新美南吉の童話「でんでんむしのかなしみ」、平成皇后・美智子さまの心に・・
相変わらず寝不足のまま、外出その他で疲れ切った昨夜(19年3月30日)。久々にNHK『ブラタモリ』でも見ようかと思ってテレビをつけたら、『皇后美智子さま』という番組が流れてた。「天皇 運命の物語④」ということで、このシリーズの過去3本は見てないし、そもそも知らなかった。
パソコンをいじりながら流し見してた私の目が留まったのは、平成になってマスコミ(週刊誌)などによるバッシングで言葉が出なくなったエピソードの時。「失語症」と言いたくなるが、それは脳が原因の言語障害とされてるから、失声症と言うべきか。より正確には、心因性発声障害。録画してないし、番組の言い回しは覚えてない。
今、NEWSポストセブンその他の情報を見ると、美智子さまが突然倒れて声を失ったのは1993年10月。声を取り戻したのは翌年(94年)で、7ヶ月後のようだ。その4年後、国際児童図書評議会(IBBY)創立50周年記念大会のおことばの中で触れたのが、ご自身が幼少期に聞いた童話だった。
☆ ☆ ☆
上は宮内庁HPより、該当箇所のみ引用。「思い出すままに」とした後、“新美南吉の「でんでんむしのかなしみ」にそってお話いたします”と続けてるので、単なる記憶ではなく原文を確認されてるようだ。下の画像はPictioの絵本紹介ページより縮小して引用。
この短い童話は、新美南吉(にいみなんきち)記念館HPによると、昭和10年(1935年)の発表。著者22歳の頃の作品。百科事典マイペディアによると、当時は戦前だから、まだ小学校では片仮名(カタカナ)を先に学習させてたらしい。
原文は全てカタカナ表記で仮名遣いも古いので(旧字・旧仮名)、ここでは漢字交じりで改行・一行空けも入れて書き直してみる。電子図書館・青空文庫を参照。句読点は元のままで、原文自体がやや不規則な書き方になってる。
☆ ☆ ☆
一ぴきのでんでん虫がありました。
ある日 そのでんでん虫は大変
(たいへん)なことに気がつきました。
「わたしは今までうっかりしていたけれど、
わたしの背中(せなか)のからの中には
悲(かな)しみが一杯(いっぱい)
つまっているではないか」
この悲しみはどうしたらよいでしょう。
でんでん虫はお友だちのでんでん虫の
所にやっていきました。
「わたしはもう生きていられません」
とそのでんでん虫はお友だちに言いました。
「何ですか」
とお友だちのでんでん虫は聞きました。
「わたしは何という不幸(ふしあわ)せな
ものでしょう。わたしの背中のからの
中には悲しみが一杯つまっているのです」
とはじめのでんでん虫が話しました。
するとお友だちのでんでん虫は言いました。
「あなたばかりではありません。
わたしの背中にも悲しみは一杯です。」
それじゃ仕方ないと思って、はじめの
でんでん虫は、別(べつ)のお友だちの
所へ行きました。
するとそのお友だちも言いました。
「あなたばかりじゃありません。
わたしの背中にも悲しみは一杯です」
そこで、はじめのでんでん虫は
また別のお友だちの所へ行きました。
こうして、お友だちを順々(じゅんじゅん)
にたずねて行きましたが、どの友だちも
同じことを言うのでありました。
とうとうはじめのでんでん虫は
気がつきました。
「悲しみは誰(だれ)でも
持っているのだ。
わたしばかりではないのだ。
わたしはわたしの悲しみを
こらえて行かなきゃならない」
そして、このでんでん虫はもう、
なげくのを止(や)めたのであります。
初出『ろばの びっこ』羽田書店、1950(昭和25)年
☆ ☆ ☆
でんでんむし(カタツムリ)とは、どこにでもいる小さな生き物で、雨の中で孤独にたたずんでいるようなイメージがある。でも、他にも一杯、心の中で雨のような涙を流し続けるでんでん虫たちがいる。
自分の悲しみの全体も、他人の悲しみも、まるで背中の殻(カラ)の中にあるように見えにくい。無意識に、心の奥、記憶の底に閉じ込められがちだから。
でも、みんな悲しみを持ってることが分かれば、自分だけ不幸なのかと思う必要もないし、周りのみんなになげくことも減るはず。それぞれが自分の悲しみを背中に一杯持ってるのだと知ったから。
☆ ☆ ☆
ただ、だからと言って、自分の悲しみを表現してはいけないということではない。美智子さまのお話は悲しみの表現だし、失声症というのも悲しみの身体的表現。新美南吉なら、童話という形で悲しみを子供たちと共有しようとしてるわけだ。
今なら、SNSやメールでつぶやいてシェアする方法もあるし、考えてみれば、葬儀・法事というものも悲しみを分け持つための制度、システムだろう。ある程度、限られた場において、自分の悲しみを表し、他人の悲しみを受け止める。他にも、カウンセラー、精神科医などの職業的な聞き役が親身になって傾聴してくれる。
だから、でんでん虫が「なげくのを止めた」とは、口にしてはいけない、身体で表してもいけないということではない。周りの仲間たちの悲しみも理解した上で、少し「こらえて」、場をわきまえつつ悲しみを表に出すということだ。
新美南吉の童話の素晴らしさに感心しつつ、今週は計14981字で終了としよう。
ではまた来週。。☆彡
(計 2216字)
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