問題文とは違う箇所が紹介されてる。「花の精」を含む選集

 

『星を撒いた街』に対する、阿部公彦の書評(東京大学)。その

 

引用を読むと、またしてもイメージが大きく揺さぶられるのだ。

 

 

 

 「その月見草の太い株が、植木屋の若い職人が腰に挟んでいた

 

 剪定挟で扭(ね)じ切られているのを見たとき、私は胸がドキドキ

 

 して、口が利けなかった」

 

 

 

 「職人は、根株を徹底的に片づけて、もう二度と芽など出させ

 

  ないようにするつもりらしく、何度も何度もナイフを当てがって

 

  切りさいなむのであった。彼は、私が大事に大事にしていた

 

  月見草だとは知らず、只の雑草だと思い込んで・・・」

 

 

 

実も蓋も無い強烈で生々しい感情、情動の発露と描写。この言葉

 

そのものが、「何度も何度もナイフを当てが」うような鋭さを持つ。

 

 

 

では、どうして雑草にも見える月見草にそれほどの感情を注ぎ

 

込むのか。それは、入院した妻への思いが込められてるから

 

だろう。暗い場所で、僅かにひっそりと咲く花。

 

 

 

月見草を通した妻への強烈な愛を踏まえると、問5の答は「正解」

 

とは別の選択肢になる、と私は考える。「正解」は、表面的な文章

 

しか見てないように感じるのだ。

 

 

 

 

 

     ☆       ☆       ☆

 

第2問の問5は、次のように書いてる。

 

 

 

 傍線部D「それはまるで花の天国のようであった。」とあるが、 

 

 ここに至るまでの月見草に関わる「私」の心の動きはどの 

 

 ようなものか。その説明として最も適当なものを、次の

 

 ①~⑤のうちから一つ選べ。

 

 

 

②は前半が少しおかしいし、④は後半の「死後」とか「死」という

 

表現が強すぎる。⑤は、最後の「自分と妻の将来に明るい幸福

 

を予感させてくれた」という表現が言い過ぎだろう。結局、センター

 

では2つの選択肢が残ることが多いのだ。ここでは、①と③。

 

 

 

① 是政の駅に戻る途中で目にした、今咲いたばかりの月見草

 

  の群れは、どこまでも果てしなく広がるようで、自分の感傷

 

  を吹き飛ばすほどのものだった。さらに武蔵境へ向かう

 

  車中で見た、三方から光の中に現れては闇に消えていく

 

  一面の月見草の花によって、憂いや心労に満ちた日常から

 

  自分が解放されるように感じた。

 

 

 

③ サナトリウムを見たときは妻を思って涙ぐんだが、一面に

 

  広がる月見草の群落が自分を迎えてくれるように感じ

 

  られ、現実の寂しさを忘れることができた。さらに帰りの

 

  車中で目にした月見草の原は、この世のものとも思えない

 

  世界に入り込んだような安らかさを感じさせ、妻の病も回復

 

  に向かうだろうという希望をもった。

 

 

 

 

 

      ☆       ☆       ☆

 

①と③は、もし2つ選ぶのなら共に正しいし、逆に選択なしでも

 

いいのなら、どちらも最適とまでは言えないから不適でもよい。

 

 

 

①は、妻という言葉や解釈が入ってないし、「憂いや心労に満ちた

 

日常から自分が解放されるように感じた」が言い過ぎ。あるいは、

 

「憂いや心労に満ちた日常」という表現が曖昧で一般的すぎる。

 

 

 

③は逆に、妻という言葉や解釈を最初と最後に入れてるが、

 

「安らかさを感じさせ、妻の病も回復に向かうだろうという希望

 

をもった」が言い過ぎ。

 

 

 

傍線部の辺りは、表面的には「妻」という言葉が使われてないし、

 

問われてるのは「月見草に関わる『私』の心の動き』だから、

 

「正解」は①となってるのだと想像する。月見草そのものと私。

 

そのままの解答だ。

 

 

 

ただ、それは単なる表面上の読解であって、月見草どころか、

 

小説全体が「花の精」=「妻の精神」への思いを語ってるわけだ。 

 

お花畠を「花の天国」とまで書いてるのだから、ややポジティヴな

 

妻への想いを入れた③の方がベターな選択肢だと考える。妻と

 

いう言葉の不在が、逆に圧倒的な存在感を示してるのだ。

 

 

 

 

 

    ☆       ☆       ☆

 

おそらくその点は、小説全体を読めばさらにハッキリするだろう

 

から、去年に続いて今年も全文を読もうと思ってる。とりあえず

 

今日はこの辺で。

 

 

 

(☆既に全文をふまえた続編記事をアップ済。)

 

 

 

ちなみに他の設問の「正解」は確かに正しい。例えば表現に

 

関する問6なら、選択肢①は不適となる。「テンポよく描き、妹の

 

快活な性格を表現」が言い過ぎだ。間違いとは言えなくても。

 

 

 

なお、今週は計14923字で終了。ではまた来週。。☆彡

 

 

 

 

 

 

 

cf. 自転車というキュウリに乗って、馬よりゆったりと♪

 

  ~井上荒野『キュウリいろいろ』(2018センター国語

 

 「春」の純粋さと郷愁が誘う涙、野上弥生子『秋の一日』

 

             ~2017センター試験・国語

 

 キャラ化されない戦後の人々、佐多稲子『三等車』~16センター

 

 啓蒙やツイッターと異なる関係性、小池昌代『石を愛でる人』

 

       ~15センター国語

 

 昭和初期の女性ランニング小説、岡本かの子『快走』~14センター

 

 幻想的な私小説、牧野信一『地球儀』~13センター・国語

 

 鷲田清一の住宅&身体論「身ぶりの消失」~11センター・国語

 

 

 

          (計 3043字)

 

  (追記173字 ; 合計3216字)

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