心不全を示す指標(バイオマーカー)、NT-proBNPが非常に高い数値の患者
身近な患者が心臓と呼吸の激しい苦痛を訴えているが、できる
限り入院はしたくないと希望。とりあえず、かかりつけ医の検査
を受けた。
様々な数値を見ると、一部が悪化していたが、特別な値は無い。
症状の一つは気管支炎のようなので、その薬を処方。これはよく
効いて、激しい咳は治まり、呼吸も静かになった。
それでもやはり、非常にしんどいと訴える。食欲もなく、トイレまで
歩くのが精一杯の状態。
数日後、残された血液検査結果が判明。「NT-proBNP」
と呼ばれる指標の数値が、もともと非常に高かったのに、さらに
2倍になっていた。普通なら、直ちに入院するレベル。
担当医は気管支炎の影響も考えられるという。その見方が正しい
なら、咳が治まった後は数値が下がるだろうが、それにしても数値
が高過ぎると別の医療従事者は語る。さて、どう考えて、どう受け
止めればよいのか。既に何度も急性の悪化が起きているので、
いよいよ最終段階への下降か。下図は医学書院HPより。
☆ ☆ ☆
NT-proBNPとは、最も簡単に言うと、心臓の心室に
かかる負荷に応じて分泌される物質(ホルモン)。大まかな基本
としては、数値が大きいと負荷も大きいことになる。だから、心臓
の不調、心不全の発症や再発、悪化を示すと考えられる
まずBNPとは、B-type natriuretic peptide(B型
ナトリウム利尿ペプチド)のこと。ナトリウムを尿で排泄させる
ホルモンの一種。
最初はブタの脳から発見されたため、「脳性ナトリウム利尿ペプチド」
と名づけられたが、その後、心臓からの分泌が判明。ただ、今でも
「脳性・・」という呼び名は医学的に使われている。
BNPが出来る直前の物質が、proBNP(BNP前駆体)。
pro(プロ)とは「前」を表す言葉だから、「BNPの前」という
意味だ。
☆ ☆ ☆
上図は日本心不全学会HPのステートメント(主張)、
「血中BNPやNT-proBNP値を用いた
心不全診療の留意点について」
より借用(2013年)。
上側の長いBNP前駆体(=proBNP)が、2つに切断
される様子を示している。右側がBNP。左側は、proBNP
のN末端(N-Terminal)などと呼ばれる側だから、
NT-proBNPと呼ばれる。
もともとはBNPがマーカーとして注目されていたが、最近は
NT-proBNPが注目されているようだ。一つの前駆体
を二分したものだから、BNPとNT-proBNPは
切断直後には同数(等モル)。
ただ、NT-proBNPの方が半減期(半分になるまで
の時間)が長いし、分裂のタイミングも無数にあるから、実際
の検査の測定値は異なる。
☆ ☆ ☆
さて、問題のNT-proBNPの数値。つまり血中濃度。
普通は、pg/mL(ピコグラム・パー・ミリリットル)と
いう単位で表す。1mLの中に、1兆分の1グラムあれば、
1pg/ml。
前述のステートメントには、上のような基準表が示されている。
NT-proBNPの値だと、
125~ 軽度の心不全の可能性
400~ 治療対象となる心不全の可能性がある
900~ 治療対象となる心不全の可能性が高い
残念ながら、今回の患者は遥かに高い数値を示している。にも
関わらず、前から薬を飲んでいることもあって、かかりつけ医は
落ち着いた様子で対応。一方、別の関係者は緊急性を主張した。
☆ ☆ ☆
心不全学会と日本循環器学会が合同で作成した、急性・慢性
心不全診療ガイドライン(2017年改訂版、18年更新)
では、前述のステートメントを引用しつつ、「BNPには個人差
が存在する」と注意を促している。
ステートメントに戻ると、数値は腎機能の低下や高齢で上昇、急性
炎症でも上昇することがあると書いてある。逆に、肥満者は低い
数値を示すとのこと。
さらに、マーカーの添付文書(シーメンス)には、疾患グループ
(うっ血性心不全)の値として、10000~22000くらい
までの数値が示されている。別表を見ると、最大値は
70000超。心不全を除くグループでも7000くらいまで。
☆ ☆ ☆
とはいえ、「当院では入院時・・・NT-proBNP:
10000pg/mLを超えると非常に院内死亡のリスク
が高いと考えています」との説明もある(藤田保健衛生大学・
石井潤一教授)。
身近な患者の場合、やはり少なくとも入院は間近に迫っている
と覚悟するのが妥当なところか。その前後の訪問診療、看護、
介護などとの組合せとか、色々と準備が必要だろう。
とりあえず、周囲にいる人間の心身の調子くらいは維持して
おきたい。それでは今日はこの辺で。。☆彡
(計 1895字)
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