不幸な精神疾患の患者の(犯罪的)行為をどう扱うか~『ストロベリーナイト・サーガ』第1話
「ストロベリーナイト・サーガ」とは、直訳すると、「イチゴの夜の伝説」。腐ったイチゴをつぶすような夜の流血殺人ショーに関するお話、という意味だ。
「サーガ」(saga)とは、直接的には普通、アイスランドの伝説・物語・歴史を指す言葉。そこからさらに語源を遡ると、「話すこと」「お話」という広い意味になる。実は他にも、世界各国でいろんな意味を持ってるようで、発音と綴りが簡単だからなのかも知れない。
下の画像は今回のドラマ冒頭。不幸な精神疾患の患者・深沢由香里(山口まゆ)がゴミのように扱われるそばで、通行人グループの男が腐ったイチゴを踏み潰す。その赤い色の液体に、由香里は手を伸ばしてた。自分の身体にせよ、他人の身体にせよ、真っ赤な血だけが、生を感じられる唯一のもの。「伝説」のかなり早い時期だろうが、最初ではなさそうだ。
誉田哲也の原作小説『ストロベリーナイト』(光文社)の冒頭では、薬物中毒で虐待を繰り返す義父を、「僕」(女性性を自分で否定してる由香里)がカッターナイフで切りつけた時の描写がある。伝説の最初は、イチゴではなく、赤い血だった。
「・・・・・・きれい」 僕は思わず呟いた。・・・ただただ暗かった僕の世界を、血が別世界に塗り替えてくれた。
解放、そんな言葉が頭に浮かんだ。
☆ ☆ ☆
血が飛び散る残酷なスプラッター殺人にむらがるような人間たちは、ごく一部の異常者たちだ。・・そう言いたくなる所だけど、実はそのドラマをテレビで見る視聴者も、遥かに残酷な表現を含む小説を読む人も、ある意味、ストロベリーナイトの参加者と言える。ドラマが放映された4月11日の夜も、薄められたストロベリーナイトの一つ。そう考えることで初めて、一見特殊なフィクションが、普遍的な現実性を持つことになる。
世帯視聴率7.8%だから、個人視聴率に換算すると5%ほど。オンエアの視聴者だけで600万人もの「参加者」がいるのだ。毎月の「S.N」ショーの観客20人どころではない。私のような動画視聴者や録画も含めると、1000万人くらいか。
ちなみに戦後最悪の大量殺人事件となった津久井やまゆり園の惨劇も、3年近く前の夜(未明)の出来事。来年(令和2年)の1月、ようやく初公判になりそうだというニュースを今朝読んだばかりだ(朝日新聞・朝刊、4月14日)。今後、過激な思想と感情の持主である被告の刑事責任能力の有無や程度が問われることになる。普通なら当然、極刑である死刑となるはずだが、無罪の可能性も一応残されてる。。
☆ ☆ ☆
ここで、視線を日常生活の現実にも向けてみよう。たまたまなのか、ある程度は必然なのか。先日、電車で変わった乗客を見かけた。最初に気づいたのは、離れた場所で音がしたからだ。小さく唸り声をあげながら、あちこちでゴツン、ゴツン。。
その人は大きな身体で一人でふらつきながら、車両のあちこちにぶつかり続けてる。聞き取れる言葉はないし、付き添いも見当たらない。過去の少ない経験と知識から想像すると、気にする必要はないと思ったけど、一応、手や持ち物をチラッとチェックした。よく分からないけど、パッと見では大丈夫そうな感じだし、いざとなったら何とか対抗できそうではある。
次に私は、目も首も動かさずに、周囲の乗客の反応をうかがった。人間には(ほとんど)ぶつかってないからか、みんな慣れてるのか、誰も逃げたりする様子は無かったし、言葉の注意もなし。私のすぐ前にいた中高年女性2人組は、急に黙って横目で10秒ほど見つめた後、おしゃべりを再開してた。その後も特に大きなトラブルはなし。その人の心の中は見えないけど、おそらく悪意はない。ただ、身体のコントロールがあまり出来てないのだ。
その程度の患者なら、現代の日本では多様な個性の一つとして、共生・共存の対象とされる。しかし多様性とか共生には限度とか範囲があるわけで、それを超えると強制的な措置入院とか、懲役刑、死刑へとつながっていく。境界線を引くのは裁判官や精神科医など、他人であって、本人ではない。
☆ ☆ ☆
さて、ジャニーズ・ドラマでそんな重くて暗い話から書き始めるのもどうかとは思うけど、私が一番強い印象を受けたのは、精神科(原作小説では精神神経科だったかも)の女性患者の扱いと描き方だった。
例えば、映画や小説ならともかく、このドラマをテレビでゴールデンタイムに放映していいのか? 医師や患者団体、人権派とか、強い抗議はないのか。オープニングのスタッフロールを見ると、医療監修・堀エリカ、法医学監修・内ヶ﨑西作、法律監修・佐藤大和、阪口采香。4人ついてるし、過去にも何度か映像化されてるから、何とか大丈夫なんだろうとは思う。
しかし、特撮の世界では過去、知る人ぞ知る負の伝説がある。特撮の草分けとして名高い円谷プロが初代『ウルトラマン』、『ウルトラセブン』を作った後、『怪奇大作戦』という変わったホラー・サイエンス番組を半年放映。その第24話「凶鬼人間」はここしばらく「欠番」扱いになってて、その内容が「ストロベリーナイト」に似てるのだ。精神異常の女性が登場、複数の殺人に関わると共に、刑法の「心神喪失」規定で罪を問われないという話も出る。
私がそのドラマを知ったのは、数十年後のこと。表現の自由と人権、規制をめぐって、朝日新聞が『ウルトラセブン』の欠番を記事にしてたのをたまたま読んだ時だったと思う。『セブン』の欠番は第12話で、原爆の被爆者をイメージした「ような」怪獣が登場した回。朝日の記者がネットで手に入れて確認したと堂々と書いてたから、著作権その他が引っかかりながらも、私も真似して確認。物語に差別性は感じなかったけど、怪獣の造形がちょっと微妙ではある。
その少し後、流れで『怪奇大作戦』の欠番も見たのだ。これは強烈な内容で、今ならテレビ放送とか製作の前に、企画の段階で変更・修正されるはず(欠番にすべきかどうかは別)。殺人が無罪になる問題を扱うのはいいとして、言葉も映像も過激だし、ストーリー的にも患者に救いが無かった。典型的なバッドエンド。あれを日曜の夜7時から全国の子どもたちに見せてたというのは、時代を考慮しても凄いと思う。シリーズの平均視聴率は22%。。
☆ ☆ ☆
ちょっと話が重くなり過ぎてるので、この辺で一旦、気分転換しよう。もちろん私も、ずっと深刻な表情で見てたわけじゃない。クール・ビューティーっぽい姫川玲子(二階堂ふみ)が、丸坊主を逃れてマジで喜ぶ大げさな姿には爆笑。以下、画像はすべて公式動画(本編&予告編)より。
私は二階堂ふみの映像作品を初めて見たような気がするけど、まだ24歳の若手なのに安心できる演技だと思った。上手いとまで言えるかどうかはさておき、下手とは思わないし、ゴールデンタイムの連続ドラマの主演を任せていいレベル。
彼女の天敵、ライバルが、「ガンテツ」(頑固一徹)こと、勝俣(江口洋介)。江口は年齢、声、雰囲気、身長、全体的にハマリ役だと思った。普通に見れば、この2人が主役級で、原作もそうなってる。
☆ ☆ ☆
ただ、今回のドラマでは、二階堂と並ぶW主演が亀梨和也(菊田役)。「亀有」という地名も彼に合わせたのかと思ったら、原作でも亀有になってた。ぼさっとした感じの「いい奴」という設定で、姫川も中盤とラストで2回、「いい奴ね」とほほ笑んでた。脚本は徳永友一。
この亀梨の役は、キャラが立ってないし、玲子とガンテツの陰に隠れる感じで、演じにくいはず。そんな中でも、「S.N」の意味を「佐々木希」と答える意外なボケで笑いを取ったり、亀有メンチの最後の1コに執着を見せたり、緩くていい味は出してる。最後は、殉職したジャニーズの後輩・・じゃなくて仲間の大塚刑事(重岡大毅)の殺害現場に、亀有メンチを持って報告。先に来てた玲子に、やっぱりいい奴ねと好印象を持たれてた。原作にはない、ドラマのオリジナル。
ちなみに、主犯格の警部補・北見(坂東龍汰)を取り押さえる時、菊田が活躍するのもドラマのオリジナルで、原作では由香里とガンテツが中心。あと、あの命がかかった銃撃&格闘シーンで、菊田もガンテツも拳銃を使ってないのが不自然に感じられたけど、原作だとガンテツが銃を準備できなくて、単なる音だけのモデルガンで代用してた。彼のクセのあるキャラと関係ある状況設定なのかどうかは不明。
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他にも面白い登場人物が揃ってて、群像劇を目指してるとかいう話もあった。それでも今回はやはり、由香里がポイントだろう。原作のスタートも、僕=由香里。ハッキリとは覚えてないけど、下の不気味な映像は、例の『怪奇大作戦』欠番へのオマージュ(敬意を込めた模倣)にも見えた。右の手前は、無断で病室を覗き込む玲子。
由香里は時々、病院を抜け出して、イニシャルで「F」と呼ばれつつ、10人以上の大量殺人を行ってたらしい。ヘルメットで流血を避けつつ、男を装って。毎月の夜の抜け出しに対して十分な対策を取れなかった病院側の責任は、重く問われるはず。といっても、身体拘束で動けなくすると人権の問題で騒がれるから、病院や医師、看護師たちも難しい。
ドラマでは、不幸な患者である彼女に共感するようなポジションを取ってた。まず、玲子が北見に撃たれる時、由香里がとっさにかばう行動を撮影。由香里の内心はともかく、表面的には正義感あふれる勇敢な行動に見える。演出は石川淳一。分かりやすさより、スピード感と緊迫感を重視した撮影。
さらに由香里は、廃墟ビルの巨大な穴に落ちそうな玲子に手を差し伸べる。原作では、怪力という設定になってた。ちなみにこのシーン。由香里は「玲子」を助けようとしたのではなく、誰かに殺されたらしい昔の仲間・マコを助けるイメージになってた。
ドラマでは結局、菊田も手助けして、玲子は命拾いする。ところがその後、病室の玲子が最初に感謝するのは、菊田ではなくガンテツなのだ。この辺り、原作とドラマの違いによって微妙なズレが生じてるのは仕方ない所か。
☆ ☆ ☆
原作でもドラマでも、玲子が由香里に同情する点は同じ。ただ、原作ではその同情が正しいのかどうか迷う玲子の心情が描かれてるし、由香里は銃撃によって重体とされてる。要するに、無期懲役か死刑の代わりみたいな「罰」が加えられてるのだ。
ところがドラマでは最後、由香里は同情されたままで、「大量殺人の罪は?」という肝心の部分は描いてない。それに対して、北見は完全に悪者扱いで、手錠もきっちりかけられてる。非常にテレビドラマ的なパターン。
あらためて考えてみると、北見も犯罪(下の世界)に向かう自分自身を止められない異常者だったわけだし、彼にもそれなりの情状酌量の余地があったはず。それなのに、東大出身のエリート男性は悪で、不幸な精神病的女性患者は共感の対象という、型にハマった通俗的な描き方になってる。
その分け方自体も問題だが、現実には中間的な存在、不運な男性患者が多いはずで、その罪をどう扱うか、どう描くかが問われる所だろう。名古屋大学のエリート女子大生殺人&タリウム事件は、地裁、高裁で無期懲役の判決が出て、最高裁に上告。完全責任能力を認められてるが、私が当時のツイッターを見た感じでは、非常に重い精神障害のように感じられた。
☆ ☆ ☆
人を殺したい女子大生は、1人殺して無期懲役。人を殺したいエリート男性は、直接的には殺人未遂でも主犯格扱い。それに対して、赤い血を見たい由香里は、10人ほど殺して同情されるヒロイン。精神鑑定や判決の詳細は見てないが、割り切れない思いはある。どれも悲し過ぎる人たちだと私は思うが、さて、津久井やまゆり園はどうなるか。
とりあえず精神医学や病院、製薬会社の役割は重大だと再認識しつつ、今日はそろそろ終わりにしよう。なお、今週は計15957字で終了。最終日で一気に字数制限をオーバーしてしまった。ではまた来週。。☆彡
cf.『ストロベリーナイト・サーガ』第2・3話つぶやき&小雨ジョグ
「右では殴らない」理由、右手は愛と敬礼、殴るなら言葉で~第4話
『ストロベリーナイト・サーガ』第8話、一言つぶやき
警察に絶望した男、絶望して警察に入った女、真逆のブルーマーダー(悲しい殺人者)~最終回
☆ ☆ ☆
指輪という名の虹に輝く、3つの宝石~『ボク、運命の人です。』最終回
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亀梨&深キョンの夜エロ~『セカンド・ラブ』第1話
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生きる場所を求めて~野ブタ再考
リアルな人間との向き合い方 野ブタ原作
(計 4866字)
(追記394字 ; 合計5260字)
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