強敵エボラと手をつないで仲良く生活、「衛生仮説」の功罪~『インハンド』最終回
2回見て初めて良さが分かるドラマというのは、時々ある。『インハンド』最終回もそのタイプ。なるほど、じっくり見直して初めて、繊細な作りの作品だと納得できた。
最初にTVerで軽く流し見した時は、前半の急ぎ足の展開が気になったし、中盤のタイムカプセルと出産のシーンもしっくり来なかった。村の封鎖を解除した直後、大勢の人が喜んで村に駆けつけるのを見ても、福島の重い現実を思い浮かべてしまう。放射能・放射線に関する安全性が公に確認された後でも、海水浴場はガラガラのままだったし、住人の多くも帰らないわけだ。
放射線被ばくによるガンは5年~10年後で、仮にかかったとしても死亡率は半分程度。それに対して、ドラマの新型エボラは感染(発症)5日でほぼ100%死ぬとされてたし、外から防護服なしで訪れた人達が、あらかじめ新ワクチンで免疫を獲得してたという設定もない。笑顔で手をとりあう姿を見ても、テレビドラマは本当にハッピーエンドが好きだなと思った程度。
世界的に色々な議論や問題(後述)がある「衛生仮説」の使い方も、ここまで折角、注意深く距離を取って来たのに、最後の決定的展開で突然、無条件の肯定、絶賛の形になってる。
ただ、別の箇所に目を向けると、吉田康弘の脚本、平野俊一の演出、美術スタッフの労作には優れた部分も多かった。既にドラマ放映から5日経ってるので、フツーの事を書いてもほとんど意味はない。誰も書かないような、細か過ぎて伝わらないマニアックな点に絞り込んで行こう。
☆ ☆ ☆
最終回のあらすじは、前半と後半で大きく分かれてた。前半が、新型エボラへの苦戦。後半が逆転劇で、ドラマ最終回の構成の典型パターン。新聞のテレビ番組欄には、「絶体絶命から奇跡の大逆転!!未来は僕たちの手の中に」とそのまま結末が書いてるから、もうストーリーを追う必要はない。美青年の顔だけ見てればいいのだ♪ コラッ!
美園(石橋杏奈)の出産がストーリーの転回点。大勢の死亡の暗闇の中で、希望をもたらす1人が誕生する。まず、美園の逆子の子ども。局所麻酔(硬膜外麻酔、腰椎麻酔)らしくて、母親の意識があるまま帝王切開して赤ちゃんを取り出すシーンには驚いた。私は小心者だから、全身麻酔をお願いしよう♪ 男だろ!
この時、別の希望も1人、誕生する。それは、主役としての安家・・じゃなくて高家(濱田岳)。経験のない手術に挑戦する際、紐倉が助手に回ったのは偶然ではないし、単なる親切とか友情でもない。その後の高家の大活躍へのフラッグ(旗印)、伏線になってるのだ。
彼が、新型エボラに感染して発症しても死なない初めての患者になったからこそ、紐倉のワクチン製造も可能になった。美園に対しては救「生」主。日本や世界にとっては、救世主。
☆ ☆ ☆
高家が救世主になれたのは、偶然ウイルスが突然変異で(?)弱毒化してたから。そして、母ちゃん(宮崎美子)が作った有機野菜の漬物その他を食べて育ったおかげで、免疫機能が高まってたから。
まず、高家に感染した、たまたま運良く弱毒化してたエボラウイルスについて。紐倉は、普通の新エボラ(ニューエボラ=ニューボちゃん)と高家のエボラの遺伝子を比較してた。下図はDNAかRNAの塩基配列で、上側の「Query」(照らし合わせるための元のデータ)と、「Takaie」(高家のデータ)を横にズラッと並べてる。
すると、まず上図の赤枠部分、125番目~127番目が異なってたのだ。普通は「CAT」(シトシン・アデニン・チミン)なのに、高家のエボラは「GTA」(グアニン・チミン・アデニン)となってる。一致してない箇所は、上下に伸びる縦線でつながれてない。他にも、335番目~337番目が異なってた(「AAA」と「TTT」)。
☆ ☆ ☆
一方、人糞肥料・・じゃなくて有機野菜で育まれてた、高家の免疫機能の核心。抗血液凝固作用を発揮するらしい、NAPc2タンパク質。
紐倉が熟読してプリントアウトしてた医学論文に書かれてた。「Current Developments in Ebola Virus Outbreak and Treatment in West African Countries」、西アフリカ諸国のエボラウイルス大発生と治療における最近の進展。
そこには、小見出しとしてこう書かれてた。「Potential Treatment for Ebola Virus Using Necator Americanus Derived Anticoagulant Protein rNAPc2 ── a study in Macaca fascicularis」。アメリカ鉤虫(こうちゅう)由来の抗凝固蛋白質rNAPc2を用いたエボラウイルス治療の可能性 ── カニクイザルにおける研究。
これ、どうも本物の医学論文や医学研究が元ネタになってるようだ。ちなみに寄生虫監修は嘉糠洋陸・春木宏介、医療監修は林宗博。Google検索で見つけたのかも♪
☆ ☆ ☆
ただし、紐倉と入谷がこだわってた肝心の「衛生仮説」というものは、一部のアレルギーに関しては認められてるようだけど、エボラどころか、そもそも信頼できそうな医学研究が少ない。そのわりに個人サイトがヒットしてしまう状況が、この仮説のビミョーさを表してる。それ自体はトンデモではないけど、トンデモ系とつながりやすい考え方。
英語版ウィキペディアの「Hygiene Hypothesis」(衛生仮説)の項目を見ても、最初の要約部分のラストに注意書きがあった。「The hygiene Hypothesis does not suggest that having more infections during childhood would be an overall benefit」。衛生仮説は、子ども時代により多くの感染をした方が全体的な利益となる、などとは示唆していない。もちろん、出典付きの記述。
要するに、どんな細菌・寄生虫・ウイルスとどのくらい、どのように触れるかがポイントだし、ある病気には有効でも、他の病気に関してはマイナスの作用を及ぼす可能性がある。おまけに長期の複雑な統計データが大量に必要だから、そもそも調査・研究するのが大変。
さらに、英語版ウィキは注意を促してる。衛生仮説には勘違いがしばしばあって、例えば手を洗わない方がいいとか思ってしまうのはマイナス。
実は、誰一人ツイートしてないようだけど、衛生仮説を唱える日本で最も有名な寄生虫学者は、藤田紘一郎という人だ。明らかに、インハンドの山Pのモデルと言っていい・・と書いとくと、1年に2つくらい検索アクセスが稼げるかも♪ 少なっ!
で、この有名な変わり者の学者。昔はあちこちで見かけたのに、最近見なくなったと思ってたら、薬事法違反(の手助け)の容疑で2014年に書類送検されたらしい。プロポリスの単なる健康食品が、がん細胞を死滅させるという宣伝に加担したとの疑い。不起訴にはなったものの、衛生仮説とかその信奉者に対する信頼をやや損ねる出来事だと思う。
☆ ☆ ☆
衛生仮説に注意を促したところで、最後は、これまた(ほとんど)ツイートが見当たらない、海外(アジア)のジャングルの「貝」について♪ 細かっ!
見逃しがちな最後のカットをよく見てみよう。内閣総理大臣顕彰を断った天才・紐倉(山下智久)が、嬉しそうにピンセットでつまんだ黒っぽい塊。これ、本当に貝に見えるだろうか?
初回ですぐ指摘したけど、やはりこれは日本初(?)のスカトロ・ドラマなのだ(笑)。しかもジャニーズ屈指のイケメンが主役♪ エッ、屈指じゃなくて断トツ? ハイハイ(笑)。とにかく、菜々緒の「う・こ」で始まって、海外の清流のアレで終了。エボラ退治に大活躍したのは有機野菜だし、エッジの効いたストーリーだった♪
フィールドワークに来たという口実で高家に会いに来た紐倉。最後のセリフは、「さあ出ておいで。小さな虫たち」♪ 貝の外見と「小さな虫」という言葉からは、アレとは別の裏の意味も解釈できるけど、示唆するだけに留めとこう。昔はそこまでズバリ書いてたけどね(笑)
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衛星・・じゃなくて衛生仮説に注意が必要だということは、言い換えると、他者と仲良く接するのはなかなか難しいということでもある。
瀕死の状態の高家と手をつなぐシーンで、防護服の紐倉はちゃんと手袋をはめてた。臨機応変に、多少の距離を取ったうえで、手をつなぐこと、他者とふれ合うこと。これこそ未来に向けての『CHANGE』、変化にとって重要なのだ。
感染したサルを山に放つ「ような」実験的行為の科学的な是非については、もう省略。「所詮 人間 猿みたいなもん」。「深く考えすぎて 答え見失う」ようではダメなのだ♪ エッ?、作詞は「Tomohisa Yamashita」なの? たまたま同姓同名の作詞家がいたわけか(笑)
トモあれ、カメレオンみたいに仮面だけ変えて自己防衛するんじゃなくて、自分と世界そのものの変化に向けて、強く踏み出そう。最悪のエボラを弱毒化して、ニューボちゃんワクチンに変えたように♪ それでは、今日はこの辺で。。☆彡
cf. 明るい未来は僕たちの手の中に~『インハンド』第1話
失ったものを受け入れて生きていく~第3話
右腕=助手で泣いて、笑って・・~第5話
ドーピング・義肢・かもめのジョナサン、限界を超えた景色へ~第6話
国立感染症研究所・エボラ大惨事のシミュレーション~第10話
(計 3848字)
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